連合艦隊司令長官、井上成美

ypaaaaaaa

文字の大きさ
102 / 102
連合艦隊司令長官、井上成美

連合艦隊司令長官、井上成美

しおりを挟む
1946年4月10日。
井上が連合艦隊司令長官の席に座ってちょうど9年目のこの日、井上は連合艦隊司令長官を退任し予備役に編入された。
井上自身”もうこの大役は荷が重すぎる”と感じており米内に懇願した結果だった。
後任には山口多門大将が当たることになった。


1946年6月23日。
井上の姿は旧ハワイ統監府跡にあった。
ここにはハワイ諸島をめぐる戦いで散っていった日米双方の兵士を弔う慰霊碑があり、当然小沢もいた。
井上は持っていた花束を供え手を合わせた。
「君たちが来世では平和な世の中で人生を謳歌できることを願う」
井上は慰霊碑を真正面に据え敬礼した。
「やはり来ていたか」
不意に声が聞こえたのはその時だった。
「山本さんに米内さん、お久しぶりです」
こうして3人が一堂に会すのは米内まさの葬式以来だった。
「君も元気そうでよかった。後で一杯やろう」
米内の言葉に井上は”この人は変わらないな”と呆れながらもどこかではうれしかった。
山本と米内が一通り慰霊を済ませると3人は真珠湾の周りを歩き出した。
「真珠湾もあの焼け野原からかなり復旧したものだな」
山本は感心そうに言った。
「はい。アメリカ西岸国の支援もありますからね」
1945年度ヴェルサイユ条約の後、アメリカは大恐慌をもかわいく思える大不況に直面。
またかねてより差別されていた黒人たちのの怒りも頂点に達し、第2次アメリカ内戦が勃発した。
日本はその中でアメリカ西岸国を支援。
アメリカ西岸国は帰国したキンメルが元首を務めておりコンタクトが容易だったのだ。
「アメリカもそうだが我々は旧ソ連にも気を配らねばならん」
米内の言う旧ソ連とは名前の通り元はソ連だった地域だった。
1945年度ヴェルサイユ条約が締結された1か月後に日本もソ連に侵攻。
味方が居なくなったソ連に抵抗できる力は無かった。
年も変わらないうちにソ連は崩壊。
日本はシベリア鉄道沿いに勢力圏を広げたが今だ赤軍の残党がはびこっておりその者たちへの警戒も当然必要だった。
「…こうして改めて我が国の周りを見てみると、まだまだ平和とは言っていられませんな。先月も上海租界で小競り合いがあったとか」
「もしかすると支那とも全面戦争になるかもしれんな」
「そうならなないように頼みますよ。山本さん」
「あぁ、まだ任期はあと2年あるそれまでは断じて戦争は起こさせん」
山本の意気込みはすごみがあった。
「ならもう安心だな。そろそろ私は海軍から身を引くよ」
米内が突然いう物だから後の2人は驚いた。
だがそれを止めることは断じて無かった。
米内は十分に働いた。
これは2人が一番よく知っていた。
「米内さん、今までありがとう」
「本当にありがとうございます」
2人からの礼を聞いて米内は照れくさそうに頭を掻いた。
「そうこうしていると見えてきたな」
山本の言葉に二人も同意する。
「なにか元から姉妹だったような感じがしますな」
「井上君もそう思うかね。やはり気が合うね」
彼らが見ていたのは戦艦大和と
「戦艦武蔵、アイオワ級3番艦にして接収されたアメリカ生まれアメリカ育ちの巨艦」
井上は武蔵の艦橋を見ながら言った。


井上は後に自らの回顧録で9年間の連合艦隊司令長官職についてこう語っている。
「あの9年間をもう1度やれと言われたらきっぱりと断る。それほどにつらく厳しいものだったのだ。つい先日まで馬鹿話していた者は数日後には水葬され、艦隊司令官であったわが友は今だハワイの地で行方不明だ。だが、私は連合艦隊司令長官になって唯一良いことがあった。日本を守るために散っていった兵士たちにへのはなむけとできることである。」
そして井上は1975年12月15日、横須賀で家族に見守られながら天に昇っていった。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

山本 双六
2024.07.16 山本 双六

新作も面白いです。更新頑張ってください!!!

2024.07.16 ypaaaaaaa

毎度ありがとうございます!山本さんも頑張ってください!

解除

あなたにおすすめの小説

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜

雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。 そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。 これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。 主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美 ※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。 ※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。 ※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

皇国の栄光

ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年に起こった世界恐慌。 日本はこの影響で不況に陥るが、大々的な植民地の開発や産業の重工業化によっていち早く不況から抜け出した。この功績を受け犬養毅首相は国民から熱烈に支持されていた。そして彼は社会改革と並行して秘密裏に軍備の拡張を開始していた。 激動の昭和時代。 皇国の行く末は旭日が輝く朝だろうか? それとも47の星が照らす夜だろうか? 趣味の範囲で書いているので違うところもあると思います。 こんなことがあったらいいな程度で見ていただくと幸いです

天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!??? そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。

帝国夜襲艦隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1921年。すべての始まりはこの会議だった。伏見宮博恭王軍事参議官が将来の日本海軍は夜襲を基本戦術とすべきであるという結論を出したのだ。ここを起点に日本海軍は徐々に変革していく…。 今回もいつものようにこんなことがあれば良いなぁと思いながら書いています。皆さまに楽しくお読みいただければ幸いです!

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。