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第39話:可愛いの攻防
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大学が終わり一緒に帰宅する夜。
風は少し冷たかった。
昼間の熱気を残したアスファルトの匂いと、秋めいた乾いた風が混じって、鼻の奥をくすぐる。
街灯の下を歩くたびに、影が長く伸びては縮む。
俺と奏真の足音だけが、規則正しく夜道に響いていた。
繋いだ手が、まだ熱い。
鼓動のせいか、手のひらに汗が滲んでいる。
なのに奏真は、まるで何でもない顔で歩いていた。
それが余計に腹立たしい。
「……なあ」
不意に落ちた低い声。
振り返ると、奏真が俺を見ていた。
街灯に縁どられた横顔は、落ち着き払っていて、揺るがない。
「お前ってさ、やっぱ可愛いよな」
「はあ?! な、何言ってんだバカ!」
一瞬で顔が熱くなる。
慌てて手を振りほどこうとしたが、強く握られていて逃げられなかった。
「誰が可愛いだ! 俺は男だぞ! 可愛いわけねーだろ!」
「いや、陸は可愛いよ」
あまりにもさらっと言うから、言葉が詰まった。
否定したいのに、喉が乾いて声が出ない。
どう見ても俺は、顔を真っ赤にして必死で言い返していて――可愛いとしか言いようのない反応をしていた。
「ほら、今の顔。可愛い」
「~~っ、黙れ!」
思わず小突くと、奏真はくすりと笑って俺の手を掴み直す。
余裕のある指先が、余計に憎らしい。
「……そんなに可愛い顔して、俺に隙を見せるのが悪い」
「は?」
意味がわからないまま視線を上げると、すぐそこに彼の顔があった。
呼吸の隙間を縫うように、唇が重なった。
一瞬だけの触れるキス。
熱に打たれたみたいに頭が真っ白になる。
抗議の言葉を出そうとした瞬間、また唇を塞がれた。
今度は深く。舌先が触れ合った途端、背筋に電流が走る。
息が乱れて、無意識に彼の胸を掴んでいた。
「……やめろって……言ってるのに……!」
必死に吐き出した声は震えていて、説得力がない。
むしろ彼を煽るみたいに、また唇を重ねられる。
逃げ道なんてなかった。
深く押し込まれた舌先が、不器用に俺の舌に絡んでくる。
どうしていいかわからず、ただ受け止めることしかできない。
酸素が奪われて、胸が苦しくなる。
鼻先が触れ合って、熱い息が混ざり合う。
耳の奥で、自分の荒い呼吸と心臓の音ばかりが響いていた。
やっと離れたとき、奏真は荒い息のまま低く囁いた。
「陸……キスはあまり慣れてない?……余計に、可愛いな」
「っ……!」
胸の奥が爆発する。
耳まで熱くなり、言葉が勝手に飛び出す。
「う、うるさい! ……はじめてだから仕方ないだろう?!」
沈黙。
自分の声が夜に響いて、驚いて口を押さえる。
けれどもう遅かった。
奏真の目が見開かれる。
次の瞬間、震えるように息を漏らす。
「……はじめて……俺で?」
その声音があまりにも真剣で、俺は余計に耐えられなかった。
いつも余裕ぶっているこいつが、今は俺の言葉に揺さぶられているようだ。
その事実が、胸にずしんと響いた。
「……っ、もう知らねー!」
顔が真っ赤すぎて直視できない。
俺はふてくされたように肩をそむけ、腕で顔を隠す。
「陸。本当に?」
「知らねーったら、知らねー!」
それでも奏真は横に並んできて、そっと肩に頭を預けてきた。
体温が伝わる。耳元で、小さく囁かれる。
「……やっぱり可愛い」
「~~~~っ!」
声にならない声を吐いて、俺はただ顔を覆った。
抗議の言葉なんて、もう出てこなかった。
先が思いやられるな、なんて俺は思ったのだった。
風は少し冷たかった。
昼間の熱気を残したアスファルトの匂いと、秋めいた乾いた風が混じって、鼻の奥をくすぐる。
街灯の下を歩くたびに、影が長く伸びては縮む。
俺と奏真の足音だけが、規則正しく夜道に響いていた。
繋いだ手が、まだ熱い。
鼓動のせいか、手のひらに汗が滲んでいる。
なのに奏真は、まるで何でもない顔で歩いていた。
それが余計に腹立たしい。
「……なあ」
不意に落ちた低い声。
振り返ると、奏真が俺を見ていた。
街灯に縁どられた横顔は、落ち着き払っていて、揺るがない。
「お前ってさ、やっぱ可愛いよな」
「はあ?! な、何言ってんだバカ!」
一瞬で顔が熱くなる。
慌てて手を振りほどこうとしたが、強く握られていて逃げられなかった。
「誰が可愛いだ! 俺は男だぞ! 可愛いわけねーだろ!」
「いや、陸は可愛いよ」
あまりにもさらっと言うから、言葉が詰まった。
否定したいのに、喉が乾いて声が出ない。
どう見ても俺は、顔を真っ赤にして必死で言い返していて――可愛いとしか言いようのない反応をしていた。
「ほら、今の顔。可愛い」
「~~っ、黙れ!」
思わず小突くと、奏真はくすりと笑って俺の手を掴み直す。
余裕のある指先が、余計に憎らしい。
「……そんなに可愛い顔して、俺に隙を見せるのが悪い」
「は?」
意味がわからないまま視線を上げると、すぐそこに彼の顔があった。
呼吸の隙間を縫うように、唇が重なった。
一瞬だけの触れるキス。
熱に打たれたみたいに頭が真っ白になる。
抗議の言葉を出そうとした瞬間、また唇を塞がれた。
今度は深く。舌先が触れ合った途端、背筋に電流が走る。
息が乱れて、無意識に彼の胸を掴んでいた。
「……やめろって……言ってるのに……!」
必死に吐き出した声は震えていて、説得力がない。
むしろ彼を煽るみたいに、また唇を重ねられる。
逃げ道なんてなかった。
深く押し込まれた舌先が、不器用に俺の舌に絡んでくる。
どうしていいかわからず、ただ受け止めることしかできない。
酸素が奪われて、胸が苦しくなる。
鼻先が触れ合って、熱い息が混ざり合う。
耳の奥で、自分の荒い呼吸と心臓の音ばかりが響いていた。
やっと離れたとき、奏真は荒い息のまま低く囁いた。
「陸……キスはあまり慣れてない?……余計に、可愛いな」
「っ……!」
胸の奥が爆発する。
耳まで熱くなり、言葉が勝手に飛び出す。
「う、うるさい! ……はじめてだから仕方ないだろう?!」
沈黙。
自分の声が夜に響いて、驚いて口を押さえる。
けれどもう遅かった。
奏真の目が見開かれる。
次の瞬間、震えるように息を漏らす。
「……はじめて……俺で?」
その声音があまりにも真剣で、俺は余計に耐えられなかった。
いつも余裕ぶっているこいつが、今は俺の言葉に揺さぶられているようだ。
その事実が、胸にずしんと響いた。
「……っ、もう知らねー!」
顔が真っ赤すぎて直視できない。
俺はふてくされたように肩をそむけ、腕で顔を隠す。
「陸。本当に?」
「知らねーったら、知らねー!」
それでも奏真は横に並んできて、そっと肩に頭を預けてきた。
体温が伝わる。耳元で、小さく囁かれる。
「……やっぱり可愛い」
「~~~~っ!」
声にならない声を吐いて、俺はただ顔を覆った。
抗議の言葉なんて、もう出てこなかった。
先が思いやられるな、なんて俺は思ったのだった。
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