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番外編
元社畜のバレンタイン布教……する気はなかった
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王都の空は澄み渡り、冬の冷たい空気が心地よく肌を撫でていた。
馬車の車輪が石畳を軽やかに滑る音を聞きながら、俺は久々の王都の景色を眺めていた。
「久しぶりね、カイル」
母——レイラが微笑む。
「うん、なんだか懐かしい」
王都は以前と変わらず活気に満ちている。
市場では商人たちの掛け声が響き、貴族の館では次の社交界の話題に花が咲いていることだろう。
「今夜はセリアお姉さまの館で晩餐でしょう?」
母の言葉に、俺は少し肩をすくめた。
「また大騒ぎになりそうで怖い……」
「まあ、当然でしょうね。今回はあの子もいるもの。まずはあなたでしょうけど」
母はくすくすと笑いながら、「でもあなたのことが大好きだから」と付け加えた。
俺はため息をつく。
──そしてその予想は、案の定的中した。
「カイル!!!」
夜になり、晩餐の為に向かった王都のエヴァンス邸。
フランベルクの邸よりは小さいものの、豪奢なつくりだ。
館の扉が開いた瞬間、俺の名前が響き渡った。
次の瞬間、ふわりとした香りと共に、ぎゅうっと抱きしめられる。
「えっ、伯母上っ、ちょ、苦し……」
「まあまあまあ!!久しぶりじゃないの!!もっと顔を見せなさい!」
セリア伯母上は俺の顔を覗き込むと、満足そうに微笑んだ。
「やっぱりレイラにそっくり……!可愛いわねぇ!!」
「ええと、もう“可愛い”って歳じゃ……」
「まあ!何言ってるの!?あなたはいつまで経っても可愛いのよ!!」
「……」
ああ、この調子だ。
レイが隣で「やっぱりな」という顔をしている。
晩餐の席では、俺とレイが王都の様子を話す中、伯母上がふと興味深そうに尋ねた。
「そういえば、何か面白い話題はないかしら?」
「面白い話題……?」
「ええ。もうちょっとしたら社交界のシーズンでしょう?新しい風習とか、流行りのものとか!王都の貴婦人たちはそういうのに敏感なのよ!」
そこで、俺はふと思い出した。
「そういえば……」
伯母上が興味津々に身を乗り出す。
「昔聞いたことがあるんだけど、遠い異国では──**“バレンタイン”**という風習があるんだって」
「バレンタイン?」
伯母上が目を輝かせる。
「それはどんなものなの?」
「ええと……その国では、2月のある日に、想いを寄せる人に甘いものを贈る習慣があるらしい」
「まあ!!それは素敵!!」
伯母上はぱっと手を叩いた。
「甘いものを贈るのね!例えば?」
「チョコレートとか……」
「チョコレート!?」
伯母上は身を乗り出し、母も興味深そうに耳を傾けている。
「お菓子を贈って気持ちを伝えるなんて、とてもロマンティックじゃない!」
「……まあ、そうですね」
「ちょうど王都の社交界も春の催しを考えていたのよ。これ、取り入れてみたら素敵だと思わない!?」
えっ、ちょっと待って。
「ええと……?」
「決まりね!!少し時期がずれても大丈夫よね」
伯母上は勝手に話を進め、母も「まあ、それは面白そうね」と微笑む。
──いや、これ、王都で流行るのか?あれ、てかこれ……春までここにいるパターン……?
