弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜

自来也

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第43話 ラヴィ・ギルティア

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 真竜の姿で黒竜を退けたラヴィは、傷だらけになりながらも「友達を守れた」と笑顔を見せて倒れ込んだ。

 僕はその小さな身体を抱きとめると、急いで弱者の庭へと連れ帰る。

 扉を抜けると、仲間たちが待っていた。

「ラヴィが……!」

 状況を理解したミレーユが駆け寄り、アリエルとコヨミが魔法と妖術の光で応急処置を施す。ジークは眉をひそめ、腕を組みながらも心配そうに目を細めていた。

 ラヴィはそのまま深い眠りについたままだった。

◇◇◇

 数時間後

「……ん」

 ベッドの上でラヴィが目を開けると、その身体には傷一つ残っていなかった。アリエルの精霊魔法のおかげだろう。起きるなり隣で看病していた僕たち向かって元気な声で話しかける。

「みんな!ラヴィね、かっこいいって言われたんだよ!」」

 弾けるような笑顔で飛び起きると、布団の上で身振り手振りを交えながら戦いを語り始める。

「ラヴィがね!ばぁーってなって!黒竜がわぁって逃げて!それでね、友達が『すごい!』って!」

 きっと混乱しているのだろう、順番がバラバラだ。

 目を輝かせ、子供らしく自慢げに語るラヴィに、みんなも苦笑いしながら耳を傾ける。

 その夜は、夕食のあともずっとラヴィの「武勇伝」が続いた。

 笑い声と手振りに、弱者の庭は明るい熱気に包まれていた。

◇◇◇

 次の日。

 朝からラヴィは元気いっぱいで街へと向かう。なんでも「心配してると思うから元気な顔見せなきゃ」という事らしい。なぜかバットとグローブも抱えているがきっと今日は野球で遊びたいのだろう。

 元気そのものだが一応病み上がりなので僕も付いていくことにした。

 広場に着くと、友達の子供たちが心配そうに待っていた。

「ラヴィちゃん!」
「元気だった!?」

 駆け寄る子供たちに、ラヴィは胸を張って笑う。

「うん!ラヴィ、もう大丈夫だよ!」

 その姿を見ていた大人たちも、次々に声をかけてくる。

「昨日は助かった。本当にありがとう」
「君がいなければ、街はどうなっていたか……」
「こんなに可愛い子があの竜かい?なんにせよどうもありがとうねぇ」

 住民からかけられる確かな感謝の言葉。
 ラヴィは耳まで赤くして「えへへ」と笑い、照れ隠しに友達の後ろへと隠れた。

 その後は大人たちも参加し、広場での野球大会が始まる。ラヴィは手加減に手加減を重ねてなんとかやっているようだ。そんな様子もまた微笑ましいな。

 昼頃になると、パン屋のハルドさんが焼きたてのパンを大量に広場へと持ってきてくれた。

「英雄へのおごりだ」

 どっしりした声に、ラヴィは口いっぱいにパンを頬張り、幸せそうに笑った。

 そして食べ終わったらまた野球や鬼ごっこ、子供の時間は早い。僕も一緒になって遊んでいるとすぐに一日が終わってしまう。楽しい時間は一瞬という事だろうか。


◇◇◇


「ラヴィ、そろそろ帰ろうか」

「うん!また明日も遊びにくるね!」

「ラヴィちゃん!待ってるからねー!」
「いつでも来いよ、次はおじさんがバシーンとホームラン打つからな」

 ラヴィの愛嬌に大人たちもデレデレだ。しかし可愛いだけではない、無邪気さの中に気遣いもできる。

 もう昔のようなただの可愛いラヴィちゃんではないのである。

「アルキ!今日はお肉がいいなー」

「ラヴィいつもお肉ばっかりだね、でもまぁ…肉食なんだしそりゃそうか」

「アルキのご飯楽しみだなー」

 他愛のない会話、しかし大事なひと時。自分の子供……とは違うか、しかしそれと似たような愛情が芽生えているのだろう。ラヴィを見ていると心が温かくなる。

 そしていつも通りの帰り道、いつも通りの扉、ラヴィが元気よく手を伸ばすと……。

 扉は揺らぎ……静かに閉じた。これは……。

――ゼファルドの時と一緒だ……。

「えっ……」

 困惑するラヴィ。僕も同じだ、今まで普通に帰ってこられていたじゃないか。

「……」

「ね、ねぇアルキ!この扉壊れちゃったのかなー、どうしよ!直るまで少しお散歩でもしようよ!」

 ラヴィはきっと勘づいている、しかし現実から目を逸らしたいのだろう。声は震え、不安の表情を見せる。


………………。



 扉は沈黙を保ったまま、もう二度と開く気配を見せなかった。

「……いやだ……」

 ラヴィの小さな手が無機質な壁をを叩く。

「やだよ……開いてよ!まだ、みんなと遊びたいのに!一緒にご飯も食べたいのに……!」

 涙が頬を伝い、嗚咽がこぼれる。
 無理に笑っていた強がりは、もうどこにもない。

 僕はそんなラヴィを抱きしめながら、心の奥で拳を握った。

 なぜだ?ラヴィはゼファルドのような決心をしていない。”弱者の庭”からの卒業を決めたわけではないのだ。
これじゃただの家を失ってしまった可哀そうな子供じゃないか……。

