38 / 57
第2章
30
しおりを挟む
レイが手配してくれた馬車の中に俺たちは居た。
向かい合って座っている。
フランベルクに戻るのかと思いきや、馬車は王都に向かっているらしい。
「どうして、王都に……?」
「アランのことだ。厄介なことになてきていてな」
「厄介……?」
俺が首を傾げると、レイは少し考えたようではあったが口を開いた。
「端的に言うと、アランとその父……叔父は隣国と共謀してフランベルクを国としたかったようだな」
苦笑と共にレイがそう言う。
それって、ええ……随分とスケールがでかい話になってきた。
元々フランベルクは自治領であって、国内でも他領とは異なる点が多い。
しかし、それって……
「……国家反逆罪では……」
俺がぼそりと呟くと、レイは溜息を吐いた。
「その通りだ」
「いやでも、そんな大きな話でなんで俺……?」
疑問が残るのはその部分だ。いくら俺を揺さぶったところで、それは何かになるのだろうか?そう考えているとレイが、俺をじっと見つめる。
「お前はフランベルクの“鍵”だ。お前が揺らげば揺らぐだけ、結界は弱くなる。が……アランと叔父はそこまでしか知らない。故に浅慮でお前を狙う。叔父は物理で、アランは心理で」
レイの声にはあからさまな苛立ちが混じっていた。
その様を見るだけで、俺はなんとなしに気分が良くなるから現金なものだ。
フランベルクの“鍵”。それはまさしく俺だ。
正当な領主が“鍵”を選び、決める。そしてその絆がフランベルクを守る……これはフランベルクに住んでいる人間ならだれでも知っているようなことだ。
そんな緩い内容で領が守れるわけはない。
領主とその伴侶にしか知らされない内容もある。
フランベルクの結界。魂の絆──そのシステムはこうだ。
まず儀式の最終段階で、“扉”と“鍵”の魂の一部が結界と融合する。その魂の一部が結界を安定させる根幹となり、片方が亡くなった場合でも一定期間は結界が維持される仕組みになっている。ただし、双方の絆が完全に切れるような事態──離婚、魂の拒絶などが起きると、結界がじわじわと弱体化していく。しかし、それにもちゃんと対応策がある。
自然魔力を一時的なエネルギー源とすることで結界は最低限の効力を発揮することとなるのだ。
馬車が揺れる中、レイは窓の外を見ながら口を開いた。
「アランも叔父も、ただフランベルクを国として独立させたいわけじゃない」
俺が眉をひそめると、レイは静かに続けた。
「叔父は、かつて父にフランベルクの領主の座を奪われたと考えている。だが、実際には、叔父には“鍵”を見つける資格がなかった。それがどれほど致命的か分かるか?」
レイが俺に視線を向けてくる。その目はどこか試すようだった。
「……結界が作れないから、領地として成り立たない?」
「その通りだ。フランベルクの結界はただの防壁じゃない。領地の自然環境を守り、周囲の敵対的な魔力を退ける根幹だ。それがない状態では、この領地は持たない」
「でも、叔父は……いや、アランも、それが分かってるんだろ?結界がなければ無理だって」
レイは一瞬だけ苦笑を浮かべた。
「分かっていても、叔父はそれを認めることができない。父の代に築かれた結界を“強奪された”と思い込んでいる。そして、その歪んだ執念が、アランにも影響を与えた」
彼の言葉には、アランに対する怒りだけでなく、わずかな哀れみが混じっていた。
「なるほど……でも、さぁ……」
聞けば聞くほど、考えれば考えるほど、俺は自分の浅はかさに眩暈がしそうだった。
レイの傍に立つと決めた時、それなりに色々と頭に叩き込んだはずなのだ。
それなのに、俺はそうした知識を使わず、感情だけで物事を決めつけて動いていた。
言い訳をするなら辛かったのは確かにある。けれども……。
「……俺、“鍵”に相応しい気がしない……」
弱音が口をつく。情けないことだと分かっているけど、止まらない。
喉の奥が詰まりそうになる。
「俺が、お前まで傷つけたら……」
言葉を絞り出すように吐き出すたびに、胸の奥が軋むように痛む。