「そうと決まったら、お菓子職人に相談して、すぐに準備しないと!レイ、あなたも手伝いなさい!」
「……なぜ俺が」
「当然でしょ!?カイルもあなたに贈りたいのよ⁈」
「……」
レイがちらりと俺を見る。
俺は咳払いをして、目を逸らした。ごめん。レイ……。
※
あっという間に春の入口だ。
バレンタインは、予想以上の盛り上がりを見せた。
菓子店の前には長蛇の列ができ、貴族たちは**「誰に贈るか」を社交界で大いに語り合い、庶民の間でも「甘いものを贈る日」**として定着し始めている。
市場を動かす力に俺は目を瞠るばかりだった。
——まさに、爆速マーケティング。
そして——俺は今、王都の屋敷の一室で、手作りチョコを作っていた。
「……なんか、昔を思い出すな」
俺は昔いた世界の話を思い出しながら、慎重にチョコレートを湯煎して溶かしていく。
久々の料理だったが、意外と手が覚えていた。
レイに渡すなら、やっぱり特別なものがいい。
形はシンプルなものにしたけど、少しだけスパイスを効かせたビターな味にしてみた。
「……よし」
完成したチョコレートを丁寧に包み、レイの部屋へ向かう。
レイは窓際で、王都の夜景を眺めていた。
静かで、穏やかな時間。
俺はそっと近づき、彼の背中に声をかける。
「レイ」
「……ん?」
振り向いた彼の前に、小さな包みを差し出す。
「バレンタイン、だから……その、チョコレートを」
レイは一瞬、俺と包みを交互に見た。
「お前が……作ったのか?」
「うん」
少し緊張しながら答えると、レイは静かに包みを開け、一粒つまんで口に運んだ。
「……」
ぱくり、と。
ゆっくりと噛みしめる。
——沈黙。
「……どう?」
「……甘い」
「そりゃそうだろ!」
俺は即座にツッコミを入れる。
「もうちょっとなんかないのかよ~!?美味しいとか、食感がいいとか!!」
レイはチョコをもう一つ口に入れたあと、ゆっくりと目を細めた。
「……美味い」
その静かな一言に、俺は肩の力を抜いた。
「よかった……」
レイは俺をじっと見つめる。
「お前が俺のために作ったのか?」
「そうだよ」
「……ふん」
レイはわずかに唇の端を上げた。
次の瞬間、俺の手首を引き、軽く抱き寄せる。
「っ!」
「なら、礼をしないとな」
そう言って、そっと額に口づけを落とす。
「……レイ?」
「贈り物の礼だ。……お前にも、何か贈る」
そう囁く声が、やけに甘くて、心臓が跳ねる。
レイの唇が俺の唇に重なり、軽く啄まれた。
「……ん……」
俺は自然と目を閉じ、ゆっくりと彼の腕に身を預けた。
──が。
「……ふえぇぇぇ……!!」
遠くから、子供の泣き声が響いた。
「……」
「……」
甘い時間、終了。
「……起きたか」
「……みたいだな」
俺とレイは顔を見合わせ、苦笑する。
「……じゃあ、行こうか。父上の抱っこ大好きだからなぁ……」
「……ああ」
こうして、俺たちの**“バレンタイン”**は、甘く、そしてちょっと騒がしく幕を閉じたのだった——。
馬車の車輪が石畳を軽やかに滑る音を聞きながら、俺は久々の王都の景色を眺めていた。
「久しぶりね、カイル」
母——レイラが微笑む。
「うん、なんだか懐かしい」
王都は以前と変わらず活気に満ちている。
市場では商人たちの掛け声が響き、貴族の館では次の社交界の話題に花が咲いていることだろう。
「今夜はセリアお姉さまの館で晩餐でしょう?」
母の言葉に、俺は少し肩をすくめた。
「また大騒ぎになりそうで怖い……」
「まあ、当然でしょうね。今回はあの子もいるもの。まずはあなたでしょうけど」
母はくすくすと笑いながら、「でもあなたのことが大好きだから」と付け加えた。
俺はため息をつく。
──そしてその予想は、案の定的中した。
「カイル!!!」
夜になり、晩餐の為に向かった王都のエヴァンス邸。
フランベルクの邸よりは小さいものの、豪奢なつくりだ。
館の扉が開いた瞬間、俺の名前が響き渡った。
次の瞬間、ふわりとした香りと共に、ぎゅうっと抱きしめられる。
「えっ、伯母上っ、ちょ、苦し……」
「まあまあまあ!!久しぶりじゃないの!!もっと顔を見せなさい!」
セリア伯母上は俺の顔を覗き込むと、満足そうに微笑んだ。
「やっぱりレイラにそっくり……!可愛いわねぇ!!」
「ええと、もう“可愛い”って歳じゃ……」
「まあ!何言ってるの!?あなたはいつまで経っても可愛いのよ!!」
「……」
ああ、この調子だ。
レイが隣で「やっぱりな」という顔をしている。
晩餐の席では、俺とレイが王都の様子を話す中、伯母上がふと興味深そうに尋ねた。
「そういえば、何か面白い話題はないかしら?」
「面白い話題……?」
「ええ。もうちょっとしたら社交界のシーズンでしょう?新しい風習とか、流行りのものとか!王都の貴婦人たちはそういうのに敏感なのよ!」
そこで、俺はふと思い出した。
「そういえば……」
伯母上が興味津々に身を乗り出す。
「昔聞いたことがあるんだけど、遠い異国では──**“バレンタイン”**という風習があるんだって」
「バレンタイン?」
伯母上が目を輝かせる。
「それはどんなものなの?」
「ええと……その国では、2月のある日に、想いを寄せる人に甘いものを贈る習慣があるらしい」
「まあ!!それは素敵!!」
伯母上はぱっと手を叩いた。
「甘いものを贈るのね!例えば?」
「チョコレートとか……」
「チョコレート!?」
伯母上は身を乗り出し、母も興味深そうに耳を傾けている。
「お菓子を贈って気持ちを伝えるなんて、とてもロマンティックじゃない!」
「……まあ、そうですね」
「ちょうど王都の社交界も春の催しを考えていたのよ。これ、取り入れてみたら素敵だと思わない!?」
えっ、ちょっと待って。
「ええと……?」
「決まりね!!少し時期がずれても大丈夫よね」
伯母上は勝手に話を進め、母も「まあ、それは面白そうね」と微笑む。
──いや、これ、王都で流行るのか?あれ、てかこれ……春までここにいるパターン……?
