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サミエル・コールマスのその後
困惑
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サミエル・コールマスは今非常に困惑している。なぜなら自分の執務室の机の下にいる怪獣が、サミエルの足元にお尻をくっつけて音を立てて何かやっているのだ。
ガリッ_ガリッ_ガリッ_。
いや本当はわかっている。怪獣が何をやっているのか。音でわかる。わかりたくはないが。
「何やってるんだ!だめって言っただろう!」
そういって仕事をしている机の下を見やれば、ひたむきに自分を見つめる二つの目と目があった。その怪獣は、サミエルと目があうと、すぐさま机の下からはい出てきて、サミエルに抱き着いてきた。違う。膝の上にのせてくれとちょこんと足をサミエルの膝にのせてきた。
「駄目じゃないか」
サミエルは、自分の膝の上にのせてやった怪獣をなでながら、つい先ほどまで音がしていた机の脚を見る。やはりかじられている。傷だらけだ。サミエルは思わずため息をついた。この机は、先先代が名工に自ら希望を伝え、材木から引き出しの金具に至るまですべて選びに選んで作ってもらった一品なのだ。今なら相当の値段が付く代物らしい。
その机が 自分の膝の上に我が物顔で乗っているものにぼろぼろにされてしまった。しかし自分はこの怪獣に怒れない。なぜなら...かわいすぎるからだ。
「しかたがないなあ。少し休憩でもしようか。ホワイト」
「ワン!」
その怪獣は、サミエルの言葉がわかったかのように、声を上げると膝の上から飛び降り、もうドアの前でしっぽをブンブン振って待っている。
サミエルは、仕方ないなあとつぶやきながらも、ホワイトと呼ばれた犬とともに庭に行くことにした。
ホワイトは嬉しそうに庭で駆け回っている。ホワイトは、その名の通り真っ白いふさふさした小型の犬だ。時々どこかに脱走しては、母が大切にしている花々の根元をほりほりして庭師につまみあげながら、サミエルのもとに戻ってくることもある。
今日もホワイトは、サミエルが少し目を離したすきにどこかに飛んで行ってしまった。サミエルが、慌てて追いかけると、ホワイトの嬉しそうな鳴き声が聞こえてきた。
と同時に今度は真っ黒い毛玉がサミエルのもとに飛んできた。そのあとをホワイトが追いかけている。真っ黒い毛玉は、サミエルを見つけると、自分の足でサミエルのズボンが汚れるのも構わず抱っこをせがんでいる。サミエルが抱っこをしてやると、今度はホワイトもサミエルの足元にじゃれついてくる。サミエルが二匹とも抱っこしようか、それともこの黒い毛玉を下ろそうかと思案しているときだった。
「まあ、サミエル様。ズボンがずいぶん汚れてしまってますわよ。ダメですよ。きちんとしつけしなくては。だからなめられるんです」
そういってサミエルに声をかけてきた女性がいる。ホワイトはその声の方に飛んでいき、その足元にきちんとお座りをしている。その女がなでてくれるのを、しっぽを振って待っているのだ。サミエルが黒い毛玉を下ろすと、その毛玉もその女性のもとに飛んで行って、ホワイトの横にきちんと並んで座り、なでてくれるのを今か今かと待っている。先ほどのサミエルへの扱いとは大違いだ。
「アミエ嬢、あなたは本当に犬の扱いがうまいなあ」
サミエルが感心して言うと、アミエは二匹の犬たちを交互になでてあげながら言った。
「サミエル様が、甘やかしすぎるんです。ほらホワイトだってこんなにお利口さんですわよ。ブラックはもちろんですけど」
二匹の犬は自分たちがほめられたのがうれしいのか、余計しっぽをブンブン振っている。
「さあ、ブラック、ホワイト。このボールを持ってきて」
アミエが持っていた袋から、自分が作ったであろう手づくりの小さいボールを二つ取り出して投げると、犬たちは転がるように取りに走っていった。