その言葉にレイが俺の腕を掴んで自分の方に力強く引き寄せた。
レイの眉間に一瞬だけ皺が寄る。それからほんの僅かの間、言葉を飲み込むような間があった。
その間に、レイの手が俺の腕を掴む力が僅かに強まる。
「……それ以上言うなら、実力行使でその口を塞ぐ」
レイの声は低く、怒りを押し殺すように響いた。
けれど、その瞳の奥には、俺の弱さを受け止めようとする決意と、少しの痛みが浮かんでいた。
じんわりと、心の奥が熱くなる。
こんな情けない俺でも受け入れてくれるレイを、どうして俺は疑ったのか。
……疑わせるくらいの演技をほめた方がいいのかもしれない。
「……ごめん……」
「俺は何があってもお前しか選ばないし、お前だけだ」
レイの腕に包まれる。その温かさがじわじわと伝わり、胸の奥に熱いものが広がっていくのを感じた。
「……本当に?」
声は震えている。それでも、レイの言葉を求めずにはいられなかった。
「本当だ」
彼の声は低いけれど、どこまでも確かだった。それが、どれほど俺の心を軽くしたか。
「ごめん……俺、弱くて嫌になる……」
目を伏せる俺の頭を、レイの大きな手が優しく撫でる。
「いいんだ。お前が俺のそばに戻ってくれれば、それでいい……少し休め。王都までは長い」
レイの声は低く、それでいて温かい。まるでその言葉だけで俺の心を包み込んでくれるようだった。
俺はその声に逆らえず、ゆっくりと目を閉じた。
向かい合って座っている。
フランベルクに戻るのかと思いきや、馬車は王都に向かっているらしい。
「どうして、王都に……?」
「アランのことだ。厄介なことになてきていてな」
「厄介……?」
俺が首を傾げると、レイは少し考えたようではあったが口を開いた。
「端的に言うと、アランとその父……叔父は隣国と共謀してフランベルクを国としたかったようだな」
苦笑と共にレイがそう言う。
それって、ええ……随分とスケールがでかい話になってきた。
元々フランベルクは自治領であって、国内でも他領とは異なる点が多い。
しかし、それって……
「……国家反逆罪では……」
俺がぼそりと呟くと、レイは溜息を吐いた。
「その通りだ」
「いやでも、そんな大きな話でなんで俺……?」
疑問が残るのはその部分だ。いくら俺を揺さぶったところで、それは何かになるのだろうか?そう考えているとレイが、俺をじっと見つめる。
「お前はフランベルクの“鍵”だ。お前が揺らげば揺らぐだけ、結界は弱くなる。が……アランと叔父はそこまでしか知らない。故に浅慮でお前を狙う。叔父は物理で、アランは心理で」
レイの声にはあからさまな苛立ちが混じっていた。
その様を見るだけで、俺はなんとなしに気分が良くなるから現金なものだ。
フランベルクの“鍵”。それはまさしく俺だ。
正当な領主が“鍵”を選び、決める。そしてその絆がフランベルクを守る……これはフランベルクに住んでいる人間ならだれでも知っているようなことだ。
そんな緩い内容で領が守れるわけはない。
領主とその伴侶にしか知らされない内容もある。
フランベルクの結界。魂の絆──そのシステムはこうだ。
まず儀式の最終段階で、“扉”と“鍵”の魂の一部が結界と融合する。その魂の一部が結界を安定させる根幹となり、片方が亡くなった場合でも一定期間は結界が維持される仕組みになっている。ただし、双方の絆が完全に切れるような事態──離婚、魂の拒絶などが起きると、結界がじわじわと弱体化していく。しかし、それにもちゃんと対応策がある。
自然魔力を一時的なエネルギー源とすることで結界は最低限の効力を発揮することとなるのだ。
馬車が揺れる中、レイは窓の外を見ながら口を開いた。
「アランも叔父も、ただフランベルクを国として独立させたいわけじゃない」
俺が眉をひそめると、レイは静かに続けた。
「叔父は、かつて父にフランベルクの領主の座を奪われたと考えている。だが、実際には、叔父には“鍵”を見つける資格がなかった。それがどれほど致命的か分かるか?」
レイが俺に視線を向けてくる。その目はどこか試すようだった。
