わんもあ!

駿心

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第1部

TAKE4 弱点?似合う?前編

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小夜は土曜日の夜にお母さんから言われた。


「小夜ちゃん、高校には慣れてきた?」

「はい。クラスの皆、優しいです」


(本当はまだクラスの誰とも喋ってないけど……)


しかしそんなことを言えるわけない。

でも小夜にとっては母の存在すら、まだ馴染みがある人じゃないから、嘘をつくしかなかった。


「よかったわぁ。あと……橘から聞いたけど、部活にも入ったんですって?」

「は……はい」

「何部なの?」


小夜は言葉に詰まった。


……完全に考えてなかった。

前の自分と重ねて『吹奏楽部』を考えた。

でもの小夜には演奏もできる技術もないし、発表する場所や機会をもらえることもないから、すぐに嘘だとバレてしまう。


迷っていたら、昨日亜門と一緒にたい焼きを食べたことをふと思い出した。


「その……研究部です」

「え?」

「食物研究部です」

「それはお料理とか……家庭科部みたいな感じかしら?」

「……はい」


食べる専門ですけど…。


「まぁ素敵!!!そういえば、料理が得意だったわね」

「え……私が…ですか?」


大和撫子・文武両道・才色兼備……加えて料理もできるって……以前の自分が完璧すぎないだろうかと不安が広がった。


「ふふふ、今は何を作ってるの?」

「……美味しい和菓子のために今は味の研究をしてて…」


たい焼き食べてました。


「それは休日はないの?」

「……へ?」

「ないのかしら?」


ないです……と適当に返事をしようとしたら、お母さんの表情にどこか寂しそうな影を落とした。


「そんなに活発な部じゃないのかしらね」


それを見て、胸がざわついた。

だから焦って口が勝手に動いた。


「あ……あ…あります!!!」

「え?」

「明日も部活動あります!!」

「今日はなかったのに?」

「今日はたまたまでいつも毎週の土日も活動あるんです!!」

「まぁ!!そんなに活発なの?」

「はい!!」


毎週の土日は架空の部活動が生まれてしまった…。

しかし返事をしてしまった言葉は返ってこない。


「そんなに活動が出来るようになってきたなんて……よかったわ!!小夜ちゃんが元気になってきて!!」

「はい」

「今度何か料理も作ってね!!」

「……ははは」


ついでに何か料理も出来なくてはいけなくなった……

結局、吹奏楽だと嘘をついても料理研究と嘘をついても、こうやって嘘に追い込まれてしまうんだなと小夜は乾いた笑いをもらした。


…ー


そうして小夜は日曜日の朝からアテもなく、出掛けた。


「……どうしようかな」


とりあえず駅前のコーヒーショップにいた。

カフェオレを飲んで1日の暇潰しを考える。


友達はいない。

地元なのに、どんな店があるのかも知らない。


ここも亜門に『電車』が止まる『駅』と教えてくれた時に見つけたお店。


「早く友達作らないとなー……」


もし友達がいたら、こうした暇も一緒に過ごしてくれるかもしれないのに。

昨日の亜門を思い出す。


『あそこのコーヒーショップとか美味しいし、空いてることも多いんで穴場ですよ』


もし友達が出来たら……亜門みたいに暇潰しの場所も教えてくれるだろう。


そう考えていると人と目が合った。

亜門と。


「へ?」

「え?」


回想のはずの亜門が目の前にいた。


「なんで?」


お店にいるのだ。


「革城さん……何してるんですか?」

「波古山くんこそ……」

「……いや。この店教えたの俺ですし……」

「そう……だね」

「……」

「……」


座ってる小夜と出来たてであろうコーヒーを片手に立ち尽くす亜門の間に、しばし沈黙が走った。


「……じゃあ俺はこれで!!」

「もう帰るの?」

「いや……だって革城さんいたら、気まずいですし」

「いやいや!!私が帰るから!!」


……と言っても、このあとどこに行けばいいのかわからなくて困るのだが…と小夜は内心少し焦る。


「……いや、俺が帰ります。もう昼時ですし、飯でも食いに俺が別の店に行きます。革城さんは気にせず居てください」

「あ!!そうだ!!」

「はい?」

「ご飯食べる場所、私にも教えて!!」

「……は?」

「ほら!!私、記憶ないからここらへんの地理感ゼロなんだよね!!」

「……」

「なんかよくわかんないし?」

「でも二人でいてるところ、学校の誰かに見られでもしたらまずいじゃないですか」

「だから!!場所を教えてくれるだけでいいから!!」

「……」


亜門は無知臭い小夜を見て、不安そうに眉間に皺を寄らせた。

小夜は変わらず意気揚々としている。


「教えてくれたら、あとは一人で行けるし!!」

「……てか、何してるんです?一人で……」

「まぁ……訳あって夕方まで家には帰れないんです。それまで暇潰し」

「……親と喧嘩…とかですか?」

「いや、違うけど」


小夜が家に帰らない理由はわからないけど、亜門は余計に不安要素が増えて、小夜を一人にしておくことが出来ないと感じ始めていた。


「……わかりました」

「……ありがと!どこかオススメ教えてくれる?」

「俺についてきてください」

「……え?なんで?というか私と一緒にいたくないんじゃ?」

「それはあなたのことを考えてでもあるんですけど……まぁ急げば見つからないでしょう」

「……どこ行くの?」

「俺ん家です」

「……はい?」

「行きましょう」

「ちょ…ちょっと?」

「家だったら誰かに見られる心配もないし、メシでも作ります」


お店を出た亜門を小夜は慌てて追いかけた。


「ちょっと!!いきなり行ってお家の人は大丈夫なの?あ!!手土産とかいる?」


何故、亜門の家に行くことになっているのだ?

