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第2部
TAKE36 過去編③後編〜タトゥー〜
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理解できない。
何が起こったのだ?
泰成が職場で倒れた。
すぐに病院に運ばれたが、その途中の救急車で息を引き取った。
説明は受けた。
でも理解できない。
その時の記憶が曖昧にしか思い出せない。
確か母親が駆けつけてくれたと思う。
悲しい。
斗真はなんて言っていただろうか。
思い出せない。
今、思い返すと亜門は思っていた以上にショックを受けていたんだと思う。
いつの間にか亜門にとって泰成が大事な家族となっていたのだ。
葬式も夢のような感覚でフワフワと実感がなかった。
家に帰ろう。
母親にそう誘われたのは覚えてる。
それに対して首を振ったのも。
このまま波古山家に戻ることは出来なかった。
この一年が何もなかったかのように当たり前に朝を迎えるなんて出来なかった。
信じられなかった。
通夜も葬式も終わった夜。
母親も帰って、一人でビルの中にいたら、同じく葬式帰りで制服の斗真がやってきた。
『亜門?』
『…』
『明日、学校は休むか?』
『…』
『…大丈夫か?』
明かりも点けずにソファーに座る亜門に斗真は立ったまま、問い続ける。
亜門がようやく口を開いた。
『泰成さんは俺の面倒見る度に"その貸しは誰かに返せ"って言ってた。』
『…あぁ。』
『泰成さんはいつも"誰"とは言わなかったけど、俺はずっと大人になったら泰成さんに返すって決めてたんだ。』
『…』
『なのに…俺…泰成さんに何もしてない…』
亜門は自分の髪を掴んでクシャッと乱れさせた。
『亜門。』
『…』
『人はいつか死ぬんだ。』
『…』
『泰成さんはそれが早かっただけだ。』
『斗真、』
『泰成さんは俺らよりも年上なんだし、先に逝ってしまうのは仕方ないこと、』
『黙れ!!!!』
亜門は近くのゴミ箱を蹴り飛ばした。
暗闇の中、虚しく空っぽのゴミ箱の音がする。
『黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!』
斗真は亜門の制服を掴む。
『亜門!!そうやって塞ぎこむな!!ショックなのはわかるが…』
『ーッッるせぇ!!』
亜門が斗真を壁に押しつけた。
斗真は『ぐっ。』と胸を詰まらせる。
しかし斗真は亜門を睨む目の光を衰えさせない。
『悲しいのも辛いのも仕方ない…いくらでも好きに感情吐き出せ。でも泰成さんの死から目を反らすな!!』
『黙れ!!もう帰れ!!』
亜門は斗真にそう怒鳴って突き飛ばした。
斗真は床に尻餅をついた。
ひとつ溜め息をついてから、斗真はゆっくり立ち上がり、扉に手を掛けた。
『亜門…変わらないことなんかないんだからな。それだけは忘れんなよ…』
斗真はそれだけ言って、帰った。
亜門は壁を殴った。
『くそっ!!!!』
(なんでだ?人一人死んだのに、なんで何事もないように周りは過ごしていく?なんで何も変わらない?変わってしまったことをなんで何もなかったかのように通り過ぎられる?)
"変わらないことなんかない"
亜門はもう一度、壁を叩く。
『くそっ!!!!んなもん納得できっか!!!!』
自分は忘れたくない。
変わりたくない。
そんなこと…したくない!!
