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第1部
TAKE7 関係と口癖
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お互い少し気に食わないことが重なっただけで、
思い返したらちょっとした言い争いに少し熱が入っただけだと…と小夜は思っている。
お互いに譲れないことだったけど、落ち着いて話をすれば、理解出来たことのような気もする。
亜門だって下駄箱で小夜に挨拶したわけだから、案外亜門もそこまで根に持っているわけではかもしれない。
でも小夜は迷っていた。
仲直りする必要はある?と。
そもそも亜門と小夜は喧嘩だの仲直りだの、そういう深い類いの仲ではない。
たまたまお互いの秘密を知ってしまい、それをバラされない様にお互いを見張っていたようなもんだ。
でも1,2週間一緒にいただけだが、安易にバラすような人ではないことはわかった。
小夜だってそんなつもりはない。
それに元々、放課後に付き合ってもらったり、学校でも付いて回ったのは小夜が頼んだりと、小夜からのアクションばかりだ。
亜門の方はいつでも出来るだけ小夜のことを避けていた。
しかしそんな小夜にも友達が出来そうだ。
逆に亜門と一緒にいればその友達も引かれそうなのである。
亜門と一緒にいる特別な理由もなければ、大したメリットもない。
そんなに長い時間を一緒に過ごしたわけでもないから、このまま離れても……むしろ自然である。
頭の中でそう整理させても小夜はどこか腑に落ちないでいた。
(なんだろう?先に友達作った罪悪感……とか?)
移動授業を終えて教室に戻る途中で、瑞希・結子・仁美と一緒に廊下を歩いてて、憧れていた場面のはずなのに、小夜は一人で亜門について考えていた。
そんな廊下で小夜達の前方にとある女子達に声をかけている金髪がいた。
「ねぇねぇ?1年C組?じゃあ波古山亜門さんと同じクラス?」
小夜はすぐに誰かわかった。
亜門の後輩・硲尚太。
「え?ハコヤマ?知らない……です」
「髪黒くてさ、前髪下ろしてて~、背が高くて、細マッチョ!!みたいな人で~」
「知りませんって!!」
「絶対1年C組にいる人だって!!こう……松田と藤原を足して2で割ったような~…」
「……二人とも誰?」
しつこく聞かれている様子を見た瑞希達は「何?校内ナンパ?」と怪しんでいた。
するとふと尚太と小夜の目が合った。
尚太も小夜の存在に気付いたら、明らかに「やっべ!!」と口を動かした。
「引き止めて悪かったな!!じゃあ俺はこれで!!」
尚太はそれだけ言ってダッシュでその場を離れた。
(……え?逃げた?私を見て?なんで?)
一度気になってしまえば、いてもたってもいられないのが小夜である。
「今井さん達、ごめん!!先に教室戻ってて下さい!!」
瑞希達の返事も待たずに小夜は走りだした。
追い付いたのは尚太が気を抜いて、隣校舎への渡り廊下を歩いているところだった。
小夜がその腕を引いた。
「ハザマくん…つかまえた…」
まさか追いかけられてるとは思っていなかった尚太は荒い息の小夜を見て「…え?…わっ!!姐さん!!」と驚いた。
「ごめん!俺はあんたに関わるわけにはいかないんで……これで!!」
「待って!!なんで硲くんが逃げんのよ?私が何かした?」
「……いやぁ。その…」
はっきりさせない尚太に小夜は溜め息をついた。
「わかった……そのことはもういいよ。でももうあんまり波古山くんのこと嗅ぎ回んないでよ?」
「え…?なんで?」
「言われなかった?波古山くんはもう中学の頃の波古山くんじゃないんだよ」
「はぁ…」
「クラトメイトに名前も覚えられてないほどの地味キャラなの」
「えっ、マジで!?」
「硲くんが変にああやって聞いてたら、波古山くんが余計に浮いちゃうじゃん?過去バレちゃ駄目だし……」
「……ホントに姐さんと波古山さんってどういう関係なんスか?」
「……え?」
尚太にそう言われて小夜は答えにつまった。
「別に恋人ではないんでしょ?親戚でもないって言ってたし…あとは何?友達?」
「いや、友達っていうか……成り行きでたまたま一緒にいたような?」
「たまたま?」
「だってわかんないんだもん!!ほんとにそんな感じで……」
「波古山さんと似たようなこと言ってる……」
「…え?」
「じゃあ言い方変える。なんで庇ったりすんの?」
