貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

第2章 上級貴族の息子

2.27 第2夫人

　家に帰りつくとピアノが届いていた。翌日から僕とアイリンーンのピアノの練習が始まった。僕とアイリーンは縦笛の練習も追加されている。ヒルニムスは歌の練習からだ。
　楽譜に書かれた音符は異世界と同じ物でドレミの呼び方が異なるが音が一緒だ。そして僕もアイリーンも優秀なのだったらしい。先生が驚くほどの上達ぷりだった。
　さらに僕は異世界知識で楽譜を書き出すことができるので、自分のために初心者向けの楽譜を書き出してこっそり楽しんだ。

　秋の1の月になり、例年通り秋の領主会議が行われた。この時期の領主会議は収穫量の目安がわかっているので各領地の輸出入の大枠を調整する会議だ。
　その他にも、特産物を紹介したり新しい魔道具のお披露目をしたりして領主会議が終わる。
　会議が終わると秋の3の月になり子供部屋教室が開催される。

　そして来た子供部屋教室が始まる少し前に、領主夫妻に両親と共に呼び出された。
「妻のエヴェリーナが妊娠した」
　領主のアンゼルム様から突然の告白だった。
「え、だって属性的に出来ないはず。属性の補間をどうやったのですか」
…
大人4人が黙っている。
沈黙。
…
そして領主様が口を開いた。
「属性を補間するために父親を変えた。つまり、父親が私では無いと言う事だ」
「え…　ということは誰が父親？」
「私だ」
「おとうさまが。え。おかあさまとはどうなるの？」
「私もシスティナも了解している。エヴェリーナは降嫁しオルトヴィアーの第2夫人とする」
「もしかして、お二人の仲を裂いたのは、僕が属性の話をしたのが原因ですか」
「いやちがう。もともと私と第3王女クリスティーナと婚姻する話があった。その時にエヴェリーナを私の第2夫人とするか、降嫁するか検討していたのだ。子供がいないエヴェリーナがクリスティーナと付き合っていけるのか心配していた。エヴェリーナとはずっと話し合っていたのだ。エヴェリーナは私の妻となり領主夫人としての仕事を十分に勤めてくれたが子がいなかった。エヴェリーナを責めるような言葉を言う者達がいたのだ。その状態で新しい妻は王女だ。子の無い領主の第2夫人はつらいのだ。エヴェリーナの幸せの為には子供が必要なのだ。確かにきっかけはお主の言葉だ。だがこれは不和ではないぞ。私はエヴェリーナを愛している。だが私では幸せに出来なかった。ただそれだけのことだ」
「エヴェリーナ様は、おとうさまの第2夫人で良いのですか」
「領主の妻としての責務よりも子供を選んだのです。私にはクリスティーナを支える勇気はないの。このまま家で子供と一緒に過ごすつもりよ」
　う、めっちゃ重い会話だ。僕が言い出したことが原因だけど、こんな裏事情まで知りたくなかった。
「エヴェリーナの子供がこのまま産まれると、産まれの季節から私の元にいた時の子供と言われる。それは困るので子供は産まれを半年後に変更する」
「私は、第2夫人として裏に隠れますから、出生時期をずらすぐらいは簡単です。おばあさまの親戚筋を紹介して頂き、静養の地で産みます。おばあさまも子供が出来たと言えば手のひらを返した対応になるでしょう。私は大丈夫ですよ」

　ああ、どうやら強く言っていたのは先代領主の妻であるマリルイーズおばあさまか。やっぱり嫁と姑問題はめんどくさい。

　そして、数日後には領主様から他の貴族達に向けて降嫁の話が公開された。子供が出来ている事は一切言われていない。公には、王女が来るので早めに正室を空け、過去の正妻は潔く表から消える。つまり弟に降嫁させ、そのうえ第2夫人とする。新しく来る王女はおかあさまであるシスティナグラスリンクは親戚関係になるので第1夫人はそのままの方が良い。王女を迎え入れる体制を整え、王家に対して不徳のない状態とするらしい。

　この発表の場にはもちろん成人していない僕参加していない。だから知らなかったのだが、実はアンゼルム様とクリスティーナ様の結婚に合わせて、おとうさまとおかあさまの子供が領主候補として城に入る。そしておかあさまもクリスティーナ様の補佐をするために城に居住を移すことになったと伝えられていたそうだ。
　厳密に言えば、この時点でアイリーンには伝わっていた。それは部屋を整えるために。どうやら僕は直前に言っても問題ないと判断されたらしい。男の子の部屋など特に気にすべき点はないらしい。まあそうだけどね。一言欲しかったよ。

　　そして、エヴェリーナ様は、すぐに家の離宮に引っ越しして来た。一月後におばあさまが用意した田舎の領地にある家の準備ができたらしい。おとうさまとおかあさまが付き添って使役獣で家を確認に行った。僕は連れて行っても邪魔でしかない言って連れて言ってもらえなかった。アイリーンは行ったのに。
　こういう時に手伝いができるのは女性なのだろう。僕はあまり外に出たことがなかったので行きたかった。残念だ。
　おとうさまとおかあさまは、翌日には戻ってきて必用な物を馬車で送り出した。
　妊娠した女性は子供が産まれる直前まで夫と一緒に過ごして子供に両親の魔力を与えるそうだ。なので暫くの間おとうさまは離宮で過ごす時間が増えるらしい。