お客様はヤの付くご職業・裏

古亜

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「鬼ごっこは終いやな」

春斗さんはそう言って固まっている私の唇を強引に奪う。発しようとした言葉はその中に吸い込まれていった。
そのまま私は停まっていた車の中に押し込められて、その上に春斗さんが覆いかぶさった。

「吉井に言われたんよ。あんまり束縛しすぎるんはようないってな。確かにひとりの時間も欲しいもんなぁ。やから散歩くらいなら許したろ思って、迎えも吉井に任せたんやけど……」

春斗さんの表情は逆光でよく見えない。
けれどその声には春斗さんの中で渦巻いているであろう苛立ちや悲しみが込められていて、耳を塞いで聞こえないふりをしたかった。
けれど腕を掴まれていてそれは叶わない。

「どうして逃げたりなんかしたんや?よりにもよって岩峰の事務所に」
「そ、それは……」

震えが止まらなかった。
あのときと同じだ。お屋敷に連れて来られたあの日の、春斗さんに迫られたときと同じ。
ギラギラ光る獰猛な瞳に見下ろされて、動けない。

「んっ!」

春斗さんの唇が再び私の唇へと落とされる。今度は重ねるだけのものではなく、口内に入り込んだ舌が頬の内側をなぞって、歯列を撫でる。
溢れた唾液は舐め上げられて、その代わりのように春斗さんのものが流し込まれる。繰り返されるうちに溜まったそれを飲み込むと、私の唇はようやく解放された。

「いくら知り合いやからって、敵対中のヤクザんとこ行ったらあかんやろ。そんなとこにわざわざ何しに行ったんや?」

平静を保った、いや、装っている声。けれど私の腕を掴む力は強まって動きを封じている。
有無を言わせぬ圧力に口を開こうとしても、カラカラに枯れた喉からは掠れた声が出るだけだった。

「り、ゆうは……」

どう伝えればいいんだろう。ただ謝りたかっただけだと伝えて、春斗さんが納得するだろうか。

「……口割らせる方法はいくらでもある。戻ったらじっくり聞かせてもらおか」

春斗さんは私の服の襟を軽く引くと、顕になった肩を噛んで赤い印を付けた。首筋と胸元にも同じように歯を立てて、私はようやくに解放される。
熱を持って僅かに痛むそれを隠すように襟を元に戻している間に春斗さんは運転席に座った。そして振り向いて私が大人しくしているのを確認すると、アクセルを踏んで車を走らせた。
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