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第1部
TAKE2 昼下がりの契約 後編
しおりを挟む春の柔らかい風が二人を撫でる。
「……なんで、あの不良みたいな人達に追われてたの?」
小夜は思わず疑問を口にした。
それに対して亜門は苦笑した。
「昨日少し色々ありまして。俺のことが気にくわないんですよ。そのついでに昼食を買ってこいだの、金出せだの言われたので逃げてきたんです」
亜門は深呼吸をして体を伸ばした。
小夜はすっかり昨日の恐怖を無くしていた。
あまりにも昨日とギャップがありすぎるのだ。
「なんで逃げるの?その……昨日みたいにやっつけたらいいでしょ?」
「……それです。言ったじゃないですか。昨日の出来事、誰にも言わないで下さいって。俺の用件はその確認です」
「なんで言ったらいけないの?あなたすごい人なんじゃないの?ナントカデーモンって」
「あもん」
「……え?」
「俺の名前、波古山 亜門です」
「はこやま……あもん?」
「そうです。俺をそうやって呼ぶ奴なんて……いないんです」
亜門は遠い目でそう言った。
「確かに俺は中学の時、"悪かった"ですよ?でも好きで不良やってわけじゃないんです。ただ──」
何か深い事情があったのか?
そう悟った小夜は黙って、亜門の言葉の続きを待った。
「ただ……気にくわない奴を黙らせてきただけで」
「……へ?」
「ムカつく奴殴って、目障りな奴殴って、仕返しにくる奴殴って、殴って殴ってを繰り返してたら……気がついたら、そんなんになってたんです。なんかいつの間にか」
そりゃ、お前が悪い。
だが小夜はさすがにそこまで言えなかった。
恐怖はなくなったものの、話しからして相手は元ヤンキーであることは確かになったからだ。
「でも喧嘩って多少はスカッとしますけど……やっぱつまんないんですよ。他の奴は知らないですけど、少なくとも俺はそうでした。怪我するし、キリないし……。……それで思ったんですけど」
どこか遠くを見ていた彼はしっかりと小夜を見つめて拳を作って、言い切った。
「青春がしたいって!!!!」
小夜は脱力した。
(バカだ!!この人、バカ決定だ!!!)
そんな小夜の内心も知らず、亜門は熱弁を続ける。
「やっぱ友達作ったり!!サボらず学校行事とかも参加したり、テストだりぃとか言いつつ頑張って徹夜してみたり、彼女作ったり、悪いことは年に一度ぐらいにしといたら、その思い出もより鮮やかになる……って聞いてます?」
昨日の悪魔は幻なのか?と疑いたくなるほどに目の前の男がバカに見える。
すっかり力が抜けた小夜はまともな返事も出来なかった。
「だから……」と亜門は尚も話を続けた。
「そのための高校デビューをしてるんです。だから俺の過去を知られるわけにはいかないんです!!」
高校デビュー?
過去?
小夜は反応した。
(なるほど……それに私も高校デビューみたいなもんだし)
小夜は突然、亜門に対して親近感を覚えた。
「わかりましたか?だから昨日のことは誰にも内緒ですよ?」
「わかった」
「……!!本当ですか?」
「うん。誰にも言わない」
「本当ですね?中学の時の友達とかにも言っちゃダメですよ?高校ではまだ友達いないからって!!」
「……失礼ね」
「……すみません」
「好きで一週間休んだんじゃないから。それに……」
小夜はポソっと小声で呟いた。
「中学どころか……友達なんて──」
「え?今なんて?」
「う、うぅん!!なんでもない」
そんなことより、お腹が空いた小夜はチャイムが鳴る前に橘さんが作ってくれたお弁当を食べようと考えていた。
「じゃあ用が済んだんなら、私行くね?」
「……本当に、うっかりでも言わないで下さいね!!」
「しつこいなぁ……言わないって!!」
「俺、真剣にこのデビューかけてんですから……ってなんか落ちましたよ?」
お弁当の包みから一枚の紙がヒラヒラと出てきた。
亜門は何気なく、それを拾って目に通した。
「……『小夜お嬢様へ。注意事項の確認』……なにこれ。『その1、社長の娘であることを内緒にする』……はぁ!?社長令嬢!?えっと……それで『その2…』…」
「……えっ!?何読んでるの!?ちょっと!!」
「『その3、一人での登下校を避ける。ただし三月公園まで。その4……』」
「ちょっと!!返して!!」
「……『その5、記憶喪失であることを周りに悟られてはダメ。何か思い出したら、すぐに橘に報告すること』……」