「庇う?」
「俺に注意したじゃん、さっき」
「注意っていうか…」
「お互いに庇い合うのに、お互い何にもないって変スよ!!どういう関係なんスか?マジで!!」
「……お互い?」
その言葉に小夜と尚太は動きを止めた。
やがてその沈黙に耐えかねたように「あー…」と尚太は頭を掻いて、白状し出した。
「昨日、実は波古山さんに止められたんスよ」
「へ?」
「こないだの二人の喧嘩って俺のせい?とかって焦ったし、波古山さんの今の状況なんかも聞きたくて、昨日あんたに話聞こうと思って声かけたら……っていうか、かける前に波古山さんに捕まったんだよ」
『お前……革城さんには近付くな』
「マジで焦った!誰もいないトイレでそう脅されて…マジ『俺、殺される!?』って思ったもん!!」
小夜はポカンとする。
亜門が何故そんなことをしたのかわからない。
「な……なんで波古山くんがそんなこと言うの?」
「あぁ?理由は姐さんと一緒だよ」
「え?」
『革城さんはまだ学校に馴染めてねぇんだから、だからお前みたいな金髪不良が彼女の周りを彷徨くな。あの子のチャンスを潰すな』
「……」
「ったく~波古山さんといい、姐さんといい、俺をなんだと思ってんスか!!邪魔扱い?」
「いや、そんなつもりはなかったけど……」
「てなわけで、俺は姐さんに近付いたら波古山さんに『殺す!!』って言われてるから、今会ったことも波古山さんには内緒にして!!」
「……まぁいいけど、だからって今度はうちのクラスの周りで波古山くんの話聞いてたら意味ないじゃん。実際私と会っちゃったし。」
小夜はスマホでチラッと時間を確認した。
そろそろ授業が始まる。
「だってー波古山さんが気になって……」
「あぁ……不良やめた理由?」
「そうだよ!なんで波古山さんほどの人が……地味とか…」
「青春がしたいんだって」
尚太のつぶらな瞳がまばたきを繰り返し、固まった。
「……え?青春?それ…波古山さんが?」
「うん。口癖みたいに言ってる」
「……」
何やら考えている尚太を小夜は不思議そうに見た。
「……何?」
「……え?はい!何か?」
「何かじゃないよ。硲くん、なんか考えてたじゃん?何?」
「いやいやいやいや!何もない!!」
「え!?何もないわけないじゃん!!言ってよ?」
「いや!ホント違うっス!!」
「……言わないと波古山くんに『硲くんが声掛けてきた』ってチクるよ?」
「え?声掛け…チクッッ…えぇ?違いますよ!!姐さんから来たんじゃ…」
「チ ク る よ ?」
小夜の笑顔に尚太の血の気は引いた。
諦めたかのように尚太は溜め息をついた。
「俺から言ったって言うなよ?」
「うん!」
「波古山さんは多分…──」
チャイムが鳴った。
その中、2人は話し続ける。
小夜はまた授業に間に合わなかった。
◇◇◇◇
「革城さん!!お昼一緒に食べよう!!」
昼休みになって小夜は瑞希に誘われた。
小夜はいつもならそんな素敵な誘いにウキウキと弾むはずが、小さな空返事をした。
物思いにふけてしまった小夜はやや上の空であったが、
「そういやうちのクラスにハコヤマって居た?」
それは隣にいたグループの会話で、小夜は一気に現実に返った。
亜門はまだ教室にいて、カバンを持って屋上へ行こうとしていたところだった。
「ハコヤマ?いたっけ?男?女?」
「え?わっかんない……下の名前聞いたけど…なんだっけ?確か……男?」
そう言って会話をしていたのは、先程尚太に声を掛けられていた女子だった。
「その人がどうしたの?」
「なんか、変な男がさっき探してたから」
「えー?なにそれぇ?わけわかんないね」
(あちゃー…やっぱりちょっと印象悪くなってるじゃん?大丈夫?)
そう思う小夜と裏腹に、亜門はその会話を聞いておらず、扉を目指して歩いていく。
「……いるよね?ハコヤマくんって」
そう言ったのはどうやら小夜と同じく話を聞いていたらしい仁美だった。
その声に瑞希らも隣のグループも仁美に顔を向けた。
「『ドモ』って人、ハコヤマくんって言うんでしょ?ね?革城さん」
「え?え……えっと…」
急に同意を求めるように見てくる仁美に小夜はどう反応をしたらいいのかわからず、思わず俯いた。
結果的に、これが事態を余計にこじれさせた。
隣グループの話を聞いてあげていた女の子が積極的だったのだ。
「合ってるかどうかわかんないなら、呼んだ方が早くない?」
(……呼ぶ?)