しかし話がトントンと進むせいで、何も頭の整理がついていない小夜は聞くべきところがズレて、肝心な疑問を口に出せなかった。


「俺、一人暮らしなんで気遣わなくていいですよ」

「そう……なんだ」


休日で溢れかえる人混みで亜門の背中が先々と進んでいく。

見失わないように小夜は逆流を必死に掻き分ける。

時々、思い返したように亜門は振り向き、小夜が着いてきてるかを確認する。


駅から離れ出して、人が減ってきた頃に、小夜はようやく亜門に追い付いた。


「波古山くん、一人暮らしなんだ?高校生ですごいね?」

「まぁ成り行きですけど」

「生活とか大変じゃない?」

「朝はバイトに行って来たところです」

「……もう終わり?」

「早朝バイト。時給いいんで」

「へー。何のバイト?」

「コンビニです」


隣を歩く亜門を見上げた。


何故か着々と亜門との親交が進んでいると小夜は思った。


(友達もまだ出来てないのに、なんでこの人の情報ばっか知ってくんだろう)


でも身内以外で話しが出来るのは、亜門しかいないのだから仕方ない。



『当たり前だろ?始めたばっかなんだから」』


この前の世華へ行った時に亜門の言葉を思い出した。

(……うん。大丈夫!!これからきっと友達作れる!!)

一人でやる気を取り戻したところで亜門に声を掛けられた。


「あー……あと、すみません」

「何?」

「ちょっとだけ寄る場所あるんですけど、いいですか?」

「うん、いいよ」


そう言って着いた場所は有料駐車場だった。


「波古山くん、車持ってるの?」

「違います。集金です」

「……えぇ?」

「ここ、俺んとこの土地なんで。もう一つの収入源です。」


驚く小夜を他所に亜門は手早く機械からお金を取り出す。


小銭ばかりを袋に入れ、重そうに鞄につめた。

「駐車場が自分のってどういうこと?」

「元々は叔父のものなんですけど。あとここもそうです」


しばらく歩いて着いたのは小さなビルだった。


「ここに住んでるんです」

「ビル?」

「はい」


亜門はそう言ってビルに入っていき、狭い階段を登り始めた。

小夜も黙って着いていく。


最上階の三階まで来て、亜門はドアの鍵を開けた。


「どうぞ」


言われるがままに小夜は「お邪魔します」と部屋へ入った。


そこは小さな倉庫のような、狭いオフィスのような、まさにビルの中のワンルームだった。

でも冷蔵庫・ベッド・棚・台所と確かに生活観があった。


「適当に座っててください」

「……はい」


遠慮がちに中央にあるソファーに腰かけた。



「なんでここに住んでるの?」

「……まぁ、色々あって叔父と二人で住んでたんですけど…。叔父が亡くなったので……今は一人なんです」


両親は?

気になることばかりなのに、どこまで聞いていいのか戸惑った。


「もう三年も前の話しなんで、慣れましたけど。はい、お茶」

「あ……ありがとう」

「お昼作りますんで、まぁ適当にくつろいでください」

「えっ!?波古山くんが料理作るの!?出来んの!?」

「……?一人長いんで……テキトーなものぐらいなら」


ただの不良と思ってただけに、普通にビックリした。

「待っててください」なんて言う割に、わりとすぐご飯を持ってきてくれた。


「……これは?」

「炒飯。あんま手の込んだものじゃなくて、すみませんけど」

「……すごいね」

「そうですか?」

「私、無理だもん!!」


そうやって目を輝かせた小夜を見て亜門は笑った。


「革城さんはお嬢様なんで、しょうがないでしょ?シェフとかいるんじゃないですか?」

「……以前の私は料理も出来たんだって」


思わず視線を落とした。


すると目の前にスプーンが来た。


「……どうぞ。食べましょう」

「……うん。なんか……ごめん」


俯き続けていたら、脳天にビシッとチョップが降ってきた。

驚いてチョップされたところを押さえながら、亜門を見た。


「革城さんってホントめんどくさいですね」

「……はあ?」


ムカついて思い切り睨んだけど、亜門は無視して食べ始めた。


無視する相手にいつまでも睨んでるのも虚しくなってきたので、小夜も炒飯に手をかけた。


(やっぱりすぐに手が出る……波古山くん、喧嘩早そうだな)


小夜にとって気まずい空気が流れる。


もともとそんなに親しくもないのに、流れとはいえ、二人っきりになったことがそもそもおかしいのだ。


ご飯を食べ終えたら、帰らせてもらおう。

この辺がよくわからなくても散歩のつもりで、夕方まで適当に歩こう。


そう考えていたら、先に亜門が食べ終えた。

亜門は自分の食器をまとめて、一人で洗い場まで持っていった。

小夜は机に一人残されて、早く帰ろうと黙々と食べた。



ガタタタッッ!!!!!



突然、洗い場の方から物音がした。
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