貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油

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第3章 学園編1

3.16 使役獣2

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 翌日の昼ご飯を食べた後に、アデリート様を含めて1年生皆で使役獣を出す練習をすることになり多目的室に移動した。
 アデリート様は全体的な雰囲気は鳥だが4本足のヒップグリフだった。
 他の人の使役獣はライオンや馬などの1角獣が多かった。最後に僕だ。ノールと呼ぶと現れた。現れるとすぐに僕の後ろに隠れ、言われてもいないのに翼に変わった。
「クレストリア様が天使のようです」
「妖精は、そのままでは飛べないから直接翼に変化するそうです」
「ちらっと見えたあれが妖精ですね。妖精を使役獣にする者は中級貴族に多いと聞きましたけど、それらの妖精が翼に変わると聞いたことがありません。姿も普通の妖精よりもずいぶんと大きいです。妖精の体長は2~30㎝ぐらい。人形のような大きさだと聞きました。クレストリア様の使役獣は1mほどありましたよね。特別な妖精なのですね」
「そうかもね。竜との2択で出てきてた妖精だからね」
「竜! それはまた。歴代の王の中で初代様含めて数名だけが選べた使役獣ですね。その選択肢で妖精を選ばれたのですね」
「まあね。僕自身が戦うことは無いから竜はちょっとね。それにこの部屋に召喚できないぐらい大きかったし。ところで、みんなも使役獣に名前があるのかな。そしてそれは言ってはダメなのか」
「大丈夫です。使役獣を召喚するときに名前を呼ばないと出ない使役獣も居ますから、名前を伝えるのは大丈夫です」
「私の使役獣はピエタースです。クレストリア様の妖精は?」
「僕の方はノールだよ」
「まあ、ノールちゃんですか、かわいらしい妖精ですよね。今度また見せてくださいね」
「ああ。もう少し慣れたらね」

 皆がそろってから、傍使えを集めてノールを呼び出した。
「みんなに紹介するよ。ノールだ」
「まあまあ、ともてお美しい使役獣ですね。獣と付くのがおかしいと声高らかに言えるほど美しいですわ」
 ミーシャがべた褒めしてくれた。ノールは恥ずかしいのか、僕の後ろに少し隠れる。
 文官長のローヴィッドが珍しく話を始める。
「やはりこのノール様は特別ですね。ふつうの使役獣は勝手に動くことはありません。ですがノール様はクレストリア様の指示もないのにもじもじと動いています。クレストリア様がノール様の力をうまく使えるように情報を集めた方がよさそうですね。明日にでも図書館で妖精の使役獣に関する資料を調べましょう」
 いつもローヴィッドは、勉強に必要な参考書などを先に集めて僕に渡してくれる。あまり自分から積極的に話すことはない。寡黙な人だ。今もヴィルヘルム王子の研究課題であるメガネのレンズ作りに協力している時間の方が長い。
「では、ユリウスとマルクスは学園の図書館を調べてくれ。私とローヴィッドが王城の図書館に行ってくる。ついでにエイレーネアテナ様が言っていたと言う件も調べてくる」
 マルティエスは、領地にいたころから僕の集めた植物や動物の図鑑つくりが続いている。みなも手が空くと、他領の植物を付け足してくれている。マルティエスだけは現状の続きを継続してもらう。

 それから1週間。勉強をしたり魔法の練習をしなければいけなかったので僕が直接調べる時間はあまり取れなかった。文官は継続して調べてくれたので、だがろくな情報が集まらなかったので、ノールの能力を調査することになった。
 どうやら、ノールは僕から離れて行動ができる。そして望めば視覚情報や聴覚情報を僕と共有できる。そして透明になれるが、残念ながら他の使役獣同様、こちらの世界にいる時は実態があるので扉が閉まっている部屋には侵入できない。小さすぎる窓も入れない。
 距離は最大でも僕を中心に1㎞程度しか離れる事が出来ない。それ以上離れると実態を維持できないようだ。
 それと、呼び出していない時でも魔力操作も上手くなった。まだ習った魔法に攻撃や防御などの派手な魔法がないので、わずかな差にしか感じられないが、ノールのおかげは間違いない。
「明日は飛ぶ練習をするからよろしくね」
『うん、わかったわ。じゃあ戻るね』
 ノールがそういうと空中からぱっと消えた。そう、ノールは他の使役獣と違う。こんな風にノールとは簡単な会話もできるのだ。どうやら集めた資料との一致を見ると妖精型の魔獣はおしゃべりができるらしい。