亜門はビルを出て、走った。
部屋にあった紙を握って。
それは泰成の友人の住所、刺青の彫り師の松山の店だった。
看板はCLOSEとなっていたが、明かりがついている。
亜門は構わずドアを開けた。
『まっさん!!!!』
その中に先ほどの葬式の後で、喪服のまま煙草を吹かしていた松山が驚いた顔でこちらを見た。
『亜門?』
『頼む!!!!俺にドクロの刺青を入れてくれ!!!!』
忘れないように。
変わってしまわないように。
そこに刻んで亜門は立ち止まってしまいたかった。
泰成の腕のドクロを自分にも刻んでしまいたかった。
一週間後。
亜門はなかなか学校に顔を出さなかった。
行かない代わりに怪我をして、フラフラの足で道を歩く亜門がいた。
途中、血が混ざった唾を吐きながらビルに戻ろうとする。
しかしビルの前に斗真が立っていた。
亜門は面倒臭そうに眉をひそめた。
『亜門…』
『…』
『亜門!!』
『…何?』
『学校は…今日も休みか?』
『…』
『飯…食ってっか?一人で平気か?』
『てめぇは俺の母親かよ…』
『…てか、むしろお前の母ちゃん来ねぇのか?なんだったら今日はウチに来い!!飯だってたくさん食わせて、』
『いい…うぜーから放っといてくれ。』
亜門は斗真を横切り、階段を上がっていく。
斗真の息を吸う音が聞こえた。
『3日前に吉中の奴らをぶっ潰したのお前って…ホントか?』
斗真の問いに亜門は歩みを止めて、振り返った。
見下ろしたところには入り口でジッと亜門を見る斗真。
強い眼差し。
亜門は視線を反らして溜め息を吐く。
『…だったらなんだってんだ?』
『相手…ひどい怪我だったらしいぞ?』
『だから俺が知るか。なんかムカつく奴らだったし…大体喧嘩売ってきたのは向こう…』
階段を駆け上がった斗真が亜門の肩を掴む。
『おめぇの習った合気道とやらはどうしたんだ?なんで相手をわざわざ痛めつける?何考えてんだ?』
『そんなん喧嘩なんかそんなもんだろぉが!!どうなろうとも文句は言えねぇよ!!』
『てめぇのそれは何も考えてねぇ憂さ晴らしだろうが!!!!しかも最悪な!!こんなんで泰成さんが、』
『その名を言うな!!!!』
『逃げんなっつっただろぉが!?あぁん!?』
『離…』
その時、斗真に掴まれていた亜門の襟ぐりが伸びた。
斗真は大きく目を見開いた。
『あも…』
亜門は斗真の手をすぐさま払った。
しかし斗真はもう一度、亜門を押さえつけて服を引っ張った。
左胸にうねるように主張して笑うドクロ。
刺青が入っていた。
亜門は細めた目で斗真を見た。
『別にそんな珍しいもんじゃ…』
バギッッ…ー!!!
亜門が言い終わる前に斗真に殴られた。
階段から足を滑らせ、数段落ちた亜門はなんとか途中で踏み留まった。
身体中が痛い。
『痛ぅ~……てめぇ何す…』
『何してんだってこっちの台詞だ!!!!なんだそれ!?』
『何って…タトゥーだよ。』
『ッッざけんな!!…マジで何考えてんだよ!!』
『はあ?何?親面ぶって説教か?てめぇなんかただの中坊…』
『自分を傷つけるな!!てめぇがてめぇを追い込んでやんじゃねぇよ!!』
『斗…』
『てめぇなんか知るか!!』
斗真は亜門を横切り、階段を降りてビルを出ようとする。
『…あぁ、そうかよ!!俺もてめぇのことなんか知らねぇ!!てめぇは友達でも何でもねぇ!!』
亜門はそう叫んだが、遠ざかる斗真に最後まで聞こえたかは定かではない。
次の日。
亜門はやっと学校へ登校したが、学校では亜門が上級生にも他校の生徒にも喧嘩をしたという話がすでに広まっており、周りは遠巻きにヒソヒソと話しては亜門を敬遠した。
『波古山くん。来てくれてよかった。色々大変だったと思うけど喧嘩は危ないです。何か思い詰めることがあるなら先生に話してごらん?』
担任がウザい。
『あいつ、喧嘩しまくってんだって?』
『強いとかそんなんでカッコいいつもり?』
クラスがウザい。
『おい!!てめぇ、こないだは俺の後輩可愛がってくれたらしいな?』
絡んでくる不良がウザい。
ウザい
ウザい
ウザい
ウザい
亜門はただ無心に拳を振るった。
"お前は優しいし、喧嘩も強ぇし、物事もよく考えられる。いつか誰かを守ってやれるよ"
泰成の大きな手の暖かさがジワッと蘇る。
(せっかく手に入れたぬくもりを無くしたことを認めろだと?ふざけんじゃねぇぞ!?)
変わらない信頼。
変わらない絆。
行き場のない想い。
それが欲しい。
変わらないものがいい。
しかし…
"てめぇなんか知るか!!"
(そんなものはありもしない?だから俺は諦めないといけないのか?)
喧嘩の途中なのにふと昨日の斗真の言葉を思い出す。
左胸が痛んだ。
油断したその瞬間、後ろから羽交い締めにされた。
『ハコヤマを捕らえたぞ!!』
『おし!!そのまま袋だ!!』
(しまった…)
しかしもう逃げようがない。
(もう…いい。俺は…もうどうでも…)
殴られて痛みに集中している間は泰成の死を忘れられるだろうと、亜門は諦めて目を瞑った。
『ぐはっ!!!!』
体が軽くなった。
痛くない。
目を開けると羽交い締めにしていた男が倒れていた。
そして次に視界に入ったのは…赤。
『てめぇ…一人でこんだけの人数はさすがに無茶だろ。』
赤髪にキラリと光るピアス。
本気で誰かわからなくて亜門は眉間に皺を寄せた。
だが、目を見開いた。
『……斗真?』
その呼び掛けに斗真はニヤリと笑った。
『気付くの遅ぇよ。』
『だって…髪…』
斗真は亜門の言葉を待たずに近くにいる不良を殴っていく。
相手のリーダーが急に入ってきた斗真に襲いかかった。
『邪魔すんな、てめぇ!!』
『斗真!!』
危ないと思った亜門は不良リーダーに蹴りをかました。
殴りながら斗真が叫んだ。
『悲しむのもいい!!怒るのもいい!!だけど逃げんな!!でも…』
振り返った斗真が亜門にも一発殴った。
『それでも逃げて誤魔化して自分を傷付けて、どこまでも落ちぶれてぇんなら、もういい!!』
斗真は亜門の胸ぐらを掴んで引き寄せた。
『意地でも引きずり上げてやらぁ!!!!一緒に落ちてでも!!』
赤髪を揺らし、ピアスを光らせた。
『俺も一緒に落ちてグルグル回ってでも絶対上げてやる!!亜門を一人になんかにしねぇかんな!!』
斗真は亜門を離して残った敵に体を向ける。
『な…なんだこいつ…化け物か?』
不良の呟きに斗真は笑った。
『化け物?違ぇよ。鬼だよ。』
斗真は髪をかきあげた。
『鬼は昔から赤鬼って決まってんだろ?』
亜門もよろけながら立って、残った敵を見た。
向こうが構えている。
亜門は深呼吸をして学ランを脱ぎ捨てた。
『来いやあああぁぁ!!!!』
向かう敵に蹴りを入れていく。
その最中、涙が出た。
泰成が死んでから今まで出なかったのに、悲しくても出なかったのに。
嬉しいのに涙が出た。
悪魔と鬼の伝説が始まる。
何が起こったのだ?
泰成が職場で倒れた。
すぐに病院に運ばれたが、その途中の救急車で息を引き取った。
説明は受けた。
でも理解できない。
その時の記憶が曖昧にしか思い出せない。
確か母親が駆けつけてくれたと思う。
悲しい。
斗真はなんて言っていただろうか。
思い出せない。
今、思い返すと亜門は思っていた以上にショックを受けていたんだと思う。
いつの間にか亜門にとって泰成が大事な家族となっていたのだ。
葬式も夢のような感覚でフワフワと実感がなかった。
家に帰ろう。
母親にそう誘われたのは覚えてる。
それに対して首を振ったのも。
このまま波古山家に戻ることは出来なかった。
この一年が何もなかったかのように当たり前に朝を迎えるなんて出来なかった。
信じられなかった。
通夜も葬式も終わった夜。
母親も帰って、一人でビルの中にいたら、同じく葬式帰りで制服の斗真がやってきた。
『亜門?』
『…』
『明日、学校は休むか?』
『…』
『…大丈夫か?』
明かりも点けずにソファーに座る亜門に斗真は立ったまま、問い続ける。
亜門がようやく口を開いた。
『泰成さんは俺の面倒見る度に"その貸しは誰かに返せ"って言ってた。』
『…あぁ。』
『泰成さんはいつも"誰"とは言わなかったけど、俺はずっと大人になったら泰成さんに返すって決めてたんだ。』
『…』
『なのに…俺…泰成さんに何もしてない…』
亜門は自分の髪を掴んでクシャッと乱れさせた。
『亜門。』
『…』
『人はいつか死ぬんだ。』
『…』
『泰成さんはそれが早かっただけだ。』
『斗真、』
『泰成さんは俺らよりも年上なんだし、先に逝ってしまうのは仕方ないこと、』
『黙れ!!!!』
亜門は近くのゴミ箱を蹴り飛ばした。
暗闇の中、虚しく空っぽのゴミ箱の音がする。
『黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!』
斗真は亜門の制服を掴む。
『亜門!!そうやって塞ぎこむな!!ショックなのはわかるが…』
『ーッッるせぇ!!』
亜門が斗真を壁に押しつけた。
斗真は『ぐっ。』と胸を詰まらせる。
しかし斗真は亜門を睨む目の光を衰えさせない。
『悲しいのも辛いのも仕方ない…いくらでも好きに感情吐き出せ。でも泰成さんの死から目を反らすな!!』
『黙れ!!もう帰れ!!』
亜門は斗真にそう怒鳴って突き飛ばした。
斗真は床に尻餅をついた。
ひとつ溜め息をついてから、斗真はゆっくり立ち上がり、扉に手を掛けた。
『亜門…変わらないことなんかないんだからな。それだけは忘れんなよ…』
斗真はそれだけ言って、帰った。
亜門は壁を殴った。
『くそっ!!!!』
(なんでだ?人一人死んだのに、なんで何事もないように周りは過ごしていく?なんで何も変わらない?変わってしまったことをなんで何もなかったかのように通り過ぎられる?)
"変わらないことなんかない"
亜門はもう一度、壁を叩く。
『くそっ!!!!んなもん納得できっか!!!!』
自分は忘れたくない。
変わりたくない。
そんなこと…したくない!!
亜門はビルを出て、走った。
部屋にあった紙を握って。
それは泰成の友人の住所、刺青の彫り師の松山の店だった。
看板はCLOSEとなっていたが、明かりがついている。
亜門は構わずドアを開けた。
『まっさん!!!!』
その中に先ほどの葬式の後で、喪服のまま煙草を吹かしていた松山が驚いた顔でこちらを見た。
『亜門?』
『頼む!!!!俺にドクロの刺青を入れてくれ!!!!』
忘れないように。
変わってしまわないように。
そこに刻んで亜門は立ち止まってしまいたかった。
泰成の腕のドクロを自分にも刻んでしまいたかった。
一週間後。
亜門はなかなか学校に顔を出さなかった。
行かない代わりに怪我をして、フラフラの足で道を歩く亜門がいた。
途中、血が混ざった唾を吐きながらビルに戻ろうとする。
しかしビルの前に斗真が立っていた。
亜門は面倒臭そうに眉をひそめた。
『亜門…』
『…』
『亜門!!』
『…何?』
『学校は…今日も休みか?』
『…』
『飯…食ってっか?一人で平気か?』
『てめぇは俺の母親かよ…』
『…てか、むしろお前の母ちゃん来ねぇのか?なんだったら今日はウチに来い!!飯だってたくさん食わせて、』
『いい…うぜーから放っといてくれ。』
亜門は斗真を横切り、階段を上がっていく。
斗真の息を吸う音が聞こえた。
『3日前に吉中の奴らをぶっ潰したのお前って…ホントか?』
斗真の問いに亜門は歩みを止めて、振り返った。
見下ろしたところには入り口でジッと亜門を見る斗真。
強い眼差し。
亜門は視線を反らして溜め息を吐く。
『…だったらなんだってんだ?』
『相手…ひどい怪我だったらしいぞ?』
『だから俺が知るか。なんかムカつく奴らだったし…大体喧嘩売ってきたのは向こう…』
階段を駆け上がった斗真が亜門の肩を掴む。
『おめぇの習った合気道とやらはどうしたんだ?なんで相手をわざわざ痛めつける?何考えてんだ?』
『そんなん喧嘩なんかそんなもんだろぉが!!どうなろうとも文句は言えねぇよ!!』
『てめぇのそれは何も考えてねぇ憂さ晴らしだろうが!!!!しかも最悪な!!こんなんで泰成さんが、』
『その名を言うな!!!!』
『逃げんなっつっただろぉが!?あぁん!?』
『離…』
その時、斗真に掴まれていた亜門の襟ぐりが伸びた。
斗真は大きく目を見開いた。
『あも…』
亜門は斗真の手をすぐさま払った。
しかし斗真はもう一度、亜門を押さえつけて服を引っ張った。
左胸にうねるように主張して笑うドクロ。
刺青が入っていた。
亜門は細めた目で斗真を見た。
『別にそんな珍しいもんじゃ…』
バギッッ…ー!!!
