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連合艦隊司令長官、井上成美
連合艦隊司令長官、井上成美
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1946年4月10日。
井上が連合艦隊司令長官の席に座ってちょうど9年目のこの日、井上は連合艦隊司令長官を退任し予備役に編入された。
井上自身”もうこの大役は荷が重すぎる”と感じており米内に懇願した結果だった。
後任には山口多門大将が当たることになった。
1946年6月23日。
井上の姿は旧ハワイ統監府跡にあった。
ここにはハワイ諸島をめぐる戦いで散っていった日米双方の兵士を弔う慰霊碑があり、当然小沢もいた。
井上は持っていた花束を供え手を合わせた。
「君たちが来世では平和な世の中で人生を謳歌できることを願う」
井上は慰霊碑を真正面に据え敬礼した。
「やはり来ていたか」
不意に声が聞こえたのはその時だった。
「山本さんに米内さん、お久しぶりです」
こうして3人が一堂に会すのは米内まさの葬式以来だった。
「君も元気そうでよかった。後で一杯やろう」
米内の言葉に井上は”この人は変わらないな”と呆れながらもどこかではうれしかった。
山本と米内が一通り慰霊を済ませると3人は真珠湾の周りを歩き出した。
「真珠湾もあの焼け野原からかなり復旧したものだな」
山本は感心そうに言った。
「はい。アメリカ西岸国の支援もありますからね」
1945年度ヴェルサイユ条約の後、アメリカは大恐慌をもかわいく思える大不況に直面。
またかねてより差別されていた黒人たちのの怒りも頂点に達し、第2次アメリカ内戦が勃発した。
日本はその中でアメリカ西岸国を支援。
アメリカ西岸国は帰国したキンメルが元首を務めておりコンタクトが容易だったのだ。
「アメリカもそうだが我々は旧ソ連にも気を配らねばならん」
米内の言う旧ソ連とは名前の通り元はソ連だった地域だった。
1945年度ヴェルサイユ条約が締結された1か月後に日本もソ連に侵攻。
味方が居なくなったソ連に抵抗できる力は無かった。
年も変わらないうちにソ連は崩壊。
日本はシベリア鉄道沿いに勢力圏を広げたが今だ赤軍の残党がはびこっておりその者たちへの警戒も当然必要だった。
「…こうして改めて我が国の周りを見てみると、まだまだ平和とは言っていられませんな。先月も上海租界で小競り合いがあったとか」
「もしかすると支那とも全面戦争になるかもしれんな」
「そうならなないように頼みますよ。山本さん」
「あぁ、まだ任期はあと2年あるそれまでは断じて戦争は起こさせん」
山本の意気込みはすごみがあった。
「ならもう安心だな。そろそろ私は海軍から身を引くよ」
米内が突然いう物だから後の2人は驚いた。
だがそれを止めることは断じて無かった。
米内は十分に働いた。
これは2人が一番よく知っていた。
「米内さん、今までありがとう」
「本当にありがとうございます」
2人からの礼を聞いて米内は照れくさそうに頭を掻いた。
「そうこうしていると見えてきたな」
山本の言葉に二人も同意する。
「なにか元から姉妹だったような感じがしますな」
「井上君もそう思うかね。やはり気が合うね」
彼らが見ていたのは戦艦大和と
「戦艦武蔵、アイオワ級3番艦にして接収されたアメリカ生まれアメリカ育ちの巨艦」
井上は武蔵の艦橋を見ながら言った。
井上は後に自らの回顧録で9年間の連合艦隊司令長官職についてこう語っている。
「あの9年間をもう1度やれと言われたらきっぱりと断る。それほどにつらく厳しいものだったのだ。つい先日まで馬鹿話していた者は数日後には水葬され、艦隊司令官であったわが友は今だハワイの地で行方不明だ。だが、私は連合艦隊司令長官になって唯一良いことがあった。日本を守るために散っていった兵士たちにへのはなむけとできることである。」
