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第2章
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翌朝、目を覚ますと、レイの姿はもう隣にはなかった。
無力感に襲われて、そのままベッドへとまた潜り込む。
いつだったかこんな感じを……ああ、そうだ。あちらの世界だ。
無気力になるほど働いていたあの時。
あの頃と今はよく似ている気がする。
逃げ出したけど逃げ出せない。そんな感じだ。
「そばにいないのは俺じゃなくお前じゃん……」
呟いても、誰が答えるわけじゃなかった。
※
幾度か朝食の声かけがあったが、俺は結局起きれないままだった。
そうして無為な時間を過ごし、昼も近くなった頃に漸く起き上がる。
少しでも動けば、何か変わるかもしれない。
そう思って、夜着を着なおしてガウンを羽織る。
廊下に出たとき、いつもと違う雰囲気に気づいた。使用人たちの動きがどこかそわそわしている。
「……何かあったのか?」
一人の侍女に声をかけると、彼女はぎょっとした顔をして、急いで視線を逸らした。
「いえ、何も……失礼します!」
それだけ言い残し、彼女は廊下を駆け抜けていく。
いつもは穏やかな空気が漂うこの屋敷が、どこかざわついている。
胸騒ぎを覚えながら歩いていると、執務室のドアが微かに開いているのを見つけた。
中からレイの声が聞こえる。
「……これは、確かなのか?」
その声には、普段の冷静さとは違う鋭さが混じっている。
気づけば足が止まっていた。
「はい。王都の関係者から直接届けられたものです。内容を確認していただければ……」
侍従の声に続いて、紙が擦れる音がした。
「エルステッド家がエヴァンス家の財産を狙っているという疑惑を裏付ける証拠……?」
レイの声が低く響く。
「はい。エルステッド家の当主であるカイル様の父上が、エヴァンス家の資産管理人と密会し、財産の一部を譲り受ける契約を交わしたという書簡です」
――そんな話、聞いたこともない。
息を呑む俺の耳に、侍従が続ける。
「さらに、エルステッド家が王都の有力者に取り入ろうとしている記録も見つかっています。これが事実であれば、フランベルク領の立場にも影響を及ぼしかねません」
俺は耳を疑った。
父がそんなことをするわけがない。母も、エヴァンス家を離れて以来、一切の関与を断ってきたはずだ。そもそもエヴァンス家の資産管理人って誰だよ。まずはそいつに話を行くべきじゃないのか……。
「……確かに、これは看過できない」
レイの言葉に、胸がぎゅっと締め付けられる。
ドアの隙間から覗くと、レイが紙を手に取り、険しい顔で読み込んでいるのが見えた。
「カイル様にも聞くべきかもしれませんね」
侍従の提案に、レイはしばらく沈黙した。
「……いや。まずはこれが本物かどうかを調べるべきだ」
レイが冷静にそう答えるのを聞いて、俺はその場を離れた。
聞いてはいけないものを聞いた気がして、胸の中に重いものが落ちてきたようだった。
俺は踵を返して、自室に戻り、ベッドの縁に腰掛けて頭を抱える。
「……偽造された証拠……?」
そんなものを誰が用意したのか、考えるまでもなく思い浮かぶのはアランだ。
「……何をどうやって……」
リリウムが足元に寄り添ってくるが、気持ちは沈んだままだった。
レイは俺を信じてくれているのか、それとも疑っているのか。
さっきの会話からは何も分からなかった。
俺は気づけば拳を強く握りしめていた。
「……どうすればいいんだよ、これ……」
精神的な疲れが一気に高まり、息が苦しい。
自分が何をすべきか分からず、ただ、胸の中の不安がどんどん膨らんでいった。
唇を噛みしめた俺の耳に、小さな鳴き声が届く。足元に目をやると、リリウムがそっと頭を擦り寄せてきていた。
「リリウム……」
その柔らかい体を抱き上げると、ぬくもりがじんわりと伝わる。だけど、それでも胸の中の重苦しさは晴れない。
――レイは俺を信じてくれているのか。それとも、やっぱり……。
頭を抱えたまま、俺は過去のことを思い出していた。
領南での夜、あの時のレイの言葉は嘘じゃなかったはずだ。
俺たちの間にあった確かな絆。だけど今、その絆がどれほど脆いものかを実感している。
