弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜

自来也

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第16話 千年の退屈、今日の一局

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「最近、精霊王や真竜と仲が良さそうじゃのう」

 ラヴィの遊び相手、アリエルとの裁縫クラブ、パン屋でのバイトと案外忙しい僕。今日は少しゆっくりしようと思った矢先に、コヨミがひょっこり現れた。

「そんな恨めしそうにドアの隙間から覗かないで、普通に入ったらどう?」

「おや?誘っておるのか?やっとお主もその気に……」

「なってないよ。そんなホラー映画みたいな覗き方されてたら落ち着かないだけ」

「冗談じゃよ。それでは、お邪魔するのじゃ」

 着物の裾をふわりと靡かせながら、コヨミは僕の膝の上にストンと座る。ふわりと甘い花の香りが鼻をくすぐった。

「お邪魔しすぎ。そっちの椅子が空いてるだろ?」

「なんじゃ、妾の尻の感覚をもっと堪能すれば良いものを……。仕方ないのう」

 唇を尖らせながらも、あっさり立ち上がり、向かいの椅子に腰を下ろした。

「そういえばさ、コヨミって僕が誰かといる時、あんまり来ないよね。なんで?」

「な、なんじゃ急に……。妾なりの配慮じゃよ。なんせ、ここは“弱者の庭”じゃからな」

「配慮?」

「そうじゃ。お主と相手の時間を邪魔しないようにしてるのじゃ。察するのじゃ、そのくらい!」

 ぷいっと横を向くコヨミ。怒ってる、というより拗ねてる感じだ。

「……コヨミなりに気を使ってくれてるんだよね。まぁ、なんとなく分かってたよ」

「ふふん、良い女じゃろ?」

 自信満々に胸を張るコヨミは、そのまま身を乗り出してきた。胸元をわざとらしく見せつけながら、僕の顔を覗き込んでくる。

 自然と目がそっちに行ってしまったが、不自然に視線を持ち上げて顔を見返した。

「なんじゃ?見たければ素直に見ればよかろう?本当にむっつりじゃのう…」

「むっつりで結構。でもさ、話は変わるけど――僕がここに来た時、最初に会ったのジークだったんだよ。あの時、何してたんだろ?あれ以来、部屋から出てるの見たことないけど」

「……ああ、傭兵はのう。毎日決まった時間に外で何やら鍛錬をしておるぞ?気づかんかったのか?」

「いやいや、いないよ。外に出てる姿なんて一度も見たことないって」

「気配を完全に断っておるからの。あの老骨、目立たぬのが癖になっておるのじゃ」

「気配ってさ、実体を消してるわけじゃないでしょ?姿はあるはずだよね?」

「……でも実際、お主は見たことがないのじゃろ?」

「まあ、そうだけど……」

 本当に見えてないのか、それとも見えてるのに意識してないのか。気配を消すって、そんなに効果あるものなんだろうか。

 ――今度、ちゃんと探してみよう。

「それはそうと、こんな美女と部屋に二人きりなんじゃぞ?そろそろ変な気の一つや二つ、起こしても良い頃合いじゃと思わんか?」

「隙あらば発情すんなよ……。他にやることないの?」

「鉄壁じゃのう……それなら、これならどうじゃ?妾はこっちも強いのじゃぞ」

 そう言ってコヨミが取り出したのは――将棋?

「ちょっと待って、なんで将棋なんか持ってるんだ?」

「うむ、前の管理人がのう、置いていったのじゃ」

「前の管理人?他のみんなもその人に会ってるの?」

「いや、そやつが去った後に他の者たちは来たからの。知っておるのは妾くらいのものじゃな」

「じゃあコヨミが一番長くここにいるんだ」

「そうじゃのう。もう何年おるかも忘れてしもうたの。まぁ、昔のことはどうでも良いのじゃ。やるのか?やらんのか?」

 どこかはぐらかすような口ぶりだったが、それ以上は踏み込まない方が良い気がした。

「いいよ。僕も案外強いからね」

「ほう、それは楽しみじゃのう!かかってくるのじゃ!」

…………………。


「待った!待ったじゃ!」

「えぇ……また?もうボロボロじゃん……」

 正直、コヨミが強いと思っていたが――まさかの圧勝である。千年生きた狐に将棋で勝ち越している僕。いや、いいのかそれで。

「ぐぬぬ……仕切り直しじゃ!次も負けたら、潔く脱ぐ!そしてなんでも言うことを聞いてやるのじゃ!」

「脱ぐなって……」

 それからしばらく、何局も指し続けた。僕の連勝は続いたが、コヨミの表情はどんどんほころんでいった。

「待った!待つのじゃ!それはいかん!」

 台詞とは裏腹に、笑顔はとても楽しそうだった。

 ――まるで、久しぶりに誰かと“遊んでいる”ような。

 勝負の最中、ふと、コヨミの視線が僕ではなく盤面を通り越して、どこか遠くを見つめていることに気づいた。懐かしさと少しの寂しさが滲む目。

「……もう一局!最後じゃ!負けたら、ここで一晩……いや!ここに住んでも良い!」

「いや、負けたら帰ってね……?」

 冗談を言いながらも、その姿が少しだけ愛おしく思えてしまう。

 ――しかし前の管理人かぁ。どんな人だったんだろ。

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