社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし

文字の大きさ
56 / 57
第2章

48

しおりを挟む
王宮の大広間。
王グラハム三世の前で、俺たちは 王都での襲撃事件 について報告していた。
レイが静かに状況を説明すると、王は目を細め、肘掛けに指を叩く。

「ふむ……つまり、隣国の間者どもが“カイル・エヴァンスを確保すればフランベルクが落ちる”と信じ込み、王都で暗躍していたと」
「はい。しかし、間者たちは捕縛したものの、おそらくこれは 氷山の一角 かと」

エミリーが淡々と補足する。

「彼らが持っていた短剣や毒は、王都に出回るようなものではありません。隣国から持ち込まれたものと思われます」
「ふん……やはりか」

王は軽く舌打ちをした。

「カイルを攫えばフランベルクが無力化すると思っているとは、滑稽な話だな」

俺は苦笑しつつも、緊張を解かずに王を見つめた。

「ですが、彼らが本気で俺を狙っているのは間違いありません。このままだと、王都での襲撃が続く可能性も……」
「それについては、すでに対策を練っている」

王が視線を巡らせると、側近たちが頷く。

「王都の警備をさらに厳重にする。間者の捜索も強化するよう手を打った。それと──」

王は鋭く俺を見つめた。

「お前の安全を最優先とする。しばらくは王宮内で過ごせ」
「……え?」
「王都のどこに間者が潜んでいるかわからぬ以上、外を動くのは危険すぎる」

レイがすぐに口を挟んだ。

「ですが、王宮内も完全に安全とは言い切れません」
「だからこそ、お前が守れ」

王はレイに視線を向ける。

「お前が常に傍にいれば問題あるまい。それに、カイルの体調もある」
「……っ」

レイの表情が曇る。

「王宮にいる間に休め、ということですか?」
「ああ」

俺は思わず口を開きかけたが、王の視線が「黙れ」と言っているようで、ぐっと堪えた。
──つまり、王宮での “強制療養” ってことか……。
正直、動きたかった。
フランベルクのことも気になるし、隣国の動向も知りたかった。
でも、体調のことを考えれば……このまま無理をすれば、あとで余計に足を引っ張ることになる。

「……わかりました」

俺がそう答えると、王は満足そうに頷いた。

「よし。では、一旦この件は預かる。隣国の動きについても調べを進める」
「……ありがとうございます」

俺は頭を下げた。
しかし——その時だった。
──ドンッ!!
王宮の扉が勢いよく開いた。

「陛下!!!」

慌ただしい声と共に、王宮の近衛騎士が駆け込んでくる。

「何事だ?」
「隣国の特使が王宮に参上!! “至急、カイル・エヴァンスとの面会を求める”と……!」
「──なんだと?」

空気が、一気に張り詰めた。

「……もう動いてきたか」

レイが低く呟く。

「来い、カイル」

王が椅子から立ち上がり、重く告げる。

「さて、“どんな言い訳”を持ってくるのか……聞いてやろうではないか」

俺は拳を握り、王と共に謁見の間へと向かった——。



王宮の謁見の間。
王グラハム三世が王座に座し、俺とレイがその傍らに控える。
広間には重苦しい沈黙が流れ、近衛騎士たちが緊張した面持ちで立ち並んでいた。
その中に入ってきたのは、

「フン、随分と待たせるではないか」

金の刺繍が施された濃紺の礼服を纏い、肩をいからせた男が傲慢な足取りで入ってきた。
隣国の特使、ラウル・マティス。
鋭い鷹のような目が、まっすぐ俺を捉える。

「これは失礼、グラハム三世陛下。急な訪問にも関わらず、謁見の場を設けていただき感謝いたします」
「口上はいい。要件を述べよ」

王が冷ややかに言い放つと、特使ラウルは薄く笑った。

「では、単刀直入に申し上げましょう」

一拍の沈黙。そして──

「我が国は、カイル・エヴァンス殿の即時引き渡しを要求する」

広間の空気が凍りついた。

「……なんだと?」

レイが低く呟く。

「貴様、正気か?」

父──リチャード・エルステッド伯爵が険しい表情でラウルを睨みつける。

「いかにも」

ラウルは堂々と頷く。

「カイル殿は、元エヴァンス家の血を引く者。我が国にとって“重要な人物”なのです」

俺の拳が無意識に握りしめられる。

「重要、ね……」

王が指で肘掛けを軽く叩く。

「どう重要なのか、説明してもらおうか」
「ふむ」

ラウルは俺を一瞥し、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「エヴァンス家は本来、我が国と深いつながりを持つ貴族でした。そして、カイル殿こそがその最後の後継者。我が国としては、カイル殿が王国にいることを極めて遺憾に思っております」
「は?」

俺は思わず眉をひそめる。
隣国に?いつからそんな話になった……?