小夜は亜門の手からその紙を奪いとったが、もう手遅れだった。
亜門は頭の整理が出来ないまま、小夜を見た。
「……社長の娘?……記憶喪失?」
やまない風の中で二人は立ち尽くす。
昼休みを終えるチャイムが聞こえるが、どこか遠くで鳴っているような感覚である。
「……あのさ、波古山くん?」
「……はい」
「青春……やり直したいんだよね?だから過去、黙っててほしいんだよね?」
亜門は頷いた。
「私もやり直したいんだ。人生……」
小夜は橘の手紙を細かく破って風に舞わせた。
紙吹雪が二人を包む。
「じゃあ黙ってる代わりに私にも協力してほしい。あなたが私を裏切らない限り、私もあなたを裏切らない」
「……きょ、協力?」
小夜はようやく亜門の目をまっすぐ見つめた。
「私は……1ヶ月以前の記憶が全くないの」
「……マジですか?」
「……接触事故が原因って聞くけど、誰も詳しく教えてくれない」
「なんで?」
「……それもわかんない。そのせいもあってかお手伝いさんが過保護で。」
「……はぁ」
「家族も私に記憶を取り戻してほしいみたいだけど、今までの交遊関係の中だとそれまでの友達とギクシャクして、それはそれで"私"が可哀想だって……」
「……そういうもんなんですか?」
「ただでさえ、デリケートの問題だから親も妙に慎重なのよ。しかも無駄にお金もあるから、その生活一新の徹底ぶりも半端なくて……」
「……だからお嬢様がこんな普通の高校に?」
「入学はぶっちゃけ金がものを言わせたね。私、試験受けてないもん。その時、意識不明だったから」
「……」
「この一週間もギリギリまで通院してたから」
「……それで協力ってのは?」
小夜は不敵に笑った。
「まずひとつ、学校で私に話しかけないこと!!」
「……話しかけない!?」
「私だって友達ほしいですから。元不良で、今はいじめられっ子のあなたが近くにいたら、友達が出来にくそう」
「……革城さん、失礼ですね」
「でも放課後、私の行くところについてきてほしいの」
「……なんで?」
「ボディーガードとして!!」
「はあ?」
「やっぱ!!危ないじゃん!!社長令嬢だし!!私はあんま自覚ないんだけど!!記憶ないから!!」
笑いながら言う彼女のブラックジョークに亜門は笑っていいのか迷いかねた。
初めて会った時に亜門が感じた小夜の儚げな小動物のイメージが薄れていく。
「どう考えても、その条件は不平等ですよね?俺に対してのお願いのが多いです、量が」
溜め息をついて脱力して、肩を下ろした。
そんな亜門の動きを見た小夜が、とっさに頭をかばった。
「な……な…殴る?」
「え!?」
「私のこと、殴るの?過去のこと言わないよ、私!!」
気に喰わない奴を殴ってきた人だったことを小夜は思い出して今さら少しビビったが、亜門が襲ってくる様子はない。
亜門もそんな風に身構えられたら、やりづらい。
そもそも女を殴るほど、男は腐ってないつもりだ。
亜門は両手を挙げて降参のポーズをとった。
「わかりました。ボディーガードします」
「ほ……ほんとに?」
「でもあんまアテにしないでください。プロの格闘家じゃなくて、ただの喧嘩しかできませんから」
「でも強いんでしょ?」
「代わりに俺のことは黙っててください」
「もちろん!!」
「もし破ったら……」
「な……殴る!?」
「殴りませんって。……えっと、どうしよ」
「考えてないんだ」
「急ですから。えっと……あ、そうだ!!もし破ったら、俺の友達になってください」
「……え!?」
「俺、青春すんのが目標なんで、周りにバレたら責任もって俺の青春に付き合ってください!!」
「やだやだやだ!!私だって人生やり直したいのよ!?」
「約束守ってればいいだけでしょ?それまで俺は革城さんに学校では近付かないし、革城さんのボディガードもします。」
亜門は小夜の手を掴んで、無理やり握手した。
「な!?何々!?」
「契約完了。よろしくお願いします。頑張りましょう……お互いに」
過去を消したい亜門。
過去を取り戻したい小夜。
「革城さん……どっちが先に友達できるか勝負ですね?」
「それなら私すぐ勝つよ!」
もう一度やり直し計画スタート。
「あ……波古山くん、5限目とっくに始まってる」
「……遅刻ですね」
うまくいく……のか?
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