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第2章
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鋭い短剣、隠し持った毒針、そしてその動き……王都に潜むただの盗賊ではない。
隣国の間者として訓練を受けた者たちの動きだ。
「……レイ」
俺が低く呟くと、レイはすでに剣を抜き、俺の前に立つ。
「俺の後ろにいろ」
「いや、それは無理」
「は?」
俺は軽く笑って短剣を手に取る。
「戦えないわけじゃないし、それに……ここで大人しく捕まるわけにもいかないだろ?捕まったほうが危なそうだしな」
レイは一瞬だけ俺を睨んだが、すぐにため息をついた。
「……わかった。ただし、無茶はするな」
「お前もな」
俺たちは背中合わせに立ち、間者たちを迎え撃つ態勢を取る。
出来ればあまり派手な立ち回りはしたくないところだ。
……なぁ、名前が決まってない我が子よ。
「チッ、生意気な……!」
間者の一人が先に動いた。
鋭い短剣が俺の腕を狙って突き出される。
すぐに身を翻し、反撃しようとするが——
シュッ!
何かが空を切る音がした。
「──ッ!?」
間者の動きが止まる。
男の手元を狙って放たれた一本の矢が、短剣を弾き飛ばしていた。
あ、見覚えがあるわ、これ。
「……間に合いましたね」
冷静な声が響く。
エミリーだ。
黒い装束に身を包んだ彼女が、屋根の上から弓を構えていた。
「王都の路地裏で勝手に騒ぎを起こさないでくださいません?いま、奥様はお休みになっていただかないといけません。それをあなたたちが騒ぎを起こすから……」
淡々とした口調ながら、その声には明らかな怒気が滲んでいる。
エミリーが助けに入ったことで、間者たちは一瞬ひるむ。
「くそっ、余計な奴が……!」
間者の一人が舌打ちをしながら再び短剣を構えるが——
「まあまあ、こんな場所で騒ぎを起こしてもらっては困るわねぇ?」
──その声と共に、風が吹いた。
「!?」
俺たちの間に、突如として華やかなドレスが翻る。
淡い青の衣装を身にまとい、上品な微笑を浮かべた──伯母上だ。
「……伯母上?」
俺が驚いて名前を呼ぶと、伯母上は楽しげに微笑んだ。
「ふふ、何やら面白いことになっているみたいじゃない?」
その手には、細身のレイピアが握られていた。
「……まさか、伯母上、剣を?」
「当然でしょう?貴族の嗜みよ」
「強いぞ」
レイが一言付け加えた。
伯母上は優雅な足捌きで俺たちの間に入り、間者たちを睨みつける。
「……さて、私の可愛い甥を狙ったのはどちらの愚か者かしら?」
その声には、かすかに冷たい怒気が混じっていた。
間者たちは一瞬ひるんだが、すぐに構えを立て直す。
「……余計な邪魔が入ったな」
「だが、人数で勝っているのはこっちだ!」
「そうねぇ……でも、勝てると思って?」
伯母上は軽やかにレイピアを構えた。
その動きは、まるで舞踏会での優雅なステップのようだ。
「エミリー、援護は頼めるかしら?」
「もちろんです、大奥様」
エミリーがすぐに弓を引き絞る。
「……さて」
レイが剣を構え直し、俺も短剣を手にする。
「じゃあ、さっさと片付けるとするか」
「ええ、さっさとね」
俺たちは間者たちを囲むように配置し、一斉に攻撃に転じた。
剣がひらめき、弓が飛ぶ。
……あー、うん。俺が一番弱いわ、これ……。
「がっ……!!」
最後の一人が倒れ込む。
レイの剣が相手の武器を弾き、伯母上の華麗な一撃が喉元を掠める。
エミリーの正確な矢が敵の足元を封じ、俺は相手の動きを削ぎながら立ち回った。
「……終わり、か」
俺は息を整えながら辺りを見渡す。
間者たちは全員戦闘不能になっていた。
「ええ、これで一件落着……とはいかないでしょうね」
エミリーが冷静に言う。
「こいつらはただの一部に過ぎない。おそらく、王都にはまだ別の潜伏者がいるはずです」
「そうでしょうねぇ……」
伯母上も微かに眉をひそめる。
「まあ、とりあえず……あなたたち、大丈夫?」
「ええ、なんとか……」
俺が頷くと、伯母上は微笑んだ。
「よかったわ。……でも、カイル?」
「……はい?」
「あなた、絶対に無理してるわね?」
「……えっ?」
突然の指摘に、俺は一瞬言葉を詰まらせる。
「顔色が悪いわよ?戦ってる間も、何度か動きが鈍ったでしょう?」
「……」
レイがすぐに俺の側に寄り、俺の手を握る。
「カイル……やっぱり無理をしてるな」
「……そんなことない……」
そう言いかけたが、自分で言っていて違和感があった。
確かに、秘薬で一時的に体調は回復したものの、完全ではない。
そして今の戦いで、またじわじわと疲労が押し寄せてきていた。
「……はぁ」
俺はゆっくり息を吐く。
「……ごめん」
「謝ることじゃないわ」
伯母上が俺の肩をポンと叩く。
「でも、少し休まないとね」
レイも静かに頷く。
「帰ろう、カイル」
俺はレイの手を借りながら、ゆっくりと歩き出す。
戦いは終わったが、王都の危機はまだ去っていない。
俺たちは一度退き、次の動きを考えなければならなかった。
隣国の間者として訓練を受けた者たちの動きだ。
「……レイ」
俺が低く呟くと、レイはすでに剣を抜き、俺の前に立つ。
「俺の後ろにいろ」
「いや、それは無理」
「は?」
俺は軽く笑って短剣を手に取る。
「戦えないわけじゃないし、それに……ここで大人しく捕まるわけにもいかないだろ?捕まったほうが危なそうだしな」
レイは一瞬だけ俺を睨んだが、すぐにため息をついた。
「……わかった。ただし、無茶はするな」
「お前もな」
俺たちは背中合わせに立ち、間者たちを迎え撃つ態勢を取る。
出来ればあまり派手な立ち回りはしたくないところだ。
……なぁ、名前が決まってない我が子よ。
「チッ、生意気な……!」
間者の一人が先に動いた。
鋭い短剣が俺の腕を狙って突き出される。
すぐに身を翻し、反撃しようとするが——
シュッ!
