わんもあ!

駿心

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第1部

TAKE6 一介の時

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担任が黒板に書いている間は、教室はざわめいて仕方なかった。


「─というわけで、今日のHRは皆お楽しみのね、来週にあります遠足の話をします」


それを聞いて、小夜は落ち着きなくソワソワした。


「まぁ皆ももう知ってると思うが、タイヨウ高原でバーベキューを行う。道具は向こうで各班に用意してもらえる。ただ材料は自分たちで買っておけ。ま、その前に班を決めたいと思う」


これだ。

小夜は余計にドキドキした。


「班の決め方だが……どうする?くじでもするか?それとも俺が決めてやろうか?」


ニヤついた先生のその言葉に生徒何人かは「え~?」とブーイングした。


「わはは。冗談だ!!自分達で好きに決めろ。しかしこの遠足はクラスの交流も目的にしてんだから、仲良い奴ばっかも集まんなよ?あ!あと男4、女4人の8人班だからな!!それは絶対だからな!勝手に増やしたり減らすなよ」


そこまで説明を終えると先生は「よし」と息をついた。


「じゃあ各自、班を作ってくれ!!」


言われた瞬間にクラス皆は席を立ち、仲良い友達が固まり、教室にいくつかの集団が出来た。

小夜も一緒のタイミングで立ち上がったものの、友達もいないし、声をかける勇気が出ない。


チラリと亜門の方へ目を向けた。

亜門と言い争いになって数日が経った。

亜門は席すら立とうともせず、今日出された宿題をさっそくやっている。


(あなたがしたかった青春って、勉強なの?そういう根暗でいたかったことなの?)


“なんで革城さんにそこまで責められなきゃなんないんですか?”

“俺のことに口挟むんじゃねぇ”


当たり前だ。

亜門が言ったことは正論だ。

しかし小夜は少し悔しかったのだ。

だって……


「──革城さん…?革城さん!!」


小夜はハッと我にかえった。

クラスの女子に声掛けられていたのだ。


「革城さんって、誰かと班決めた?」


目立つ感じの風貌ではないが、気さくそうな印象を与える子達3人が小夜へと近付いてきた。

小夜は戸惑いながらも、胸が高鳴るのを感じた。


「まっ……まだ!!」

「じゃあさ、一緒の班にならない?うちら3人だから女の子あと1人ほしいんだ!!」


ニコっと笑ってそう言ってくれたら、後ろ二人も「よろしく~」とニコニコ挨拶してくれた。

小夜は暖かい気持ちになった。

ついに夢見ていた場面を経験しているのだ。


「よろしく……革城小夜です!!」


初めに声をかけてくれたポニーテールの女の子、背の小さな可愛らしい子、髪がパーマで眼鏡をかけた子の順に自己紹介をしてくれた。


「私は今井瑞希!ミズキでいいよ!」

「えっと…私は安藤仁美っていいます」

「私は結子だからユウって呼んでね?よろしく!」


ホッとした。

取っ付きにくそうな子はいないみたいで、とりあえず皆と上手くいけそうだ。


周りもだんだん班がまとまり始めて、中には決定して黒板に名前を書いているところもいる。

そんな落ち着きのない教室で先生の大声がもう一度響いた。


「中にはまだ決まってない奴もいるかもしれんが悪い!!このあと、職員会議があるから今日のHRはここまでだ!!」


クラスは変わらずザワザワとする。


「えーやばいね……うちらまだ女子しか決まってないよ」


瑞希も小さくそう口にした。

先生は構わず続ける。


「まだ決まっていない奴らはこのあとこのまま残って決めてもらってもいいし、明日の休み時間に決めてもいいし、ともかく明日のHRにはバスの座席や食材も話し合ってほしいから、それまでには班作っとけ!!じゃあ解散!!」


バラバラと散っていくクラスメイト。

まだ決まっていない人たちはどうするか迷いかねてる様子だ。

そして小夜たちの班もそのうちのひとつだった。

結子は眼鏡を押し上げて切り出した。


「うちらもどうする?もう今適当に男子のグループとくっつく?」

「でも……男子達がまだ作れてないみたいだよ?」


仁美が隠れるように指差す先は三つに分かれた男子のグループ。

そこにいるのは12人。

単純計算で12(人)÷4(人)=3(グループ)が出来るはずである。

しかし12人は6人、5人、1人に分かれている。


ところが問題はそこではない。

正直なところ男子達は今のグループと離れて誰と組んでも構わない様子である。


問題なのは、"1人"。

その"1人"をどこが受け入れるのかを迷いかねて、迂闊《うかつ》に移動出来ないのだ。

少しでも乗り遅れて"3人"になったら強制的に"そいつ"と同じ班になる。

は至って興味ないように、帰る準備をしている。


"ドモリ"
"なんかキモい奴"
"不良に絡まれてる"


亜門はすっかり帰ろうと立ち上がった。


「おい!ドモリ!!」

6人グループの中にいた、亜門にいつも絡む不良3人組の沢田が大声で亜門を呼び止めた。

亜門は返事もなく、沢田をちらりと見た。

その様子を周りの男子もまだ班が決定していない女子達も見守った。


「お前、もう遠足の当日来んな」


シンと静まる教室。

亜門はウンともスンとも返事をせず、沢田達はそれすらも待たずに言葉を続けた。


「てめぇいたら空気悪りぃんだよ!!」

「てか学校も来んな!!」


沢田達のいつもの絡み。

でも全員が静かに注目している分、いつもよりも空気が悪くなった。

そこで喋りだしたのは亜門だった。


「え…えっと。あの…ですね……」

「「「ドモってんじゃねぇーよ!!」」」


ギャハハハと笑いが三人から発せられた。

小夜は小さな苛立ちを覚えた。


亜門は俯いている。


クラスにはそれをからかわれて黙ったイジメられっ子に見えただろうが、小夜は気付いていた。

だってその目の鋭い黒さを知っている。


顔をあげて、亜門の右手が揺れた。


(まずい!!)


