貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油

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第2章 上級貴族の息子

2.15 領主会議後の呼び出し

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 そして僕は領主会議後に、領主さまから話があると城に呼び出された。おとうさまとおかあさまは理由を知っているようだ。呼び出しの日に一緒に出かけた。
 呼び出されたのは応接室のようなところだった。領主さまに挨拶をして案内された椅子に座った。椅子は思ったよりも硬くてちょっとお尻が痛かった。
「クレストリア、お行儀が悪いですよ。もっと優雅に座りなさい」
「はい。おかあさま」
 正面を向くと領主様からお話があった。
「さて、クリストア。君が作った精麦機から生成した小麦粉がかなり質の高いものだとわかった。中央の商人も取引をしたいそうだ。もちろんレシピと共にであるが。そこで城の文官も入り改良した物を作り機械を増やすことになった。来年には商品として売り出せるようになるだろう」
「それは、小麦粉を売るのですか、それとも精麦機を売るのですか」
「最初は、小麦粉を売る。精麦機は領内で使う分しか作らない」
「そうですか」
「精麦機はそなたには最初の機械を作り出した。ゆえに権利について相談したい」
「アイデアを出して改良してもらいましたが、完成させたのは執事長と平民です。それに僕は聖礼式を済ませましたがまだ成人していません。おとうさまとおかあさまが判断に従います。僕の意見が必要なのでしょうか」
「そうだな。クレストリアはまだ半人前だが聖礼式を済ませたものは貴族としての権利を有する。よって親の意見を優先するが、子の意見も聞かなければならない。それと平民では権利を持てぬ。執事長はお主の手伝いをしただけだと権利は放棄した。よってこの件で利益を得るならばお主が権利を持ち、執事長や平民をお主がねぎらうのが良かろう。だが今回は給金も払っているようなので一般的にはクレストリアだけのものだ」
「そういうものですか。丁寧に説明してくださってありがとうございます。では、精麦機の権利ですが、主張しても領内で作る台数ならばそれほど多く作られるとは思えません。台数で既定の対価を貰うにしても契約書を作る労力を考えるとそれに見合う代金が貰えるとは思えませんので権利を放棄したいと思います」
「そなたらはどうだ」
 おとうさまが代表で答えるようだ。
「領地のためでもありますしクレストリアの言う通りだと思います。ただ領地外に売る時など条件が変わった時に契約を考え直せば良いと思います。その時にはアンゼルム様の指示で改良が進んでいればクレストリアの権利も減っていると思いますので情勢によって判断してください」
「わかった。当面外に売る気はないので権利については領地外に売る時に見直そう。ただ今回の件、全く褒美が無いのはよく無い。なにか欲しいものがあれば言って見るがよい」
「では、この領地で作られるお茶の栽培について、一部の畑の収穫について丸ごと買い取る権利を下さい。茶葉自体はお金を出して買い取ります」
「茶だと、茶の権利などどうするだ」
「収穫後の茶葉が欲しいのではありません。収穫した茶の加工方法を変更したいのです。新しい加工を試したのでその権利をください」
「どの程度の茶葉がほしいのだ」
「そうですね。では、3つある収穫地の内、一番収穫量の少ない土地。そこの半分を売ってください」
「収穫される茶葉の費用を負担するなら問題はなかろう」
「ありがとうございます。ではその様に指示を出してください。茶葉の工程を変更するのに必要となる費用も僕が負担します。あとは契約から収穫まで城の文官を1人お貸しください。契約違反がないかの監視と、茶葉の加工について指示どおりに作られているか、門台があれば僕にすぐに連絡をして欲しいので」
「わかった。文官も1人貸し出そう。それが褒美でよいのだな」
「はい。これでおいしいお茶が飲めそうです」
「ところでお主は、その新しい茶葉の加工も知っているようだな。精麦機のアイデアもそうだが、ダーヴィッドの所でその様な勉強をしたのか。いささかそれでは説明できない気がするのだが」
「捕まっていた時に勉強したこともありますが、精麦機は違います。なぜか頭の中を探すと知識が転がっているのです」
「は?」
「僕自身なぜ知識があるのか理由はわかりません」
「そうか。それでその知識は何でもわかるのか」
「興味のある物しか調べられません。それとこの知識の元はこの世界では無い場所の知識です。その世界とこの世界は科学力の進み方が違いすぎます。そして魔法の無い世界の知識です。調べても結果をそのまま使えません。精麦機もそうでした。その世界では精麦機を人が動かしません。あちらの世界では魔法や人ではない手段を使って動かしています。機械に使われる鉄の硬さも違います。ですから調べた技術はそのままでは使えず、試行錯誤が必要になります」
「そうか、万能では無いのだな」
「そんなに便利だったら、さっさとダーヴィッドのところから抜け出す装置を作り出していたでしょう」
「それもそうか。まあ、なにか作りたい物があれば言ってくれ。特に鉄を使う場合だ。領内での鉄の使用量は領主会議で決められておる。追加で途中輸入はあまりできぬ。なにか試すなら優先的に回してもよい」
「はい。ありがとうございます。とりあえず当面は作りたいものはありません」
「では、本日の用件は終りだ。ほかになければ帰ってよいぞ」
「あの、ウルレアールは無事に領地で過ごしているのでしょうか」
「ああ。契約も無事に終わった。あちらの領地では実家に帰っておる。特に問題はない。秋の領主会議に息子と一緒にこちらに嫁いでくる。まあしばらく待てばよい。」
「はい」
 僕はそう返事をしておかあさまの手を握った。
 こうして無事に謁見が終り僕は茶畑を手に入れた。
 さあ、春になったら一番茶を摘み取りさっそく日本茶を作ろう。
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