わたしの心臓をあげる(改訂版)

藤雪花(ふじゆきはな)

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わたしの心臓をあげる

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 絶対にいいたくない言葉なのに口にしてしまった。
 わたしがベッドで寝て死を待つだけの間、二人は宇宙空間を航行し、何十回ともなく往還している。

 涙がにじみ出た。
 同じ遺伝子でありながら、姉とは真逆の、肌がかさつき運動不足のために間接が固まっている自分を哀れんでなのか、ジョウと婚約をした姉をうらやんでなのか。
 完璧な二人に日の光の元に引きずりだされ、醜い自分を世間にさらされたくなかった。
 この病室の安全な繭の中では誰もわたしに現実問題を刃にして突き付けることはない。
 うっとりとまどろみながら、好きなだけ現実逃避して強くて美しく完璧な、もうひとりのわたしになることができるのだ。
 そこではわたしは好きな男と甘く愛し会い、時に肩を並べ命をかけて危険な地上と宇宙を往還する……。

「わたしは出ないのではなくて、いつ発作が起こるかわからないから出られないだけなのよ。わたしのことなんかほっておいて!鈴姉にわたしの気持ちなんて絶対にわからないのだから」
 喉の奥から吐き出された言葉は健康な者たち全てを呪う呪詛。
「ごめんなさい、押しつけるつもりはなくって……」

 鈴姉が困惑している。
 だけど一度火がついた怒りと嫉妬は止められない。やぶれやすい柔な皮膜に包まれたわたしをゆさぶり起こさないでほしい。
 その時、テレビからよく知っている曲が流れ出した。透明感のある歌声が旋律に乗る。
 自由に大空を羽ばたける鳥になりたい、という古い歌だ。
 頬に風が触れ、ふんわりと梅の花のような切ない香りがするような気さえする。急にその歌声以外の音がなくなった。
 開場中が静まり、舞台にいない歌声の主を探していた。
 人は鳥なんてなれないのに。かなえられない夢を胸に抱き続けることの愚かしさを歌った歌じゃないかとわたしは思うのだ……。
 それがわたし自身の声を納めたデモ音声だと気が付いたのは、ジョウがじっとわたしをみつめていたから。

「……ほら、皆、聞き惚れているわよ。あなたは歌の才能を持っている。自信をもちなさいよ。わたしに何かあったら、わたしの心臓をあげる。一卵性双生児なんだから」
「俺の心臓もやるよ」
「鈴のもジョウのもいらないから、馬鹿なことはいわないで」
 ふたりは大まじめである。



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