「ホワイト、そのボール私のもとに持ってくるんだよ!」
サミエルはホワイトにそう叫んだが、喜々としてボールをくわえてきて渡したのはアミエだった。少し遅れてブラックもアミエにボールを渡す。アミエに体をなでられてすごくうれしそうだ。アミエがサミエルにボールを差し出してきた。今度はサミエルがボールを投げた。しかしホワイトもブラックも無視をしている。
「ほら、ボールをとってこい!ホワイト!ブラック!」
サミエルが叫んでも二匹は二匹でじゃれあいだして、ボールの事はすっかり二匹の頭にない様だ。仕方なくサミエルは自分でボールを取りに行くことにした。
アミエは、サミエルがしかめっ面でボールを取りに行くのを見て、サミエルの後を追いかけてきた。
「サミエル様、もう少ししつけが必要ですわね」
「ああ、でも私は仕事もあるし忙しいんだよ」
だから仕方ないとばかりの言い訳をしたサミエルを見てアミエは吹き出した。
「何を笑ってるんだい?」
「いえっ」
それでもアミエは笑いをこらえているようだ。サミエルはそんなアミエの笑い顔が少しまぶしく感じた。
アミエは、ナダタル侯爵家のご令嬢だ。サミエルの母の親戚筋に当たる。社交界ではサミエルがアミエに心変わりをして、婚約破棄をした原因ともいわれている。本来だったら、サミエルはこのアミエに頭が上がらない。なぜならいまだサミエルはアミエと婚約もしておらず、アミエは社交界である意味注目の的なのだから。
以前は、サミエルの両親からもアミエの実家であるナダタル侯爵家からも婚約をとせっつかれていた。しかしサミエルはのらりくらりと交わしていたのだ。ただどうしたことかしばらく前から、そのどちらからも何も言われていない。婚約破棄をしてから一年にもなるのにだ。
今庭で黒い毛玉である犬ブラックとじゃれている白いほうの犬ホワイトは、もともとアミエから押し付けられた犬だ。
婚約破棄をしてしばらくたったある日の事だ。いつものようにサミエルのもとにやってきたアミエは、白い毛玉を持ってきた。
「サミエル様、これ差し上げますわ」
サミエルはわけもわからず胸に押し付けられたのが、白い犬ホワイトだった。
ガリッ_ガリッ_ガリッ_。
いや本当はわかっている。怪獣が何をやっているのか。音でわかる。わかりたくはないが。
「何やってるんだ!だめって言っただろう!」
そういって仕事をしている机の下を見やれば、ひたむきに自分を見つめる二つの目と目があった。その怪獣は、サミエルと目があうと、すぐさま机の下からはい出てきて、サミエルに抱き着いてきた。違う。膝の上にのせてくれとちょこんと足をサミエルの膝にのせてきた。
「駄目じゃないか」
サミエルは、自分の膝の上にのせてやった怪獣をなでながら、つい先ほどまで音がしていた机の脚を見る。やはりかじられている。傷だらけだ。サミエルは思わずため息をついた。この机は、先先代が名工に自ら希望を伝え、材木から引き出しの金具に至るまですべて選びに選んで作ってもらった一品なのだ。今なら相当の値段が付く代物らしい。
その机が 自分の膝の上に我が物顔で乗っているものにぼろぼろにされてしまった。しかし自分はこの怪獣に怒れない。なぜなら...かわいすぎるからだ。
「しかたがないなあ。少し休憩でもしようか。ホワイト」
「ワン!」
その怪獣は、サミエルの言葉がわかったかのように、声を上げると膝の上から飛び降り、もうドアの前でしっぽをブンブン振って待っている。
サミエルは、仕方ないなあとつぶやきながらも、ホワイトと呼ばれた犬とともに庭に行くことにした。
ホワイトは嬉しそうに庭で駆け回っている。ホワイトは、その名の通り真っ白いふさふさした小型の犬だ。時々どこかに脱走しては、母が大切にしている花々の根元をほりほりして庭師につまみあげながら、サミエルのもとに戻ってくることもある。
今日もホワイトは、サミエルが少し目を離したすきにどこかに飛んで行ってしまった。サミエルが、慌てて追いかけると、ホワイトの嬉しそうな鳴き声が聞こえてきた。
