社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし

文字の大きさ
9 / 57

8

しおりを挟む
レイが邸内の侵入者を追うため、廊下の向こうへと駆けていった。
その冷徹な背中はいつもの推しらしく、思わず見惚れる……余裕が、あるはずもない。

「エミリー、これ……本当に大丈夫なのかな……?」
「どうかご安心くださいませ、奥様。旦那様は王国でも最強と名高い騎士です。侵入者程度、すぐに鎮圧されるでしょう」

エミリーの声は冷静だが、俺には分かる。
彼女の眉間がわずかに寄っている。昨日からの穏やかさが少し崩れているのだ。

「でもさっきから、様子がおかしくない?侵入者が入っただけで、こんな大騒ぎになるものなのかな……?」

俺がそう尋ねると、エミリーは少し言葉に詰まる。

「……確かに、単なる盗賊などであれば、ここまでの動揺は起きません。しかし、今回の侵入者には、何か特別な目的があるのかもしれません」
「特別な目的……?」

エミリーはそれ以上は何も言わず、軽く頭を下げた。

「奥様、今は安全な場所にいていただくことが最優先です。どうか部屋へお戻りください」

彼女に促され、俺は部屋へ戻ることになった。
だが、気がかりは消えない。
特別な目的……いやぁ、これやっぱ俺がらみじゃないかなぁ……俺と言うかカイルと言うか。どっちかはわからないが。
そんな風に考えつつ足早に戻る途中、俺は思わず足を止めた。
少し先の廊下の端で、何かが光を反射しているのが見えたのだ。

「エミリー、ちょっと待って……」
「奥様?」

俺は急いで光の元へと歩み寄る。それは小さな金属片だった。
指先でつまんでみると、何やら不思議な模様が彫られている。

「これ、何だろう……?」

金属片は薄く、硬貨のような形状だが、見たことのない記号が描かれている。

「奥様、それは……!」

エミリーが驚いたように声を上げた。
彼女の顔には、一瞬戸惑いの色が浮かんでいる。

「これ、何か分かる?」
「……いえ。ただ、旦那様にお渡しするべきかと存じます。危険なものである可能性もございますので」

エミリーの声が僅かに震えている。
それが気になりつつも、俺は拾ったそれを掌に握りこむ。

「旦那様にご報告いたしますので、どうかお部屋でお待ちくださいませ」

俺を部屋まで送り届けると、エミリーは深々と頭を下げて踵を返した。
扉を閉める時に、「旦那様がおられますからご安心ください」と告げられたが、俺の胸にはどうにも言いようのない不安が募っていく。
窓のそばまで行き外を見ると、庭園も騒然とした様子だ。

これ、絶対ただの金属片じゃないよな……。

先ほど拾ったものを掌に載せて見遣る。
何か文字が書いてあるそれは、どことなく禍々しくも感じた。

部屋に戻り、どれくらい時間が経っただろうか。
廊下の騒ぎが少しずつ収まり始めた頃、扉の外から静かなノック音が響いた。

「入るぞ」

低く響くその声に、俺はハッと息を呑む。

「レイ……!」

扉が開き、レイが部屋に入ってきた。
表情はいつもと変わらないが、わずかに額に汗が滲んでいる。

「大丈夫か?」
「俺は大丈夫。そっちは……?」
「侵入者は逃げたようだ。すまない……奴が何を目的にここに来たのか、まだ分からないので、そちらを調べているのだが……」

レイはそう言って、俺のそばまで歩み寄る。

「レイ……これって、事故とかと関係があるのかな……?」

俺が恐る恐るそう尋ねると、レイの目が一瞬だけ鋭く光った。

「お前は何か見たか?廊下で拾ったものがあると、エミリーが言っていたが」

――さすがエミリー、報告が早い。

俺は手に握ったままだったものをレイに差し出す。

「これ……廊下で拾ったんだ」

レイの表情が一瞬だけ険しくなる。

「これは……」

レイの手が金属片をひっくり返しながら模様を見つめる。

「レイ、それ……何か分かるの?」
「……呪刻符だな」

その言葉に、部屋の空気が一気に冷え込む気がした。

「呪刻符……?」

レイの瞳には明確な怒りが宿っているように見える。

「……お前が狙われているのは、ほぼ間違いない」

その言葉に、俺の心臓が強く打ち鳴らされた。
……やっぱ俺なのか。
胸の奥に広がる恐怖を抑えきれない。
俺は思ったよりも表情に出ていたのだろう。
レイの優しい手が、俺を宥めるように髪を撫でる。
温かさに触れながらも、頭の片隅で「何かが始まっている」ことを確信するには十分だった。

