貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油

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第3章 学園編1

3.9 離宮での会食

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 昼にヒルベルトから、急な用事なら明日の午前中に寮の相談室に来るようにと返事があった。
 今日の午後は体力検査だ。僕らは領地毎に集まって順番に競技をこなす。僕らの前後は上位領地なので、入れ替えの時にも下位領地のクルスヴィスト領との接触はなかった。
 7歳の時点では体力がとても少なかったが、ようやく人並みよりは、良い側になっていた。少し前にクルスヴィスト領で試した時に平均だったが、今日はその時よりも体が動いたので継承の儀式を行ったおかげだろう。
 その日の夕食は離宮に移動しての食事だった。先生をしている傍系の王族と、妃と王女達が集まった。陛下は一緒ではない。 
 今日は、第7王女のカトリーヌメアリー様が来ているので僕がエスコート役で案内を務めた。
 食事の話題で、おばあさまに今日の体力検査で上位側だったことを話した。継承の儀で体力が向上したおかげではないかとも説明を入れて。
 アデリートメアリー様は学園にくる直前に継承の儀式を行ったらしく、その時に視力が良くなったそうだ。実はその前まで目が悪く、近視だったそうだ。最近は遠くが綺麗に見える様になって世界が一変したそうだ。
「クレストリア様が思っていたよりもかっこよくて、ちょっとドキドキする事があります」
と告げられた。
 どうやら、その前に会っていた時は、僕の姿があまり見えていなかったと言う事がわかった。何度かエスコートして近くにいた事があったけど、かなりの近視だったようだ。良く生活できたな。
「そんなに目が悪くて、生活に支障が出なかったのですか」
「普段は眼鏡を使っていました」
「え、眼鏡。この世界にレンズがあるのですか。それはガラスですか、水晶ですか」
「ガラスが使われていますが、魔道具ですよ」
「え? 魔道具?」
「はい」
「へー、魔道具にしなくてもこういった形にガラスを作れば遠くが良く見えるんですが。わざわざ魔力を使って使うのですね」
「ほう、初めて知ったな。魔力を使わなくても見えるのなら、我々も普段使いで楽になる。良いな」
 教師としているおじいさんが珍しそうに聞いてきた。
「原理がわかるか?」
 紙をもらって説明を書いた。光の屈折について説明し、像を結ぶ点の違いで近視と遠視で形を変えるのだと説明した。
「クレストリアはまだ魔法を習っておらんから出来ぬだろう。魔法を使えば、平民がやっているようにガラスを高温にせずとも形を作り上げる事ができる。もちろん土属性の魔法が使えなければならんし、細かい形まですべて魔力で調整するには練習が必要だがな。どれ、ここにガラスの破片があるので、少し形を変えて見せようか」

 おじいさん先生が魔力を込めると、直径が3㎝程度だが虫眼鏡のようなレンズを作り出した、そのレンズを持って文字を見て驚いた声を出した。
「確かに大きくなるな。しかし元のガラスの透明度をあげなければはっきりとみえんな。まあそれは今の魔道具と一緒か。像がゆがんで見えるのがいかんな」
「曲率が整っていないからだと思います」
「像を一つに結ばねばならぬからか。難しいの。設計図を書けば正しいレンズが作れそうだが細かい調整を確実に作り上げる方法が難しいの」
「一部だけの型を作って回すことで均一にする方法もありますけど」
「ふむ、魔力だけで簡単に作れるわけでないのが面白いな。ヴィルヘルム、そなたの卒業研究にしてはどうかな。中央で取り組んでくれぬか、魔力を使うことなく仕事ができるなら、文官をやっている高齢の貴族達が喜ぶはずじゃ。わし等をはじめとして年を取るとどうしても近くが見にくくなるのだ。遠視よりは近視を対象に研究をしてくれんか」
「はい、クルサード様、ちょうど良い課題のように思います。魔道具でなくなるなら平民が作ることができるかもしれません。平民への仕事を与えることもできますし、魔力を温存できるならば貴族にも喜ばれるでしょう。ぜひ挑戦したいと思います」
「うむ、ではクレストリアも見ておくれ」
「はい」
 どうやら、卒業するための研究課題が必要だったようなので、ちょうど良かったらしい。明日はヴィルヘルム王子と打ち合わせすることになった。
 そんな感じで特別に王女達と話をすることはなく食事会が終わった。
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