恋した君は、嘘のキミ──それでも、好きにならずにいられなかった──

めがねあざらし

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第2話:危険な距離

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店内の奥、やけに静かな洗面所に入ると、鏡の前で深呼吸をした。
頬が熱い。手のひらに触れた自分の顔が、思ったより火照っていて驚く。

「……落ち着け、俺。なんなんだよ、さっきの……」

独り言のように呟いて、水を出し、手を冷やす。
指先に冷たさが戻ってくるたびに、現実感が少しずつ戻ってきた。

(あれは営業トーク。ホストはそういうもん。俺が浮かれてどうすんだ……!)

何度も自分に言い聞かせたところで、心臓のバクバクだけはおさまらない。
ふと、背後の扉が開く音がした。

「……陸くん」

振り返ると、レオンがいた。
少しだけ眉を下げて、俺の顔をじっと見ている。

「ごめん。無理させた?」
「……いや、別に、そういうわけじゃ……」
「でも、ちょっと苦しそうな顔してたから」

そのまま、一歩。
また一歩と、レオンが近づいてくる。
逃げられないと気づいた頃には、もう目の前にいた。

「……大丈夫?」

そう言って、レオンが俺の顔を覗き込む。
距離は、あと少しで触れるくらい。

息が止まった。
目の前にある、整った顔。
ほんの少し香る香水の匂い。
さっきまで軽口を叩いていた男とは、別人のように真剣な表情。

(近い、近すぎる……これ、もうダメだって)

「……大丈夫?」

そう言って、レオンが俺の顔を覗き込む。
距離は、あと少しで触れるくらい。

息が止まった。
目の前にある、整った顔。
ほんの少し香る香水の匂い。
さっきまで軽口を叩いていた男とは、別人のように真剣な表情。

「さっきね、ちょっと本気出しすぎた。驚かせたよね、ごめん」

「……え、いや……」

否定しようとしても、声が上手く出ない。

レオンの手が、そっと俺の頬に触れた。

(やばい。これ、やばい……)

何かが起きる予感がして、体が固まる。
レオンの視線が、ゆっくりと俺の唇へと落ちた。
その動きだけで、心臓が爆発しそうになる。

(来る、来る、ちょっと待っ──)

――でも、来なかった。
ほんの数センチのところで、レオンはふっと目を伏せ、静かに距離を戻した。

「……やめとく。今日はまだ、やめておくね」

その声は、どこか名残惜しそうで、それが逆に俺の頭を完全に混乱させた。

「…………っ」

なにも言えないまま、俺は洗面所を出た。
席に戻っても、胸の高鳴りは治まらないままで落ち着かない。
そんな時、広輝が俺の方に目を向ける。

「そろそろ帰る?誕生日ボーイも、なんか満足してそうだし」

広輝の軽い声にうなずくだけで精一杯だった。
レオンは何も言わず、俺たちが席を立つのを見送っていた。
ただ、その視線だけが最後まで、俺のことを見ていたような気がした。
店を出る直前、レオンがふいにポケットからスマホを取り出して、軽く掲げた。

「陸くん、LINE教えてもらってもいい?」

その声に、思わず足が止まる。

「……え、あ……は、い……?」

流されるようにスマホを取り出し、コードを読み取る。
レオンの名前が“LEON(☆)”と表示されて、妙に現実味がなくて、でも、確かにそこにいた。

「ありがとう。また、会えるといいな」

そう言って、笑ったその顔が、帰り道ずっと頭から離れなかった。

(これは,まずい気がする……)

頭の中で警鐘が鳴り響いてはいたが、俺はそれを聞かないことにした。
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