 今日は使役獣の実技練習だ。上級以上の同級生が集まっている。
 アデリート様が最初に使役獣を呼び出す。
「ピエタース」
 そう声をかけると人間と比べると明らかに一回り大きいヒップグリフが呼び出された。
 アデリート様は、珍しくズボン姿だ。馬に乗る時のようなスタイルで皮の長靴を履いている。
「では、こちらのグループの人も使役獣を呼び出してください」
 そういわれて、僕を含む数名が使役獣を呼び出す。
 僕はノールを呼びだす。今日は妖精の姿ではなく、最初から僕の翼に変身している。
 他に呼び出した人たちは全員が領主候補なので、みんなかっこよい使役獣を呼び出している。
「クレストリア様の使役獣は直接翼になっているのですね。皆様、教員と組みになって飛んでください。もし落下する場合は、教員が助けに行きます」

 アデリート様がピエタースにまたがって声をかける。
「飛んで」
 アデリート様が声をかけると、すっと飛び上がった。
 僕もそれを見ながら、追従するように浮かび上がる。特に声を出さなくても動きたい方を思っただけで移動できる。僕はアデリート様の少し下の後方からついて行った。思ったよりも自由自在に飛べる。だが少しスピードを出すとふらふらとする。風の影響を大きく受ける。
 実は、皆は使役獣も風の影響を受けているが使役獣が自動的に調整しているようだ。だがノールは僕自身が調整をしないといけないようだ。飛ぶことについては魔力の負担ではなく精神的な負担が多そうだ。やはり遠出に不向きなのだろう。
 練習が終わり、翼を解除するとノールが妖精に姿に戻る。すると先生たちが興味があったのか近くに来てノールを見る。ノールは恥ずかしいらしく、僕の後ろに隠れてしまった。
「先生方、クレストリアの使役獣は見世物ではありませんよ。研究熱心なのは良いのですが、許可もなく使役獣を触ってはなりませんよ」
 手を出そうとしていた先生におばあちゃん先生のエリザベータ様が一言言ってくれた。
 ノールは、エリザベータを見方を判断したのか、僕からスッと離れてエリザベータおばあさまの前に移動して僕の方を見た。
「ノール、この方は僕の本当のおばあさま、エリザベータシルクレア様だよ」
「まあまあ、クレストリアの使役獣さんはノールと言うのね。とてもかわいらしい妖精さんね。長く教員をしていても、妖精を使役獣にした者はそれほどいなくて。私が見るのは二人目ね。妖精タイプの使役獣はお話ができるはずだけど、あなたもお話ができるのかしら」
「少しだけ話せる。人間の言葉、難しい。わたしノール」
「ノールちゃんね。あなたは妖精にしてはとても大きいと思うのだけど、普通の妖精とはちがうのかしら」
「私は、幾万年の時を経た妖精王。クレストリアを真なる王に導くもの」
 少し小さな声だったので、おばあさままでしか聞こえていないだろう声で伝えた。竜王が言っていた真なる王の事を話した。
「まあ、それはすごいわね。それはクレストリアの親族以外には秘密にしてね。今の世の中はあまり平穏ではないのよ」
「うん、わかった」
「さあ、ノール。元に戻ろうか」
 そう言うとノールは自分から消えた。
「さて、クレストリアとは少しお話をしないといけないようね。わたくしから誘いを出します」
「はい」
 その後、僕たちは解放され、上級貴族たちの練習となった。

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