わたしの心臓をあげる(改訂版)

藤雪花(ふじゆきはな)

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わたしの心臓をあげる

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 夢を描くことは素晴らしいと言ったのは誰だろう。
 わたしには希望を持つことさえ残酷なのだ。
 なりたいものなどなかった。未来が続くとは思えないから。
 ただ惰性に生きているだけが、藤崎花。わたし。
 わたしの心臓はとうに壊れてしまっている。わたしは心臓に時限爆弾を抱えている。

 ほぼ遠からぬ死が確定した未来を反転するには、心臓移植しかないのだけれど、コーディネーター協会に順番を繰り上げるほどの財力も便宜をはからせるよう圧力をかけるほどの政治力も、藤崎家にあるわけじゃない。
 地球と月の星間旅行が金持ちの道楽で気軽に行けるようになってもいまだなお、不具合がある臓器に代替できるようなきわめて精密精巧なものを求めるのならば、人造臓器では役不足である。

 クローンを作成するという手段もあった。
 しかしながらクローンも政府にきわめて厳格に規制されている。一般市民が容易に作成できるものではなかった。クローン技術の活用は、人類の未来の可能性を広げる宇宙開発事業に関わる者たちだけが持つ特権事項に該当する。
 たとえば、宇宙艦船乗組員たちや長期にわたる火星探査プロジェクトに選ばれた頭脳肉体共に優れた地球代表の精鋭と同行する配偶者たち……。
 しかも宇宙開発事業に関わるのは並大抵のものじゃない。実力のみのコネの通用しない競争世界だ。幼い頃から夢を抱き、己の才能を磨き、肉体を鍛錬し、100メートル先の針に糸も通せるような幸運をも持ち合わせていなければならないのだ。

 だからクローンはわたしの選択肢にはなりえない。わたしのような一般人は、昔ながらの臓器移植に望みを託すことになる。だけど、わたしのドナーが現れるということは、ドナーにとって生体維持の要の喪失、つまり死を意味することになる。
 だから、わたしが生きたいと願うこと自体、誰かの脳死を望むという残酷なことなのだ。
 ただベッドで過ごすだけのわたしに、誰かの命を引き替えにしてまで生き続ける価値があるのだと公言できるほど、わたしは傲慢ではない。そんな自信は皆無だ。
 将来何になりたい?と夢を聞く者たちは、なりたい自分に努力することも夢見ることも罪悪でしかないわたしのような者たちなど視界にもはいっていないのだろう。

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