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第1部
TAKE3 追憶と 後編
しおりを挟む名前を呼ばれた小夜は体を固くした。
そして咄嗟に亜門の後ろに隠れた。
(ちょっと!?何隠れてんですか!?)
(だって、私も誰かわかんないし、失礼なこと……しちゃうかも……)
ヒソヒソと喋っていたら、おばさんは「あぁ」と一人で納得して、話しを続けた。
「もしかして違ったのかしら?親戚の方ですか?」
亜門は咄嗟に嘘をついた。
「そうです!!あー……俺らイトコなんです!!革城の!!」
「まぁそうなの?革城さんは元気にしてますか?」
「え~、えっと……失礼ですけど、あなたは?ここの先生……とかですか?」
「はい。革城さんが所属してたクラブの顧問もしてました」
「……クラブ?」
「えぇ、吹奏楽の」
「……はぁ」
小夜は亜門の服を掴んで、体を隠したまま先生の様子を伺っていた。
「え……すみませんね。えーっと……妹!!!妹は人見知りなんですよ」
「ふふ、妹さん。本当に革城さんにそっくりね。一目見てわかったわ!!」
(そっくりってか、ご本人なんですけどね)
先生が亜門の心の中がわかるわけもなく、彼女は懐かしむ様子に微笑んだ。
「革城さん、元気にしてますか?突然の事故でね……卒業式にも顔を出さずに春になってしまってね……。今度、よかったら遊びに来てと言っておいて下さい」
「……すみませんが、うちのイトコは学校では、どんな生徒でしたか?」
亜門の服を掴んでいた小夜の手に力がこもった。
そこから微かな震えを感じた。
「それはもう絵に描いたような優秀な生徒さんでしたよ。日本の大和撫子というか」
「……え?」
「文武両道、才色兼備、眉目秀麗、容姿端麗……どんな言葉にも当てはまりました」
「……」
「部活でも先輩にも一目を置かれ、後輩からは慕われ、本当に生徒みんなの憧れの的でした」
「革城さん……ですか?それ」
「え?」
「いえ、なんでもないです。それで?」
「日本のお人形のように長い髪が可愛いらしくて、それでいて非常にしっかりとして落ち着いた子でした」
「……真逆ですね?」
「え?」
「いえ、なんでもないです。それで?」
「それが突然の事故で大怪我なんて……それはそれは学校全員が悲しみました」
「……事故というのは、」
「え?」
「いや……何でもないです」
(イトコなんだから事故を知らないわけないよな……、事故のことは詳しく聞けないかも。でも話しからして、記憶喪失であることは知らないみたいだ。何故?)
亜門が考えている間に先生は肩を落とすように溜め息をついた。
「傷に障るといけないからって、みんなもお見舞いは我慢してもらって会いに行くこともできなくて……」
「……」
「せめて、高校もエスカレートで来てもよかったんですけど」
「え……ここ、エスカレート式なんですか?」
「えぇ、隣に高校、大学と並んでますの」
「……そうですか」
「あぁ…長い立ち話となってしまってすみませんね。ところで、本日はどの様な用事で?」
「え!?えぇ~っと?……いや、たまたま通っただけなんで、特にこれといって用事は……」
「そうですか」
「はい!!あの……先生が言っていたこと、小夜にちゃんと伝えておきます!!」
「……え?あの」
「じゃあ僕らはこれで!!失礼します」
小夜を連れてその場を離れた。
世華からある程度離れて、亜門は気疲れで息を吐いた。
「はぁ……あのまま長くあの場にいたら、ボロ出しそうだった……なぁ、革城さん?」
「……ん?」
「隣に高校あるみたいですけど、行ってみます?」
「なんで?」
「なんでも何も、昔の友人がそこにいるかもしれませんよ?なんか思い出せるかも」
「あの…さ……」
「はい」
「やっぱ……怖い…や。」
「……はい?」