何もかもが崩れていく。俺の存在が、レイに迷惑をかけているのかもしれない……。
無力感に襲われて、そのままベッドへとまた潜り込む。
いつだったかこんな感じを……ああ、そうだ。あちらの世界だ。
無気力になるほど働いていたあの時。
あの頃と今はよく似ている気がする。
逃げ出したけど逃げ出せない。そんな感じだ。
「そばにいないのは俺じゃなくお前じゃん……」
呟いても、誰が答えるわけじゃなかった。
※
幾度か朝食の声かけがあったが、俺は結局起きれないままだった。
そうして無為な時間を過ごし、昼も近くなった頃に漸く起き上がる。
少しでも動けば、何か変わるかもしれない。
そう思って、夜着を着なおしてガウンを羽織る。
廊下に出たとき、いつもと違う雰囲気に気づいた。使用人たちの動きがどこかそわそわしている。
「……何かあったのか?」
一人の侍女に声をかけると、彼女はぎょっとした顔をして、急いで視線を逸らした。
「いえ、何も……失礼します!」
それだけ言い残し、彼女は廊下を駆け抜けていく。
いつもは穏やかな空気が漂うこの屋敷が、どこかざわついている。
胸騒ぎを覚えながら歩いていると、執務室のドアが微かに開いているのを見つけた。
中からレイの声が聞こえる。
「……これは、確かなのか?」
その声には、普段の冷静さとは違う鋭さが混じっている。
気づけば足が止まっていた。
「はい。王都の関係者から直接届けられたものです。内容を確認していただければ……」
侍従の声に続いて、紙が擦れる音がした。
「エルステッド家がエヴァンス家の財産を狙っているという疑惑を裏付ける証拠……?」
レイの声が低く響く。
「はい。エルステッド家の当主であるカイル様の父上が、エヴァンス家の資産管理人と密会し、財産の一部を譲り受ける契約を交わしたという書簡です」
――そんな話、聞いたこともない。
息を呑む俺の耳に、侍従が続ける。
「さらに、エルステッド家が王都の有力者に取り入ろうとしている記録も見つかっています。これが事実であれば、フランベルク領の立場にも影響を及ぼしかねません」
俺は耳を疑った。
父がそんなことをするわけがない。母も、エヴァンス家を離れて以来、一切の関与を断ってきたはずだ。そもそもエヴァンス家の資産管理人って誰だよ。まずはそいつに話を行くべきじゃないのか……。
「……確かに、これは看過できない」
レイの言葉に、胸がぎゅっと締め付けられる。
ドアの隙間から覗くと、レイが紙を手に取り、険しい顔で読み込んでいるのが見えた。
「カイル様にも聞くべきかもしれませんね」
侍従の提案に、レイはしばらく沈黙した。
「……いや。まずはこれが本物かどうかを調べるべきだ」
レイが冷静にそう答えるのを聞いて、俺はその場を離れた。
聞いてはいけないものを聞いた気がして、胸の中に重いものが落ちてきたようだった。
俺は踵を返して、自室に戻り、ベッドの縁に腰掛けて頭を抱える。
「……偽造された証拠……?」
そんなものを誰が用意したのか、考えるまでもなく思い浮かぶのはアランだ。
「……何をどうやって……」
リリウムが足元に寄り添ってくるが、気持ちは沈んだままだった。
レイは俺を信じてくれているのか、それとも疑っているのか。
さっきの会話からは何も分からなかった。
俺は気づけば拳を強く握りしめていた。
「……どうすればいいんだよ、これ……」
精神的な疲れが一気に高まり、息が苦しい。
自分が何をすべきか分からず、ただ、胸の中の不安がどんどん膨らんでいった。
唇を噛みしめた俺の耳に、小さな鳴き声が届く。足元に目をやると、リリウムがそっと頭を擦り寄せてきていた。
「リリウム……」
その柔らかい体を抱き上げると、ぬくもりがじんわりと伝わる。だけど、それでも胸の中の重苦しさは晴れない。
――レイは俺を信じてくれているのか。それとも、やっぱり……。
頭を抱えたまま、俺は過去のことを思い出していた。
領南での夜、あの時のレイの言葉は嘘じゃなかったはずだ。
俺たちの間にあった確かな絆。だけど今、その絆がどれほど脆いものかを実感している。
何もかもが崩れていく。俺の存在が、レイに迷惑をかけているのかもしれない……。
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