貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油

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1章 囚われた生活

1.11 世界が変わる準備1

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 次の日、目が覚めるとママが食事を出してくれそれを食べる。食べ終わった頃に大人が1人入ってきた。眠る前に隊長と呼ばれていた男性だ。
「私は、オルトヴィアー・フルトヴィストだ。この討伐隊の隊長として来ている。今から君たち二人と話がしたい。状況の確認と今後についてだ」
「はい」
「では、まずそちらか聞きたいことがあればそれを答えておこう」
「なぜ急に討伐隊が来たのですか」
「うむ、始まりは2週間前に魔獣に襲われたときだ。あの時あの魔獣は騎士に追われていた魔獣だった。その騎士が魔獣を追い詰めた時に偶然ここを見つけたのだ。放置されていたこの地に大量に人が住まい、肥沃な土地が広だっていた。騎士はすぐに城へ報告しそれからこの地を調査した。そして暗殺家業をやっているダーヴィッドの根城だとわかったのだ」
「あの魔獣がきっかけ。そうですか」
「ああ、最近この辺りの魔力が豊富になり強い魔獣が発生し始めていた。それで調べるついでに魔獣の討伐をするというのがそもそもだ。ほかになければ君達が誘拐された辺りの事を聞かせてくれ」
「はい、私が誘拐されたのは7年前です。シルドリックの家に居るときに襲われました。その時に私が1人捕まり転移でここに連れてこられました。それからは数日に1回魔石で魔力を吸われいました。誘拐されてから1年後にこの子も誘拐されてきました。上位貴族の子供と言っていましたが詳細はわかりません。別れることになった自分の息子クリストの名前をこの子に付けて育てていました」
「この子が連れてこられた時の話をもう少し詳しく」
「6年前に、ちょうど1歳の祝いの印を手に持っていたのでこの季節で7歳になったのだと思います」
「そうですか。二人ともずいぶん長い期間幽閉されていたようだな」
「僕は、ずっとママが守ってくれたから、大丈夫でした」
「そうか。クリストと言ったかな、まだ詳しくは話せないが、君と私は間違いなく親戚のようだ。それもかなり近い。ひょっとしたら親子かも知れない」
「え、どういうことですか?」
「詳しくは言えない。すまない。だが念の為だ、人前では私の事を父と呼びなさい」
「え、では本当のおとうさまと言うことですか」
「うまく返事が出来ぬ。今は事情があるのだ。だが養子と言う形になるかもしれないが私が身請け人になるはずだ」
「僕の記憶にあるのは母親の声だけです。姿かたちも覚えていません。父親については皆無です。急にこんな子供が自分の子供かも知れないといわれてもこまりますよね。お気持ちはわかります」
「君は、ずいぶん大人びた言葉使いをするのだな。ウルレアール殿とずっと暮らしていたせいか、いやそれよりも君が誘拐されたのは1歳の頃だろう。母親の声を覚えているのか?」
「クリストは、小さい時から理解力が高かったのです。そのくらいのことがあっても驚きません。そういう子供です」
「ほう、そうなのか。優秀なのだな」
「そうです。この子はともて優秀です。ぜひ貴族の子供としてお迎え下さい。よろしくお願いします」
「ああ、そうするつもりだ。その為に少し口裏を合わせて欲しいことがある」
「なんでしょうか?」
「私が良いと言う者以外にはクリストが誘拐されてきたのは半年前だったと答えてくれ」
「なぜでしょうか?」
「クリストを貴族に戻すためだ。事情があるのだ。一度急ぎ城に戻らねば理由は言えぬ。だがクリストのためには必要な嘘だ。頼む」
「ええ、わかりました。クリストも良いかしら」
「はい。よくわかりませんがここに来たのが半年前、冬にここに来たことにすればよいのですね」
「そうだ。冬で良い」