「波古山くんが聞き出してくれた"私"はやっぱり思い出せないし……私の知らないところにたくさん存在する"私"がいるって……怖い」
小夜はずっと握っていた亜門の服をスルっと手離した。
服は細かい皺となって伸びてしまったけど、亜門は気にしなかった。
俯く小夜はそのまま話した。
「先生が知ってる事故を……自分のことなのに、私はいつ、どこでですら、知らない」
「……」
「話しに聞いた"私"はまるで別人だし……大和撫子って何よ、それ」
「──ブッ!!!」
「…………え、今笑った?」
「……いえ、笑ってないです」
「笑ったよね?」
「笑ってないです」
「……」
未だに疑り深い目で亜門を見ていた。
そんな小夜を見て、堪えていた笑いを漏らすしかなかった。
だから亜門は小夜の頭を撫でた。
「たい焼き、何味にします?」
「……え?」
「最近のたい焼きは味が豊富なんですよ」
そう言って小夜の短い髪をすくった。
「まだ1日目ですから」
「……何が?」
「なんていうんですか?その、いわゆる"自分探し"っていうやつがです。」
「……波古山くんって"青春"とか"自分探し"とか、いちいちクサイよ」
「……うっせーな」
「……え?」
「ともかく、知らなくて当たり前だろ?始めたばっかなんだから」
「……うん」
「それとも怖くて嫌だから執事の言い付け守って、もうやめるか?」
「……」
「俺は面倒事が減って、それで助かるけどな」
「……うん」
「……大丈夫だよ」
亜門は手で、小夜の顔を無理やり上げさせた。
「何も怖かねーよ。これから知ってくのはただの事実なんだから」
「で……でも、私じゃないみたい……それでも?」
「それでもお前だよ」
「じゃ……じゃあ今いる私は?」
「それもお前だろ?」
「そ……そんな綺麗事言われたって、すぐには理解出来──」
「だあ!!てめぇ、ホントめんどくせぇ!!!」
頭をワシャワシャと撫でまくられ、小夜はきょとんとした。
「わかった!!じゃあ仮に皆が言う大和撫子がホンモノで、今のお前がニセモノだったとして、」
「わ……私、ニセモノ?」
「それでも俺がニセモノをちゃんと覚えとくよ!!」
「……覚えと…く?」
「そうだ!!ちゃんと覚えとく!!」
「……」
「"お前"は"嘘"なんかじゃなかったって!!」
「……」
「ニセモノのお前もちゃんといたって俺が言ってやるから。それでいいだろ?」
「……うん」
「細けぇこと気にすんな。記憶喪失なんだから……初日だから、当たり前」
「うん」
「……大丈夫だ」
『大丈夫だ!!俺がちゃんと…』
「……波古山…くん?」
「……うん?」
「…………うぅん。なんでもない」
「そうですか」
「……今度の放課後もお願いね」
「はい」
やっと自分の意志で小夜は亜門も見た。
目が合った亜門はそれに応えて笑った。
「あ、あそこです。何がいいですか?」
そう言って亜門はたい焼きの屋台へと歩き寄った。
「あんこ、チョコ、カスタード……抹茶ってのもあります」
「すご……。ん?白いたい焼きって何?」
「あぁ、モチモチしてるんです」
「マジで!?これがいい!!」
「……味は?」
「え~!!!どうしよ!!迷う」
「……確かに大和撫子には程遠いですね」
「は?」
「いえ、なんでもないです」
クククと小さく笑う亜門を小夜はただ見ていた。
(波古山くん…私達…)
『小夜!!大丈夫だ!!』
("以前どこかで……会ったこと"……あるような気がする)
でもやっぱり自分の記憶に自信のない小夜は胸の内に秘めた。
「まぁ、ありがとう!!波古山くん!!」
「何がですか?」
「奢ってくれるんでしょ?」
「……奢りませんよ?」
「……えぇっ!?」
「一言も言ってないですよ、そんなこと」
「奢って?」
「……嫌です」
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