娼館で死んだΩ、竜帝に溺愛される未来に書き換えます

めがねあざらし

文字の大きさ
10 / 89

9、静かなる反撃~オリヴィエ1~

しおりを挟む
エリオットは、エドモンドの反応を じっくりと観察した。

—— 彼は、迷っている。

そこには過去のことを明るみにされるかもしれないという恐れもあるだろう。
それでも 自分が「このままではいけない」と分かっている。
エリオットは、それを見逃さなかった。

「……さて」

エリオットはゆっくりと椅子から立ち上がり、窓の外を見る。

(エドモンドは、まだ完全にはこちらにつかないだろう)

長年ヴェロニクの支配下にあったのだ。
そう簡単に、意志をひっくり返せるものではない。

(だから……試してみようか)

エリオットは再び、エドモンドに向き直った。

「先生、ひとつお願いがあります」

エドモンドが はっと 顔を上げた。

「……お願い、とは?」

エリオットは静かに微笑んだ。

「次回、公爵閣下の診察の際…… 『閣下、奥様の体調についても一度きちんと診察をさせて頂きたい』 と進言してください」

エドモンドは 困惑したような顔をする。

「……それは……どういう……?」
「僕は『昔から体が弱い』ことになっていますよね? まあ、実際にそう強くもないですけど。それなら、公爵閣下に 『奥様の健康管理も考えるべきだ』 と提案するのは、不自然ではないでしょう?」

エドモンドの手がわずかに震えた。

「それは……確かに、医師としては自然な提案ではありますが……」
「ですよね?先生は“ヴェロニクの医者”ではなく、公爵家の専属医師でしょう?」

エリオットは 軽く笑った。

「ならば、閣下の妻である僕の体調管理について提言するのは 当然の職務のはずです」

エドモンドは 息をのんだ。

(これでエドモンドの“立場”を測れる)

もし本当にヴェロニクの支配下にあるのなら、こんな些細なことも言えないはず。
しかし、エリオットに少しでも傾いているのなら 「医師として当然の提言」を口にすることくらいはできる。

(それにどうせエドモンドとあっていることはヴェロニクに伝わる。きっとあることないこと考えるはずだ)

ここにいた数年間で、いやというほどヴェロニクの性格は知っている。
ただ昔は悲観が邪魔をして見えない事も多かった。しかし今のエリオットは違う。

「先生、お忘れなく。僕は先生を“使う”のではなく救いたいんです」

詭弁ではあるが嘘ではない。どうせ恐怖で支配したところで、救いの手が現れればそちらに傾くのが人間の定石だ。ならば自分はヴェロニクとはまるで反対の“支配”をする。

「……わかりました」

エドモンドは 小さく頷いた。
それを見届け、エリオットは 次のターゲットを思い浮かべた。



エドモンドは下がり、部屋には一人になった。
静寂の中で椅子の背に身体を預ける。
エリオットは 静かに息を吐く。

「さて……」

(次は、オリヴィエだな)
オリヴィエ・ロッシュ──オルディス公爵家の メイド長 である。
男爵家の出身である彼女は 四十代半ばのベテラン で、使用人たちを統率する立場にあった。
そして—— 「ヴェロニクの影響を受けている者の一人」 でもあった。
彼は メイド長をどう味方につけるか、考えを巡らせた。
メイド長は以前も完全な敵ではなかった。
恐らくは庶民上がりであるヴェロニクに使われるのは屈辱であっただろう。
それに比べるとエリオットは侯爵家から嫁いできた身であり、主人として扱うのに矜持を傷つけられることはない。
けれど、ヴェロニクに従わなければならなかった。

(……弱みを握られている可能性が高い)

リディアのように「家族の問題」か、エドモンドのように「過去の失敗」か。
あるいは—— 「金」かもしれない。

(まずは、オリヴィエの動きを見極めよう)

今回の相手はリディアやエドモンドより手を入れて懐柔する必要性がある。
メイド長を取り込むことができれば、公爵家の 使用人たちの動き に影響を与えられる。
つまり、ヴェロニクの「細かい支配力」を崩せるのだ。

(静かに、確実に……反撃の準備を進めよう)
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【第一部・完結】毒を飲んだマリス~冷徹なふりして溺愛したい皇帝陛下と毒親育ちの転生人質王子が恋をした~

蛮野晩
BL
マリスは前世で毒親育ちなうえに不遇の最期を迎えた。 転生したらヘデルマリア王国の第一王子だったが、祖国は帝国に侵略されてしまう。 戦火のなかで帝国の皇帝陛下ヴェルハルトに出会う。 マリスは人質として帝国に赴いたが、そこで皇帝の弟(エヴァン・八歳)の世話役をすることになった。 皇帝ヴェルハルトは噂どおりの冷徹な男でマリスは人質として不遇な扱いを受けたが、――――じつは皇帝ヴェルハルトは戦火で出会ったマリスにすでにひと目惚れしていた! しかもマリスが帝国に来てくれて内心大喜びだった! ほんとうは溺愛したいが、溺愛しすぎはかっこよくない……。苦悩する皇帝ヴェルハルト。 皇帝陛下のラブコメと人質王子のシリアスがぶつかりあう。ラブコメvsシリアスのハッピーエンドです。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

釣った魚、逃した魚

円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。 王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。 王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。 護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。 騎士×神子  攻目線 一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。 どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。 ムーンライト様でもアップしています。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

陰日向から愛を馳せるだけで

麻田
BL
 あなたに、愛されたい人生だった…――  政略結婚で旦那様になったのは、幼い頃、王都で一目惚れした美しい銀髪の青年・ローレンだった。  結婚式の日、はじめて知った事実に心躍らせたが、ローレンは望んだ結婚ではなかった。  ローレンには、愛する幼馴染のアルファがいた。  自分は、ローレンの子孫を残すためにたまたま選ばれただけのオメガに過ぎない。 「好きになってもらいたい。」  …そんな願いは、僕の夢でしかなくて、現実には成り得ない。  それでも、一抹の期待が拭えない、哀れなセリ。  いつ、ローレンに捨てられてもいいように、準備はしてある。  結婚後、二年経っても子を成さない夫婦に、新しいオメガが宛がわれることが決まったその日から、ローレンとセリの間に変化が起こり始める…  ―――例え叶わなくても、ずっと傍にいたかった…  陰日向から愛を馳せるだけで、よかった。  よかったはずなのに…  呼ぶことを許されない愛しい人の名前を心の中で何度も囁いて、今夜も僕は一人で眠る。 ◇◇◇  片思いのすれ違い夫婦の話。ふんわり貴族設定。  二人が幸せに愛を伝えあえる日が来る日を願って…。 セリ  (18) 南方育ち・黒髪・はしばみの瞳・オメガ・伯爵 ローレン(24) 北方育ち・銀髪・碧眼・アルファ・侯爵 ◇◇◇  50話で完結となります。  お付き合いありがとうございました!  ♡やエール、ご感想のおかげで最後まではしりきれました。  おまけエピソードをちょっぴり書いてますので、もう少しのんびりお付き合いいただけたら、嬉しいです◎  また次回作のオメガバースでお会いできる日を願っております…!

処理中です...