「遺憾……?」
「ええ」

ラウルは薄く笑う。

「王国が、我が国の貴族を勝手に庇護するのは問題がある。我が国の貴族は、我が国の法の下で裁かれるべきでしょう」
「ほう?」

王が軽く鼻で笑う。

「つまり、カイルを“裁く”つもりなのか?」
「……いえ」

ラウルはゆっくり首を振った。

「裁くのではなく、彼を“迎え入れる”のです」
「迎え入れる?」

俺は警戒しながら言葉を繰り返す。

「そうです。我が国の貴族として──いえ、我が国の“要職”としてお迎えしたい」

その瞬間、俺の隣でレイの殺気がはっきりとした形を持った。

「……なるほど」

王は冷ややかに笑う。

「要するに、お前たちは“カイルを我が国から引き離し、手に入れたい”だけだな?」
「……とんだ内政干渉だな」

父も低い声で呟く。
ラウルは余裕の笑みを浮かべたまま、肩をすくめた。

「誤解なさらないでいただきたい。我々はただ、“適切な立場にある者”を迎え入れようとしているだけです。何も強制はいたしませんよ?」
「それが強制でなければ何なのだ」

レイが冷たく言い放つ。
ラウルは「まあまあ」と手を上げる。

「王国としても、我が国との無用な衝突は避けたいでしょう?ここでカイル殿をお引き渡しいただければ、平和的解決が可能となる」

王はふん、と鼻を鳴らした。

「それで?」
「え?」
「その馬鹿げた要求を、我が国が呑むと本気で思っているのか?」

ラウルの表情が一瞬だけ強張った。

「……陛下、それは……」
「お前はさっきから、さも当然のように“引き渡せ”と言っているが」

王は薄く笑う。

「カイルが元エヴァンス家の者であろうと、現在はフランベルクの領主の正当な妻だ」
「……っ」
「さらに、フランベルクは王国の要衝。その領主の伴侶を“引き渡せ”とは、要するに“フランベルクを無防備にしろ”と言っているのと同じだ」

王の目が、獲物を狙う猛禽のように鋭くなる。

「どこの馬鹿が、このお粗末な提案をした?」

ラウルの顔が引きつる。

「そ、それは……」
「まったく……」

王は呆れたようにため息をついた。

「交渉とは、もう少しまともな理屈を持ってこい」

ラウルは苦々しく唇を噛む。

「……では」
「帰れ」

王が手を振る。

「今すぐな」

ラウルは一瞬だけ抗おうとしたが、近衛騎士たちが剣の柄に手をかけると、すぐに態度を翻した。

「……この件、我が国の上層部と再度協議させていただきます」
「勝手にしろ」

ラウルは一礼し、踵を返した。
広間の扉が閉じる。

「……」

沈黙。
王は疲れたように肘掛けに寄りかかった。

「……いよいよ、隣国も動くな」

父が渋い顔で呟く。

「はい」

レイも低く頷く。

「カイル」

王がこちらを向く。

「……本当に、面倒なことになったな」
「……ええ、全くです……」

俺は深いため息を吐いた。
──どうやら、俺たちに休息の暇はなさそうだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼
BL
少女漫画のような人生を送っていたクラスメイトがある日突然命を落とした。 背景の一部のようなモブは、卒業式の前日に事故に遭った。 魔王候補の一人として無能力のまま召喚され、魔物達に混じりこっそりと元の世界に戻る方法を探す。 魔物の脅威である魔導騎士は、不思議と初対面のようには感じなかった。 少女漫画のようなヒーローが本当に好きだったのは、モブ君だった。 異世界に転生したヒーローは、前世も含めて長年片思いをして愛が激重に変化した。 今度こそ必ず捕らえて囲って愛す事を誓います。 激重愛魔導最強転生騎士×魔王候補無能力転移モブ

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

処理中です...