と同時に今度は真っ黒い毛玉がサミエルのもとに飛んできた。そのあとをホワイトが追いかけている。真っ黒い毛玉は、サミエルを見つけると、自分の足でサミエルのズボンが汚れるのも構わず抱っこをせがんでいる。サミエルが抱っこをしてやると、今度はホワイトもサミエルの足元にじゃれついてくる。サミエルが二匹とも抱っこしようか、それともこの黒い毛玉を下ろそうかと思案しているときだった。
「まあ、サミエル様。ズボンがずいぶん汚れてしまってますわよ。ダメですよ。きちんとしつけしなくては。だからなめられるんです」
そういってサミエルに声をかけてきた女性がいる。ホワイトはその声の方に飛んでいき、その足元にきちんとお座りをしている。その女がなでてくれるのを、しっぽを振って待っているのだ。サミエルが黒い毛玉を下ろすと、その毛玉もその女性のもとに飛んで行って、ホワイトの横にきちんと並んで座り、なでてくれるのを今か今かと待っている。先ほどのサミエルへの扱いとは大違いだ。
「アミエ嬢、あなたは本当に犬の扱いがうまいなあ」
サミエルが感心して言うと、アミエは二匹の犬たちを交互になでてあげながら言った。
「サミエル様が、甘やかしすぎるんです。ほらホワイトだってこんなにお利口さんですわよ。ブラックはもちろんですけど」
二匹の犬は自分たちがほめられたのがうれしいのか、余計しっぽをブンブン振っている。
「さあ、ブラック、ホワイト。このボールを持ってきて」
アミエが持っていた袋から、自分が作ったであろう手づくりの小さいボールを二つ取り出して投げると、犬たちは転がるように取りに走っていった。
「ホワイト、そのボール私のもとに持ってくるんだよ!」
サミエルはホワイトにそう叫んだが、喜々としてボールをくわえてきて渡したのはアミエだった。少し遅れてブラックもアミエにボールを渡す。アミエに体をなでられてすごくうれしそうだ。アミエがサミエルにボールを差し出してきた。今度はサミエルがボールを投げた。しかしホワイトもブラックも無視をしている。
「ほら、ボールをとってこい!ホワイト!ブラック!」
サミエルが叫んでも二匹は二匹でじゃれあいだして、ボールの事はすっかり二匹の頭にない様だ。仕方なくサミエルは自分でボールを取りに行くことにした。
アミエは、サミエルがしかめっ面でボールを取りに行くのを見て、サミエルの後を追いかけてきた。
「サミエル様、もう少ししつけが必要ですわね」
「ああ、でも私は仕事もあるし忙しいんだよ」
だから仕方ないとばかりの言い訳をしたサミエルを見てアミエは吹き出した。
「何を笑ってるんだい?」
「いえっ」
それでもアミエは笑いをこらえているようだ。サミエルはそんなアミエの笑い顔が少しまぶしく感じた。
アミエは、ナダタル侯爵家のご令嬢だ。サミエルの母の親戚筋に当たる。社交界ではサミエルがアミエに心変わりをして、婚約破棄をした原因ともいわれている。本来だったら、サミエルはこのアミエに頭が上がらない。なぜならいまだサミエルはアミエと婚約もしておらず、アミエは社交界である意味注目の的なのだから。
以前は、サミエルの両親からもアミエの実家であるナダタル侯爵家からも婚約をとせっつかれていた。しかしサミエルはのらりくらりと交わしていたのだ。ただどうしたことかしばらく前から、そのどちらからも何も言われていない。婚約破棄をしてから一年にもなるのにだ。
今庭で黒い毛玉である犬ブラックとじゃれている白いほうの犬ホワイトは、もともとアミエから押し付けられた犬だ。
婚約破棄をしてしばらくたったある日の事だ。いつものようにサミエルのもとにやってきたアミエは、白い毛玉を持ってきた。
「サミエル様、これ差し上げますわ」
サミエルはわけもわからず胸に押し付けられたのが、白い犬ホワイトだった。
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