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サミエル・コールマス編
後悔
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しばらくして私は、社交界デビューを果たした。まだモリッシュは社交界にはデビューしていないので、パーティーには出られない。だから余計女性が寄ってくる。
そのうちの一人だ。家柄も美貌もある女性が、私にまとわりついてきた。その女性は、私を独占したいのか、ほかの女性たちを蹴散らしている。自分の持っている地位と美貌を思う存分発揮して。その女性はアミエ・ナダタル侯爵令嬢といった。私は、パーティーではその女性といることが多くなった。その女性といると、ほかの女性たちがやってこない。アミエ嬢が蹴散らしてくれるからだ。
気が付けばアミエ嬢と私の噂が、社交界をにぎわせていた。しかし私は、その噂をあえて放置していた。たまに会うモリッシュは、やはりほかの女性と同じで媚びを売った顔でしか私を見ない。あの時のモリッシュはもういないのだと思い知らされた。
それに比べれば、アミエ嬢のほうがまだ表情が豊かだ。
そうしているうちに、モリッシュの社交界デビューがやってきた。
モリッシュをエスコートだけして、私はすぐに離れた。媚びを売る笑顔のモリッシュが見たくなかった。アミエ嬢が、すぐに私のそばにやってきた。アミエ嬢は、今日私が婚約者をエスコートしてきたと知りながら、ダンスを踊りたがった。私も一回だけはとアミエ嬢と踊った。その時にちらりと壁の花となっているモリッシュを見やれば、悲しそうな顔はするものの、私にはその顔がなんとなく胡散臭く感じた。本当に悲しんでいるのだろうか。私はむかむかするのを感じて、気が付けばアミエ嬢と何回もダンスを踊ってしまっていた。
その間もモリッシュがどこにいるのか、ちらちらと気にしている自分がいた。彼女は、結局自分の兄としかダンスを踊らなかった。自分はほかの女性と踊っているのに、モリッシュが兄としか踊っていないのを知って安心した。
しかしそれもすぐに怒りに変わった。モリッシュはどうやら兄と帰るようにしたらしい。私は、アミエ嬢と離れてモリッシュを送ろうと後を追った時だ。
「やあモリー、元気かい?」
「エドも来ていたの?」
「ああ。もう帰るのかい?」
「ええ」
私は、モリッシュの顔を見てびっくりした。モリッシュの顔は表情豊かで、あの池での笑顔を思い出させるものだった。モリッシュと話している男性に見覚えがあった。そうあの男性は、あの池でモリッシュと一緒にいた時の男の子だ。私はどのくらい立ちすくんでいたのだろうか。気が付けばモリッシュやあの男性の姿は、どこにもなかった。もう帰ってしまったらしい。
「サミエル様」
名前を呼ばれて振り向けばアミエ嬢がいた。もしかしたらアミエ嬢は、私が見ていたものを彼女も見ていたのかもしれない。現に彼女は言ってきた。
「サミエル様の婚約者様とエドワルド様は、仲がよろしいんですね」
「エドワルド...」
そうか、あの男性は、ウィシュカム子爵家のご子息だったのか。今や飛ぶ鳥を落とすほど勢いのある貴族だ。子爵家とはいえ資産はわが公爵家とも劣らない。いやわが公爵家をたぶんしのぐほどだろう。確か彼は、裕福さで社交界でも大人気だが、彼自身の魅力も大きい。子爵家という貴族としては低い身分も、女性から見るともしかしたら自分でも手に入るのではと思わせるのかもしれない。しかし確か彼には、婚約者がいなかったはずだ。
どんなに女性が言い寄っても軽くあしらわれてしまうらしい。難攻不落といわれていると確か貴族の友人が言っていた。
そんな彼が、モリッシュと仲がいいのだ。先ほどの様子を見ても二人の仲の良さがわかる。家に戻っても彼とモリッシュの交し合う笑顔が頭から離れない。目を閉じれば瞼に浮かぶ。私は、モリッシュにあんな顔をされたことがない。
考え始めれば考えるほどイライラしてきて、ある日気が付けば、ペートン伯爵家に出向いていた。そしてペートン伯爵家の当主に婚約破棄を告げていた。
いくらわが公爵家のほうが爵位が高いからといっても、こんなにあっさりと了承されるとは思わなかった。
「わかりました。謹んでお受けいたします。この事は私共から娘に伝えます」
「いえっ。私が直接会って、お伝えさせていただきます」
私は、直接モリッシュに婚約破棄を伝えた。モリッシュは目に涙をいっぱい浮かべて、悲しんでいた。その顔を見て私は、ほの暗い喜びを感じた。しかしそんな自分にびっくりして、これ以上モリッシュを見ていられず、逃げるようにペートン伯爵家を後にした。
こうしてモリッシュと婚約破棄をした私だが、その日から心の奥にぽっかりと穴が開いたような空虚感を感じるようになった。何をしても楽しくなくなった。唯一心が躍ったのは、モリッシュが私との婚約破棄を悲しんで、王都を離れて自分の領地に行ってしまったと聞いた時だ。
両親は何も言わなかった。それというのもアミエ嬢の実家であるナダタル侯爵家から、婚約の申し入れがあったからだ。本来ならこちらの方が爵位も高いため、爵位の低い者からの申し入れはないのだが、ナダタル侯爵家は私の母の遠縁にあたる。そのため母の実家を通して打診をされたのだ。両親も社交界の噂を聞いている。このたびの婚約破棄も、私がアミエ嬢と婚約したかったための婚約破棄だと思っているらしい。だからかこの婚約を受けるものと疑っていない。
しかし私は、モリッシュとの婚約破棄を後悔していた。婚約破棄した今になって、なぜあんなことをしてしまったのだろうかと頭を抱えていた。モリッシュへの冷たい扱い、特にモリッシュの社交界デビューの時の自分の行いを思い出すたびにため息しか出ない。どうしてあんなことをしてしまったのだろう。しかも社交界を駆け巡っていたアミエ嬢との噂を放置していた。放置するどころか助長させるような行動をとってしまっていた。
婚約破棄から幾日も過ぎたのに、今日もまたため息が出た。
そのうちの一人だ。家柄も美貌もある女性が、私にまとわりついてきた。その女性は、私を独占したいのか、ほかの女性たちを蹴散らしている。自分の持っている地位と美貌を思う存分発揮して。その女性はアミエ・ナダタル侯爵令嬢といった。私は、パーティーではその女性といることが多くなった。その女性といると、ほかの女性たちがやってこない。アミエ嬢が蹴散らしてくれるからだ。
気が付けばアミエ嬢と私の噂が、社交界をにぎわせていた。しかし私は、その噂をあえて放置していた。たまに会うモリッシュは、やはりほかの女性と同じで媚びを売った顔でしか私を見ない。あの時のモリッシュはもういないのだと思い知らされた。
それに比べれば、アミエ嬢のほうがまだ表情が豊かだ。
そうしているうちに、モリッシュの社交界デビューがやってきた。
モリッシュをエスコートだけして、私はすぐに離れた。媚びを売る笑顔のモリッシュが見たくなかった。アミエ嬢が、すぐに私のそばにやってきた。アミエ嬢は、今日私が婚約者をエスコートしてきたと知りながら、ダンスを踊りたがった。私も一回だけはとアミエ嬢と踊った。その時にちらりと壁の花となっているモリッシュを見やれば、悲しそうな顔はするものの、私にはその顔がなんとなく胡散臭く感じた。本当に悲しんでいるのだろうか。私はむかむかするのを感じて、気が付けばアミエ嬢と何回もダンスを踊ってしまっていた。
その間もモリッシュがどこにいるのか、ちらちらと気にしている自分がいた。彼女は、結局自分の兄としかダンスを踊らなかった。自分はほかの女性と踊っているのに、モリッシュが兄としか踊っていないのを知って安心した。
しかしそれもすぐに怒りに変わった。モリッシュはどうやら兄と帰るようにしたらしい。私は、アミエ嬢と離れてモリッシュを送ろうと後を追った時だ。
