娼館で死んだΩ、竜帝に溺愛される未来に書き換えます

めがねあざらし

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7、静かなる反撃〜リディア4〜

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エドモンドの手が、ピクリと動いた。
エリオットの 「手違い……——意図的なもの、ではないですよね?」 という言葉が、確実に響いたのだ。
エリオットは微笑みながら、エドモンドの様子をじっくりと観察した。
エドモンドはしばらく沈黙した後、小さく息を吐く。
そして、机の上にそっと薬瓶を置いた。

「……確かに、これは処方ミスの可能性がある」
「可能性、ですか?」

エリオットはあえて軽く笑った。

「先生は 『患者を診ていない』 のに、その薬が処方された理由を説明できますか?」
「……それは……」

エドモンドの目が一瞬揺れる。
彼は手を組み、長い沈黙の末、小さな声で呟いた。

「……私には、どうしようもなかったのです」

(きた……)

エリオットは表情を崩さぬまま、ゆっくりと身を乗り出した。

「どういう意味でしょう?」

エドモンドは苦しげに目を伏せ、静かに語り始めた。

「……数年前、私は ある貴族の子息の診療を担当しました。その患者は 高熱と腹痛を訴えていました。私は……食中毒だと診断し、適切な治療を施したつもりだった。だが——」

エドモンドは、ギリッと奥歯を噛みしめる。

「実際には、それは 腸の感染症 だったのです……適切な処置をしなかったせいで、患者の容態は急激に悪化しました」

エリオットの眉がわずかに動く。

「その患者は……?」
「……幸い、一命は取り留めました。しかし……後遺症が残ったのです」

エドモンドの声は、わずかに震えていた。

「私は、彼の家族に謝罪し、可能な限りの治療を尽くしました。しかし……医師としての信用は大きく揺らいだ。もしこの件が公になれば、公爵家の専属医師どころか……私は 医師としての資格すら失っていたかもしれない」

エリオットは静かに頷いた。

「そして、ヴェロニクがその事実を……?」

エドモンドは、目を閉じて頷く。

「ヴェロニク殿は……その件を知っていたのです。そして、私にこう言いました『先生、この件が明るみに出たらどうなると思います? でも、ご安心を。私が守ってあげますよ』 と」
「……」
「『ただし——私の言うことを聞いてくださるなら、ですが』……と」

エリオットは 心の中で唾棄した。

(やはり……知れば知るほど、だな……)

ヴェロニクは 「エドモンドの診療ミス」という弱みを握り、完全に支配下に置いていたのだ。
エドモンドは拳を握りしめ、苦しげに言葉を続ける。

「それから、私は……ヴェロニク殿の指示に従うようになった。『この患者にはこの薬を処方しろ』『診察の必要はない』と。何度か反論しようとしたが……」

「そのたびに『先生は、また医療ミスをしたいのですか?』」そう言われ……私は、もう逆らえなくなっていたのです」

エドモンドの肩が、わずかに震えた。

「私は、医師として正しいことをしたかった……だが、私は すでに取り返しのつかないミスを犯していた。ヴェロニク殿の後ろ盾なしには、私は……私は……」

(……十分だな)

エリオットは、静かに椅子に背を預けた。

「先生」

エドモンドが顔を上げる。
エリオットは、穏やかに微笑んだ。

「ヴェロニク殿は、本当にずっと先生を守るつもりでしょうか?」
「……」
「今はいいでしょう。でも、彼が 先生を『切り捨てる』と決めたら?」

エドモンドの顔に、ハッとした色が浮かぶ。

「ヴェロニク殿が『先生が邪魔になった』と判断したら、次はどうなります?」
「先生がすべての罪をかぶせられる側になりますよ」

エドモンドは 青ざめた。

「そ、それは……」
「先生の診療ミスを盾に取り、これまで散々利用してきたんです。次はそのミスを公爵閣下に伝え、『この医師は危険です』とでも言うのでは?」
「……!」
「公爵閣下が 『専属医師を交代すべきだ』と考えたら、ヴェロニク殿は 『彼をクビにすべきです』 と進言するでしょう」
「そして、先生が公爵家から追い出された瞬間——」

エリオットは、ゆっくりと首を傾げた。

「彼は、先生の秘密を公にするでしょうね」

エドモンドは、息を呑んだ。

「……そんな……」
「ヴェロニク殿は、先生を『支配するための駒』としてしか見ていません。一度利用価値がなくなれば、即座に捨てられる でしょう」

エドモンドは、何かに怯えるように震えていた。心当たりがあるのだろう。
エリオットは、ふっと微笑む。

「……でも、今なら……まだ間に合います」

エドモンドが 驚いたように顔を上げた。
エリオットは 静かに手を差し出す。

「僕に従えば、先生の立場は守れるでしょう。先生が『正しい道』を選ぶのであれば、僕は あなたを切り捨てたりしません。選ぶのは、あなたですよ。 ヴェロニクに『使い捨ての駒』にされるか、それとも……?」

エドモンドは、蒼白な顔でその手を見つめた。
彼は この場で答えを出すことはできなかった。
だが、その表情は 「揺れている」。

(……時間の問題、かな)

エリオットは 確信を得ながら、静かに微笑んだ。
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