「そうと決まったら、お菓子職人に相談して、すぐに準備しないと!レイ、あなたも手伝いなさい!」
「……なぜ俺が」
「当然でしょ!?カイルもあなたに贈りたいのよ⁈」
「……」
レイがちらりと俺を見る。
俺は咳払いをして、目を逸らした。ごめん。レイ……。
※
あっという間に春の入口だ。
バレンタインは、予想以上の盛り上がりを見せた。
菓子店の前には長蛇の列ができ、貴族たちは**「誰に贈るか」を社交界で大いに語り合い、庶民の間でも「甘いものを贈る日」**として定着し始めている。
市場を動かす力に俺は目を瞠るばかりだった。
——まさに、爆速マーケティング。
そして——俺は今、王都の屋敷の一室で、手作りチョコを作っていた。
「……なんか、昔を思い出すな」
俺は昔いた世界の話を思い出しながら、慎重にチョコレートを湯煎して溶かしていく。
久々の料理だったが、意外と手が覚えていた。
レイに渡すなら、やっぱり特別なものがいい。
形はシンプルなものにしたけど、少しだけスパイスを効かせたビターな味にしてみた。
「……よし」
完成したチョコレートを丁寧に包み、レイの部屋へ向かう。
レイは窓際で、王都の夜景を眺めていた。
静かで、穏やかな時間。
俺はそっと近づき、彼の背中に声をかける。
「レイ」
「……ん?」
振り向いた彼の前に、小さな包みを差し出す。
「バレンタイン、だから……その、チョコレートを」
レイは一瞬、俺と包みを交互に見た。
「お前が……作ったのか?」
「うん」
少し緊張しながら答えると、レイは静かに包みを開け、一粒つまんで口に運んだ。
「……」
ぱくり、と。
ゆっくりと噛みしめる。
——沈黙。
「……どう?」
「……甘い」
「そりゃそうだろ!」
俺は即座にツッコミを入れる。
「もうちょっとなんかないのかよ~!?美味しいとか、食感がいいとか!!」
レイはチョコをもう一つ口に入れたあと、ゆっくりと目を細めた。
「……美味い」
その静かな一言に、俺は肩の力を抜いた。
「よかった……」
レイは俺をじっと見つめる。
「お前が俺のために作ったのか?」
「そうだよ」
「……ふん」
レイはわずかに唇の端を上げた。
次の瞬間、俺の手首を引き、軽く抱き寄せる。
「っ!」
「なら、礼をしないとな」
そう言って、そっと額に口づけを落とす。
「……レイ?」
「贈り物の礼だ。……お前にも、何か贈る」
そう囁く声が、やけに甘くて、心臓が跳ねる。
レイの唇が俺の唇に重なり、軽く啄まれた。
「……ん……」
俺は自然と目を閉じ、ゆっくりと彼の腕に身を預けた。
──が。
「……ふえぇぇぇ……!!」
遠くから、子供の泣き声が響いた。
「……」
「……」
甘い時間、終了。
「……起きたか」
「……みたいだな」
俺とレイは顔を見合わせ、苦笑する。
「……じゃあ、行こうか。父上の抱っこ大好きだからなぁ……」
「……ああ」
こうして、俺たちの**“バレンタイン”**は、甘く、そしてちょっと騒がしく幕を閉じたのだった——。
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レイのセリフがきゅんきゅんします!
お返事が遅くなり申し訳ないです💦
読んでいただきありがとうございます😊
キュンキュン来ますか?!良かったです♪
これからもキュンキュンできるように、レイさんに頑張ってもらいますね!(笑)