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49、アドリアンの寝室で
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アドリアンの視線が鋭くエリオットに向けられていた。
(……放っておけばいいものを)
レオンの去った玄関には、まだ侍女や使用人たちが控えている。
エリオットは、周囲に聞かれたくないと判断し、静かに口を開いた。
「ここでは何ですので、場所を移しましょう」
「……」
アドリアンはしばらくエリオットを見つめていたが、やがて無言で踵を返した。
エリオットはその後ろを静かに追う。
静かに廊下を進むアドリアンの後ろ姿を、エリオットは複雑な気持ちで見つめていた。
(どうして……寝室に……?)
彼が指定した場所は、普段エリオットが立ち入ることのない、アドリアンの私的な空間だった。
豪奢な扉が静かに開き、アドリアンが無言でエリオットを室内へ促す。 躊躇ったものの、逆らえる状況ではなかった。
(……また、問い詰められるのだろうな)
胸の奥がざわつく。
けれど、エリオットは冷静な表情を崩さないまま、部屋へと入った。
——バタン。
扉が閉まる音が、不自然に大きく響いた。 エリオットは微かに息を吐きながら、アドリアンへと視線を向ける。
アドリアンはゆっくりとエリオットに近づいた。
その瞳は鋭く、苛立ちを孕んでいる。
「……説明しろ」
アドリアンが短く命じた。
「何をでしょう?」
エリオットは静かに問い返す。
「皇帝の使いが、お前の耳の傷を気遣う言葉を伝えてきた」
アドリアンは振り返り、エリオットに鋭い視線を向ける。
「それだけではない。『必ず、私が守る』……?」
エリオットの心臓が跳ねた。
あの場では、シグルドの言葉を聞いて動揺したのを隠すのに必死だった。
それをアドリアンに悟られるわけにはいかない。
(どう答える……?)
アドリアンはさらに詰め寄る。
「……お前と皇帝は、どういう関係だ?」
エリオットは微かに息を吐いた。
「何も特別なことはありません」
「ならば、なぜあの男はお前を気にかける?」
「それは、私が公爵夫人だからでしょう」
淡々と答えるエリオットに、アドリアンの表情がさらに険しくなる。
「お前は、何かを隠しているな」
(隠している、か……)
確かに、エリオットは昨夜の襲撃について何も話していない。
だが、それは証拠がないからだ。
(……ヴェロニクの関与を確実に掴むまでは)
「私は、隠すようなことは何もありません」
アドリアンが苛立ちを隠さず、ぐっと拳を握りしめるのが分かった。
「……耳の傷、本当にただの事故か?」
「ええ、そうです」
「……」
アドリアンはじっとエリオットを見つめる。
(……この人は、何を考えている?)
以前のアドリアンなら、こんなふうに自分を気にかけることはなかった。
だが、今の彼は違う。
エリオットの言葉を試すように、何かを探るように見ている。
「……公爵閣下」
あえて、アドリアンと距離を取る呼び方で口を開く。
「あなたの質問には、すべて答えました」
「……」
「これ以上、何をお求めですか?」
そう言った瞬間——
「……お前は、もう少し取り乱してもいいはずだ」
アドリアンの言葉に、一瞬だけ息を呑んだ。
「……え?」
「お前は何かに怯えているはずだ」
アドリアンは静かに、しかし確信を持った声で続けた。
「傷を負い、皇帝がそれを知っている。けれどお前は私には何も語ろうとしない」
「……」
「お前は、何を隠している?」
エリオットは、目を伏せた。
(……あなたには、話せない)
「何も」
アドリアンの視線が、エリオットを射抜く。
「お前は、私を侮辱するのが楽しいのか?」
その声には、押さえきれない怒りが込められていた。
「侮辱……?」
エリオットはわずかに眉を寄せた。
「お前は、公爵家の人間だ。皇帝陛下のような男と親しくするのは、どういうつもりだ?」
その言葉に、エリオットは薄く笑った。
「陛下とのことを勘違いされるのは心外です」
「なら、なぜあの男はお前に執着する?」
アドリアンの手が、強引にエリオットの腕を掴んだ。 痛みに、思わず顔が歪む。
「……っ!」
「お前は私の妻だろう?それを忘れたか?」
エリオットは目を伏せ、唇を引き結ぶ。
「忘れてなどおりません。けれど、それは形式的なものだと、あなたもご納得されたではありませんか」
「……!」
アドリアンの瞳に、明らかな焦燥が浮かんだ。 それを見逃さず、エリオットは言葉を続ける。
「今さら何を求めているのですか?まさか、僕と番になりたいなどと?」
その瞬間、アドリアンの目が険しく揺れた。
「……お前は、本当に私を苛立たせる」
低く呟き、強くエリオットの腕を引き寄せる。 抗う間もなく、エリオットはベッドの上へと押し倒された。
「っ……!」
背中に柔らかな衝撃を感じる。 すぐに身を起こそうとしたが、アドリアンの手が両肩を押さえ込んだ。
「やめろ……っ!」
声が震える。
「逃げるな」
アドリアンは冷たい声で言い、覆い被さるように顔を寄せた。
その視線は、獲物を狙う猛獣のようだ。
「……っあなたは僕を愛してなどいないでしょう?」
必死に言葉を絞り出す。
「……愛?」
アドリアンは、苛立ち混じりに笑った。
「なら、お前は誰にそれを望む?——皇帝陛下か?」
(……!)