 ――このまま黙ってはいられない。

「ラヴィ、少しここで待ってて」

「やだ! アルキどこ行くの!?一緒にいてよ!」

「必ず戻る。約束する」

 言葉に力を込めて、僕は扉を抜けた。

◇◇◇

 弱者の庭の中。
 仲間たちはいつものように夕食の準備をしていたが、僕の顔を見るなり表情を曇らせる。

「……あの、アルキ……?もしかして」

 アリエルが目を伏せ、何かを悟ったように小さく息をついた。

 ジークが椅子を蹴って立ち上がる。

「遂に決心したのか……寂しくなるな」

 ミレーユは唇を噛み、震える声で言った。

「……ラヴィは大丈夫?泣いてない?」

 コヨミはただ唇を噛みしめ、じっとその場に佇んでいた。

「あのさ!ラヴィはまだここに帰ってきたいんだよ!決心なんて付いてない!今だって泣いてるんだ!どうにかしたいんだ!力を貸してよ!」

 ゼファルドの時とは違う、こんな結末なんてあんまりだ。僕は声を荒げ、みんなに心の内を吐き出した。

「無理じゃ……一度ここから”無害認定”されてしまった者は二度と帰ってこられぬ」

 コヨミの言葉に全員が反応し、視線がコヨミに集中する。

「あの……”無害認定”って……どういう事ですか?」

 静寂の中、アリエルが静かに疑問を投げかける。

「言葉の通りじゃよ、この場所は”最強種”であり”危険種”の為の施設じゃからの」

――危険種?何を言っているんだコヨミは。

「コヨミ、何か知ってるの?全部教えてよ」

「そうじゃのう……帰ってきたら話してやろう、じゃが今は外で真竜が泣いておるんじゃろ?早く安心させてやれ、それでラヴィは前に進めるじゃろ………」

 初めてラヴィの名前を呼ぶコヨミの顔はとても寂しげで……とても見ていられなかった。

「私……行きます……。いつか私もお外に出るから待っててって……伝えなくちゃ……」

 突然のコヨミの話、しかしこの雰囲気で嘘を言う理由がない。なによりコヨミの表情が物語っている。

「俺も行こう、最後では無いがもう一度あの太陽のような笑顔は拝んでおかないとな」

「私も行く!ラヴィを泣かせていられないから」

「よろしく伝えておいて欲しいのじゃ」

 全員で入口へ向かうとおもいきや、コヨミだけはその場を動かなかった。

「コヨミは行かないの?毎日髪を整えてあげてたんでしょ」

「それも後で話すのじゃ、ほれ、早く行ってやれ」

 ――コヨミ……一体お前は何を知っているんだ。

◇◇◇

 外の空気に触れると、三人は一瞬だけ躊躇した。

 長い間、閉ざされた世界で過ごしてきた彼らにとって、外は未知そのものだ。けれど、彼らは歩みを止めなかった。

――泣いているラヴィのために。

 すぐに扉の前で、泣きじゃくるラヴィの姿が見えた。

 その顔を見て、三人とも表情を歪める。

「……アリエル!ジーク!ミレーユ!」

 ラヴィが飛びつくように駆け寄った。

 アリエルはそっとその頭を撫で、微笑む。

「大丈夫です……そんなに泣いて……可愛い顔が台無しですよ」

 ジークは拳を軽くラヴィの頭に当てる。

「泣き虫だな。また会えるだろ。……だから笑ってくれ」

 ミレーユは抱きしめながら泣き笑いした。

「友達と、いっぱい遊んでね……ラヴィ」

「え……?ラヴィはみんなと一緒に帰るよ……だってラヴィ一人じゃ……寂しいもん……」

 何度も壁を叩いたのだろう、手には血が滲んでいる。僕は自分の無力さに苛立ちを覚えた。

「ラヴィ、私たちも頑張って会いにきますから……」

「なんで!なんでお別れみたいに言うの!ラヴィも帰るの!」

 泣きじゃくるラヴィを見つめる三人、こんなの……いくらなんでもあんまりだろ……。

 すると扉の隙間から小さな封筒が差し出された。

 白い便箋に、可愛らしい丸文字でこう書かれている。

――ラヴィへ。
 妾はこんな形でしか気持ちを伝えられぬ臆病者じゃ。
 けれど心だけは、どこまでもそなたと共にある。
 もし泣きそうになったら、この手紙を読め。
 そなたは強い。誰よりも強く、そして優しい。
 わらわの大切な、ちいさな友よ。
              ――コヨミ

「……コヨミ……」

 ラヴィは便箋を胸に抱きしめ、声を詰まらせた。

 やがて、涙を拭い、大きく息を吸う。
 震える声で、それでも笑って言った。

「みんな……ありがとう。ラヴィ、がんばる!ラヴィは強いから……いっぱい頑張れる!」

 その笑顔は泣き顔と一緒だったけれど――
 そこにあったのは、確かな決意だった。





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