貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油

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第3章 学園編1

3.14 転生者エイレーネアテナ

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 お茶会から数日後、予定された時間に図書館へ出かけた。エイレーネアテナ様とほとんど同じ時間に到着した。図書館には本を見ながら雑談ができるスペースがあるので、そこへ移動した。そこはオープンなスペースで誰からも見られるが、ブースごとに声が漏れないようになっているそうだ。
 護衛はブースの外で待機しているので話は聞こえない。
 そこで、僕とエイレーネアテナ様は向かい合わせに座り、机の上にレシピを並べた。ますはレシピを確認してお互いに交換した。その後は日本語で話した。
「エイレーネアテナ様は転生者で、前世の記憶もあるのですか」
「ええ、あります。クレストリア様もでしょ」
「いえ、僕は転生者だと思います。ですが前世の記憶はありません。生まれたときから少し大人としての意識があり、この世界とは違う常識を知っていたぐらいです」
「そうですか。でも生まれた時からですか。それは少し大変だったでしょ」
「まあ、小さい時は大変でした。エイレーネアテナ様はどうだったのですか」
「私の事はレーネと呼んでください。長い名前は言いにくいでしょ。特に転生者なら。私が記憶を思い出したのは5歳の時です」
「では、レーネで。そうか5歳か。急に思い出したなら大変だったでしょ」
「ええ、今の私は領主候補生となっていますが、当時は平民の生活をしていましたから。目覚めた時は、くさい、汚いと言う状況に合わせて生きなければならずとても大変でした」
「平民の生活を。またどうして。いえ、踏み込んだ話ですね。すいません。ですが僕も小さいころは似たような生活をしていました」
「あら、クレストリア様もですか」
「ええ、僕は1歳時に盗賊に誘拐され、それからは魔力電池として盗賊の館で生活してました。平民と一緒に」
「まあ、苦労されたんですね」
「あはは。あまり思い出したくない思い出もありますが、それでも楽しい日もありましたから、こうして思い出として言えるようにもなりました」
「そうですか。私は上級貴族のお父様が第1夫人と私の母の第3夫人が争っていたそうです。母は私を生んですぐになくなり、争いを恐れた父が平民の家に隠したそうです。その後、父が地方の土地管理者として移動したので私の事は隠されたまま。秘密にしたせいで頼める人もいなくて支援も届かなくなったそうです。でも平民の父と母は支援が無くても私を育ててくれました。それにはとても感謝しています。そして平民として聖礼式を受けた時に上級貴族以上の魔力を持っていることがわかり、父に引き取られることになったのです。その後は気が付いたら領主候補になってました」
「へー、それは異世界小説で聞いたことがあるようなのような話ですね」
「はは、そうですね。お互いに。」
「そういえば、レーネは神聖魔法が得意なのですよね。やっぱり神に愛されし者と言う称号があるぐらいですから、神様とも話をしたのですか」
「なんですかその称号と言うのは?」
「僕は、鑑定でステータスを見ることができるんです。レーネの称号は”神に愛されし者”と”異世界転生者”、僕の称号は”神から忘れられし異世界転生者”です」
「へー、そんな称号があるのですか。こちらの世界に転生するときに白い部屋に行ったとか、神様に会ったとかそういのは無いですよ。でも神聖魔法を使った時に神様の気配を感じることはあります」
「ほー、そんな事が」
「ええ、貴方も日本語が読めるなら知っていると思いますけど、すべての神の像に魔力を奉納するとすべての属性の力が強まると石板に書かれていたでしょ。それに属性魔法の言葉は日本語です。一番最初の王はおそらく日本からの転生者だったのでしょう。最初に呪文を作り出したのでそれで登録されたみたいです。私もオリジナルの魔法を作り出すことが出来ましたが、一つはこちらの言葉で、もう一つは日本語ですよ」
「オリジナル魔法。そんなことができるのですか」
「まあ、貴方も私と同じような道を経験すると思いますから少しだけ助力しましょう。すべての神の像に魔力を注いだ後は、学園にある神の社を回るのです。図書館に領主候補と王族しか入れない部屋がありそこに地図がありますから読んで場所を確認してください。それが終わると使役獣を取りに行く最奥の間の隣にある祈りの場で祈ります。それでこの国の王になるための神具を得るのです」
「神具ですか」
「ええ、残念だけど私には王族の印がなかったので最後の神具をもらえませんでした。あなたが貰ったら読ませてくださいね」
「読ませてと言うことは、神具は本ですか。魔法とかが書いてあるのかな」
「はい、神の書と呼ばれる神具です。書物ならば読みたいと思うのは当然でしょ」
「え、そうですか。魔法を知りたいと言うのはわかりますけど。何が書かれているのですか」
「きっと、神様の恋愛話ですよ。聖書に載っていないお話を調べたいのです」
「え、恋愛話ですか。それなら僕は興味がないので、手に入れたらお貸しします」
「約束ですよ」
 うーん、この子ちょっと変だ。王族の印が無いと取れない神具と呼ばれる神の書が恋愛話のはずがないと思う。でも今日は良い情報が聞き出せた。
「この話は同級の王女は知らなかったから、王族にも忘れられていると思うわ。むやみに話さない方が良いと助言します。話して良いのは図書館にある領主候補と王族しか入れない部屋の事です。すでに図書館の司書はこの辺だろうとわかっているはずです。貴方達王族はすぐに中に入り書物を調べてください」
「良い情報ありがとうございます。感謝します」
「ええ、それじゃあ、今日の話はこのぐらいにしましょう。それで、このレシピはこのまま交換で良いかしら」
「はい、どうぞ。僕は異世界の知識を探索できます。ですから他に欲しいレシピや、知識があれば言ってもらえば調べられます」
「え、そうなの。ではお味噌が欲しいの。醤油はなんとかなったのだけど、味噌はむりだったわ。作り方をまったく覚えていなかったから」
「あっちの世界での作り方で良ければ、調べておきます。ですがこちらの世界に同じ機械がないのでそのまま作れない可能性は高いですよ」
「それは今までの試行錯誤でわかっているわ。とりあえず標準の作り方で良いわ。私の専属に作らせてみるから。はー、今日は有意義だったわ」
「そう言ってもらえると。では味噌の作り方は後で手紙で送ります」
 初めての異世界転生者との会談は、あまり時間が無かったのでさらりと終わった。だが、かなり内容の濃い話ができた。
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