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サミエル・コールマスのその後
世話
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いきなりアミエから犬を押し付けられたサミエルは戸惑った。自分の腕の中にいるものは犬だ。しかも子犬。まだ生まれて二か月ぐらいだろうか。とても小さい。
「一体何なんだ」
サミエルは困惑した。アミエに自分の腕の中にいるものを返そうとした時だ。その子犬と目があった。その子犬はパッチリとサミエルと目が合うと、サミエルの手をなめ始めた。くすぐったくて仕方なくなった。
その時だ。視線を感じた。視線の先を見れば、アミエが驚いた顔をして、じっとこちらを見つめている。サミエルが何事かとアミエを見ればアミエが言った。
「サミエル様の笑顔、初めて見ましたわ」
「初めてではないと思うが。あなたには笑顔を向けていただろう」
サミエルは、半分自虐のように顔をゆがませて言った。サミエルはモリッシュと婚約していた時、婚約者だったモリッシュをほおって目の前のアミエといつも語り合ったりしていた。友人からはモリッシュには決して向けない笑顔を向けていたといわれたこともある。今では後悔しかないが。
「ええ、確かに笑っておいででしたわ。でもそれは作られた笑顔のように見えました。それにわたくしとお話しくださっていてもいつもサミエル様は、モリッシュ様を目で追っておられましたし」
サミエルはびっくりした。やはり目の前のアミエは気づいていたのだ。ではなぜ自分のもとにいたのだろう。サミエルがアミエに気がないことはわかっていたのなら。アミエは、サミエルの考えがわかったかのように言った。
「それでもいいと思いましたの。いつかわたくしを見てくだされば」
アミエは笑っていったが、サミエルにはまるで泣いているかのように見えた。
「申し訳なかった」
サミエルは、初めてアミエに謝った。
「悪いと思ってくださっているなら、この犬を飼ってくださいな。犬の名前はホワイトです。うちではもう一匹おりますの。だからお願いしますわね」
そういってアミエはとっとと帰ってしまった。サミエルの腕の中にいる白い犬を残して。サミエルの腕の中の犬はふわふわで温かかった。
たださすがにこの屋敷で犬を飼うのはだめだろうと思ったが、サミエルが広間を出ると執事が飛んでやってきた。
「アミエ様が置いて行かれたのはこの犬ですね。名前は?」
「ホワイトだそうだ」
サミエルが、執事の問いにとっさに答えると執事は「いい名前ですね」といった。
「飼ってもいいのか?」
「はい。許可は得ております」
サミエルは驚いた。アミエは事前に父である公爵に許可をとってあったのだ。ただサミエルの腕の中にいる犬をどうすればいいのだろうか。子犬は眠いのかサミエルの腕の中でじっとしている。眠ってしまったようだ。
「どうすればいい?」
サミエルが途方に暮れたように執事に聞くと、執事は「アミエ様が必要なものを一式置いていってくださいました」といってサミエルの寝室の横にある控えの部屋に、サミエルを連れていった。
いつの間にかサミエルの寝室には、この犬用のベッドやらおもちゃが置いてあった。その少し離れた先に水入れやトイレをさせるための紙シーツなどが置かれている。
「いつの間に...」
サミエルが唖然としている間に執事はサミエルから子犬を受け取り、犬用のべッドに寝かせた。しばらく子犬はもぞもぞしながらも再び眠ってしまったようだった。
「これからサミエル様がこの犬の親代わりです。お世話しませんといけませんね」
執事は笑いながら部屋を出ていった。部屋を出ていった執事は、サミエルが小さい頃から仕えてくれている。サミエルにとって親以上に親代わりのようなものだった。
最近までのサミエルにはずいぶん心を痛めていた気がする。サミエルを見つめる目はいつも心配そうだった。しかし今日は久しぶりに、サミエルを見る目が笑っていた。
そういえばと思った。今日はモリッシュの事を思い出さなかった。婚約破棄をしてからは片時も忘れたことなどなかったのに。
サミエルは、薄いお腹を上下させてすやすや眠る子犬をしばらく眺めていた。
ただそんな安らかな時間はすぐに終わった。子犬は起きるとすぐによたよた歩くと、まずおしっこをした。サミエルがあたふたしてる間に、今度はおしっこをしてすっきりしたのか勢いよくサミエルの寝室に飛んでいった。サミエルがおしっこした床を拭いている間に、子犬はやらかしていた。
サミエルのベッドの下に置いてあるお気に入りの履物にじゃれて噛みまくっていた。おかげでサミエルが気が付いた時には、その履物は噛み跡とよだれでべとべとだった。
それからの毎日は、子犬という名の怪獣に振り回されることとなった。
アミエは、サミエルに白い犬を押し付けた次の日、自分も犬を飼っているといって黒い子犬を連れてきた。名前はブラック。それからサミエルは、犬たちを通してアミエと話すことが多くなった。婚約破棄してからはアミエに笑顔を向けたことがなかったのだが、そんなサミエルのもとにアミエはずっと通ってきた。あの時は、ふたり黙ってお茶を飲んでいただけだったが。
