弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜

自来也

文字の大きさ
11 / 69

第10話 初めての外とパン屋のアルバイト

しおりを挟む
「普通の食事がしたい…」

 この“弱者の庭”にはエネルギーバーとスイーツしかない。エネルギーバーを食べていれば死にはしないが食の楽しみが無いのはとてもストレスである。

 粘土でも食ってる気分だあれは。

 ラヴィに聞いたところ全く気にならないという衝撃の言葉が飛び出した。スイーツがあれば幸せだそうだ…。

 あれからラヴィはちょくちょく遊びに来るようになったが睡眠時間が異常に長い、大体一日遊んで一日眠る。怠惰なドラゴンなのである。

「限界だ…」

 僕の食への渇望は限界を迎え、遂に外の世界に出る決心をした。

 覚悟して部屋にある不思議な扉に手をかける。実際外に繋がってるかは分からない。しかし絶対これだという確信がある。

 恐る恐る扉を開き首だけ出して外を確認…あれ?

外の風景は、石畳の通りに人が行き交い、小さな店が軒を連ねていた。焼きたてのパンの香りや香辛料の匂いが鼻をくすぐる。…案外、平和そうじゃないか。

 人々は普通に働き、ドラゴンに焼かれている様子も、魔族が襲ってくる様子もない。

「なんだ…外って、そんなにやばくないんじゃん」

 まるで海外旅行にでも来た感覚、危なくなったら逃げ出せば最強達がいるし…そもそもあの場所へは普通の人間は入れないだろう。

 そんなふうに思いながら久々の騒がしい声に耳を傾けながら歩いていると…

「いらっしゃいませっ!」

 キーンと高い声が響いた。

 声のする方を見てみると…パン屋の店先に立っていたのは元気そうな女の子だった。肩までの赤毛に、ちょっと大きめの前掛け。目が合うとにぱっと笑う。

「おにーさん、旅人さん? 珍しい格好だね!」

「え、あ、うん……ちょっと近くに住んでて」

「ふふっ、初めましてだね!じゃあ今日は特別におまけしちゃう!美味しかったら買ってくれたらいいから!味には自信があるんだよね!」

 そう言って渡してくれたのは、焼きたてのパンと温かいスープ。ひとくち口に入れた瞬間、目頭が熱くなった。

 味が…する…!
 塩気、香ばしさ、歯ごたえ。
 これこれ、これが“生きてる”って感じだ。

「お、おいしい…!」

「でしょー? お兄さん、顔やばいよ! 泣きそうじゃん!」

「私の名前はトーカ。家族と一緒に店をやってるんだよ!」

「僕はアルキ、うーんと…施設の世話係みたいな事をやってるよ」

「世話係?よく分からないけど大変そうだね」

 よく分かったね、大変なんだよ。なんせ住人が重い。

 ここで問題がひとつ。

「え、えーと、その、パンはいっぱい欲しいけど現金がないんだよ…」

 僕には異世界の硬貨は一枚もない。なんとか仕事とかあると良いんだけど…。

「じゃあお手伝いしてよ! アルキさん、力はある? 荷物運ぶとか、掃除とかでも!」

「そ、それくらいなら!」

 こうして、ぼくはパン屋のバイトとして雇われることになった。

 普通はさ、冒険者になってモンスターを倒してとか…商人になって現代知識無双みたいな事したりするもんだと思う。でも僕にはチートが無い。チートみたいな存在の同居人はいるけど引きこもりである。

