弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜

自来也

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第6話 淫乱狐と妖艶な部屋

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 ラヴィとの会話を終えて部屋を出ると、コヨミがじっと僕の顔を見てふむふむと頷いていた。

「……なんだよ、僕の顔に何かついてるか?」

「いや…お主、思ったよりやるのう。真竜を一瞬で手懐けおった」

 なぜか得意げに尻尾を揺らす狐娘。少しはしゃいでしまった自分が恥ずかしい。

「手懐けたとか言うなよ。元々ラヴィは――」

 人間と、ちゃんと仲良くしたかっただけなんだ。だから人間の姿でずっと引きこもっていたんだろう…。

 ……でも、それをわかったように言うのも違う気がする。僕は何様でもない。

「ふむ、で? 次は妾の部屋を見ていくんじゃろう?」

 当然のように言うコヨミに、僕は軽く肩をすくめる。

「まぁ、興味がないわけじゃないよ」

 それぞれの部屋がみんな個性的だった。だいたい暗くて、どこか陰気で…。コヨミの部屋はどんな感じなんだろう。

「ほう、なら参ろうぞ!」

 案内されたのは廊下の一番奥。朱塗りの艶やかな扉だった。扉を開けた瞬間、ふわりと甘く妖しい香りが鼻をくすぐる。

 どこかで嗅いだことのある、懐かしいような香煙。その香りがまるで見えない結界のように、空気をねっとりと包み込む。

「なんだこの部屋……違う意味で空気が重いな」

「ふふん、妾の趣味じゃ。こういうのが落ち着くのじゃよ」

 室内は、まさに“妖艶な和”。濃紺の畳に、朱の座卓。周囲には紫の座布団が並び、壁には金魚や桜の絵巻がかかっている。障子越しに柔らかい光が差していた。

 天井から吊るされた風鈴が、カランと涼やかな音を鳴らす。

 視線を移せば、部屋の隅には鏡台。精巧な櫛や紅、香油の瓶が整然と並んでいる。その隣には…神棚だろうか、木彫りの狐が祀られていた。

「……これ、商売でもするのか?」

「対価など無くても妾はいつでも構わぬぞ? んふふ、アルキよ。妾の部屋に入ったということは、覚悟しておるのじゃろうな?」

 扇子で口元を隠して、妖しく笑うコヨミ。

 けれど僕は一歩も引かずに答える。

「ごめん、普通に今はちょっと疲れて
る。……いや、疲れてなくても無理だけど」

「むう、つれないのう……まぁ、いずれ落とすがな」

 そう言ってコヨミはちゃぶ台の上の急須から湯を注ぎ始めた。

「まあ座れ。なあに、毒なんぞ入っておらん」

 湯気の立つ湯呑みを手に取る。少し、落ち着く光景だ――と思ったのも束の間。

「すごいじゃろ? この湯呑み、お茶を注ぐと女の裸体が浮かび上がるんじゃ!」

 ……台無しである。

「というかさ、こういう部屋の家具とか、アリエルが持ってたぬいぐるみとか、どこから出てくるんだよ?」

 変態デザインの湯呑みからお茶をひと口飲みながら、ふと疑問を口にする。うん、美味いけど。

「ああ、そこにある箱が見えるじゃろ? 欲しい物を紙に書いて入れれば、翌朝に出てくるのじゃ」

「は? 家具も?」

「そうじゃ。食料も日用品も望めば出てくる。まこと便利な庭じゃよ。妾のような引きこもりには最適じゃ。ほれ…妾の寝床の横の台を見てみろ、あの道具達はすごいんじゃぞ!身体を慰める時に使うんじゃが一番右が…」

「いやいや良いよ説明しなくて!」

 台に並んだ淫猥な道具達…急に現れた異世界チート要素…

「……でも、何でも揃うけど…みんな一人で……その、寂しくないのか?」

 何気なく投げかけた問いに、コヨミはふっと微笑んだ。

「他人と歩幅を合わせられるような奴らではないからの。……まあ、妾は快適じゃよ」

 その笑顔は、どこか寂しげで…。

「……そうか。そろそろ戻るよ、自分の部屋も見てみたいし」

「なんじゃ、もう帰るのか?もう少しいたら良かろう」

「考えたいこともあるしさ。……また話し相手くらいにはなるよ。寂しがり屋の狐様のな」

「なっ……!別に妾は寂しくなんかないわい! ……アルキの方こそ、寂しくなったら来れば良い。今度は全身を使って奉仕してやるのじゃ!」

「いや、全身は使わなくていいって」

 そう言って、僕は立ち上がる。

 こうして僕は自分の部屋へと戻った。さて……この“弱者の庭”での管理人生活、どうなることやら。

 ――不安しかない、というのが正直なところである。


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