小夜は焦って顔を上げたが遅かった。
「おーい!!ハコヤマ~?」
それはクラス中に響いた。
皆もびっくりしたが、何より呼ばれた本人の亜門が一番びっくりしていた。
「……え?」
「名前って、ハコヤマ?」
「…は…はい。……ハコヤマです」
「合ってんじゃーん!!ってことはアイツのこと探してたんだぁ!!」
謎が解けてキャハハと楽しそうに笑う女の子達を見て、亜門はますます理解が出来ず呆然とした。
ザワザワと話し出したのはそのグループだけじゃなかった。
「あいつハコヤマっていうんだ」
「初めて知った」
「『ドモリ』の印象が強いもんな…」
本当にクラスメイトのほとんどが亜門のフルネームどころか名字も知らなかったのだ。
そこで一人の男子生徒が呟いた。
「ハコヤマって……なんか聞いたことあんだよね…」
小夜も亜門もドキッとした。
嫌な予感っていうやつだ。
「あー昔流行った話題っていうか、噂のやつだろ?」
「噂?」
「ここらへんにいるっていうめっちゃ強い不良…」
「ハコヤマデーモン!!」
口々に言われる亜門の過去の噂。
小夜は急いで箸を進めた。
動揺を悟られたらまずい。
瑞希と結子も「あったね…そんな噂」「結構前の話だよね?」と亜門の話題を広げる。
小夜は聞こえないふり、知らないふりで、ひたすらお弁当を食べた。
亜門も教室を出ようと、急いだ……が、
「邪魔だよ」
「何突っ立ってんだ?」
タイミング悪くもパンを買いに行っていた、いつもの三人組の沢田・森川・上村が帰ってきた。
邪魔だと言う割には早く教室に出ようとする亜門に何かと絡んでなかなか解放してくれない。
そんなやりとりはもう当たり前だと言わんばかりにクラスは気にしていないように話を続けた。
「その時の噂でデーモンとあともう一人いたよな?」
「あぁ、キハラトーマな!」
小夜は箸を止めた。
亜門も小さな会話だったにも関わらず、聞き逃さなかった。
そのせいで体を固くした亜門に上村が亜門を突き飛ばした。
完全に不意を突かれ、亜門は派手に地面に着いた。
「ギャハハ!!気をつけろよ?」
そうやって笑う上村の横を沢田、森川が通る。
沢田の興味はすっかりクラスの話題に移っていた。
「てかお前ら、懐かしい話してんな」
「……え?わっ!!沢田!!いつの間に?」
「俺らが中学の時だよな?ハコヤマデーモンと鬼のトーマってやつ」
亜門は床にしりもちをついたまま、黙って動かなかった。
小夜もさっきの尚太との言葉を思い出していた。
『波古山さんは多分、受け売りなんじゃねぇか?』
『受け売りって?』
『あのですね、波古山さんには相棒というか、親友というか、幼なじみがいたんスよ』
『幼なじみ?』
『俺をカツアゲから助けてくれた鬼原斗真《きはら とうま》さんって方です』
『あぁ、そのあと波古山くんに回し蹴りされたっていう……』
『うん、その時の人……。ともかく波古山さんは当時めちゃくちゃ喧嘩強くて、敵も味方も誰も近付けないってところに唯一対等だったのが斗真さんだったんだ』
『へぇ~中学にもちゃんと友達いたんだ、波古山くん。じゃあ、わざわざ高校デビューしなくてもいいんじゃ?』
『いや……だから…な?』
……
「でも確か、デーモンと赤鬼のトーマ。どっちか死んでたよな?」
「え?そうなのか?」
「どっちが死んだんだよ?」
『斗真さんは半年に亡くなったんだ』
『え?死んだ?な……なんで?』
……
「どっちかは覚えてねーけど……なんか普通に死んだって聞いた」
「普通?」
「喧嘩とかじゃなくて交通事故って」
「うわ、しょぼ!!」
「せっかくの鬼とかデーモンなんだから喧嘩とかで派手に刺されりゃいいのによぉ!?だっせっっ!!」
「俺らにゃどーでもいいけどよ!!」
森川と上村はそう言って笑って席に着いた。
…が
……
『色々噂があるけど有力なのは交通事故だって。交通事故でも実は恨みのある奴に突き飛ばされたとか……自殺したとか…色んなことが言われてる』
『……』
『青春っての…』
『ん?』
『口癖だったんだ。斗真さんの』
── ッ !!