そして井上は1975年12月15日、横須賀で家族に見守られながら天に昇っていった。
井上が連合艦隊司令長官の席に座ってちょうど9年目のこの日、井上は連合艦隊司令長官を退任し予備役に編入された。
井上自身”もうこの大役は荷が重すぎる”と感じており米内に懇願した結果だった。
後任には山口多門大将が当たることになった。
1946年6月23日。
井上の姿は旧ハワイ統監府跡にあった。
ここにはハワイ諸島をめぐる戦いで散っていった日米双方の兵士を弔う慰霊碑があり、当然小沢もいた。
井上は持っていた花束を供え手を合わせた。
「君たちが来世では平和な世の中で人生を謳歌できることを願う」
井上は慰霊碑を真正面に据え敬礼した。
「やはり来ていたか」
不意に声が聞こえたのはその時だった。
「山本さんに米内さん、お久しぶりです」
こうして3人が一堂に会すのは米内まさの葬式以来だった。
「君も元気そうでよかった。後で一杯やろう」
米内の言葉に井上は”この人は変わらないな”と呆れながらもどこかではうれしかった。
山本と米内が一通り慰霊を済ませると3人は真珠湾の周りを歩き出した。
「真珠湾もあの焼け野原からかなり復旧したものだな」
山本は感心そうに言った。
「はい。アメリカ西岸国の支援もありますからね」
1945年度ヴェルサイユ条約の後、アメリカは大恐慌をもかわいく思える大不況に直面。
またかねてより差別されていた黒人たちのの怒りも頂点に達し、第2次アメリカ内戦が勃発した。
日本はその中でアメリカ西岸国を支援。
アメリカ西岸国は帰国したキンメルが元首を務めておりコンタクトが容易だったのだ。
「アメリカもそうだが我々は旧ソ連にも気を配らねばならん」
米内の言う旧ソ連とは名前の通り元はソ連だった地域だった。
1945年度ヴェルサイユ条約が締結された1か月後に日本もソ連に侵攻。
味方が居なくなったソ連に抵抗できる力は無かった。
年も変わらないうちにソ連は崩壊。
日本はシベリア鉄道沿いに勢力圏を広げたが今だ赤軍の残党がはびこっておりその者たちへの警戒も当然必要だった。
「…こうして改めて我が国の周りを見てみると、まだまだ平和とは言っていられませんな。先月も上海租界で小競り合いがあったとか」
「もしかすると支那とも全面戦争になるかもしれんな」
「そうならなないように頼みますよ。山本さん」
「あぁ、まだ任期はあと2年あるそれまでは断じて戦争は起こさせん」
山本の意気込みはすごみがあった。
「ならもう安心だな。そろそろ私は海軍から身を引くよ」
米内が突然いう物だから後の2人は驚いた。
だがそれを止めることは断じて無かった。
米内は十分に働いた。
これは2人が一番よく知っていた。
「米内さん、今までありがとう」
「本当にありがとうございます」
2人からの礼を聞いて米内は照れくさそうに頭を掻いた。
「そうこうしていると見えてきたな」
山本の言葉に二人も同意する。
「なにか元から姉妹だったような感じがしますな」
「井上君もそう思うかね。やはり気が合うね」
彼らが見ていたのは戦艦大和と
「戦艦武蔵、アイオワ級3番艦にして接収されたアメリカ生まれアメリカ育ちの巨艦」
井上は武蔵の艦橋を見ながら言った。
井上は後に自らの回顧録で9年間の連合艦隊司令長官職についてこう語っている。
「あの9年間をもう1度やれと言われたらきっぱりと断る。それほどにつらく厳しいものだったのだ。つい先日まで馬鹿話していた者は数日後には水葬され、艦隊司令官であったわが友は今だハワイの地で行方不明だ。だが、私は連合艦隊司令長官になって唯一良いことがあった。日本を守るために散っていった兵士たちにへのはなむけとできることである。」
そして井上は1975年12月15日、横須賀で家族に見守られながら天に昇っていった。
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