弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜

自来也

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第45話 墓参りと新しい道 前編

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「まったく……何がなんだか……」

 何かしようと思うが何をしていいか分からない。そんな毎日が続き、今日も朝からベッドに横になり天井を見上げる。

 コヨミの話では僕はみんなの癒しになるそうだが、一体何をすれば良いのだろう。

 そもそもコヨミはなぜ”弱者の庭”について色々知っているのか。

 創設者は誰なのか。

 管理人の事まで知っているコヨミがなぜ今まで卒業していないのか。

 最強種、危険種、無害認定……色んな事が頭をグルグルと周り、思考が纏まらない。

――そして僕は役割を終えた後どうなるのか……。

 みんなが居なくなったこの場所に一人残るのか?そして新しい住人を待つのか?いつまで?

「あー!もう分かんないよ!!」

 僕は心に溜まった不安を声に出し天井に叩きつける。何の意味もないのは分かっているが黙っているよりは少しマシに思えた。

 「……賑やかだな、アルキ」

「うわっ!?」

 突然聞こえた低い声に、僕は跳ね起きる。そこにはジークが立っていた。壁にもたれ、腕を組み、相変わらず無表情だが、その瞳の奥にはわずかな迷いが見える。

「ジーク……どうしたの?」

「相談がある」

「相談?」

 僕が首をかしげると、ジークはゆっくり歩み寄り、ベッドの端に腰を下ろした。その背中は大きく、僕にとって彼はまさに武術の師匠のような存在だ。

「……俺は、このままここにいていいのか分からない」

「え?」

「ラヴィが出ていったのを見て考えた。俺も……外に出るべきなんじゃないかってな」

 低い声に、僕の胸の奥で何かが鳴った。

「でも……ジークは無理に出る必要なんて……」

「分かってる。けどな――俺には、やり残したことがある」

 ジークは視線を落とし、言葉を絞り出す。

「墓参りに行きたい。……あいつに、謝りたいんだ」

 その一言に、僕は言葉を失った。

 その言葉には、鋼のような決意と、長い間背負ってきた後悔が滲んでいた。

「……ジーク」

「だが、外に出たところで、俺に何ができる?剣を振るしか能のない俺が……ただ生きてるだけでいいのか?」

 そう言って笑うジークの顔は、普段よりもずっと弱く見えた。

「え?剣?ジークって剣使えるの?」

「そうだ、拳一つでは限界があるだろ」

 ジークはさも当たり前のように言うが、僕はジークが剣を振っているのを見たことが無い。僕が困惑の表情を浮かべると、ジークは更に話を続ける。

「お前は知らなかったか、ここは”武器が使えない”」

――え?

「武器が使えない?確かにミレーユも勇者なのに剣を持っているのを見たことが無いね」

「そうだ、武器の類の持ち込みは禁止なのだろう。魔法や妖術は使えるのにな」

 安全対策なのだろうか、確かにこの場所に武器は必要ないとは思う。

「ごめん、武器の話は分かったよ。それで、ジークはどうしたいの?」

「墓参りには行きたい、しかし……」

 その後の事か……。

――何か、答えを出さなきゃ。

「……ジーク。だったら、こういうのはどう?」

「ん?」

「外でさ、武術を教えるっていうのは。ジークの強さなら、きっと――いや、絶対誰かの役に立てる」

 その瞬間、ジークの眉がわずかに動く。

「……教える、か」

「うん。戦うためだけじゃなくて、自分を守るための力を教えるんだ。ジークならできるよ。だって……僕だって、ジークに教わって結構強くなったし」

 自分でも驚くほど、自然に言葉が出ていた。

 しばしの沈黙の後、ジークはふっと笑った。

「……お前は時々、妙に背中を押すな」

「そ、そう?」

「ああ。……悪くない。考えてみる」

 そう言って立ち上がるジークの背中は、少しだけ軽くなっているように見えた。

 そして僕は思った。

――これが“癒す”ってことなのか?

 立ち上がって部屋を出ていくのかと思いきや、ジークは部屋をぐるぐると周り、少し考え込んだあと、ぽつりと答えた。

「孤児院やスラム……護身を学びたい奴は多いはずだ。だが問題は――信用だな」

「確かに……ジークの名前って今でも通用するか分からないしね、ちょっとみんなにも相談してみようよ」

「そうだな、まぁ名前が残っていても”厄災”に教わりたい奴は少ないだろうな」

 冗談っぽく笑うジークだが……いやそれ笑えないって。


………………。


 僕たちはみんなに声をかけ、食堂へ移動した。しばらくしてコヨミとアリエル、ミレーユも加わり、自然と「ジークの新しい道を考える会」が始まった。

「剣術を教える……ですか……?良いかもしれないですね……」

アリエルがポコ丸を抱きしめながら言う。

「ジークは……“生き残る”ための技術を教えられます……。それってすごく価値がある……と思う」

「生き残る、か……」

「じゃが、問題は信用じゃな」コヨミが茶をすすりながら口を開く。「どこの馬の骨とも知れぬ者に子供を預ける親はおらぬ。傭兵は決して優しいおじさんの顔ではないしの」

 コヨミ、少しくらい遠慮できないの?

「じゃあ、どうやって信用を得るかだよね」僕はメモを取りながら口を挟む。

「……あ、ジーク。そういえば墓参りってどの辺にあるの?まずはそっちが先だよね」

 ジークの表情が一瞬だけ曇る。

「……東の荒野を越えた町だ。あいつの故郷だよ」

 その時、ミレーユが口を開く。

「なら、旅をしながら信用を積めばいいと思う。町ごとに力を貸して、少しずつ名前を広げれば信用に繋がるから」

「名を売る……か」ジークは口元にわずかな笑みを浮かべる。

「悪くないな」

「うむ、旅の護衛や魔物退治を請け負うついでに、人々に武術を教える……立派な行商人ならぬ、“行武人”じゃな」コヨミがクスクスと笑う。

 僕はその光景を見ながら、胸の奥が温かくなるのを感じていた。

――こうやって、みんなで未来を語り合う時間。

 それは、誰かの終わりが始まる時間。

「よし、決まりだな」ジークは立ち上がる。

「準備を始める」

「え……」

 僕は思わず声を上げた。

「もう行くの?帰れなくなるかもしれないんだよ?」

「ああ。だから――出る準備を、本格的に始めるってことだ」

 急に”弱者の庭”の時間が動き始める。

 僕は胸に焦りと不安が込み上げるのを感じた。
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