娼館で死んだΩ、竜帝に溺愛される未来に書き換えます

めがねあざらし

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73、公爵邸の異変——迎える者たち

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馬車が公爵邸へと近づくにつれ、エリオットは窓の外に視線を向けた。
夜明けの冷たい空気の中、邸の門前にはいつもと違う雰囲気が漂っていた。
馬車が停まると、門番の兵士が近づいてきた。
いつもの顔ぶれではない。見知らぬ者たちが混じっているのが見て取れた。

「……人員が変わっていますね」

エリオットが静かに言うと、レオンも窓の外を一瞥し、ふっと口笛を吹いた。

「へぇ、興味深い。見慣れない顔が増えてますねぇ」

(やはり……ヴェロニクの動きは、単独ではない)

エリオットは、シグルドの隣に視線を向けた。
シグルドは特に表情を変えることなく、ただ静かに門の様子を見つめている。

「公爵夫人、お帰りなさいませ」

一歩前に出てきたのは、公爵邸の新たな執事と思われる男だった。
年齢は四十代半ば。黒い髪をきちんと撫でつけた、落ち着いた雰囲気の男だ。

「お迎えに参りました、ラグランと申します」
「……新しい執事、ですか?」
「はい。ヴェロニク様のご指示で、公爵家の管理を任されております」

(つまり、完全に公爵家の掌握が進んでいる、と……懐かしいじゃないか。ここに嫁いできた時のようで)

エリオットは静かに微笑んだ。

「そうですか。それは心強いですね」

ラグランは礼儀正しく一礼するが、その視線は油断なくエリオットを観察している。
やはり、この男もヴェロニク側の人間なのだろう。

「おや、私たちのことは歓迎されないんですかね?」

レオンが楽しげに言うと、ラグランは一瞬だけ表情を引き締めたが、すぐに平静を装った。

「……お二方は?」
「彼らは僕の護衛です」

エリオットが穏やかに言うと、ラグランは目を細めた。

「護衛、ですか」
「ええ。さすがに今の公爵家には危険も多いでしょうから」

ラグランは微かに笑った。
エリオットはその様子を探るように見据える。
どうやらシグルドのことはこの男には分からないようだ。

(で、あれば……陛下が自由に動けるかな……)

「なるほど、これはご丁寧に。しかし、公爵家の内部で護衛をつける必要があるほどの危険があるとは存じませんでした」
「念のため、です」

エリオットがさらりと返すと、ラグランはわずかに口角を上げた。

「……では、どうぞ中へ」

彼の合図で門が開かれる。
エリオットはシグルドとレオンを伴い、公爵邸の敷地へと足を踏み入れた。

(さて……ヴェロニクは、どんな顔をしているやら)

邸の内部は、以前と同じように整えられていた。
昨日の今日だ。そう変わることもない。
だが、そこにいる人々の顔ぶれは変わっている。
ヴェロニクの側近と思われる者たちが、邸内の各所に配置されていた。
エリオットは従者に案内され、大広間へと通された。

「公爵夫人、お待ちしておりましたよ」

その声が響いた瞬間、エリオットはゆっくりと顔を上げる。
ヴェロニク・クレイヴンが、優雅な微笑みを浮かべていた。
以前と変わらぬ端正な顔立ち。だが、彼の纏う空気は明らかに違っていた。

(……以前よりも、ずっと自信に満ちている)

それもそのはずだ。
公爵家を掌握し、クラウス侯爵家を後ろ盾につけた今のヴェロニクは、すでに「ただの愛人」ではない。

「公爵代理として、お迎えします」

その言葉に、エリオットは静かに微笑んだ。

「代理……ですか」
「ええ。公爵閣下は少しお休みをいただいています」

ヴェロニクの言葉に、エリオットは鋭く目を細める。

(アドリアンはどうなっているのか……)

「それで、なぜ戻ってこられたのです?」

ヴェロニクの問いに、エリオットはさらりと微笑む。

「公爵家のために、必要なことをするためです」
「……なるほど」

ヴェロニクはしばらくエリオットを見つめ、それからシグルドへと視線を移した。

「……そして、皇帝陛下が護衛として同行されるとは、驚きました」
「私がどこへ行こうと、貴様が気にすることではない」

シグルドは冷たく言い放った。
ヴェロニクは表情を変えず、微笑を崩さない。

「それはそうでしょう。しかし、陛下がわざわざ公爵家にご滞在されるとは……何か特別なご事情が?」
「君たちが不穏な動きを見せているからだろう?」

レオンの声が軽く響く。

「いやぁ、まさか公爵代理なんて肩書きを手に入れるとはねぇ?ずいぶんと出世したものだ」
「……ふふ、運が良かったのでしょう」

ヴェロニクは流すように言いながらも、その瞳には明らかな警戒が浮かんでいた。

「では、ゆっくりなさってください。邸内の部屋は以前と変わらず、ご用意しておりますので」

「……ご配慮、痛み入ります」

エリオットは一礼し、そのまま視線を合わせた。

(さて……ここからが本番だろうね……ヴェロニク)
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