娼館で死んだΩ、竜帝に溺愛される未来に書き換えます

めがねあざらし

文字の大きさ
37 / 89

35、熱に浮かされる夜

しおりを挟む
「……ああ、これは……」

シグルドの低い声が、夜の静寂に溶け込むように響いた。
エリオットは、その場に立っているのがやっとだった。

(なぜ……今になって……!)

抑制剤は毎回きちんと服用していた。
発情の兆候すら、今まで感じたことがなかったというのに——
しかし、今。
シグルドの手が触れた瞬間、何かが弾けるように身体が熱を帯びた。

「……っ」

脚に力が入らない。
全身が痺れるように熱い。
エリオットは息を荒げながら、必死に理性を保とうとした。

「……夫人」

シグルドの手が、そっとエリオットの頬に添えられる。
その手のひらは、アドリアンの時とは違った。
恐怖を感じることもなく、ただ、熱を逃がすような感触だけがあった。

(——違う)

この感覚は、初めてだ。
けれど、シグルドの手の温かさは、どうしようもなく安心感を与えた。

(……ああ、でも……)

それすらも、今の自分には毒だった。
そして自分のフェロモンは恐らく最高位のアルファであろう目の前の男にも毒だろう。

「……っ」

ガクリと足元が揺らぐ。

「——!」

シグルドが素早く腕を回し、エリオットを抱き留めた。

「……っ、あ、つい……」
「……夫人、ここは、まずい……とにかく、中へ行こう」

そう言うと、シグルドはエリオットをそっと抱え上げた。

エリオットの体温が、じんわりとシグルドの腕に伝わる。

「っ……陛下……」
「大人しくしていてくれ、今は……耐えられる自信がない」

シグルドの声は、ひどく掠れていた。
そのままエリオットを抱え、人目につかないように自分の部屋へ向かう。
王宮には、貴族たちのための休憩室がいくつもある。
その一つに入り、扉を閉める。

「……!」

エリオットの熱が、ますます強くなっていた。

「くそ……」

シグルドは彼をソファにそっと横たえると、乱れた呼吸のまま、エリオットの前髪をかき上げた。

「夫人、抑制剤は?」
「……持って、いません……」

(……僕が馬鹿だった……どうしてちゃんと……)

意識が混濁するなか、エリオットは必死に理性を繋ぎ止めていた。

「……夫人」

シグルドの指が、そっと首元をなぞる。
チョーカーの下にある肌が、それだけでも震えた。

「……噛まれていないのか?」

その瞬間、エリオットの身体が強張る。

(……)

何も言えない。
ただ、目を逸らすことしかできなかった。
シグルドの瞳が 揺れる。
その感情が何を示しているのか——エリオットには分からなかった。

「……そうか」

シグルドは 納得したように息を吐いた。

「……御夫君とは、番じゃないのだな……」

(……っ)

その言葉が、突き刺さる。
まるで、心の奥深くにある 一番触れられたくない場所を、指でなぞられたような感覚だった。
喉が渇く。
何かを言わなければ、と思った。
だが、声が出なかった。
アドリアンに噛まれていれば、シグルドを誘うようなフェロモンは出ない筈だ。
けれど、今の自分ではそれを隠しようもない。

「…………」

エリオットは、何も言えず ただ黙って目を伏せる ことしかできなかった。
シグルドの沈黙が、苦しいほどに重く感じた。
そして——

「……あなたは、誰の番でもないのだな……」

それだけを呟いた。
その言葉に、エリオットの胸がかすかに軋んだ。



//////////////////////////////
遅刻すみません!
次の更新→2/21 PM10:30頃
⭐︎感想いただけると嬉しいです⭐︎
///////////////////////////////
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【第一部・完結】毒を飲んだマリス~冷徹なふりして溺愛したい皇帝陛下と毒親育ちの転生人質王子が恋をした~

蛮野晩
BL
マリスは前世で毒親育ちなうえに不遇の最期を迎えた。 転生したらヘデルマリア王国の第一王子だったが、祖国は帝国に侵略されてしまう。 戦火のなかで帝国の皇帝陛下ヴェルハルトに出会う。 マリスは人質として帝国に赴いたが、そこで皇帝の弟(エヴァン・八歳)の世話役をすることになった。 皇帝ヴェルハルトは噂どおりの冷徹な男でマリスは人質として不遇な扱いを受けたが、――――じつは皇帝ヴェルハルトは戦火で出会ったマリスにすでにひと目惚れしていた! しかもマリスが帝国に来てくれて内心大喜びだった! ほんとうは溺愛したいが、溺愛しすぎはかっこよくない……。苦悩する皇帝ヴェルハルト。 皇帝陛下のラブコメと人質王子のシリアスがぶつかりあう。ラブコメvsシリアスのハッピーエンドです。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

釣った魚、逃した魚

円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。 王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。 王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。 護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。 騎士×神子  攻目線 一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。 どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。 ムーンライト様でもアップしています。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

陰日向から愛を馳せるだけで

麻田
BL
 あなたに、愛されたい人生だった…――  政略結婚で旦那様になったのは、幼い頃、王都で一目惚れした美しい銀髪の青年・ローレンだった。  結婚式の日、はじめて知った事実に心躍らせたが、ローレンは望んだ結婚ではなかった。  ローレンには、愛する幼馴染のアルファがいた。  自分は、ローレンの子孫を残すためにたまたま選ばれただけのオメガに過ぎない。 「好きになってもらいたい。」  …そんな願いは、僕の夢でしかなくて、現実には成り得ない。  それでも、一抹の期待が拭えない、哀れなセリ。  いつ、ローレンに捨てられてもいいように、準備はしてある。  結婚後、二年経っても子を成さない夫婦に、新しいオメガが宛がわれることが決まったその日から、ローレンとセリの間に変化が起こり始める…  ―――例え叶わなくても、ずっと傍にいたかった…  陰日向から愛を馳せるだけで、よかった。  よかったはずなのに…  呼ぶことを許されない愛しい人の名前を心の中で何度も囁いて、今夜も僕は一人で眠る。 ◇◇◇  片思いのすれ違い夫婦の話。ふんわり貴族設定。  二人が幸せに愛を伝えあえる日が来る日を願って…。 セリ  (18) 南方育ち・黒髪・はしばみの瞳・オメガ・伯爵 ローレン(24) 北方育ち・銀髪・碧眼・アルファ・侯爵 ◇◇◇  50話で完結となります。  お付き合いありがとうございました!  ♡やエール、ご感想のおかげで最後まではしりきれました。  おまけエピソードをちょっぴり書いてますので、もう少しのんびりお付き合いいただけたら、嬉しいです◎  また次回作のオメガバースでお会いできる日を願っております…!

処理中です...