運命の番は姉の婚約者

riiko

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第二章 男を誘う

12 隆二

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 彼に連れられた先は高級ホテル。飲みに誘ったのはただの口実で、最初からヤル気でいたのなら話は早いと、爽は覚悟を決めた。
「ここ行きつけのラウンジがあるんだ。そこなら静かに過ごせると思って」
「え……」
 二人きりの空間でなく、彼の提案はホテルのラウンジだったことに、爽は驚く。その顔を見た男は、意地悪そうな顔で笑う。
「いきなり部屋に連れ込まれると思った? さすがに初対面の子をどうにかするなんて思ってないから安心して」
「はぁ」
 爽としては、むしろ連れ込んでもらいたかった。
 さすがに昨日の男のように、酒をこっそりと飲ませて意識を失わせたところで襲う犯罪は嫌だが、健全に話なんて面倒くさい。しかしワンナイトに、このような高いホテルは困る。特別感なく、ヤリ逃げできるオメガとして扱ってほしい。
 もう今週は社会勉強だと思ってセックスは諦めることにした。
 知らない男に一杯だけ奢って終わりという、無駄な時間をこれから過ごすことを思うと爽はうんざりしていた。
 それにしても、ベータの割に誘い方や誘導の仕方がなんとスマートなのだろうか。むしろ爽のような得体のしれないオメガを誘うほど、相手に困っていない感じがする。単純に酒と雰囲気を楽しむ大人の場所。そんなところで男を漁ろうとした爽が間違えていたのかもしれないと反省した。
「何飲む?」
「あ、なんかジュースでお願いします。俺、酒が飲めないので」
「飲めないって年齢的に? それとも体質?」
「どちらもです」
「ふふ。そう、素直でよろしい」
 一応酒が飲めるのは次の誕生日からで、体質も昨日の酔わされ方を知ったら合わないのだろうと思った。
 男とホテルのラウンジで飲む。不思議な感じだった。
 その男は三十二歳会社員、名前は隆二りゅうじ。お互いにファーストネームだけを名乗った。隆二が一杯飲んだらここを出ようと思ったが、思いの外彼と一緒にいるのは居心地が良かった。先程の男同様たいした話もしていないのに、今の爽はなぜか苦痛ではない。
「爽、眠くなった?」
「え、ああ。なんだか疲れちゃって。俺もう帰ろうかな」
 いつの間にか自然に、爽と呼んでくる男の声は嫌ではない。
「もう? せっかく楽しいのにな。そうだ、部屋で休んでいけば? もう時間も遅いし」
「え、部屋って?」
「ここの上、キープしている部屋あるんだ」
 ――あ、そういうことか。
 隆二からは清廉潔白みたいな匂いを感じたが、やはり男だったらしい。オメガと寝れるのはベータとしては嬉しいと聞いたことがある。オメガは寝る相手としてアルファを望むことが多いから、オメガを抱けるのはベータとしては自慢に繋がるらしい。
 爽は最初からエッチ目的に男に着いてきたはずなのだが、なぜか少しだけがっかりした。出会って数時間の相手に何を望んでいたのだろうかと、心の中で笑った。
 高級ホテルに部屋をキープする時点で、隆二も先程の男同様勝組ベータなのだろうか。
「いいよ。隆二、部屋連れてってよ」
「ふふ、じゃあ遠慮なく」
 先程から十歳以上年上の男に、馴れ馴れしく話している。それでいいと隆二が言ったからだった。仕事関係ではないのだから、プライベートで気を使うことないと言われた。それもその通りだ。ここは爽が奢る約束をしたのだから下手に出る必要はない。
「あ、お会計」
「部屋につけてあるから、いいよ」
「え、それじゃあここに来た意味なくない? 俺に奢られるために来たんじゃないの?」
「そんなのただの口実だよ、君が可愛かったから独り占めしたくてそう言っただけ」
「ふーん、そうなんだ」
 ということは、最初から爽を抱く気で誘ったことになる。隆二は慣れた場所のようで迷わずエレベーターに乗り込み、目的の階を押していた。
 エレベーターで二人きり。これから爽は初体験を済ます。いや、隆二のことだからこのままお茶の続きにならないとも限らない。誘い方がいやらしくなかったことから、先ほどの延長で普通に会話をしようという意味で部屋でゆっくり……の可能性も、この男ならあるかもしれないと爽は考える。
 もう少し意思表示をした方がいいだろうか。隆二の腕に爽の腕を絡ませ、初めて接触をした。これまでただ話をしただけで、二人は全く触れあっていない。これで振り払われたら、爽を抱く気がないことがわかる。爽はなんとなく賭けに出ていた。
 服の上からはわからなかったが、隆二は意外に逞しい腕だった。
「俺は隆二をひと目見たときから、欲しいなって思ってた」
 嘘だけど。と、心の中でこっそり否定した。
「嬉しいこと言ってくれるね」
 腕は振り払われず、逆にもう片腕の腕を爽の腰に回してきた。より密着した姿勢になる。これはイケるかもしれないと爽は確信し、隆二を下からじっと見つめた。
「俺、うるさいこと言わないよ。一度だけでいいし、試さない?」
「え?」
「恋人は欲しくないけど、オメガだから体が疼くんだ。一夜の関係って、燃えない?」
 爽の言葉に、隆二は驚いた顔を見せる。しかしそれも一瞬で、次の瞬間笑顔になり、爽の頬を優しく触る。爽は一瞬ぞわっとした感覚に陥る。それは初めて男からそういう目で見られて触れられたからだと思った。その手に上から触れた。
「いいの?」
 いいのかと隆二が聞いてきたのは、抱いていいかということ。それ以外、この雰囲気からはないと爽は確信した。
「ここまで自分で誘ったんだろ? 嫌なの?」
「嫌じゃないよ、爽が欲しい」
「じゃあ、成立だね」
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