わたしの心臓をあげる(改訂版)

藤雪花(ふじゆきはな)

文字の大きさ
3 / 7
わたしの心臓をあげる

3

しおりを挟む
 もう、髪を直すのも服を着替えるのも間に合わない。
 病室の中に見られてはいけないものが出しっぱなしにしていなかったか。 
 あったとしても間に合わない。来るなら直前でもいいから連絡してよ、と鈴姉をなじりたい。

「この後は、スター発掘の公開オーディションを生配信いたします……」

 騒音ばかりのニュースが野外劇場に切り替わった。
 世界各地で才能ある若手のタレントを発掘するオーディションが行われていて、この番組ではアフロの男が一位となり、スターになったという実績があった。
 画像を消す前に、メールの通知音が鳴り、テレビ映像がメールのタイトルと中身を映し出した。画面をスマホとつなげていた自分を呪いたくなる。
 間の悪いことは続くものだ。すぐさま消したが、姉は見逃してはくれなかった。

「……公開オーディションにご参加いただけなかったフジサキハナ様へ。本日は、送ってくださったデモ音声のみの放送となります。審査員および100万人の視聴者からの投票により優秀者を2名に選抜することになります。本日中に結果の合否をおしらせし……?わお!あのデモテープ、予選審査に通っているじゃないの。オーディションに花が参加するのを知っていたら寄り道しないでここに来て、あの場に連れて行ったのに」

 鈴姉は先生を呼ぶかどうか迷っていたことを忘れている。

「……わたしは行かない」
「俺も協力する。っていうか、今からでも間に合うんじゃないか?ここからなら高速で飛ばして10分で可能だな」
 担いでも連れて行かれそうな勢いである。
「だから、わたしは行かない。鈴姉とジョウに乗せられて歌ったのが間違いだったの。審査に通っても、わたしなんかが人前にでられるわけがないじゃない」
「どうして?」

 鈴は首をかしげた。
 その目はとぼけたような仕草と真逆に異様に輝いていた。

「あんたは素材として抜群なんだから。なにせ容姿端麗、運動神経抜群の、この鈴の双子の妹なのよ。花もきちんと整えたらそれはそれは美人になるわよ。それに、条件の会うドナーが現れ、明日手術できるかもしれない。その時のためにチャンスを掴でおかなきゃ」

「そうだ。花ちゃん、夢をあきらめては駄目だよ。君の歌声は宇宙級だというのは俺にでもわかるよ。それにこの閉鎖空間からでるのは気分転換にいいんじゃないか」
「鈴姉とジョウのように?」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ

海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。 あぁ、大丈夫よ。 だって彼私の部屋にいるもん。 部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。

汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!

虹湖🌈
ファンタジー
女神様、さては…汚部屋の住人ですね? もう足の踏み場がありませーん>< 面倒な人間関係はゼロ! 掃除で稼いで推し活に生きる! そんな快適ソロライフを夢見るオタク清掃員が、ダメ女神に振り回されながらも、世界一汚いダンジョンを自分だけの楽園に作り変えていく、異世界お掃除ファンタジー。

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

讃美歌 ① 出逢いの章              「礼拝堂の同級生」~「もうひとつの兆し」

エフ=宝泉薫
青春
少女と少女、心と体、美と病。 通い合う想いと届かない祈りが織りなす終わりの見えない物語。

抱きしめて

麻実
恋愛
夫の長期に亘る不倫に 女としての自信を失った妻は、新しい出会いに飛び込んでいく。

処理中です...