運命を知らないアルファ

riiko

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本編

13、抱きたい

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 保健室へ運ぶ時、現場に到着した保健医から正樹を渡すように言われたが断り、自ら抱きかかえて連れていった。

「西条君だよね? 前も助けてくれたけど、君は彼のヒート大丈夫なの?」
「俺は強めの抑制剤を使用しているので大丈夫ですが、正樹の香りは正直ちょっと辛いです」
「正樹? 君たちは知り合いなの?」
「あっ、いえ。でも前に助けた時に知ったので」

 保健医には前に電話で正樹の保護をお願いして、その翌日に直接正樹からの手紙を受け取った時に会っていたので俺のことを覚えていた。だからと言って、オメガ嫌いの俺が正樹を親しく呼んでいることに戸惑ったみたいだ。

「そう。じゃあ、無理して抱っこしなくても僕が連れてくのに」
「いえ、俺も今、他人に正樹を任せるほど余裕は無いので」
「君は……」

 保健医はオメガだから、正樹のヒートに当てられることはないが、渡したく無い。

 そんな話している内に保健室についた。その間も正樹は苦しそうにしていた。彼のモノがち上がっているのも俺の腹に当たっていてわかった。ベッドに寝かせると目覚めた正樹に、保健医は俺にも聞こえるように話す。

「真山君、目が覚めた? もう本格的にヒート始まっているけど、薬で発情させられた。だと薬を打って抑えることはできない。一度に違う作用のものを使うのは体に負担なんだ。だから自然にヒートと向き合うしか無い、この意味わかるよね?」
「はっ、あっ、大丈夫です。あの、一人にしてもらえますか? その……あんたも、ありがとう。迷惑かけてごめん」

 正樹は苦しそうに、俺にもそう伝えてくる、あんた……そう言われて寂しくなった。そうだ、正樹は俺の名前さえ知らないんだから。そしたら保健医が残念そうな声色で話を正樹に続けた。

「いや、そうじゃなくてね。正直、今の君は抑制剤なしの発情は耐えられないと思う。オメガの発情を止めるのはアルファの精を体内に入れるのが一番なんだ。彼……西条君は君の特別じゃ無いの?」
「えっ、違います。そいつは俺を助けてくれたけど、違う! 先生大丈夫です。俺、耐えるから」

 保健医は俺を訝しげな目で見たが、俺の正樹への対応から俺たち二人は特別な関係に見えていたのだろう。保健医は瞬時に俺の立ち位置を理解したようだった。俺にウィンクをすると、正樹に向き合った。

「でも、ここに君を抱いてくれそうなアルファがいるのに。真山君はこないだ初めてのヒートを迎えたんだよね、薬飲んでいても辛かったって言っていたじゃないか」
「でも、俺経験ないし、無理です」

 なんて最高のサポートをしてくれるんだ!! 保健医、ありがとう! 

 そして正樹はぼそっと経験ないと言った、正樹は嬉しいことに処女だった。俺は歓喜のあまり顔がにやけた。保健医は呆れた顔で俺を見てから正樹に向き合った。

「いつかは経験しなくちゃいけないよ、君の場合は薬が効かない体質だ、アルファに抱かれたほうがいいんだよ。それに発情はもともと薬だけで耐えられるものではない。そんな子に医者としては一人で薬なしは許可できないよ」

 二人の会話を聞いていると、保健医は俺に正樹を任せるつもりで説得している。そして俺は正樹を抱くつもりでいた。その話がなくても彼のヒートに立ち会うのは自分だと思っていた。

 そうか、正樹は薬が効かないのか、でも心配ない、これからの正樹の発情期は俺が必ず面倒見るから、むしろ薬なんて一生飲ませるつもりも無かった。

 正樹は保健医の話に頷かなかった。

「そんな……じゃあ、適当な人、探すからっ、だからそいつだけはっ」

 なぜこんなに全力で拒絶をされるんだ。しかも俺以外のアルファでいいって。誰でもいいのに俺ではダメ、そう言われている。腹が立って仕方ないが、必死に抑えて正樹をなだめるように話しかけた。

「何言っているんだ!! 適当な奴に心当たりでもあるのか!? でもダメだ! アルファならここにいる、俺は正樹を抱きたい」
「……えっ」

 真っ赤な顔で俺を見た。

 もう欲望に支配されそうなのに、まだキチンと向き合おうとしている真摯な姿も好きだ。そう、俺は正樹が好きなんだ。もう本人を目の前にして抑えられない。

「でもっ、あんたっ、オメガ嫌いだろう? いいよ、そこまで迷惑はかけられない」

 やはり俺のことは、そういう意味で知っていたのか。

「確かに俺はオメガ嫌いで有名だ、だけど正樹だけは違う」
「ど、うして」
「正樹は俺に抱かれるより、知らないアルファに抱かれる方がいいのか?」
「……」

 もう思考は停止寸前だろう、今考えをまとめることはできないし、答えを出すこともできないのはわかる。だが、俺が欲しいと聞きたい。

「なあ、正樹が嫌がるようなことはしない、俺に任せてくれないか?」
「でもっ」
「俺が触るのは嫌じゃ無い?」
「いや、じゃない」

 ゆっくりと正樹の手を握る、そしてもう片手をうなじに、すると正樹がかわいらしい声を出した。

「ひやっ、そこ」
「ここ?」
「だめっ だからっ」

 保健医が呆れたように声をかけてきた。

「ねえ? ここでおっぱじめる気? それでもいいけど、じゃあ僕はもういいかな? 人の行為を見る趣味はないし、真山君も恥ずかしいだろうから」
「えっ、先生っ」

 正樹が途端に不安そうな声を出した。他の男にすがらないで欲しい。

「大丈夫だよ。西条君に任せてみなさい、彼はきっとうまいと思うよ?」

 保健医と目が合うと俺は頷いて、そのまま出てくのを見届けた。正樹に自分のフェロモンをかけ逃がさないようにした。初めて使ったが、案外しっくりと体は動いた。そして正樹の香りがこの部屋全体に広がった。
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