 パン屋の中は、外から見るよりもずっと広くて温かい香りに満ちていた。

 トーカに案内されるまま、僕は店の奥の作業場へと足を踏み入れる。そこでは分厚いエプロンを着た大柄な男性が、小麦粉まみれでパン生地をこねていた。

「お父さーん! お手伝いの人連れてきたよ!」

「ん? おお、珍しい顔だな。……旅人か?」

「い、いえ、えっと……近くの施設で、世話係みたいな事を……」

 曖昧な説明にもかかわらず、父親はニッと笑った。表情の奥にはどこか安心感があった。

「はは、堅いことはいいさ。働いてくれるなら大歓迎だ。オレはハルド、パンと店のことは全部ここでやってる。よろしくな!」

 その後ろから、今度はエプロンをかけた柔らかな雰囲気の女性が出てくる。

「まぁまぁ、トーカが人を連れてくるなんて珍しいわね。初めまして。私はマリナ。うちの娘がお世話になってるわね」

「トーカさんとはさっき会ったばかりで…お世話になるのは僕の方ですけどね」

 とはいえ、歓迎ムードで助かった。簡単な仕事から任されることになった僕は、小麦粉の袋を運んだり、店の裏口を掃除したりと、意外と忙しく動き回ることになった。

 そして何より、労働の後に待っていたのが――

「はい、働いた人へのご褒美セット! 焼きたてパンとスープと、今日はリンゴのタルト付き!」

「……神か…」

 思わず手を合わせて拝んでしまった。トーカが笑いながら「大げさだなぁ」と言ったが、本人には分かるまい、あの粘土バー生活の辛さを……。

 でも……なんというか、久しぶりだ。誰かと、こうして他愛ないことで笑って、労働して、美味しい物を食べて。心が、ちょっとだけ満たされていくのが分かる。

「よーし、じゃあ午後は裏の掃除ね」

「任せて下さい!」

 仕事は夜まで続き、かなり疲れたが達成感がすごい。

「また今度手伝ってくれると助かるな!アルキは真面目で仕事をしっかりやってくれるからな!」

 ハルドさんにも気に入って貰えたしまた仕事させて貰おうかな。

「じゃあ今度来た時にまた仕事教えてあげるね!」

「ふふっ、トーカはアルキさんがお気に入りなのよね」

「ち、違うってば!お母さん変なこと言わないで!」

 家族かぁ…なんか良いな…。
 僕は今日の給料として銀貨五枚を貰って店を後にした。

 銀貨五枚ってどのくらいなんだろ…。とりあえず帰るか。売れ残りのパンも大量に貰ったしな!





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――

銀雪 華音
ファンタジー
「レベル15か? ゴミだな」 世界は男を笑い、男は世界を「解体」した。 魔力も才能も持たず、万年レベル15で停滞する掃除屋、トワ。 彼が十年の歳月を費やして辿り着いたのは、魔法という神秘を物理現象へと引きずり下ろす、狂気的なまでの**『極限効率』**だった。 一万回の反復が生み出す、予備動作ゼロの打撃。 構造の隙間を分子レベルで突く、不可視の解体。 彼にとって、レベル100超えの魔物も、神の加護を受けた聖騎士も、ただの「非効率な肉の塊」に過ぎない。 「レベルは恩恵じゃない……。人類を飼い慣らすための『制限(リミッター)』だ」 暴かれる世界の嘘。動き出すシステムの簒奪者。 管理者が定めた数値(レベル)という鎖を、たった一振りのナイフで叩き切る。 これは、最弱の掃除屋が「論理」という名の剣で、世界の理(バグ)を修正する物語。気になる方は読んでみてください。 ※アルファポリスで先行で公開されます。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

見習い動物看護師最強ビーストテイマーになる

盛平
ファンタジー
新米動物看護師の飯野あかりは、車にひかれそうになった猫を助けて死んでしまう。異世界に転生したあかりは、動物とお話ができる力を授かった。動物とお話ができる力で霊獣やドラゴンを助けてお友達になり、冒険の旅に出た。ハンサムだけど弱虫な勇者アスランと、カッコいいけどうさん臭い魔法使いグリフも仲間に加わり旅を続ける。小説家になろうさまにもあげています。

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

チートツール×フールライフ!~女神から貰った能力で勇者選抜されたので頑張ってラスダン前まで来たら勇者にパーティ追放されたので復讐します~

黒片大豆
ファンタジー
「お前、追放な。田舎に帰ってゆっくりしてろ」 女神の信託を受け、勇者のひとりとして迎えられた『アイサック=ベルキッド』。 この日、勇者リーダーにより追放が宣告され、そのゴシップニュースは箝口令解除を待って、世界中にバラまかれることとなった。 『勇者道化師ベルキッド、追放される』 『サック』は田舎への帰り道、野党に襲われる少女『二オーレ』を助け、お礼に施しを受ける。しかしその家族には大きな秘密があり、サックの今後の運命を左右することとなった。二オーレとの出会いにより、新たに『女神への復讐』の選択肢が生まれたサックは、女神へのコンタクト方法を探る旅に目的を変更し、その道中、ゴシップ記事を飛ばした記者や、暗殺者の少女、元勇者の同僚との出会いを重ね、魔王との決戦時に女神が現れることを知る。そして一度は追放された身でありながら、彼は元仲間たちの元へむかう。本気で女神を一発ぶん殴る──ただそれだけのために。

処理中です...