35 / 67
本編
35、温泉のその後
しおりを挟むあの温泉に行った後から、正樹がよそよそしい。
あの後、学生たる者授業をサボるとはなんたること、というようなお説教をされた。あんなに楽しんでいたのに……、酷い。正しいことを言っているから、ありがたいご指摘だが……もっと俺は触れ合いたいんだ、鬼嫁め!!
「お前は社会というものを知れ! 御曹司だからって遊びたいから遊びに行く、じゃだめなんだ。学生であるうちはだな、学業が一番であって、遊ぶならきちんと休日とかにしろ!」
「わかった。じゃあ土日は泊まりでどこか行こう!」
すると正樹が勝ち誇ったような顔をした。
「わかってねぇな、俺学生。お泊りなんて親が許可しない、俺の家はそれはそれは厳しい一般家庭なんだ」
「百合子さん、たまにならお泊りしてもいいって言っていたぞ」
「……母さん、マジか」
この間の温泉土産を百合子さんに渡しに行ったとき、きちんと許可をとった。
***
「正樹ったら温泉本当に嬉しかったみたいでね。家に帰ってきてからもずっと楽しかったって話していて、喜んでいたの。親としてもあんなにはしゃぐ息子を見るのはとても嬉しくってね、パパも良かったねって言っていたわよ。司君の株は我が家で爆上がり中なの。とにかく素敵なところへ連れて行ってくれてありがとう」
そうなのか? お義父さんにはまともな挨拶もできないだめな男のレッテルを貼られたと思っていたが、それなら良かった。
「いえ、百合子さんが正樹の好きなものを教えてくれたからこそです。正樹、ぼそっと両親を連れて行ってあげたいなって言っていたんです。それで、良かったらこれ、ご夫婦お二人で使ってください」
「あら、正樹が? 相変わらず可愛い息子だわ。って、えええっ、これ、正樹を連れて行ってくれたリゾート? ここサミットに使われたところじゃない?」
うちの所有する高級リゾートホテル、政財界などコネがなければ使えない施設だ。そのご招待券なるものを渡した。
連れて行った正樹は大層喜んでいたが、どうせなら両親にもこの贅沢味あわせてあげたいなとつぶやいていた。そこで俺にここに親を泊まらせろと頼まないところが慎ましかった。お前の彼氏はホテル王の息子なんだから、好きに使えばいいのに、頼みもしない控えめなところがやばい。
それに正樹はそういう権力を使うのも嫌うみたいだから、正樹には言わず直接百合子さんにホテルのチケットを渡した。
「でも司君。いくら正樹と付き合っているからって、悪いわ。流石にこれはもらえないわよ」
さすが正樹の御生母。正樹の潔癖で慎ましいところは彼女に似たのだろう。
「俺は正樹が喜ぶことが、今一番したいことなんです。でも正樹は俺にお願いをしなければわがままも言わない、俺は何をしてあげたらいいのか悩むだけなんです。だから百合子さんが教えてくれた正樹の情報がとても役に立って、結果正樹の喜びが俺の幸せに繋がるんだって気がつきました。そしてご両親が温泉でゆっくりしてくれたら、正樹が喜ぶんじゃないかって思って。俺のわがままに付き合ってもらえませんか?」
「司きゅぅ――ん!! そこまで正樹を? ありがとう、この好意はありがたく使わせてもらうね。温泉日帰りだったでしょ? 毎回はだめだけど、お泊りもたまには連れてってあげてね、パパにはうまいこと言っておくからね!」
という約束はいただいたわけで、俺には強力な味方がいるのだった!
だけど、どんなに俺が正樹を思って行動しても、最近の正樹はなんか臭う……フェロモンではなくて、何か策略しているような、嵐の前の静けさのような、なんとなく俺の本能が危険を告げている気がしてしょうがなかった。
気になって放課後の正樹を調べようとしたら、まんまと見つかってしまい怒られたばかりだ。これ以上やって嫌われても怖いから、追いかけてはいない。ただ中学時代の友達と地元で遊んでいるのだろう、仲のいい親子関係の母親が正樹の行動を把握していないはずはないから、安全な友達と会っているのだろうと思うことにした。
98
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【本編完結済】巣作り出来ないΩくん
こうらい ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。
悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。
心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜
みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。
自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。
残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。
この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる――
そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。
亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、
それでも生きてしまうΩの物語。
痛くて、残酷なラブストーリー。
36.8℃
月波結
BL
高校2年生、音寧は繊細なΩ。幼馴染の秀一郎は文武両道のα。
ふたりは「番候補」として婚約を控えながら、音寧のフェロモンの影響で距離を保たなければならない。
近づけば香りが溢れ、ふたりの感情が揺れる。音寧のフェロモンは、バニラビーンズの甘い香りに例えられ、『運命の番』と言われる秀一郎の身体はそれに強く反応してしまう。
制度、家族、将来——すべてがふたりを結びつけようとする一方で、薬で抑えた想いは、触れられない手の間をすり抜けていく。
転校生の肇くんとの友情、婚約者候補としての葛藤、そして「待ってる」の一言が、ふたりの未来を静かに照らす。
36.8℃の微熱が続く日々の中で、ふたりは“運命”を選び取ることができるのか。
香りと距離、運命、そして選択の物語。
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる