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サミエル・コールマス編
慟哭
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私は毎日後悔していた。そんな私に周りがうるさくなってきた。今の私には、婚約者がいない。自分で婚約破棄をしてしまったのだから。特にナダタル侯爵家からは何度も、婚約の打診が来た。母を使ってアミエ嬢が突撃してきたこともあった。モリッシュをほおってよくこんな女と踊ることができたのかと思うほど、アミエ嬢には心が動かなかった。アミエ嬢のほうが表情が豊かなんて思ったこと自体が、不思議で仕方がない。
そうしてアミエ嬢に対してのらりくらりとしていた時だ。
絶望な情報が私のもとにもたらされた。
モリッシュとあの時の男彼女がエドと呼んでいた男が、婚約したというものだった。それを聞いて私は荒れに荒れた。両親もびっくりするほどに。日ごろ穏やかで冷静な自分を装っていたから余計だった。
「こんなになるなら、どうしてモリッシュ嬢と婚約破棄をしたんだ!お前からしたんじゃないか」
「そうよ。どうしてあんなことをしてしまったの?」
「わからない。わからないんだ!」
私は両親の前で初めて泣いた。今までこんな弱い自分を見せたことがなかった。あまりかかわってこなかったとはいえ、はやりそこは親だった。私のすさまじい荒れようにさすがに同情を覚えたのか親心なのか、再びモリッシュ嬢と婚約できるように陰で動いてくれた。公爵家の力も使った。
しかしモリッシュとの婚約を再び結ぶことはかなわなかった。
はじめこそ相手が子爵家ということもあり、両親も公爵家の力を使えば覆すことができると安易に考えていたらしい。しかし相手は子爵家とはいえ、今では国内一の資産を保有する貴族だ。しかもこの国では子爵位という貴族の中でも低い地位とはいえ、隣国では王族につながる尊い血筋だった。しかも隣国のみならずほかの国でも高位の貴族と縁続きだったらしい。わが国でも本来なら公爵の地位を得ていてもおかしくないほどだという。しかし当主自ら爵位に興味がなく、自由でいたいというので、いやいや子爵位を受けているというではないか。
両親はさすがに調べれば調べるほど、モリッシュとあの子爵家嫡男との婚約を破棄させることは無理だと思ったらしい。ついには両親は、私にこう言ってきた。
「もう無理だ。あきらめるしかない。もしこのままこちらが動けば、こちらがつぶされてしまう恐れもある。そのくらいあの子爵家には手を出してはいけないらしい。私も幾人かの貴族に忠告された。やはりお前は、アミエ嬢と婚約をしろ。そうすればあちらも納得するだろう」
実は私自身も友人から同じようなことを言われた。
「お前、もうこれ以上動かないほうがいい。これ以上動けば公爵家とはいえつぶされるぞ。しかもお前から婚約破棄したんだろう?モリッシュ嬢と婚約破棄した時にはやっぱりなと思ったぞ。それぐらいモリッシュ嬢への扱いはひどかった。今更だろう。アミエ嬢は美人だしいいじゃないか。正直モリッシュ嬢は平凡だ。私には、お前もあのエドモンド子爵子息の趣味もよくわからないな」
「でも好きなんだ。どうして婚約破棄なんてしてしまったんだろう。好きだったはずなのに、どうしてあんなひどいことをしていたんだろう」
私の嘆きに友人も困惑していた。これほど私が落ち込むとは正直思っていなかったのだろう。
そんな中だ。パーティーが開かれるという。しかもモリッシュとあの男が、婚約披露のためにそのパーティーに出席するらしい。私は、もう一度だけ彼女に会いたくて出席することにした。
もちろん両親や友人は猛反対した。しかし私の決意が固いことを知ると、アミエ嬢とともにならと許してくれた。私が問題を起こすかもしれないと危惧していたのだろう。
いざパーティーに行くと、青い豪奢なドレスを着たモリッシュがあの男の横にいた。ちらりと見た彼女の笑顔は、昔見た屈託のない笑顔に戻っていた。彼女とあの男は、はたから見ても仲睦まじそうだった。あのドレスの色もあの男の瞳の色で、あの男がプレゼントしたのだと会場中で話題となっていた。あのドレスの値段も相まって。あのドレスはこれでもかときれいな宝石がちりばめられていて、とてもじゃないがわが公爵家でもおいそれと手を出せない金額のものだ。
しかし私は、こっそりと彼女をちょっと離れたところから観察し続けていた。私の願いが神に聞き届けられたのだろうか。見れば壁の隅で彼女が一人ぽつんと立っていた。私の足は自然と彼女へと向かっていた。
しかし現実は残酷である。彼女のほほえみは、あの男にしか向けられない。ただ彼女の頬に思いがけずさわってしまい、今でも指には彼女の温かくて柔らかな感触が残っている。結局彼女とはろくに話もできなかった。
もしあの時、アミエ嬢が私の名前を呼ばなかったらどうなっていたのだろう。私は、きっとあの男から報復を受けていたに違いない。それほどあの男は怒っていた。
