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第一章 王国軍大佐~超火力で華麗に変態吸血鬼を撃つ~
第三話 吸血鬼と彼女の銃
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眼下に湖上へと着水する白亜の船体を眺めながら、その男は降り注ぐ月光に酔っていた。
――今宵は満月だ。
《魔》にすべてを捧げたこの身は、満ちた月からの莫大な活力を受け、比類なき魔力をみなぎらせている。
四大元素などと、愚かしい人類はこの惑星の活力を理解したつもりのようだが……。
我々が識る第五の力とその素晴らしさに気付いていない。
――そう、この惑星には五大元素の活力が存在するのだ。
我が愛する天空の月は、はるか遠き宇宙より飛来し、この惑星の創生期に一度一つとなってから分かれた後、今のように衛星として存在している。
その存在は、その重力によってこの惑星のすべてに影響を与えているのだ。
《地》・《水》・《火》・《風》のいずれの元素も、この《空》の元素には及ばないだろう。
さて、今宵の《生贄》は、あの白い船の中で、こちらが作り出したこの状況を前に、一体どうしていることだろう。
以前、映像通信で見かけた、あの美しく愛らしい顔を恐怖で染めているのだろうか。
それとも、目的地にたどり着く寸前で足止めを食ったことに、透き通るような肌を朱に染めて激昂しているのだろうか。
こちらとしては、前者の方がありがたい。
彼女の、嗚咽を漏らしながら恐怖に満ち涙する瞳を堪能した後、美しいうなじに牙を立て、暖かで甘美なその血をゆっくりと味わいたいものだ。
きっと彼女の血は、甘くなめらかで味わい深いことだろう。
舌の上で転がしながらその甘みを楽しみ、のどの奥にまとわりつく酸味に心を震わせることとしよう。
そして彼女は我が眷属に成り下がって、あの美しくも艶やかな肢体でしなを作り、陶酔した瞳で傅くことになるのだ。
そうなれば、『あの情報』も聞き出しやすいというもの――
魔竜にして《魔》の契約により《吸血鬼》と化した男――サジヴァルド・デルマイーユ。
彼は、のどの奥からこみ上げる愉悦を堪えることが出来ずに、その身を歓喜に震わせていた。
☆
《大佐殿》は、特等客席で身支度を調えながら、ブリッジの船長と内線交信機をハンズフリー状態にして通信していた。
「船の状況は?」
『はい、船体に損傷はありません。着水は若干の揺れはありましたがスムーズでしたので、船内の人的被害も報告有りません。
ですが、航空理力エンジンの方は深刻です。
現在、整備班を向かわせていますが、理力機構に妨害を受けたまま無理をさせたためオーバーヒート状態です。恐らく一日、最悪の場合二日は航行不能でしょう』
「了解。人的被害がないだけでも功名です」
若干の揺れの際、ブラを着けていたとも言えないので、船長のスムーズな着水という説明にはあえて触れない。
この船には、自分とは無関係な一般市民が乗船している。
狙われたのは間違いなく自分が乗船していたからだ。
アークからアテネへの渡航は、その多くが観光である。
当然、運賃は高額だ。
先進技術により経済の上でも大国たるアークにおいても、その費用は一般市民の月給半分以上になる。
苦労して旅費を捻出し、念願のこの船に乗ってアテネの間近まできているのに。
到着間近で突然の襲撃。
きっと多くの乗客が、その心を非道く傷つけているに違いない。
――許せない。
このような襲撃を周到に用意していた輩が。
そして、何よりも浅はかな考えだった自分自身が……。
襲撃に対する怒りと自分自身への憤りが、自身の危機に対する不安を凌駕していた。
船長に対し、自分が考えた迎撃作戦を口頭で簡単に説明した後、通信を切ってから、ベッドの下に隠した装備品に手を伸ばす。
いくつかの物品を床に並べ置いて、その内の一つ、細長いアルミ製のケースから自分愛用の武器を取り出した。
彼女は、その手に触れた金属の冷たい感触に、怒りに沸いた頭脳が冷えていくような感覚を覚えた。
それは《理力器》を兵器に応用したもので、アークでも最新の武器《衝撃銃》だ。
既存の銃は、理力ガスを濃縮させ液化したものを薬莢に詰め、撃発の際は、液化理力ガスが一気に燃焼し、その爆発力により薬莢先端の金属弾を撃ち出す。
だが、この《衝撃銃》は全く異なる機構をしている。
《衝撃銃》は、理力カートリッジのエネルギーを《理力器》により衝撃波として変換、その衝撃波に指向性を与えて収束させたものを撃ち出すのだ。
つまり、金属などの実体弾ではなく、衝撃エネルギーの塊を目標にぶつけるのである。
また、この銃の特徴として、弾丸たる衝撃波そのものに指向性を与えているため、絶大な威力の割に撃った際の反動が極めて小さい。
その見た目は、既存の理力拳銃より少し銃身が長く大型だ。
さらに、銃身各部には、各種補助武装の接続部があり、追加銃身や照準器、小銃化させる一体パーツなどで全く違う用途になる。
――銃を手にしたら常に冷静に……。うん、ちょっとカッカし過ぎていたわ。大丈夫……ちゃんと頭の中冷えてきた……よしッ。
彼女はゆっくりと深呼吸。
床に並べた装備品の内、最も大きく、子供が隠れられそうなくらいのアルミケースを開けた。
ケースに収まっていた大型補助武装を取り出し、速やかに銃本体へと接続していく。