「レイ、それ……どんな効果があるんだ……?」
レイは手を止めると、その手を俺の肩に置いた。だが、すぐに答えず、少しだけ目を伏せる。
その仕草が、彼が何かを言い躊躇っていることを示していた。

「……言いたくないなら、いいよ」
「違う。お前に隠すつもりはない。ただ、正直……腹が立っている」

レイは静かに呟く。だが、その声には言葉通り怒りが滲んでいた。
推しがここまで俺を心配してくれている……いや、これはカイルへの感情だってわかってるけど、感慨深さはあった。

「レイ……俺、そんなに守られるような存在じゃ……」
「お前がそう思っていても、俺にとっては違う。お前は俺のすべてだ」

再び、その瞳がまっすぐ俺を見据える。
レイは手を止めると、その手を俺の肩に置いて、静かながらも重い声で説明を始めた。

「これは秘術に使われるものだ。普通の者には扱えない。ましてや、こんな場所に落ちているのは不自然だ」
「秘術……?それって、何かヤバいやつ……?」
「そうだ。呪刻符は、人に害を与える術に用いられることが多い。事故や病、あるいは……対象者を弱らせるための呪いだ」

――呪い?そんなファンタジーじみたもの、俺の中の現実感覚が「嘘だろ」とツッコむが、ここ……異世界でしたわ。そんなものが存在しても、おかしくない。
ゲームに出てきたかと言えば、正直なかったようにも思うが、やりこんだとはいえ、アイテムを細部まで覚えてはいないので自信はない。
というかだな。事故や病って、それって……。

「このせいで……事故に?」

思わず口にした俺の言葉に、レイの目が細められた。

「……ほぼ間違いない」
「……そんな……」

胸がざわつく。不安と恐怖が入り混じり、息が苦しくなる。

「だが、心配するな」

レイがそう言うと、金属片をしっかりと握りしめ、俺の目をまっすぐに見つめる。

「俺が守る。必ず、誰にもお前に指一本触れさせはしない」

その言葉に、俺は思わず息を呑んだ。
彼の目は、まるで誓いそのもののように真っ直ぐで――まるでこの世の全てを背負う覚悟があるかのようだった。

「レイ……」
「お前に何かあれば、俺の存在意義がなくなる。だから、これからは絶対に一人で勝手な行動をするな」
「……分かった」

それ以上、俺は何も言えなかった。俺が何者であれ、レイは本気で俺――いや、カイルを守ろうとしているのだ。レイは金属片を懐にしまうと、再び真剣な表情に戻った。

「俺はこの呪刻符の出所を探る。屋敷の警備をさらに強化し、お前には護衛をつけるよう指示を出す」
「護衛って……」
「それほど危険な状況だということだ」

流れから今がそう安穏としたもんじゃないと、そりゃ予想はついていたけれど……改めて言われて、俺は言葉を失う。何も分からないまま、ただこの世界に放り込まれた俺が、命を狙われている──そんな状況に置かれていることが、恐ろしい。あっちの世界だと、せいぜいプロジェクトを上司に横取りされるくらいの事態しかないからな、俺の身に起こることと言えば。

「レイも気をつけて。怪我とか、しないように」

俺がそう言うと、レイは一瞬だけ目を見開いた。そして、口元に柔らかな笑みを浮かべる。

「――お前にそう言われるのは、悪くないな」

そう言い残し、彼は部屋を出て行った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼
BL
少女漫画のような人生を送っていたクラスメイトがある日突然命を落とした。 背景の一部のようなモブは、卒業式の前日に事故に遭った。 魔王候補の一人として無能力のまま召喚され、魔物達に混じりこっそりと元の世界に戻る方法を探す。 魔物の脅威である魔導騎士は、不思議と初対面のようには感じなかった。 少女漫画のようなヒーローが本当に好きだったのは、モブ君だった。 異世界に転生したヒーローは、前世も含めて長年片思いをして愛が激重に変化した。 今度こそ必ず捕らえて囲って愛す事を誓います。 激重愛魔導最強転生騎士×魔王候補無能力転移モブ

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

処理中です...