「それで、私たちはこの後どの様になるのでしょうか?」
「おとうさま、僕はママと別れてしまうのですか」
「う、おとうさま…すまないがそうなる」
最初に何とも言いようの無い顔をした後で謝ってきた。その後で僕の方を向いてしゃべりだした。
「クリスト、君の名前はクレストリアになるはずだ。もちろん今から城に戻り調整ができればだ。そのつもりで行動をしてくれ。そう呼びかけられたらすぐに返事が出来るようにしてくれ」
「ママはどうなるの」
「ウルレアールの事はママとは呼ばない様にしなさい。ウルレアールは他領の人間だ。昨日確認したところ本物のクリストが生きている。ウルレアールの事をママと呼べるのはここにいる間で終りだ」
「そう。そうですか。良かったねママ。本物のクリストと会えるんだって」
 そう言うと、ウルレアールは泣きながら僕を抱きしめた。
 暫くすると落ち着いたのか、体を離して話しかけてきた。
「クリスト。いえ、クレストリアだったわね。どうやらもう夢が覚める時間になったみたいね。あなたはクレストリアとして生きなさい。私は、クリストのところに行くわ。でもあなたと過ごしたこの6年は絶対に忘れないわ」
「あ、二人ともシリアスになっているところすまないが。言葉が足りなかった。恐らくだが2人はここで別々になるわけではない」
「ほえ?」
変な声が出てしまった。シリアスなシーンだったのに、なんだ?
「ウルレアール。残念だがそなたは誘拐されるだけの環境だったようだ。今すぐに領地には戻せぬ。クリストも実家に帰されているようだ。どうやら平穏に過ごすには我が領地の者と婚約してから領地へ戻り、クリストを連れてこの地に嫁に来ることになるだろう」
「ではやはり離婚しているのですね。そうだろうとは思っていました」
「急ぎで調べた結果ゆえ、正確ではない可能性もある。9月の領主会議中にお主の領地の文官と調整して方針を決める。早くとも領地に戻るのは冬の領主会議の時になる。それまではクレストリアの近くで暮らしてくれ。もちろんクリストと呼ぶことはできぬ。それで良ければと言うことになる」
「はい、ぜひ。と言いたいのですが、念ために確認しても良いでしょうか。私クルスヴィスト領の内情にはあまり詳しくなく、フルトヴィスト隊長のお立場はどの様な?」
「ああ、紹介が不足していたな。私は現領主アンゼルム・クルスヴィストの弟で副領主をしている。今回は領主直属の護衛騎士と騎士団から若手を借りて来たのだが、普段は隊長とは呼ばれておらぬ」
「領主一族様でしたか。では私は半年の間は傍仕えとしてクレストリア様に使えることが出来るということでしょうか?」
「そうなる。だろう。おそらくだが。すまぬが確約は出来ぬ」
「はい。事情がおありだということでしたね。では結論がでましたら教えてください」
 おとうさまが領主一族。
 驚いた。だがよく考えると領主って偉いのか?
「おとうさま、領主様や領主一族って偉いんですか?」
「あ、まあな。この辺りの貴族の中では偉いが、領主一族と領主様は上下関係がハッキリしている。我々は領主様の下だ。それとこの領地は小領地だ。領地同士の順位は下から数えた方が早い。さらに領主の上には王族がいる」
「へー。ではお城に行ったら領主様に怒られない様な挨拶をしないといけないのですね」
「まあそうだな。威張り散らして歩いて回るような立場では無いと思っていれば問題ない。だが周りに侮られてはいかん。領主一族としての威厳を保たねばならんからな」
「難しいですね。色々と教えていただかないと怖いです」
「ああ、城に報告に行く前に最低限は教えよう。それとまだ君の体調は万全ではない。それに移動用の馬車も足りない。今近くから移動させているがおそらく君達は2日後に移動になる。それまでは休みつつ、必要なものを持って行ける様にしてくれ」
「え、そうか。ここを出れるんですね」
「そうだ。ここを出る」
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