「……結界が作れないから、領地として成り立たない?」
「その通りだ。フランベルクの結界はただの防壁じゃない。領地の自然環境を守り、周囲の敵対的な魔力を退ける根幹だ。それがない状態では、この領地は持たない」
「でも、叔父は……いや、アランも、それが分かってるんだろ?結界がなければ無理だって」
レイは一瞬だけ苦笑を浮かべた。
「分かっていても、叔父はそれを認めることができない。父の代に築かれた結界を“強奪された”と思い込んでいる。そして、その歪んだ執念が、アランにも影響を与えた」
彼の言葉には、アランに対する怒りだけでなく、わずかな哀れみが混じっていた。
「なるほど……でも、さぁ……」
聞けば聞くほど、考えれば考えるほど、俺は自分の浅はかさに眩暈がしそうだった。
レイの傍に立つと決めた時、それなりに色々と頭に叩き込んだはずなのだ。
それなのに、俺はそうした知識を使わず、感情だけで物事を決めつけて動いていた。
言い訳をするなら辛かったのは確かにある。けれども……。
「……俺、“鍵”に相応しい気がしない……」
弱音が口をつく。情けないことだと分かっているけど、止まらない。
喉の奥が詰まりそうになる。
「俺が、お前まで傷つけたら……」
言葉を絞り出すように吐き出すたびに、胸の奥が軋むように痛む。
その言葉にレイが俺の腕を掴んで自分の方に力強く引き寄せた。
レイの眉間に一瞬だけ皺が寄る。それからほんの僅かの間、言葉を飲み込むような間があった。
その間に、レイの手が俺の腕を掴む力が僅かに強まる。
「……それ以上言うなら、実力行使でその口を塞ぐ」
レイの声は低く、怒りを押し殺すように響いた。
けれど、その瞳の奥には、俺の弱さを受け止めようとする決意と、少しの痛みが浮かんでいた。
じんわりと、心の奥が熱くなる。
こんな情けない俺でも受け入れてくれるレイを、どうして俺は疑ったのか。
……疑わせるくらいの演技をほめた方がいいのかもしれない。
「……ごめん……」
「俺は何があってもお前しか選ばないし、お前だけだ」
レイの腕に包まれる。その温かさがじわじわと伝わり、胸の奥に熱いものが広がっていくのを感じた。
「……本当に?」
声は震えている。それでも、レイの言葉を求めずにはいられなかった。
「本当だ」
彼の声は低いけれど、どこまでも確かだった。それが、どれほど俺の心を軽くしたか。
「ごめん……俺、弱くて嫌になる……」
目を伏せる俺の頭を、レイの大きな手が優しく撫でる。
「いいんだ。お前が俺のそばに戻ってくれれば、それでいい……少し休め。王都までは長い」
レイの声は低く、それでいて温かい。まるでその言葉だけで俺の心を包み込んでくれるようだった。
俺はその声に逆らえず、ゆっくりと目を閉じた。
140
あなたにおすすめの小説
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
異世界で孵化したので全力で推しを守ります
のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL
俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中
油淋丼
BL
少女漫画のような人生を送っていたクラスメイトがある日突然命を落とした。
背景の一部のようなモブは、卒業式の前日に事故に遭った。
魔王候補の一人として無能力のまま召喚され、魔物達に混じりこっそりと元の世界に戻る方法を探す。
魔物の脅威である魔導騎士は、不思議と初対面のようには感じなかった。
少女漫画のようなヒーローが本当に好きだったのは、モブ君だった。
異世界に転生したヒーローは、前世も含めて長年片思いをして愛が激重に変化した。
今度こそ必ず捕らえて囲って愛す事を誓います。
激重愛魔導最強転生騎士×魔王候補無能力転移モブ
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる