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第2部
TAKE37 過去編④前編〜鬼とデーモン〜
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◇◇◇◇
『そのタトゥーはまっさんがしてくれたんだ?』
学校の屋上で斗真はパックジュースのストローをくわえながら亜門に聞いた。
亜門と斗真の暴れっぷりは有名となりつつあり、学校にいても騒がれ疎まれ狙われる。
そんな扱いとなるから二人で屋上にいることが多かった。
『そう。彫ってくれたあと、すんげぇ殴られたけど。』
『うぇ!?なんで?』
『未成年で刺青はうちの地域じゃ犯罪だって…』
『げ!?』
『つーか、罪に問われるのは彫った人…つまりまっさんになるって…だから…』
"彫ってやるから…てめぇはその借りを忘れんじゃねぇぞ。俺を犯罪者にすんだからその責任果たすまで…俺が掘ったってバレないように、お前は俺が死ぬまで生きろ!わかったか!?"
今思うとそれは亜門が泰成の後を追わないようにするための行動だったのかもしれない。
亜門が自殺なんて考えないように…
(だとしてもむちゃくちゃだし…『それでもこれはタイセーの代わりに叱ってやる』ってすげぇ殴られたし、矛盾だらけだ…)
亜門は左胸をギュッと掴んだ。
斗真は大きな溜め息を吐いた。
『はあーぁ、暑ッッ!!プール入りてぇ!!次の体育はもう来週だよー。今入りてぇ!!!!』
『俺は入れねぇけどな…。』
『それはタトゥーを掘った自業自得。悪いけど俺は一人でも入る。』
『ひでぇ…』
『しょうがねぇな~。お前には今度ホースで水掛けてやるから!!』
『それ、イジメ。』
『つーかプール駄目なら海は?夏休み海行くか!?』
『おぉー…海か。』
『海で水着美女ナンパしてぇ!!』
『そっちか!!』
『だってさ…もう夏じゃん?彼女の一人や二人や十人はほしいじゃん?』
『十人は多いよ。てめぇはまず好きな奴みたいなの作れよ。』
『でも俺ら、今密かに一部の女子に騒がれてるらしいよ?』
『あ?』
『"ハヤコマデーモン"と"鬼のトーマ"って言われてんだってよ。』
『なんじゃそりゃ。……ダジャレ?』
『つーか暑ぃ~よな~…』
斗真はジュースパックを潰して、シャツをパタパタと扇いだ。
亜門は重い息を吐いた。
騒がれるのもムカつく。
でも今は『逃げんのか?』と言われてもカチンとくる。
刺青を彫って以来、売られた喧嘩を買うばかりでなく、亜門自身も喧嘩をふっかけるようになった。
それはどれもこれも世の中が目障りでムカつくから。
斗真はそんな亜門に付き合ってくれる。
それも苛立つ理由の一つ。
でも斗真が一緒に居てくれるから、まだ見境も作れている。
(それで斗真が"鬼"だぁ?関係ねぇ奴らが勝手に言いやがって…)
亜門はイライラしていた。
今は泰成の遺産の話で最近、知らない弁護士と亜門の父・秀明ともよく顔を合わせている。
だが中学生にはよくわからないまま話が進んでいくので、そのせいで他のことにも余計にイライラしやすかった。
『…つーか、俺がデーモンってなんだよ…』
『…お前の喧嘩の仕方が意地悪だからじゃね?』
屋上の扉が開いた。
亜門も斗真も目を見開いて扉に注目した。
するとそこから、缶ジュースをたくさん抱えた男子生徒が入ってきた。
幼くてまだ垢抜けていない恐らく下級生で、坊主頭の男の子だ。
歩き辛そうに来る男は斗真の目の前までやってきた。
斗真は赤毛の頭をポリポリ掻きながら、その様子をキョトンと見ていた。
『え…っと、誰キミ?』
缶ジュースの男は顔を覗かしてパッと笑った。
『はい!!自分は昨日助けていただいた硲尚太といいます!!』
斗真は瞬きをしたあと、首を傾げた。
斗真は思い出せていないようだが、尚太は構わず笑顔で続けた。
『昨日は本当にありがとうございました!!これはそのお礼です!!』
差し出されたジュースに亜門は眉間に皺寄せた。
『さすが"鬼のトーマ"さんでっ……』
『ジュースとか持ってきて媚びんじゃねぇ!!きめぇ!!』
亜門は尚太の首に蹴りをかました。
缶が地面に次々と音をたてて落ちていった。
『つーか"鬼のトーマ"たぁ、てめぇふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!?』
『亜門…』
『んでジュース目的でてめぇを助けたんじゃねんだから!!てか、テメェ誰だよ!!』
『亜門!!』
『あ?』
『聞いてないよ。』
『あぁ?』
斗真が指差した先を見ると、蹴りをモロに喰らって尚太は地面に完全に伸びていた。
『…』
『…』
しかし奇妙なもので尚太はその後も二人の前に何かと現れた。
尚太だけでなく、後輩達がチラホラとなついてきた。
二人にというより斗真にだ。
斗真も面倒見が良いので、より人が斗真の周りに集まり、授業をサボっても喧嘩しても騒がしかった。
そして斗真は髪を赤に染めてから今まで以上にやりたいことをやりたいようにムチャをした。
『ほら!!今日は流星群だぜ?』
『って、このフェンス越えるのは禁止だろぉが!!』
『"デーモン"って言われてるくせに、根が真面目だな…』
『あ?』
『つーか、もしかしてビビってる?』
『あぁん?』
切れる亜門に斗真は歯を見せて笑った。
『来いよ!!これも青春だ!!』
亜門は目を細めて斗真を見た。
『斗真のそのフレーズがまじしつこい。』
溜め息をつきながら、亜門はフェンスに足を掛ける。
斗真はケラケラ笑いながらフェンスを乗り越えた。
『なんでだ?いいじゃん!!青春最高!!』
『マジでお前、逆におっさんみたい?』
『うっせぇ!!黙れ!!』
それに対して亜門はフェンスの上に乗ったまま、動きを止めた。
『…亜門?』
『もう…無理に付き合わなくていいんだ。』
『あ?何のこと?』
斗真の周りに集まる笑顔。
初めて会った小学生の時の斗真を思い出す。
(カリスマがあんのはてめぇの方だ。)
亜門は斗真を見下ろした。
『青春がしたいなら俺と無理に行動を一緒にしなくていい。女の子と海に行きたいなら行けばいい。お前一人ならきっとお前のしたいこと全部出来る。』
『…』
『下らない喧嘩に巻き込まれることも…"鬼"なんて呼ばれることもないんだ…』
斗真は俯いた。
微かに震えている。
『だからもう俺のこと本当に放っといてくれていい。でも確かにお前がいてくれたおかげでなんとか今も生きてるよ。その優しさには感謝してる…もういい…』
『くっ…くっ…』
『…?』
『くはっ!!ははっぎゃはははは!!!!』
突然の斗真の笑い声に亜門はビックリした。
『何?お前なんか病んでる?中二病?』
『なっ!?俺は真剣に…』
『俺はお前といて楽しいからいいんだよ。それにな…』
斗真はあの頃からブレることなく、真っ直ぐと笑う。
『亜門!!これだっていつかは青春だって言えるかもしんねぇぞ?』
『…え?』
『喧嘩も、流星群も、全部。』
斗真は何事もなかったように『行くぞ!!』と亜門に声を掛けた。
亜門はいつまでも周りのせいにして八つ当たってはいけないな…と感じ始めていた。
そして斗真だけは確かに自分の見る目は間違っていなかった。
亜門は斗真の後ろに着いていきながら気付かれないようにソッと笑った。
亜門はデーモンと恐れられ派手に喧嘩をする日々から、ほんの少しずつ息を吹き返していった。
泰成の一周忌を終えた頃、亜門達も三年生となり、中学生活も残りわずかとなっていた。
亜門と斗真を慕う後輩も増えていき、そして二人を狙う不良も増えていった。
亜門から喧嘩を売ることも少なくなっていったが、高校生からけしかけられたりと相変わらずも"デーモンの日々"も過ごしていた。
それでも二人に直面する問題があった。
中学三年生なら必ず言われる進路だ。
『亜門…ホントに高校行かないのか?』
喧嘩帰りに傷を作ったままの斗真は、ビルのソファーに座って亜門を見る。
亜門は消毒液を斗真に投げてから頷いた。
『しょうがねぇだろ。無理なんだから。』
泰成の一周忌の時、亜門の父と母がこのビルにやってきたのだ。
その時に泰成の遺産であるビルと土地は亜門に譲ってくれることになったと言われた。
手続きは父が全て担ってくれた。
しかし、
『義務教育までは親の責任としてなんとかしてやる。しかしそれからは知らない。家を離れている間、好き勝手していたらしいじゃないか。好きにするなら、自身で責任を取れ。もうお前は知らん。このビルは手切れ金だと思え。』
父にそう言われた。
母は泣いていた。
亜門は仕方ないと諦めた。
元より波古山家に戻りたいとは思っていなかった。
戻ったところで自分が何をしたいかなんてわからない。
斗真は自分で傷の手当てをしながらしょんぼりとした。
『なんだよー。つまんねぇーなー。』
『お前は?どっか高校行くのか?』
『んー?何も考えてねぇ…つーかそれよりも重要なことがある。』
『…なんだ?』
『あと一年で中学終わるっていうのに彼女いたことねぇよ!!やべぇー!!俺の青春計画がッッ!!』
『…はいはい。』
『…高校に入ったら可愛い子とかいんのかな?』
『お前それ、中学の入学式でも同じこと言ってたぞ。』
『だってよー…』
高校は未知の世界。
少し大人のような感じで楽しいこともたくさんありそうだ。
しかし亜門には関係のないこと。
現実の話、受験料に入学金、授業料。
子供の亜門にはどうすることも出来ない。
(斗真と高校生ってのも面白そうだったけどな…)
亜門の親がお金を出してくれるわけがない。
せいぜい行かせてくれる高校は世華とかもっと偏差値も知名度も高い学校じゃないと無理だろう。
『そういや…右京は今、世華なんだよな…』
亜門の呟きに斗真が『あ?なんて?』と返した。
『右京だよ。』
『あぁ、亜門の弟の…』
『うん。多分あいつ今世華ってとこに通ってんだけど、どこ受験すんだろうな…って思って。』
『泰成さんの一周忌の時、会わなかったのか?』
『あぁ…来てなかった。…元気してんのかな…』
無邪気で亜門になついていた可愛い弟。
あんな息苦しい家で今も生活しているのだ。
"兄ちゃん!!"
"すげぇな兄ちゃん"
"兄ちゃんここ教えて"
ふと痛みが走る。
"兄ちゃんッッ!?なんで出ていくんだよ!!"
"逃げんなよ!!卑怯者!!"
亜門は遠くを見ながら右京を思った。
『元気にしてたらいいけど…』
『…そうだな。』
数年会っていない弟はどんな風になったのだろう。
亜門は右京を見て、自分の弟だって気付くことができるのだろうか。
そんなことを考えていた亜門は一目見て、ちゃんと右京だと気付くことが出来た再会は小夜と一緒にいた2年後の話である。
そんなことがありながら、三年生の時に斗真に異変が起こった。
最近、斗真は放課後にどこか一人で行っているなと思っていた。
そんなある日、斗真が真面目な顔をして、夜に亜門の家へと訪れた。
『亜門…今いいか?』
『あ?別に何もねぇよ。入れば?』
『…おぉ。』
もう少しで梅雨明けらしいが、外はシトシトと小雨が降っていた。
傘を射さなかったのか雨で濡れている斗真にタオルと白湯を渡した。
『なんだ?珍しく真面目な顔して…』
『へ……変か!?』
急に前のめりになる斗真に亜門は瞬きをした。
『変…ではないけど、珍しいなって…』
『そうか…そうか。』
『…』
『…』
『…亜門!!!!』
『あ?』
『俺やべぇ!!!!』
『…何が?』
『俺……好きな女出来たかもしんねぇ!!!!』
亜門は今度こそ言葉を無くして瞬きを繰り返した。
『え?何が?』
『え…だから女!!』
『え、女?』
『そう女!!』
『え?あ…彼女か?』
『えぇ!?違う違う!!告っちゃいねぇ!!彼女じゃねぇ!!』
『違うのか?』
『お…おぉ!!でもやべぇ!!』
『何!?』
『どうすればいいのかわかんねぇ!!なんかわかんねぇけど…好きだ!!!!』
亜門はあたふたしたが、すぐに我に返って深呼吸した。
『と…とりあえず落ち着こうぜ。なんか俺ら女々しい。』
『め…女々しいのか?』
『あぁ…なんか好きな奴の話で騒いでんの…なんか女みてぇだ。』
斗真もタオルを頭に乗せて頷いた。
『確かに…』
しばらくお互いに黙っていたら斗真が目の前の白湯を掴んで一気飲みをした。
呆然とする亜門に斗真は飲みきった茶飲みを机に置いた。
『おぉ!!そうだよな!!ここで騒いでる場合じゃねぇよな!!』
『おぉ?』
『うん!!亜門に話したら、なんかスッキリした!!』
『いや…俺は何も言ってねぇ…』
『でも俺の中で結論出た!!よくわかんねぇけど、俺はアイツのこと好きだ!!』
いつも冗談でクラスの誰それが可愛いとか彼女が欲しいとか言っていた斗真がやけに晴れ晴れとした顔でそう言うから、きっと本当にその子のことが好きなんだろう。
斗真に好きな人ができたという実感を亜門は今さらした。
『亜門!!サンキューな!!』
『だから俺は何もしてねぇって…』
『今から告ってくる!!』
『だから俺は…って早すぎないか!?』
『なんか今、すげぇ会いたいんだ!!』
斗真は亜門に『タオルサンキュー!!』とタオルを返して瞬く間にビルを出ていった。
『…なんだ、あいつ。』
一人残された亜門は誰からも返事がないのをわかっているのに思わず呟いた。
『そのタトゥーはまっさんがしてくれたんだ?』
学校の屋上で斗真はパックジュースのストローをくわえながら亜門に聞いた。
亜門と斗真の暴れっぷりは有名となりつつあり、学校にいても騒がれ疎まれ狙われる。
そんな扱いとなるから二人で屋上にいることが多かった。
『そう。彫ってくれたあと、すんげぇ殴られたけど。』
『うぇ!?なんで?』
『未成年で刺青はうちの地域じゃ犯罪だって…』
『げ!?』
『つーか、罪に問われるのは彫った人…つまりまっさんになるって…だから…』
"彫ってやるから…てめぇはその借りを忘れんじゃねぇぞ。俺を犯罪者にすんだからその責任果たすまで…俺が掘ったってバレないように、お前は俺が死ぬまで生きろ!わかったか!?"
今思うとそれは亜門が泰成の後を追わないようにするための行動だったのかもしれない。
亜門が自殺なんて考えないように…
(だとしてもむちゃくちゃだし…『それでもこれはタイセーの代わりに叱ってやる』ってすげぇ殴られたし、矛盾だらけだ…)
亜門は左胸をギュッと掴んだ。
斗真は大きな溜め息を吐いた。
『はあーぁ、暑ッッ!!プール入りてぇ!!次の体育はもう来週だよー。今入りてぇ!!!!』
『俺は入れねぇけどな…。』
『それはタトゥーを掘った自業自得。悪いけど俺は一人でも入る。』
『ひでぇ…』
『しょうがねぇな~。お前には今度ホースで水掛けてやるから!!』
『それ、イジメ。』
『つーかプール駄目なら海は?夏休み海行くか!?』
『おぉー…海か。』
『海で水着美女ナンパしてぇ!!』
『そっちか!!』
『だってさ…もう夏じゃん?彼女の一人や二人や十人はほしいじゃん?』
『十人は多いよ。てめぇはまず好きな奴みたいなの作れよ。』
『でも俺ら、今密かに一部の女子に騒がれてるらしいよ?』
『あ?』
『"ハヤコマデーモン"と"鬼のトーマ"って言われてんだってよ。』
『なんじゃそりゃ。……ダジャレ?』
『つーか暑ぃ~よな~…』
斗真はジュースパックを潰して、シャツをパタパタと扇いだ。
亜門は重い息を吐いた。
騒がれるのもムカつく。
でも今は『逃げんのか?』と言われてもカチンとくる。
刺青を彫って以来、売られた喧嘩を買うばかりでなく、亜門自身も喧嘩をふっかけるようになった。
それはどれもこれも世の中が目障りでムカつくから。
斗真はそんな亜門に付き合ってくれる。
それも苛立つ理由の一つ。
でも斗真が一緒に居てくれるから、まだ見境も作れている。
(それで斗真が"鬼"だぁ?関係ねぇ奴らが勝手に言いやがって…)
亜門はイライラしていた。
今は泰成の遺産の話で最近、知らない弁護士と亜門の父・秀明ともよく顔を合わせている。
だが中学生にはよくわからないまま話が進んでいくので、そのせいで他のことにも余計にイライラしやすかった。
『…つーか、俺がデーモンってなんだよ…』
『…お前の喧嘩の仕方が意地悪だからじゃね?』
屋上の扉が開いた。
亜門も斗真も目を見開いて扉に注目した。
するとそこから、缶ジュースをたくさん抱えた男子生徒が入ってきた。
幼くてまだ垢抜けていない恐らく下級生で、坊主頭の男の子だ。
歩き辛そうに来る男は斗真の目の前までやってきた。
斗真は赤毛の頭をポリポリ掻きながら、その様子をキョトンと見ていた。
『え…っと、誰キミ?』
缶ジュースの男は顔を覗かしてパッと笑った。
『はい!!自分は昨日助けていただいた硲尚太といいます!!』
斗真は瞬きをしたあと、首を傾げた。
斗真は思い出せていないようだが、尚太は構わず笑顔で続けた。
『昨日は本当にありがとうございました!!これはそのお礼です!!』
差し出されたジュースに亜門は眉間に皺寄せた。
『さすが"鬼のトーマ"さんでっ……』
『ジュースとか持ってきて媚びんじゃねぇ!!きめぇ!!』
亜門は尚太の首に蹴りをかました。
缶が地面に次々と音をたてて落ちていった。
『つーか"鬼のトーマ"たぁ、てめぇふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!?』
『亜門…』
『んでジュース目的でてめぇを助けたんじゃねんだから!!てか、テメェ誰だよ!!』
『亜門!!』
『あ?』
『聞いてないよ。』
『あぁ?』
斗真が指差した先を見ると、蹴りをモロに喰らって尚太は地面に完全に伸びていた。
『…』
『…』
しかし奇妙なもので尚太はその後も二人の前に何かと現れた。
尚太だけでなく、後輩達がチラホラとなついてきた。
二人にというより斗真にだ。
斗真も面倒見が良いので、より人が斗真の周りに集まり、授業をサボっても喧嘩しても騒がしかった。
そして斗真は髪を赤に染めてから今まで以上にやりたいことをやりたいようにムチャをした。
『ほら!!今日は流星群だぜ?』
『って、このフェンス越えるのは禁止だろぉが!!』
『"デーモン"って言われてるくせに、根が真面目だな…』
『あ?』
『つーか、もしかしてビビってる?』
『あぁん?』
切れる亜門に斗真は歯を見せて笑った。
『来いよ!!これも青春だ!!』
亜門は目を細めて斗真を見た。
『斗真のそのフレーズがまじしつこい。』
溜め息をつきながら、亜門はフェンスに足を掛ける。
斗真はケラケラ笑いながらフェンスを乗り越えた。
『なんでだ?いいじゃん!!青春最高!!』
『マジでお前、逆におっさんみたい?』
『うっせぇ!!黙れ!!』
それに対して亜門はフェンスの上に乗ったまま、動きを止めた。
『…亜門?』
『もう…無理に付き合わなくていいんだ。』
『あ?何のこと?』
斗真の周りに集まる笑顔。
初めて会った小学生の時の斗真を思い出す。
(カリスマがあんのはてめぇの方だ。)
亜門は斗真を見下ろした。
『青春がしたいなら俺と無理に行動を一緒にしなくていい。女の子と海に行きたいなら行けばいい。お前一人ならきっとお前のしたいこと全部出来る。』
『…』
『下らない喧嘩に巻き込まれることも…"鬼"なんて呼ばれることもないんだ…』
斗真は俯いた。
微かに震えている。
『だからもう俺のこと本当に放っといてくれていい。でも確かにお前がいてくれたおかげでなんとか今も生きてるよ。その優しさには感謝してる…もういい…』
『くっ…くっ…』
『…?』
『くはっ!!ははっぎゃはははは!!!!』
突然の斗真の笑い声に亜門はビックリした。
『何?お前なんか病んでる?中二病?』
『なっ!?俺は真剣に…』
『俺はお前といて楽しいからいいんだよ。それにな…』
斗真はあの頃からブレることなく、真っ直ぐと笑う。
『亜門!!これだっていつかは青春だって言えるかもしんねぇぞ?』
『…え?』
『喧嘩も、流星群も、全部。』
斗真は何事もなかったように『行くぞ!!』と亜門に声を掛けた。
亜門はいつまでも周りのせいにして八つ当たってはいけないな…と感じ始めていた。
そして斗真だけは確かに自分の見る目は間違っていなかった。
亜門は斗真の後ろに着いていきながら気付かれないようにソッと笑った。
亜門はデーモンと恐れられ派手に喧嘩をする日々から、ほんの少しずつ息を吹き返していった。
泰成の一周忌を終えた頃、亜門達も三年生となり、中学生活も残りわずかとなっていた。
亜門と斗真を慕う後輩も増えていき、そして二人を狙う不良も増えていった。
亜門から喧嘩を売ることも少なくなっていったが、高校生からけしかけられたりと相変わらずも"デーモンの日々"も過ごしていた。
それでも二人に直面する問題があった。
中学三年生なら必ず言われる進路だ。
『亜門…ホントに高校行かないのか?』
喧嘩帰りに傷を作ったままの斗真は、ビルのソファーに座って亜門を見る。
亜門は消毒液を斗真に投げてから頷いた。
『しょうがねぇだろ。無理なんだから。』
泰成の一周忌の時、亜門の父と母がこのビルにやってきたのだ。
その時に泰成の遺産であるビルと土地は亜門に譲ってくれることになったと言われた。
手続きは父が全て担ってくれた。
しかし、
『義務教育までは親の責任としてなんとかしてやる。しかしそれからは知らない。家を離れている間、好き勝手していたらしいじゃないか。好きにするなら、自身で責任を取れ。もうお前は知らん。このビルは手切れ金だと思え。』
父にそう言われた。
母は泣いていた。
亜門は仕方ないと諦めた。
元より波古山家に戻りたいとは思っていなかった。
戻ったところで自分が何をしたいかなんてわからない。
斗真は自分で傷の手当てをしながらしょんぼりとした。
『なんだよー。つまんねぇーなー。』
『お前は?どっか高校行くのか?』
『んー?何も考えてねぇ…つーかそれよりも重要なことがある。』
『…なんだ?』
『あと一年で中学終わるっていうのに彼女いたことねぇよ!!やべぇー!!俺の青春計画がッッ!!』
『…はいはい。』
『…高校に入ったら可愛い子とかいんのかな?』
『お前それ、中学の入学式でも同じこと言ってたぞ。』
『だってよー…』
高校は未知の世界。
少し大人のような感じで楽しいこともたくさんありそうだ。
しかし亜門には関係のないこと。
現実の話、受験料に入学金、授業料。
子供の亜門にはどうすることも出来ない。
(斗真と高校生ってのも面白そうだったけどな…)
亜門の親がお金を出してくれるわけがない。
せいぜい行かせてくれる高校は世華とかもっと偏差値も知名度も高い学校じゃないと無理だろう。
『そういや…右京は今、世華なんだよな…』
亜門の呟きに斗真が『あ?なんて?』と返した。
『右京だよ。』
『あぁ、亜門の弟の…』
『うん。多分あいつ今世華ってとこに通ってんだけど、どこ受験すんだろうな…って思って。』
『泰成さんの一周忌の時、会わなかったのか?』
『あぁ…来てなかった。…元気してんのかな…』
無邪気で亜門になついていた可愛い弟。
あんな息苦しい家で今も生活しているのだ。
"兄ちゃん!!"
"すげぇな兄ちゃん"
"兄ちゃんここ教えて"
ふと痛みが走る。
"兄ちゃんッッ!?なんで出ていくんだよ!!"
"逃げんなよ!!卑怯者!!"
亜門は遠くを見ながら右京を思った。
『元気にしてたらいいけど…』
『…そうだな。』
数年会っていない弟はどんな風になったのだろう。
亜門は右京を見て、自分の弟だって気付くことができるのだろうか。
そんなことを考えていた亜門は一目見て、ちゃんと右京だと気付くことが出来た再会は小夜と一緒にいた2年後の話である。
そんなことがありながら、三年生の時に斗真に異変が起こった。
最近、斗真は放課後にどこか一人で行っているなと思っていた。
そんなある日、斗真が真面目な顔をして、夜に亜門の家へと訪れた。
『亜門…今いいか?』
『あ?別に何もねぇよ。入れば?』
『…おぉ。』
もう少しで梅雨明けらしいが、外はシトシトと小雨が降っていた。
傘を射さなかったのか雨で濡れている斗真にタオルと白湯を渡した。
『なんだ?珍しく真面目な顔して…』
『へ……変か!?』
急に前のめりになる斗真に亜門は瞬きをした。
『変…ではないけど、珍しいなって…』
『そうか…そうか。』
『…』
『…』
『…亜門!!!!』
『あ?』
『俺やべぇ!!!!』
『…何が?』
『俺……好きな女出来たかもしんねぇ!!!!』
亜門は今度こそ言葉を無くして瞬きを繰り返した。
『え?何が?』
『え…だから女!!』
『え、女?』
『そう女!!』
『え?あ…彼女か?』
『えぇ!?違う違う!!告っちゃいねぇ!!彼女じゃねぇ!!』
『違うのか?』
『お…おぉ!!でもやべぇ!!』
『何!?』
『どうすればいいのかわかんねぇ!!なんかわかんねぇけど…好きだ!!!!』
亜門はあたふたしたが、すぐに我に返って深呼吸した。
『と…とりあえず落ち着こうぜ。なんか俺ら女々しい。』
『め…女々しいのか?』
『あぁ…なんか好きな奴の話で騒いでんの…なんか女みてぇだ。』
斗真もタオルを頭に乗せて頷いた。
『確かに…』
しばらくお互いに黙っていたら斗真が目の前の白湯を掴んで一気飲みをした。
呆然とする亜門に斗真は飲みきった茶飲みを机に置いた。
『おぉ!!そうだよな!!ここで騒いでる場合じゃねぇよな!!』
『おぉ?』
『うん!!亜門に話したら、なんかスッキリした!!』
『いや…俺は何も言ってねぇ…』
『でも俺の中で結論出た!!よくわかんねぇけど、俺はアイツのこと好きだ!!』
いつも冗談でクラスの誰それが可愛いとか彼女が欲しいとか言っていた斗真がやけに晴れ晴れとした顔でそう言うから、きっと本当にその子のことが好きなんだろう。
斗真に好きな人ができたという実感を亜門は今さらした。
『亜門!!サンキューな!!』
『だから俺は何もしてねぇって…』
『今から告ってくる!!』
『だから俺は…って早すぎないか!?』
『なんか今、すげぇ会いたいんだ!!』
斗真は亜門に『タオルサンキュー!!』とタオルを返して瞬く間にビルを出ていった。
『…なんだ、あいつ。』
一人残された亜門は誰からも返事がないのをわかっているのに思わず呟いた。
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歴史・時代
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戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
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