「お前は……あの男に抱かれたいのか?」
「違う……!」
エリオットが抵抗しようとすると、強い力で腕を押さえ込まれた。
「っ……!」
襟元に手がかかり、乱暴に引き裂かれる。 白い肌が露わになり、エリオットは羞恥と恐怖に息を詰めた。
「離せ……っ!」
エリオットは必死に身をよじった。 しかし、アドリアンの腕が強く、動けない。
「お前が私の妻だと、その身体に刻んでやる。そうすればあの男の元には行けないだろう?」
低く囁かれた言葉に、悪寒が走った。
アドリアンの唇がチョーカーで隠されていない首筋に触れる。
「いやだ……っ!」
エリオットは身を捩り、なんとか逃れようとするが、アドリアンは容赦なく肌に唇を這わせた。
(やめろ……!)
心の中で叫ぶが、声にならない。
抗い続けるエリオットに、アドリアンの力がますます強まる。
執拗に首筋に唇を寄せ、歯を立てるように甘噛みを繰り返す。
その時——
「旦那様、失礼いたします」
扉の外から、執事の声が響いた。 アドリアンが動きを止める。
「……何だ?」
怒気を孕んだ声。
「王宮から、急ぎの書状が届いております。至急ご覧いただきたいとのこと」
その声で、アドリアンの動きが鈍った。 押さえつける手が、わずかに緩む。
エリオットはその隙を逃さなかった。
「っ……!」
全力でアドリアンを突き飛ばし、ベッドから転がり落ちるように離れた。
「エリオット……!」
アドリアンが手を伸ばしたが、エリオットは振り返らずに扉へと走った。
扉を開け、廊下に飛び出した瞬間、執事が驚いた顔でエリオットを見た。
それを気にする余裕などなく、横を走り抜ける。
「っ……!」
エリオットは走った。とにかくこの場から早く離れたかった。
鼓動が速く、うまく呼吸ができない。
階段を走り下りて、玄関へと向かう。
その時——
「え……?」
ヴェロニク・クレイヴンの声が聞こえた。
(……!)
エリオットの姿を目にしたヴェロニクは、一瞬にして凍りついた。
エリオットの乱れた衣服、荒い呼吸。
ヴェロニクは明らかに動揺していた。
「……」
エリオットは一瞥すると、そのまま何も言わずに走り去った。
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次の更新→2/27 PM0:30頃
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レオンの去った玄関には、まだ侍女や使用人たちが控えている。
エリオットは、周囲に聞かれたくないと判断し、静かに口を開いた。
「ここでは何ですので、場所を移しましょう」
「……」
アドリアンはしばらくエリオットを見つめていたが、やがて無言で踵を返した。
エリオットはその後ろを静かに追う。
静かに廊下を進むアドリアンの後ろ姿を、エリオットは複雑な気持ちで見つめていた。
(どうして……寝室に……?)
彼が指定した場所は、普段エリオットが立ち入ることのない、アドリアンの私的な空間だった。
豪奢な扉が静かに開き、アドリアンが無言でエリオットを室内へ促す。 躊躇ったものの、逆らえる状況ではなかった。
(……また、問い詰められるのだろうな)
胸の奥がざわつく。
けれど、エリオットは冷静な表情を崩さないまま、部屋へと入った。
——バタン。
扉が閉まる音が、不自然に大きく響いた。 エリオットは微かに息を吐きながら、アドリアンへと視線を向ける。
アドリアンはゆっくりとエリオットに近づいた。
その瞳は鋭く、苛立ちを孕んでいる。
「……説明しろ」
アドリアンが短く命じた。
「何をでしょう?」
エリオットは静かに問い返す。
「皇帝の使いが、お前の耳の傷を気遣う言葉を伝えてきた」
アドリアンは振り返り、エリオットに鋭い視線を向ける。
「それだけではない。『必ず、私が守る』……?」
エリオットの心臓が跳ねた。
あの場では、シグルドの言葉を聞いて動揺したのを隠すのに必死だった。
それをアドリアンに悟られるわけにはいかない。
(どう答える……?)
アドリアンはさらに詰め寄る。
「……お前と皇帝は、どういう関係だ?」
エリオットは微かに息を吐いた。
「何も特別なことはありません」
「ならば、なぜあの男はお前を気にかける?」
「それは、私が公爵夫人だからでしょう」
淡々と答えるエリオットに、アドリアンの表情がさらに険しくなる。
「お前は、何かを隠しているな」
(隠している、か……)
確かに、エリオットは昨夜の襲撃について何も話していない。
だが、それは証拠がないからだ。
(……ヴェロニクの関与を確実に掴むまでは)
「私は、隠すようなことは何もありません」
アドリアンが苛立ちを隠さず、ぐっと拳を握りしめるのが分かった。
「……耳の傷、本当にただの事故か?」
「ええ、そうです」
「……」
アドリアンはじっとエリオットを見つめる。
(……この人は、何を考えている?)
