罪悪と愛情

暦海

文字の大きさ
2 / 41

間違い電話?

しおりを挟む
「……えっと、あとは何か……あっ!」


 ぼんやりと月の浮かぶ、ある夜のこと。
 地元のスーパーにて、買い物籠を手にそんな呟きを零す僕。そして、大きな声を出してしまったせいか近くから疎らに視線を……うん、ごめんなさい。

 でも、思わず声を出してしまったのには一応の理由があって。と言うのも……なんと、卵のパックのすぐ下にて、平時の半額近い値段が表示されていたから。まだ家にストックはあるからまだ今日はいいかなと思っていたけど……うん、これは買うしかない。僕にとって、卵はいくらあっても困ることはないからね。



「――ふんふ~ん」


 それから、ほどなくして。
 帰り道、鼻歌を響かせつつ閑散とした住宅街を歩いていく。我ながら気持ち悪いとは思うけど、今更だし気にすることもない。そんなことより、今から何を作ろうか楽しみでしょうがない。さて、どうしようかな? やっぱり、王道のオムライス? それとも――

 ――トゥルルルルルル。

 そんなウキウキの最中、ふと右のポケットから響く電波音。仕事に関する電話……ではないと思う。今は主任も含めほぼ皆飲み会に出ているはずだし、流石に仕事のことなど考えていないだろう。そして、だとすると仕事それ以外で僕に掛けてくるとすれば――


『……あっ、真織まおりせんぱい、わたしで~す。先輩の可愛い可愛いお嫁さんのまき――』


 突如、言葉が途切れる。まあ、突如でも何でもなくただ僕が通話を切ったからなのだけど。……いや、だってほら――

『――ちょっと、なんで切るんですか先輩!』
「ああ、どうやら間違い電話のようでしたので。ご存じの通り、僕にお嫁さんはいないので」
『……ああ、なるほど。確かに、まだ結婚はしてないですしね。なので、正確には婚約――』



『――ちょっと、だからなんで切るんですか先輩!』
「ああすみません、ちょっと電波が……いえ、ちょっと面倒だったので」
『正直すぎる!! せめてちゃんと言い訳してください!!』

 すると、スマホ越しに届く甲高い声。……うん、ほんと面倒くさい。でも、ここで切ったら余計面倒なことになりそうだし。なので――

「……それで、何の御用でしょう? 降宮さん」
『それはもちろん、先輩とお話ししたいなぁと。それとも、用事がなくては電話しちゃいけないんですか?』
「……いえ、そんなことは……」

 そう尋ねると、ありありと不服を湛えた声で返答が届く。いや、もちろんいけないわけじゃないけども……ただ、今更ながら用事もなく僕に掛ける人も珍しいなと。
 

「……ところで、飲み会はどうなさったのですか? まさか、もう解散というわけでもないですよね?」

 ともあれ、そう尋ねてみる。こういうのに参加したことがないので、知ったようなことは言えないけど……それでも、解散にはまだ早い気が――

『……ああ、もちろんまだ解散なんてしてませんよ。皆さん、今頃二次会のカラオケに向かってる頃かと。ですが、流石にそこまでは付き合ってられないかなと。なので、適当に理由つけて抜けてきちゃいました』
「……なるほど。ですが、気が乗らないのであれば理由などつけずとも普通にお断りすれば良いのでは?」
『……はぁ、先輩みたくそれが出来れば苦労はないんですけどね。これでも、立場というものがありまして』


 すると、心底うんざりしたような口調でそんなことを言う降宮さん。まあ、彼女には彼女の事情があるのだろう。……ところで、僕はお断りはしていませんよ? ただ、普通に誘われていないだけで。


『――というわけで、景気づけに私のお部屋で一杯やりましょう!』
「いや、飲んだんじゃないんですか?」
『あんなの飲んだ内に入りませんよ。量じゃなく気分的に。あっ、そのまんまなし崩し的に、なんて色っぽい展開も私的には全然アリですよ?』
「嫌ですよ。例え同意があったとしても、お酒の入っている相手とそういうことをしたら罪に問われる可能性もありますし」
『……どうせ素面しらふでも何もしてこないくせに』


 その後、そんな会話を交わす。……まあ、確かに。お酒が入ってようとなかろうと、そんなことをする度胸なんてこの僕にあるはずないし。

『とにかく、ぱあっと一杯やりましょうよ! 先輩が飲めないのは知ってますし、お茶でもコーヒーでも良いですから。それじゃ、待ってますね~』
「あっ、ちょっと降宮さ……あっ」

 慌てて抵抗の意を示そうとするも、読まれていたのかプツリと途切れる。たぶん、かけ直しても出ないだろうな。……うん、行くしかないか……あぁ、作りたかったなぁ、オムライス。




 





 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

譲れない秘密の溺愛

恋文春奈
恋愛
憧れの的、国宝級にイケメンな一条社長と秘密で付き合っている 社内一人気の氷室先輩が急接近!? 憧れの二人に愛される美波だけど… 「美波…今日充電させて」 「俺だけに愛されて」 一条 朝陽 完全無欠なイケメン×鈴木 美波 無自覚隠れ美女

恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-

プリオネ
恋愛
 せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。  ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。  恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。

〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー

i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆ 最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡ バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。 数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚

ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。 五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。 ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。 年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。 慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。 二人の恋の行方は……

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...