何もしなかったのは、彼女モリッシュには醜いところを見せたくなかったのあろう。
「サミエル様、あなたはモリッシュ嬢がお好きなんですね。私それでもサミエル様の事が好きです」
そういったアミエ嬢の言葉が、私にはむなしく響いただけだった。
※次回からエド編です。秘密が明らかになります。
そうしてアミエ嬢に対してのらりくらりとしていた時だ。
絶望な情報が私のもとにもたらされた。
モリッシュとあの時の男彼女がエドと呼んでいた男が、婚約したというものだった。それを聞いて私は荒れに荒れた。両親もびっくりするほどに。日ごろ穏やかで冷静な自分を装っていたから余計だった。
「こんなになるなら、どうしてモリッシュ嬢と婚約破棄をしたんだ!お前からしたんじゃないか」
「そうよ。どうしてあんなことをしてしまったの?」
「わからない。わからないんだ!」
私は両親の前で初めて泣いた。今までこんな弱い自分を見せたことがなかった。あまりかかわってこなかったとはいえ、はやりそこは親だった。私のすさまじい荒れようにさすがに同情を覚えたのか親心なのか、再びモリッシュ嬢と婚約できるように陰で動いてくれた。公爵家の力も使った。
しかしモリッシュとの婚約を再び結ぶことはかなわなかった。
はじめこそ相手が子爵家ということもあり、両親も公爵家の力を使えば覆すことができると安易に考えていたらしい。しかし相手は子爵家とはいえ、今では国内一の資産を保有する貴族だ。しかもこの国では子爵位という貴族の中でも低い地位とはいえ、隣国では王族につながる尊い血筋だった。しかも隣国のみならずほかの国でも高位の貴族と縁続きだったらしい。わが国でも本来なら公爵の地位を得ていてもおかしくないほどだという。しかし当主自ら爵位に興味がなく、自由でいたいというので、いやいや子爵位を受けているというではないか。
両親はさすがに調べれば調べるほど、モリッシュとあの子爵家嫡男との婚約を破棄させることは無理だと思ったらしい。ついには両親は、私にこう言ってきた。
「もう無理だ。あきらめるしかない。もしこのままこちらが動けば、こちらがつぶされてしまう恐れもある。そのくらいあの子爵家には手を出してはいけないらしい。私も幾人かの貴族に忠告された。やはりお前は、アミエ嬢と婚約をしろ。そうすればあちらも納得するだろう」
実は私自身も友人から同じようなことを言われた。
「お前、もうこれ以上動かないほうがいい。これ以上動けば公爵家とはいえつぶされるぞ。しかもお前から婚約破棄したんだろう?モリッシュ嬢と婚約破棄した時にはやっぱりなと思ったぞ。それぐらいモリッシュ嬢への扱いはひどかった。今更だろう。アミエ嬢は美人だしいいじゃないか。正直モリッシュ嬢は平凡だ。私には、お前もあのエドモンド子爵子息の趣味もよくわからないな」
「でも好きなんだ。どうして婚約破棄なんてしてしまったんだろう。好きだったはずなのに、どうしてあんなひどいことをしていたんだろう」
私の嘆きに友人も困惑していた。これほど私が落ち込むとは正直思っていなかったのだろう。
そんな中だ。パーティーが開かれるという。しかもモリッシュとあの男が、婚約披露のためにそのパーティーに出席するらしい。私は、もう一度だけ彼女に会いたくて出席することにした。
もちろん両親や友人は猛反対した。しかし私の決意が固いことを知ると、アミエ嬢とともにならと許してくれた。私が問題を起こすかもしれないと危惧していたのだろう。
いざパーティーに行くと、青い豪奢なドレスを着たモリッシュがあの男の横にいた。ちらりと見た彼女の笑顔は、昔見た屈託のない笑顔に戻っていた。彼女とあの男は、はたから見ても仲睦まじそうだった。あのドレスの色もあの男の瞳の色で、あの男がプレゼントしたのだと会場中で話題となっていた。あのドレスの値段も相まって。あのドレスはこれでもかときれいな宝石がちりばめられていて、とてもじゃないがわが公爵家でもおいそれと手を出せない金額のものだ。
しかし私は、こっそりと彼女をちょっと離れたところから観察し続けていた。私の願いが神に聞き届けられたのだろうか。見れば壁の隅で彼女が一人ぽつんと立っていた。私の足は自然と彼女へと向かっていた。
しかし現実は残酷である。彼女のほほえみは、あの男にしか向けられない。ただ彼女の頬に思いがけずさわってしまい、今でも指には彼女の温かくて柔らかな感触が残っている。結局彼女とはろくに話もできなかった。
もしあの時、アミエ嬢が私の名前を呼ばなかったらどうなっていたのだろう。私は、きっとあの男から報復を受けていたに違いない。それほどあの男は怒っていた。
何もしなかったのは、彼女モリッシュには醜いところを見せたくなかったのあろう。
「サミエル様、あなたはモリッシュ嬢がお好きなんですね。私それでもサミエル様の事が好きです」
そういったアミエ嬢の言葉が、私にはむなしく響いただけだった。
※次回からエド編です。秘密が明らかになります。
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