なぜか水に好かれてしまいました

にいるず

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1 ネイルで気分転換

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 どうなっちゃったの?私。

 なにこれ? 誰か教えて?

 私、滝村敦子28歳。OL。
 今まで平凡を絵にかいたような人生を送ってきましたが、今日から、平凡な生活じゃあなくなるようです。


 滝村敦子は、机の上の書類をかたずけて、席を立った。


 「お先に失礼します」

 「お疲れ~」

 「お疲れさま」

 いくつかまだ仕事をしている机の住人達から、声が上がった。

 滝村敦子は、フロアー隅にあるタイムカードを手にとり、タイムカードを押した。
 夕方6時。タイムカードには、別の日にも同じ時刻が、記されている。

 更衣室に行く前にふと、廊下の先の窓を見れば、もう薄暗くなっており、空がきれいなオレンジ色と紺色のツートンになっていた。

 (この前まで、あんなに明るかったのに)

 8月も下旬に入り、日が短くなった気がする。
 同じフロアーにある更衣室に入ると、すでに何人かいた。

 「お疲れ様で~す」

 敦子に声がかかった。
 今年入社組の3人だった。

 「今年の入社組は、かわいいよな」

 休憩室で男性社員が言っていた通り、その三人組はかわいらしい子たちだった。
 おとなしめなメイクに、キレイめな洋服。
 女の敦子から見ても、好感が持てるような子たちだ。
 しかも性格もよさげで、すべてが男性受けしそうだ。

 「お先に失礼しま~す」

 三人組はきちんと挨拶して、更衣室を出て行った。
 更衣室でも騒がないところがこれまた好感が持てる。
 
 (なんだか私、男目線になってるなあ)

 敦子は、ひとつため息をついた。 
 実用一点張りで選んだワンピースを着る。
 忙しい朝には、ワンピースは重宝だ。コーディネイトしなくていいからだ。 
 同じくコスパで選んだ、靴と鞄をもって更衣室を出た。



 敦子が働いているのは、食品メーカーの本社である。高層ビルの8階から10階まで使用している。
 敦子は、経理部門に所属しており10階にいる。
 開発や製造は別の場所にあり、このビルには主に営業や企画、経理部門が入っている。

 ここに努めて6年になる。
 自分でも希望したところに、入社できて満足していた。
 最初の一年は、無我夢中で頑張ってきた。

 しかし4年たったころからだろうか。いつもと同じ業務、いつもと同じ生活に、何か物足りないものを感じ始めたのは。
 お給料もそこそこにあり、今住んでいるアパートも会社から2駅で近く、周りの治安もよく満足している。

 しかしである。私生活に潤いがない。

 以前は友達と、週一でお食事や飲み会に行っていたが、27歳を過ぎたあたりから徐々に減ってきた気がする。
 というのもみんな、彼氏ができたりして忙しくなったのだ。
 以前から彼氏がいた子もいたのだが、やはり最近では彼氏が優先されてきたような気がする。

 (男女とも30歳間際になると、結婚を意識するからなのかなあ)

この前一緒に食事に行った友達とも話したばかりだ。
 
 (今は、まだ友達がいるからいいけれど、どうなるのかなあ)

 漠然とした不安を感じるようになったこの頃である。
 仲の良かった同期の子たちも、次々に社内恋愛に発展しており、余計考えてしまうのかもしれない。

 敦子も他の部署の人たちと飲み会みたいなことをやってきたが、地味な外見と内気な性格で彼氏ができない。
 というか、今までもこれからも、できる気がしない。

 (みんな、どうやって結婚してるんだろう)


 最近では電車に乗っている人たちの指にはまっている指輪が、目について仕方がない。
 それを見るたびに、なんとなくすっきりしない気分になっている。


 今日は金曜日。明日あさって会社はお休みだ。
 休みの間何の予定もない敦子は、なんとなくまっすぐ帰りたくなくて、アパートに近い駅のそばの百貨店に寄ることにした。

 敦子の唯一の贅沢はネイルだ。少しだけお高いのを買うのが好きなのだ。
 今日も、お目当ての化粧品売り場に向かう。

 ネイルをいくつか見て、今日見た中で一番気に入った色を買うことにした。
 薄い桜色。
 この前買ったものと似ているが、メーカーによって少しずつ発色が違うのだ。

 それを買って、ついでにデパ地下で少しだけお惣菜を買って帰った。

 夕食を食べお風呂に入り、やっと一息つく。


 今日買ったばかりのネイルを、袋から出して眺めてみる。
 デパートと家の明かりの下で見るのとでは、ちょっと違うのだ。
 爪に塗るのも好きだが、こうやって眺めるのも好きなのである。

 「あれっ?なんか光った?」

 いつものようにネイルを目の高さより少し上げて眺めていると、ビンの中に何か光ったものを見つけた。
 今日買ったものはラメ入りではないので、光るものはないはずだ。

 「目の錯覚かなあ」

 もう一度よく見てみたが、何度見ても光るものを見つけることはできなかった。

「まあいいや。塗ってみるか」

 こうして金曜日の夜は、ゆっくりと過ぎていった。
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