何かが空を切る音がした。
「──ッ!?」
間者の動きが止まる。
男の手元を狙って放たれた一本の矢が、短剣を弾き飛ばしていた。
あ、見覚えがあるわ、これ。
「……間に合いましたね」
冷静な声が響く。
エミリーだ。
黒い装束に身を包んだ彼女が、屋根の上から弓を構えていた。
「王都の路地裏で勝手に騒ぎを起こさないでくださいません?いま、奥様はお休みになっていただかないといけません。それをあなたたちが騒ぎを起こすから……」
淡々とした口調ながら、その声には明らかな怒気が滲んでいる。
エミリーが助けに入ったことで、間者たちは一瞬ひるむ。
「くそっ、余計な奴が……!」
間者の一人が舌打ちをしながら再び短剣を構えるが——
「まあまあ、こんな場所で騒ぎを起こしてもらっては困るわねぇ?」
──その声と共に、風が吹いた。
「!?」
俺たちの間に、突如として華やかなドレスが翻る。
淡い青の衣装を身にまとい、上品な微笑を浮かべた──伯母上だ。
「……伯母上?」
俺が驚いて名前を呼ぶと、伯母上は楽しげに微笑んだ。
「ふふ、何やら面白いことになっているみたいじゃない?」
その手には、細身のレイピアが握られていた。
「……まさか、伯母上、剣を?」
「当然でしょう?貴族の嗜みよ」
「強いぞ」
レイが一言付け加えた。
伯母上は優雅な足捌きで俺たちの間に入り、間者たちを睨みつける。
「……さて、私の可愛い甥を狙ったのはどちらの愚か者かしら?」
その声には、かすかに冷たい怒気が混じっていた。
間者たちは一瞬ひるんだが、すぐに構えを立て直す。
「……余計な邪魔が入ったな」
「だが、人数で勝っているのはこっちだ!」
「そうねぇ……でも、勝てると思って?」
伯母上は軽やかにレイピアを構えた。
その動きは、まるで舞踏会での優雅なステップのようだ。
「エミリー、援護は頼めるかしら?」
「もちろんです、大奥様」
エミリーがすぐに弓を引き絞る。
「……さて」
レイが剣を構え直し、俺も短剣を手にする。
「じゃあ、さっさと片付けるとするか」
「ええ、さっさとね」
俺たちは間者たちを囲むように配置し、一斉に攻撃に転じた。
剣がひらめき、弓が飛ぶ。
……あー、うん。俺が一番弱いわ、これ……。
「がっ……!!」
最後の一人が倒れ込む。
レイの剣が相手の武器を弾き、伯母上の華麗な一撃が喉元を掠める。
エミリーの正確な矢が敵の足元を封じ、俺は相手の動きを削ぎながら立ち回った。
「……終わり、か」
俺は息を整えながら辺りを見渡す。
間者たちは全員戦闘不能になっていた。
「ええ、これで一件落着……とはいかないでしょうね」
エミリーが冷静に言う。
「こいつらはただの一部に過ぎない。おそらく、王都にはまだ別の潜伏者がいるはずです」
「そうでしょうねぇ……」
伯母上も微かに眉をひそめる。
「まあ、とりあえず……あなたたち、大丈夫?」
「ええ、なんとか……」
俺が頷くと、伯母上は微笑んだ。
「よかったわ。……でも、カイル?」
「……はい?」
「あなた、絶対に無理してるわね?」
「……えっ?」
突然の指摘に、俺は一瞬言葉を詰まらせる。
「顔色が悪いわよ?戦ってる間も、何度か動きが鈍ったでしょう?」
「……」
レイがすぐに俺の側に寄り、俺の手を握る。
「カイル……やっぱり無理をしてるな」
「……そんなことない……」
そう言いかけたが、自分で言っていて違和感があった。
確かに、秘薬で一時的に体調は回復したものの、完全ではない。
そして今の戦いで、またじわじわと疲労が押し寄せてきていた。
「……はぁ」
俺はゆっくり息を吐く。
「……ごめん」
「謝ることじゃないわ」
伯母上が俺の肩をポンと叩く。
「でも、少し休まないとね」
レイも静かに頷く。
「帰ろう、カイル」
俺はレイの手を借りながら、ゆっくりと歩き出す。
戦いは終わったが、王都の危機はまだ去っていない。
俺たちは一度退き、次の動きを考えなければならなかった。
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