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幕間 騎士の誓い~過激な香辛料は照れ隠し~
第二話 変わりつつあるもの
しおりを挟むアリオスの飛空挺発着場は、石畳で舗装された五〇メライ(メートル)四方の着陸床とその端に三階建ての管制塔があるのみの簡易な施設だった。
その管制塔の最上階で、ダーン・エリンは設置されていた旧式の理力通信機を四苦八苦しながら扱い、ようやくの思いで王宮の傭兵隊本隊と交信する。
昨日の今日では、やはり重傷を負ったナスカが通信にでることはなかったが、かなり回復したようで、現在はおとなしく宮廷教会の医療施設で手当を受けているとのことだった。
さらに、宮廷司祭のホーチィニも未だ目を覚まさないものの、生命に支障のある状況ではなく、回復に向かっているようだ。
なお、エル・ビナシスについては、帰隊早々本隊庶務に除隊申請書を提出し、今日の昼にはブリティア王国行きの定期飛行船に乗って帰国したらしい。
ダーンは、ステフの立場上、自分たちが請け負っている任務が極秘であることを考慮し、本隊の通信官にも現在地は伝えずに、ナスカへの言づてとして「いい女に蹴られた脛が痛い」とだけ伝えた。
その際、二年以上傭兵隊に身を置く若い通信官は、随分と怪訝な口調で了解である旨を返すと共に「何かあったのか?」と尋ねてきたが、ダーンは苦笑して単なる暗号だと説明した。
余談だが、この報告を通信官から聞いたナスカと、さらに丁度ナスカの病室に『見舞い』と称して嫌がらせに来たラバート国王が、目を丸くしてお互いに見合わせ、一瞬遅れて同時に大爆笑したという。
報告を終わらせ宿に帰る途中、ダーンはふと自分の右腕に視線を落とした。
その右腕は、先の戦闘で咄嗟に放った《秘剣》により、その威力の反動や速度に闘気のコントロールが追いつかず、毛細血管が破裂してしまったのだが。
あの強烈な突きは、昨日まだ《闘神剣》の鍛錬を受ける前に、金属兵にやられそうになった際、無我夢中で放ったものと似ている。
あの時は、全身の筋組織が細かな断裂を起こし、宮廷司祭の信仰術の世話になったものだが、今回は、腕の表層だけの損傷で軽微だったし、今はステフの《治癒》で完治し傷跡すらない。
さらに、ムカデの魔物にやられた背中の傷に関しては、ミランダの法術で治してもらったのだが、その治療速度は緩やかで、やはりサイキックの《治癒》には到底及ばないものだった。
改めて、ダーンは思案する。
これから、ステフとの旅を続けていく過程で、必ずあの赤毛の女と銀髪の女剣士ルナフィスとはぶつかることになるだろう。
どちらも一筋縄ではいかない強敵で、今日の比ではないくらい闘いは苛烈を極めるだろう。
そうなると《治癒》のサイキックはどうしても自在に使えるようにしておきたい。
しかし、ダーンはステフとの《ユニゾン》でイメージの共有をしてきた今でも、《治癒》のイメージは上手く出来ないでいた。
それこそ、《真空の刃》や《予知》のイメージは《ユニゾン》していない今でも可能なのに。
さらには、ステフが得意としていた《光の弾丸》もイメージが出来そうなのだが、《光の弾丸》や水系統のイメージングはどうやっても出来そうにない。
きっと、自分の根源、戦闘方面に特化した存在と生命を育む象徴たる水属性のサイキックとでは相性が悪いからなのだろう。
そうなると、《治癒》に関してはステフに任せっきりになってしまうが、現状では直接手に触れ患部を直視しなければ効果はないらしく、効率が悪かった。
ステフとの間で認識校正をしてしまえば、もっと効率よく彼女の《治癒》が受けられるのだろうが……。
そう考えて、ついダーンは顔に火がついたような感覚を得た。
さすがに、それはマズイだろうと思い直す。
認識校正は、そういう仲にでもならない限り男女間ではアウトだろう……いや、男同士ではもっと嫌な気もするが……。
「……とにかく、早く帰るか」
自分の柄にもない考えをしていると判断し、ダーンは宿への歩調を早めた。
宿では、ステフが夕食を作っている。
まあ、正直楽しみなのだが、果たしてリリスの料理で舌の肥えた自分を満足させるだけの技量を身につけたのか。
気持ち、歩調は早い上に軽やかになっていた。
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