「やあモリー、元気かい?」
「エドも来ていたの?」
「ああ。もう帰るのかい?」
「ええ」
私は、モリッシュの顔を見てびっくりした。モリッシュの顔は表情豊かで、あの池での笑顔を思い出させるものだった。モリッシュと話している男性に見覚えがあった。そうあの男性は、あの池でモリッシュと一緒にいた時の男の子だ。私はどのくらい立ちすくんでいたのだろうか。気が付けばモリッシュやあの男性の姿は、どこにもなかった。もう帰ってしまったらしい。
「サミエル様」
名前を呼ばれて振り向けばアミエ嬢がいた。もしかしたらアミエ嬢は、私が見ていたものを彼女も見ていたのかもしれない。現に彼女は言ってきた。
「サミエル様の婚約者様とエドワルド様は、仲がよろしいんですね」
「エドワルド...」
そうか、あの男性は、ウィシュカム子爵家のご子息だったのか。今や飛ぶ鳥を落とすほど勢いのある貴族だ。子爵家とはいえ資産はわが公爵家とも劣らない。いやわが公爵家をたぶんしのぐほどだろう。確か彼は、裕福さで社交界でも大人気だが、彼自身の魅力も大きい。子爵家という貴族としては低い身分も、女性から見るともしかしたら自分でも手に入るのではと思わせるのかもしれない。しかし確か彼には、婚約者がいなかったはずだ。
どんなに女性が言い寄っても軽くあしらわれてしまうらしい。難攻不落といわれていると確か貴族の友人が言っていた。
そんな彼が、モリッシュと仲がいいのだ。先ほどの様子を見ても二人の仲の良さがわかる。家に戻っても彼とモリッシュの交し合う笑顔が頭から離れない。目を閉じれば瞼に浮かぶ。私は、モリッシュにあんな顔をされたことがない。
考え始めれば考えるほどイライラしてきて、ある日気が付けば、ペートン伯爵家に出向いていた。そしてペートン伯爵家の当主に婚約破棄を告げていた。
いくらわが公爵家のほうが爵位が高いからといっても、こんなにあっさりと了承されるとは思わなかった。
「わかりました。謹んでお受けいたします。この事は私共から娘に伝えます」
「いえっ。私が直接会って、お伝えさせていただきます」
私は、直接モリッシュに婚約破棄を伝えた。モリッシュは目に涙をいっぱい浮かべて、悲しんでいた。その顔を見て私は、ほの暗い喜びを感じた。しかしそんな自分にびっくりして、これ以上モリッシュを見ていられず、逃げるようにペートン伯爵家を後にした。
こうしてモリッシュと婚約破棄をした私だが、その日から心の奥にぽっかりと穴が開いたような空虚感を感じるようになった。何をしても楽しくなくなった。唯一心が躍ったのは、モリッシュが私との婚約破棄を悲しんで、王都を離れて自分の領地に行ってしまったと聞いた時だ。
両親は何も言わなかった。それというのもアミエ嬢の実家であるナダタル侯爵家から、婚約の申し入れがあったからだ。本来ならこちらの方が爵位も高いため、爵位の低い者からの申し入れはないのだが、ナダタル侯爵家は私の母の遠縁にあたる。そのため母の実家を通して打診をされたのだ。両親も社交界の噂を聞いている。このたびの婚約破棄も、私がアミエ嬢と婚約したかったための婚約破棄だと思っているらしい。だからかこの婚約を受けるものと疑っていない。
しかし私は、モリッシュとの婚約破棄を後悔していた。婚約破棄した今になって、なぜあんなことをしてしまったのだろうかと頭を抱えていた。モリッシュへの冷たい扱い、特にモリッシュの社交界デビューの時の自分の行いを思い出すたびにため息しか出ない。どうしてあんなことをしてしまったのだろう。しかも社交界を駆け巡っていたアミエ嬢との噂を放置していた。放置するどころか助長させるような行動をとってしまっていた。
婚約破棄から幾日も過ぎたのに、今日もまたため息が出た。
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