そう思ったのは小夜だけ。


「きゃああああぁぁ~!!!!」


だから咄嗟に小夜は叫んだ。

張り詰めた空気がその叫びによって弾けた。


「きゃああ~!!ゴキブリィ~っ!!!!」


適当な地面を指差した小夜のその嘘の言葉にクラスの叫びが連鎖した。


「きゃああぁぁ!!」

「嘘!?」

「どこどこどこ!!??」

「やだあ!!!!!」

「な…なんだぁ!?」

「うわあぁ!!!!!!」


女子の甲高い拒否の声とその声で余計にパニックを起こす男子で教室はごちゃごちゃになった。

耳が痛くなる騒ぎと動きの中、亜門がすり抜けて教室から出たのを小夜は確認した。

他にも廊下へ逃げようとする数人のクラスメイトに紛れて小夜も一緒に教室を出た。


小夜は階段を降りて、急いで亜門を追いかけた。

亜門に追い付いたのは、下駄箱前だった。

簀《すのこ》の上にポコンと音をたてて自分の靴を落とした亜門を見つけたが、なんて声を掛ければ良いのかもわからない。

周りもたくさん生徒がいる。


(なんで私、追い掛けてきちゃったんだろう……)


迷っていたら、亜門と目が合った。


固まった小夜と違い、亜門は少し周りの確認をしてから近づいてきて、


「……さようなら」


それだけ言って、帰っていった。


その背中を見て、小夜は答えが見つからない考えを巡らせていた。



『友達作りたいだの……お前は何がしてぇんだよ!?』



全くもってその通りなのだ。

私は…一体…


『…小夜、あいつが…』



「うっ…頭、痛──」


亜門のその背中に何かを思い出せそうで、何も思い出せなかった。



◇◇◇


「革城さん、おはよう!」


次の日、瑞希から声を掛けてもらえて小夜は心が踊った。


「お、…おはよう!!!!」

「昨日はなぁなぁになっちゃって班決めれなかったね?」

「そうだね」


小夜は学校で行われるクラスメイトとの会話に僅かな緊張をしていた。


「まぁ男子が微妙な感じになってるから、今日もすぐに決まんないかもね……」

「微妙……?」

「ほら……『ドモリ』が浮いてるから、」

「……」


小夜は肯定も否定も出来ずに自分の席に着こうとした。


「おーはよう♪」

「あ、ユウおはよう!」

「おはよう」

「ヒィもおはよう!」


次々に登校してくる結子と仁美に小夜も緊張しながらも挨拶をすると、二人とも笑顔で「おはよう!」と返してくれた。


その向こうで亜門が教室に入ってくるのが見えた。

ふと目が合ったが、亜門がすぐに反らした。


結子も亜門の登校に気付いて三人に耳打ちをした。


「『ドモ』が来たよ。男子も早く班決めてくんないかな?適当でいいからさ」

「……」


黙っている小夜とは違い、瑞希がすぐに頷いた。


「『ドモリ』もモゴモゴ言ってないで、『入れて』って自分から言えばいいのにさ?もう高校生なんだし、人任せなんじゃなく……」

「波古山……」

「「…え?」」


小夜の呟きに瑞希と結子が聞き返した。


「『ドモリ』じゃなくて、波古山くんって言うんでしょ?彼……」


小夜は苛立ったのだ。

ドモリドモリってこの人達は何を言っているのだと…

瑞希と結子はその言葉に尚更キョトンとした。


「ハコヤマ……?」

「そうなの?」


今度は小夜がびっくりして「え?」と聞き返した。


「いや……あの人の本名知らないし…聞かないしね?」

「そうそう!普段はめちゃ地味だしさ!!」


なんでだろうか…

小夜は胸が苦しくなった。

これは一体何なのだ?


今まで皆のやりとりを黙って聞いていた仁美が小夜の顔を覗いた。


「もしかして革城さんは"ハコヤマ"くんが気になるの?それか……元々知り合い……とか?」

「……え?」


小夜は肝が冷えた感覚を持った。

素早く"まずい"と思ったのだ。


「違います!!全然!!全然知りません!!彼のこと!!」


全力で急いで否定をしたあと、チラリと亜門の方を見た。

席に着いているその背中を見て、また苦しくなった。


瑞希は小夜を後ろからガバリと抱きついた。


「だよね~!!んなわけないっしょ!!」

「アハハ!!」


ホッとした。

せっかく仲良くなりそうなクラスメイトが離れていきそうで焦った。

亜門のことをバカにされると妙に腹がたつが、自分に火の粉が飛びそうだったらすぐに知らんぷりをする。

そんな自分の本性に気付いて小夜は瑞希達と一緒に笑いながらも、気持ちは全く晴れやかにならなかった。


記憶がなくて
自分がわからなくて

やることなすこと中途半端。

記憶を取り戻すこともなく、本来の自分であるはずの大和撫子からも遠ざかり、だんだんズルいことばかり覚えていく。


友達も出来そうで遠足も楽しくなりそうで、これからうまくいきそうなはずなのに、不安でしかない。


4人で話しが弾む中、小夜が頭に過ったのは一つだけ。


(なんでだろう……波古山くんと話がしたいよ)


クラスに馴染めそうな中、一限目のチャイムが鳴る。
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