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番外編
9、番の為のヴィラ 5
しおりを挟む「いい宿だったな!」
「うん、思った以上に従業員の教育も行き渡っていたし、発情期中の食事もいくつか試したけど、中々良かったな」
「もう! まだ発情期じゃないのに、俺は一人で歩くことも許させず、トイレまで世話されるなんて、めちゃくちゃ恥ずかしかったぞ。食事もベッドで司からの口移しとかさぁ、まぁ口移しでも食べやすい食事だったけどさ」
正樹にヒートを過ごせるのかを、番の協力のもとテストをして、結果をスタッフに報告する必要がある、そう言ったら俺のやりたいようにやらせてくれた。
抱き潰して動けなくして、そして動けないオメガの世話を一からアルファがする、その一連の流れのチェック。正樹は司のホテルのためだと言って、赤い顔をしながら付き合ってくれたけど、案外ノリノリだったぞ。
まぁ、この調子なら正樹の次の発情期はここで問題ないだろうな。あぁ、楽しみだなぁ!!
「司、俺のヒートの為に今から色々と頑張ってくれて、ありがとな。お前なら俺なんでも任せられるよ」
「ふふっ、ありがとう! 俺頑張るからな! 番になって初めてのヒート楽しもうね」
「おう、もしも、また俺の記憶無くなったらごめんな? でも愛されたのは覚えているはずだから」
手を繋いで、俺にくっつく正樹。本当に愛おしいし、俺は愛されている実感を持てた。番に愛されて自信がついたアルファは最強だぞ――。
「正樹、好きだぁ――」
「ふはっ、声でかいし、俺も好きだ」
そして迎えた発情期は最高だった!!
驚いたことに、例の巣をまた作ろうとしてくれた正樹が登場した。
だけど真新しいホテルだった為か、ここはお前の香りが何一つない――って怒って大変だった。荷物を何も持ち込まないでも過ごせるコンセプトにした結果、俺の持ち物すらなくて正樹は巣が作れにゃい――って泣き出したのには焦った。まさか二回目でも巣を作ってくれようとしたとは思いもよらず、俺は正樹をなだめるのに必死だったのは、もちろん正樹は覚えていなかった。
その失敗を糧に、発情期が明けてすぐにホテルスタッフとヒートを過ごすプランを考え直した。
初めての黒魔術ならぬ巣作りの時にお世話になった、アルファ専用会員アプリ……アルぺディアのオメガの巣作りを熟読した。そして俺はまたアルファレベルが上がった!!
前日にその部屋にはアルファの愛用品や匂いの付いた洋服等を運びこむのと、アルファのフェロモンをあらかじめ特殊なケースに収めてそれを部屋にばらまくというサービスもつけた発情期プランを改めて発表。友人たちにそれを利用してもらうと、番が喜びすぎてやばかったという言葉を多数もらった。
アルファだけの匂いの部屋なんて、あえて作らなければ香りはいつもの清掃でうすれるからな!! 我ながらいい仕事をしたぜぇ!!
これも愛すべき正樹がくれたヒントだった。公私共に正樹は最高のパートナーだ。上げマンっていうのか? 俺のヴィラは飛ぶような人気となって、ヒート棟は三年先まで予約でいっぱいになった。
もちろんその次の発情期は、正樹の満足のいく巣作りができて終始にこにこだった。本来は好きなアルファの持ち物や匂いのついたたくさんの服を重ねて自分がその中に入って、アルファの香りに包まれて安心するという行為だったらしい。オメガの本能が好きな相手のフェロモンを求めての巣作りということだ。
アルぺディアめ! できたばかりのアプリだったせいか前回は情報が足りなかったぞ。
アルファの荷物が少ない場合は文房具さえも並べて黒魔術風になる。ということを早速書き足しておいた俺、親切!
巣作りの成功は、発情期明けも正樹の甘えが収まらなかったほどに効果は続き、俺はまた愛される実感がわいた。
まさか三回連続巣作りをしてくれるなんて、正樹は俺が思う以上に俺を愛してくれていたんだなって思うと涙が出てきた。
俺たちはこれから何十年と二人でヒートを過ごすんだ。たとえ正樹の記憶に残らなくても、正樹はいつだって俺を愛してくれるし、俺もいつだって正樹を愛している。
穏やかに、時に激しく、俺たちは二人で愛を育んで二人で生きていく。
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