以前のアドリアンなら、こんなふうに自分を気にかけることはなかった。
だが、今の彼は違う。
エリオットの言葉を試すように、何かを探るように見ている。
「……公爵閣下」
あえて、アドリアンと距離を取る呼び方で口を開く。
「あなたの質問には、すべて答えました」
「……」
「これ以上、何をお求めですか?」
そう言った瞬間——
「……お前は、もう少し取り乱してもいいはずだ」
アドリアンの言葉に、一瞬だけ息を呑んだ。
「……え?」
「お前は何かに怯えているはずだ」
アドリアンは静かに、しかし確信を持った声で続けた。
「傷を負い、皇帝がそれを知っている。けれどお前は私には何も語ろうとしない」
「……」
「お前は、何を隠している?」
エリオットは、目を伏せた。
(……あなたには、話せない)
「何も」
アドリアンの視線が、エリオットを射抜く。
「お前は、私を侮辱するのが楽しいのか?」
その声には、押さえきれない怒りが込められていた。
「侮辱……?」
エリオットはわずかに眉を寄せた。
「お前は、公爵家の人間だ。皇帝陛下のような男と親しくするのは、どういうつもりだ?」
その言葉に、エリオットは薄く笑った。
「陛下とのことを勘違いされるのは心外です」
「なら、なぜあの男はお前に執着する?」
アドリアンの手が、強引にエリオットの腕を掴んだ。 痛みに、思わず顔が歪む。
「……っ!」
「お前は私の妻だろう?それを忘れたか?」
エリオットは目を伏せ、唇を引き結ぶ。
「忘れてなどおりません。けれど、それは形式的なものだと、あなたもご納得されたではありませんか」
「……!」
アドリアンの瞳に、明らかな焦燥が浮かんだ。 それを見逃さず、エリオットは言葉を続ける。
「今さら何を求めているのですか?まさか、僕と番になりたいなどと?」
その瞬間、アドリアンの目が険しく揺れた。
「……お前は、本当に私を苛立たせる」
低く呟き、強くエリオットの腕を引き寄せる。 抗う間もなく、エリオットはベッドの上へと押し倒された。
「っ……!」
背中に柔らかな衝撃を感じる。 すぐに身を起こそうとしたが、アドリアンの手が両肩を押さえ込んだ。
「やめろ……っ!」
声が震える。
「逃げるな」
アドリアンは冷たい声で言い、覆い被さるように顔を寄せた。
その視線は、獲物を狙う猛獣のようだ。
「……っあなたは僕を愛してなどいないでしょう?」
必死に言葉を絞り出す。
「……愛?」
アドリアンは、苛立ち混じりに笑った。
「なら、お前は誰にそれを望む?——皇帝陛下か?」
(……!)
「お前は……あの男に抱かれたいのか?」
「違う……!」
エリオットが抵抗しようとすると、強い力で腕を押さえ込まれた。
「っ……!」
襟元に手がかかり、乱暴に引き裂かれる。 白い肌が露わになり、エリオットは羞恥と恐怖に息を詰めた。
「離せ……っ!」
エリオットは必死に身をよじった。 しかし、アドリアンの腕が強く、動けない。
「お前が私の妻だと、その身体に刻んでやる。そうすればあの男の元には行けないだろう?」
低く囁かれた言葉に、悪寒が走った。
アドリアンの唇がチョーカーで隠されていない首筋に触れる。
「いやだ……っ!」
エリオットは身を捩り、なんとか逃れようとするが、アドリアンは容赦なく肌に唇を這わせた。
(やめろ……!)
心の中で叫ぶが、声にならない。
抗い続けるエリオットに、アドリアンの力がますます強まる。
執拗に首筋に唇を寄せ、歯を立てるように甘噛みを繰り返す。
その時——
「旦那様、失礼いたします」
扉の外から、執事の声が響いた。 アドリアンが動きを止める。
「……何だ?」
怒気を孕んだ声。
「王宮から、急ぎの書状が届いております。至急ご覧いただきたいとのこと」
その声で、アドリアンの動きが鈍った。 押さえつける手が、わずかに緩む。
エリオットはその隙を逃さなかった。
「っ……!」
全力でアドリアンを突き飛ばし、ベッドから転がり落ちるように離れた。
「エリオット……!」
アドリアンが手を伸ばしたが、エリオットは振り返らずに扉へと走った。
扉を開け、廊下に飛び出した瞬間、執事が驚いた顔でエリオットを見た。
それを気にする余裕などなく、横を走り抜ける。
「っ……!」
エリオットは走った。とにかくこの場から早く離れたかった。
鼓動が速く、うまく呼吸ができない。
階段を走り下りて、玄関へと向かう。
その時——
「え……?」
ヴェロニク・クレイヴンの声が聞こえた。
(……!)
エリオットの姿を目にしたヴェロニクは、一瞬にして凍りついた。
エリオットの乱れた衣服、荒い呼吸。
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