――とっておきの試作品。一発きりの対艦狙撃砲……ズドンとお見舞いしてあげるわ。
心なしか口元を横に緩めた。
……やはり頭の中は冷えていなかった。
――今宵は満月だ。
《魔》にすべてを捧げたこの身は、満ちた月からの莫大な活力を受け、比類なき魔力をみなぎらせている。
四大元素などと、愚かしい人類はこの惑星の活力を理解したつもりのようだが……。
我々が識る第五の力とその素晴らしさに気付いていない。
――そう、この惑星には五大元素の活力が存在するのだ。
我が愛する天空の月は、はるか遠き宇宙より飛来し、この惑星の創生期に一度一つとなってから分かれた後、今のように衛星として存在している。
その存在は、その重力によってこの惑星のすべてに影響を与えているのだ。
《地》・《水》・《火》・《風》のいずれの元素も、この《空》の元素には及ばないだろう。
さて、今宵の《生贄》は、あの白い船の中で、こちらが作り出したこの状況を前に、一体どうしていることだろう。
以前、映像通信で見かけた、あの美しく愛らしい顔を恐怖で染めているのだろうか。
それとも、目的地にたどり着く寸前で足止めを食ったことに、透き通るような肌を朱に染めて激昂しているのだろうか。
こちらとしては、前者の方がありがたい。
彼女の、嗚咽を漏らしながら恐怖に満ち涙する瞳を堪能した後、美しいうなじに牙を立て、暖かで甘美なその血をゆっくりと味わいたいものだ。
きっと彼女の血は、甘くなめらかで味わい深いことだろう。
舌の上で転がしながらその甘みを楽しみ、のどの奥にまとわりつく酸味に心を震わせることとしよう。
そして彼女は我が眷属に成り下がって、あの美しくも艶やかな肢体でしなを作り、陶酔した瞳で傅くことになるのだ。
そうなれば、『あの情報』も聞き出しやすいというもの――
魔竜にして《魔》の契約により《吸血鬼》と化した男――サジヴァルド・デルマイーユ。
彼は、のどの奥からこみ上げる愉悦を堪えることが出来ずに、その身を歓喜に震わせていた。
☆
《大佐殿》は、特等客席で身支度を調えながら、ブリッジの船長と内線交信機をハンズフリー状態にして通信していた。
「船の状況は?」
『はい、船体に損傷はありません。着水は若干の揺れはありましたがスムーズでしたので、船内の人的被害も報告有りません。
ですが、航空理力エンジンの方は深刻です。
現在、整備班を向かわせていますが、理力機構に妨害を受けたまま無理をさせたためオーバーヒート状態です。恐らく一日、最悪の場合二日は航行不能でしょう』
「了解。人的被害がないだけでも功名です」
若干の揺れの際、ブラを着けていたとも言えないので、船長のスムーズな着水という説明にはあえて触れない。
この船には、自分とは無関係な一般市民が乗船している。
狙われたのは間違いなく自分が乗船していたからだ。
アークからアテネへの渡航は、その多くが観光である。
当然、運賃は高額だ。
先進技術により経済の上でも大国たるアークにおいても、その費用は一般市民の月給半分以上になる。
苦労して旅費を捻出し、念願のこの船に乗ってアテネの間近まできているのに。
到着間近で突然の襲撃。
きっと多くの乗客が、その心を非道く傷つけているに違いない。
――許せない。
このような襲撃を周到に用意していた輩が。
そして、何よりも浅はかな考えだった自分自身が……。
襲撃に対する怒りと自分自身への憤りが、自身の危機に対する不安を凌駕していた。
船長に対し、自分が考えた迎撃作戦を口頭で簡単に説明した後、通信を切ってから、ベッドの下に隠した装備品に手を伸ばす。
いくつかの物品を床に並べ置いて、その内の一つ、細長いアルミ製のケースから自分愛用の武器を取り出した。
彼女は、その手に触れた金属の冷たい感触に、怒りに沸いた頭脳が冷えていくような感覚を覚えた。
それは《理力器》を兵器に応用したもので、アークでも最新の武器《衝撃銃》だ。
既存の銃は、理力ガスを濃縮させ液化したものを薬莢に詰め、撃発の際は、液化理力ガスが一気に燃焼し、その爆発力により薬莢先端の金属弾を撃ち出す。
だが、この《衝撃銃》は全く異なる機構をしている。
《衝撃銃》は、理力カートリッジのエネルギーを《理力器》により衝撃波として変換、その衝撃波に指向性を与えて収束させたものを撃ち出すのだ。
つまり、金属などの実体弾ではなく、衝撃エネルギーの塊を目標にぶつけるのである。
また、この銃の特徴として、弾丸たる衝撃波そのものに指向性を与えているため、絶大な威力の割に撃った際の反動が極めて小さい。
その見た目は、既存の理力拳銃より少し銃身が長く大型だ。
さらに、銃身各部には、各種補助武装の接続部があり、追加銃身や照準器、小銃化させる一体パーツなどで全く違う用途になる。
――銃を手にしたら常に冷静に……。うん、ちょっとカッカし過ぎていたわ。大丈夫……ちゃんと頭の中冷えてきた……よしッ。
彼女はゆっくりと深呼吸。
床に並べた装備品の内、最も大きく、子供が隠れられそうなくらいのアルミケースを開けた。
ケースに収まっていた大型補助武装を取り出し、速やかに銃本体へと接続していく。
――とっておきの試作品。一発きりの対艦狙撃砲……ズドンとお見舞いしてあげるわ。
心なしか口元を横に緩めた。
……やはり頭の中は冷えていなかった。
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