今では、アミエに犬のしつけについていろいろ習う毎日だ。子犬が成長するにつれ、いつの間にかモリッシュの事を思い出すこともなくなっていった。
「一体何なんだ」
サミエルは困惑した。アミエに自分の腕の中にいるものを返そうとした時だ。その子犬と目があった。その子犬はパッチリとサミエルと目が合うと、サミエルの手をなめ始めた。くすぐったくて仕方なくなった。
その時だ。視線を感じた。視線の先を見れば、アミエが驚いた顔をして、じっとこちらを見つめている。サミエルが何事かとアミエを見ればアミエが言った。
「サミエル様の笑顔、初めて見ましたわ」
「初めてではないと思うが。あなたには笑顔を向けていただろう」
サミエルは、半分自虐のように顔をゆがませて言った。サミエルはモリッシュと婚約していた時、婚約者だったモリッシュをほおって目の前のアミエといつも語り合ったりしていた。友人からはモリッシュには決して向けない笑顔を向けていたといわれたこともある。今では後悔しかないが。
「ええ、確かに笑っておいででしたわ。でもそれは作られた笑顔のように見えました。それにわたくしとお話しくださっていてもいつもサミエル様は、モリッシュ様を目で追っておられましたし」
サミエルはびっくりした。やはり目の前のアミエは気づいていたのだ。ではなぜ自分のもとにいたのだろう。サミエルがアミエに気がないことはわかっていたのなら。アミエは、サミエルの考えがわかったかのように言った。
「それでもいいと思いましたの。いつかわたくしを見てくだされば」
アミエは笑っていったが、サミエルにはまるで泣いているかのように見えた。
「申し訳なかった」
サミエルは、初めてアミエに謝った。
「悪いと思ってくださっているなら、この犬を飼ってくださいな。犬の名前はホワイトです。うちではもう一匹おりますの。だからお願いしますわね」
そういってアミエはとっとと帰ってしまった。サミエルの腕の中にいる白い犬を残して。サミエルの腕の中の犬はふわふわで温かかった。
たださすがにこの屋敷で犬を飼うのはだめだろうと思ったが、サミエルが広間を出ると執事が飛んでやってきた。
「アミエ様が置いて行かれたのはこの犬ですね。名前は?」
「ホワイトだそうだ」
サミエルが、執事の問いにとっさに答えると執事は「いい名前ですね」といった。
「飼ってもいいのか?」
「はい。許可は得ております」
サミエルは驚いた。アミエは事前に父である公爵に許可をとってあったのだ。ただサミエルの腕の中にいる犬をどうすればいいのだろうか。子犬は眠いのかサミエルの腕の中でじっとしている。眠ってしまったようだ。
「どうすればいい?」
サミエルが途方に暮れたように執事に聞くと、執事は「アミエ様が必要なものを一式置いていってくださいました」といってサミエルの寝室の横にある控えの部屋に、サミエルを連れていった。
いつの間にかサミエルの寝室には、この犬用のベッドやらおもちゃが置いてあった。その少し離れた先に水入れやトイレをさせるための紙シーツなどが置かれている。
「いつの間に...」
サミエルが唖然としている間に執事はサミエルから子犬を受け取り、犬用のべッドに寝かせた。しばらく子犬はもぞもぞしながらも再び眠ってしまったようだった。
「これからサミエル様がこの犬の親代わりです。お世話しませんといけませんね」
執事は笑いながら部屋を出ていった。部屋を出ていった執事は、サミエルが小さい頃から仕えてくれている。サミエルにとって親以上に親代わりのようなものだった。
最近までのサミエルにはずいぶん心を痛めていた気がする。サミエルを見つめる目はいつも心配そうだった。しかし今日は久しぶりに、サミエルを見る目が笑っていた。
そういえばと思った。今日はモリッシュの事を思い出さなかった。婚約破棄をしてからは片時も忘れたことなどなかったのに。
サミエルは、薄いお腹を上下させてすやすや眠る子犬をしばらく眺めていた。
ただそんな安らかな時間はすぐに終わった。子犬は起きるとすぐによたよた歩くと、まずおしっこをした。サミエルがあたふたしてる間に、今度はおしっこをしてすっきりしたのか勢いよくサミエルの寝室に飛んでいった。サミエルがおしっこした床を拭いている間に、子犬はやらかしていた。
サミエルのベッドの下に置いてあるお気に入りの履物にじゃれて噛みまくっていた。おかげでサミエルが気が付いた時には、その履物は噛み跡とよだれでべとべとだった。
それからの毎日は、子犬という名の怪獣に振り回されることとなった。
アミエは、サミエルに白い犬を押し付けた次の日、自分も犬を飼っているといって黒い子犬を連れてきた。名前はブラック。それからサミエルは、犬たちを通してアミエと話すことが多くなった。婚約破棄してからはアミエに笑顔を向けたことがなかったのだが、そんなサミエルのもとにアミエはずっと通ってきた。あの時は、ふたり黙ってお茶を飲んでいただけだったが。
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