亜門が言い終わる前に斗真に殴られた。
階段から足を滑らせ、数段落ちた亜門はなんとか途中で踏み留まった。
身体中が痛い。
『痛ぅ~……てめぇ何す…』
『何してんだってこっちの台詞だ!!!!なんだそれ!?』
『何って…タトゥーだよ。』
『ッッざけんな!!…マジで何考えてんだよ!!』
『はあ?何?親面ぶって説教か?てめぇなんかただの中坊…』
『自分を傷つけるな!!てめぇがてめぇを追い込んでやんじゃねぇよ!!』
『斗…』
『てめぇなんか知るか!!』
斗真は亜門を横切り、階段を降りてビルを出ようとする。
『…あぁ、そうかよ!!俺もてめぇのことなんか知らねぇ!!てめぇは友達でも何でもねぇ!!』
亜門はそう叫んだが、遠ざかる斗真に最後まで聞こえたかは定かではない。
次の日。
亜門はやっと学校へ登校したが、学校では亜門が上級生にも他校の生徒にも喧嘩をしたという話がすでに広まっており、周りは遠巻きにヒソヒソと話しては亜門を敬遠した。
『波古山くん。来てくれてよかった。色々大変だったと思うけど喧嘩は危ないです。何か思い詰めることがあるなら先生に話してごらん?』
担任がウザい。
『あいつ、喧嘩しまくってんだって?』
『強いとかそんなんでカッコいいつもり?』
クラスがウザい。
『おい!!てめぇ、こないだは俺の後輩可愛がってくれたらしいな?』
絡んでくる不良がウザい。
ウザい
ウザい
ウザい
ウザい
亜門はただ無心に拳を振るった。
"お前は優しいし、喧嘩も強ぇし、物事もよく考えられる。いつか誰かを守ってやれるよ"
泰成の大きな手の暖かさがジワッと蘇る。
(せっかく手に入れたぬくもりを無くしたことを認めろだと?ふざけんじゃねぇぞ!?)
変わらない信頼。
変わらない絆。
行き場のない想い。
それが欲しい。
変わらないものがいい。
しかし…
"てめぇなんか知るか!!"
(そんなものはありもしない?だから俺は諦めないといけないのか?)
喧嘩の途中なのにふと昨日の斗真の言葉を思い出す。
左胸が痛んだ。
油断したその瞬間、後ろから羽交い締めにされた。
『ハコヤマを捕らえたぞ!!』
『おし!!そのまま袋だ!!』
(しまった…)
しかしもう逃げようがない。
(もう…いい。俺は…もうどうでも…)
殴られて痛みに集中している間は泰成の死を忘れられるだろうと、亜門は諦めて目を瞑った。
『ぐはっ!!!!』
体が軽くなった。
痛くない。
目を開けると羽交い締めにしていた男が倒れていた。
そして次に視界に入ったのは…赤。
『てめぇ…一人でこんだけの人数はさすがに無茶だろ。』
赤髪にキラリと光るピアス。
本気で誰かわからなくて亜門は眉間に皺を寄せた。
だが、目を見開いた。
『……斗真?』
その呼び掛けに斗真はニヤリと笑った。
『気付くの遅ぇよ。』
『だって…髪…』
斗真は亜門の言葉を待たずに近くにいる不良を殴っていく。
相手のリーダーが急に入ってきた斗真に襲いかかった。
『邪魔すんな、てめぇ!!』
『斗真!!』
危ないと思った亜門は不良リーダーに蹴りをかました。
殴りながら斗真が叫んだ。
『悲しむのもいい!!怒るのもいい!!だけど逃げんな!!でも…』
振り返った斗真が亜門にも一発殴った。
『それでも逃げて誤魔化して自分を傷付けて、どこまでも落ちぶれてぇんなら、もういい!!』
斗真は亜門の胸ぐらを掴んで引き寄せた。
『意地でも引きずり上げてやらぁ!!!!一緒に落ちてでも!!』
赤髪を揺らし、ピアスを光らせた。
『俺も一緒に落ちてグルグル回ってでも絶対上げてやる!!亜門を一人になんかにしねぇかんな!!』
斗真は亜門を離して残った敵に体を向ける。
『な…なんだこいつ…化け物か?』
不良の呟きに斗真は笑った。
『化け物?違ぇよ。鬼だよ。』
斗真は髪をかきあげた。
『鬼は昔から赤鬼って決まってんだろ?』
亜門もよろけながら立って、残った敵を見た。
向こうが構えている。
亜門は深呼吸をして学ランを脱ぎ捨てた。
『来いやあああぁぁ!!!!』
向かう敵に蹴りを入れていく。
その最中、涙が出た。
泰成が死んでから今まで出なかったのに、悲しくても出なかったのに。
嬉しいのに涙が出た。
悪魔と鬼の伝説が始まる。
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