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38、噛み合わぬ想い
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執務室へ向かう途中、アドリアンの歩調が妙に速い。
その背中から、抑え込んだ苛立ちが伝わってくるようだった。
やがて執務室へ着くと、アドリアンは扉を閉めるなり、鋭く問うた。
「——どこにいた?」
「……?」
「舞踏会の最中、君が消えた時間のことだ」
エリオットは表情を変えず、静かに答えた。
「……体調が優れず、別室で休んでいました」
「それは、本当か?」
アドリアンの金色の瞳が揺れる。
「貴族たちが、君とシグルド陛下のことを噂していた」
エリオットは、ゆっくりと息を吸う。
(……やはり、それか)
「旦那様、それが公爵家にとって何か損になることでしょうか?」
「……っ」
アドリアンの眉が、わずかに寄る。
「君は……本当に、何とも思っていないのか?」
「何を、でしょう?」
「君と、シグルド陛下のことだ」
「公爵夫人として、外交の一環です」
エリオットは冷静に言い切った。
「少なくとも、公爵家に害をもたらすようなことはしていません」
その瞬間——
「……!」
アドリアンの指先が微かに震える。
アドリアン自身、自分が何に苛立っているのか分からなかった。
「……君は、公爵夫人だ」
「ええ。だからこそ、公爵家に利益となるよう振る舞っています」
その余裕すら感じられる態度に、アドリアンの焦燥感はさらに募る。
「…………」
暫くの間、部屋の中に沈黙が流れた。
何も言わなくなったアドリアンに対して、エリオットは小さく息を吐く。
(……自分はヴェロニクという存在がいるくせに、僕には貞節を求めているのか?くだらない)
「——もう、休ませていただいても?失礼いたします」
エリオットは静かに一礼し、背を向けた。
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次の更新→2/22 PM10:30頃
⭐︎感想いただけると嬉しいです⭐︎
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その背中から、抑え込んだ苛立ちが伝わってくるようだった。
やがて執務室へ着くと、アドリアンは扉を閉めるなり、鋭く問うた。
「——どこにいた?」
「……?」
「舞踏会の最中、君が消えた時間のことだ」
エリオットは表情を変えず、静かに答えた。
「……体調が優れず、別室で休んでいました」
「それは、本当か?」
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(……やはり、それか)
「旦那様、それが公爵家にとって何か損になることでしょうか?」
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「何を、でしょう?」
「君と、シグルド陛下のことだ」
「公爵夫人として、外交の一環です」
エリオットは冷静に言い切った。
「少なくとも、公爵家に害をもたらすようなことはしていません」
その瞬間——
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「……君は、公爵夫人だ」
「ええ。だからこそ、公爵家に利益となるよう振る舞っています」
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「…………」
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(……自分はヴェロニクという存在がいるくせに、僕には貞節を求めているのか?くだらない)
「——もう、休ませていただいても?失礼いたします」
エリオットは静かに一礼し、背を向けた。
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