上村が大きくブッ飛んだ。
足を高く突き出して、亜門が上村の顔をぶち抜いていた。
「ぎゃあ!!やべぇ!ついに『ドモ』が切れたぁ!!」
「さっき突き飛ばされた仕返しで上村をやりやがったぁ!!」
ざわざわとクラスが激しい言葉で包まれる。
蹴った足を元に戻し、冷たく真顔で亜門は立ってるだけだ。
『斗真さんはスゲェよく笑って、どんなことだって楽しもうとしてた人だった。どんなくだらないことだって“青春らしくていいじゃん”とか“やべぇ!!俺ら青春っぽくね?”って……』
『……青春』
『波古山さんは斗真さんとは正反対でいつだって不機嫌そうで、斗真さんが"青春だ"って言っても、"バカだ"っていつも言ってて…』
『そんな波古山くん…想像つかない…』
『……だから多分、その青春って口癖……あんなバカにしてた青春を波古山さんは
もしかしたら……斗真さんのために』
思い返したらちょっとした言い争いに少し熱が入っただけだと…と小夜は思っている。
お互いに譲れないことだったけど、落ち着いて話をすれば、理解出来たことのような気もする。
亜門だって下駄箱で小夜に挨拶したわけだから、案外亜門もそこまで根に持っているわけではかもしれない。
でも小夜は迷っていた。
仲直りする必要はある?と。
そもそも亜門と小夜は喧嘩だの仲直りだの、そういう深い類いの仲ではない。
たまたまお互いの秘密を知ってしまい、それをバラされない様にお互いを見張っていたようなもんだ。
でも1,2週間一緒にいただけだが、安易にバラすような人ではないことはわかった。
小夜だってそんなつもりはない。
それに元々、放課後に付き合ってもらったり、学校でも付いて回ったのは小夜が頼んだりと、小夜からのアクションばかりだ。
亜門の方はいつでも出来るだけ小夜のことを避けていた。
しかしそんな小夜にも友達が出来そうだ。
逆に亜門と一緒にいればその友達も引かれそうなのである。
亜門と一緒にいる特別な理由もなければ、大したメリットもない。
そんなに長い時間を一緒に過ごしたわけでもないから、このまま離れても……むしろ自然である。
頭の中でそう整理させても小夜はどこか腑に落ちないでいた。
(なんだろう?先に友達作った罪悪感……とか?)
移動授業を終えて教室に戻る途中で、瑞希・結子・仁美と一緒に廊下を歩いてて、憧れていた場面のはずなのに、小夜は一人で亜門について考えていた。
そんな廊下で小夜達の前方にとある女子達に声をかけている金髪がいた。
「ねぇねぇ?1年C組?じゃあ波古山亜門さんと同じクラス?」
小夜はすぐに誰かわかった。
亜門の後輩・硲尚太。
「え?ハコヤマ?知らない……です」
「髪黒くてさ、前髪下ろしてて~、背が高くて、細マッチョ!!みたいな人で~」
「知りませんって!!」
「絶対1年C組にいる人だって!!こう……松田と藤原を足して2で割ったような~…」
「……二人とも誰?」
しつこく聞かれている様子を見た瑞希達は「何?校内ナンパ?」と怪しんでいた。
するとふと尚太と小夜の目が合った。
尚太も小夜の存在に気付いたら、明らかに「やっべ!!」と口を動かした。
「引き止めて悪かったな!!じゃあ俺はこれで!!」
尚太はそれだけ言ってダッシュでその場を離れた。
(……え?逃げた?私を見て?なんで?)
一度気になってしまえば、いてもたってもいられないのが小夜である。
「今井さん達、ごめん!!先に教室戻ってて下さい!!」
瑞希達の返事も待たずに小夜は走りだした。
追い付いたのは尚太が気を抜いて、隣校舎への渡り廊下を歩いているところだった。
小夜がその腕を引いた。
「ハザマくん…つかまえた…」
まさか追いかけられてるとは思っていなかった尚太は荒い息の小夜を見て「…え?…わっ!!姐さん!!」と驚いた。
「ごめん!俺はあんたに関わるわけにはいかないんで……これで!!」
「待って!!なんで硲くんが逃げんのよ?私が何かした?」
「……いやぁ。その…」
はっきりさせない尚太に小夜は溜め息をついた。
「わかった……そのことはもういいよ。でももうあんまり波古山くんのこと嗅ぎ回んないでよ?」
「え…?なんで?」
「言われなかった?波古山くんはもう中学の頃の波古山くんじゃないんだよ」
「はぁ…」
「クラトメイトに名前も覚えられてないほどの地味キャラなの」
「えっ、マジで!?」
「硲くんが変にああやって聞いてたら、波古山くんが余計に浮いちゃうじゃん?過去バレちゃ駄目だし……」
「……ホントに姐さんと波古山さんってどういう関係なんスか?」
「……え?」
尚太にそう言われて小夜は答えにつまった。
「別に恋人ではないんでしょ?親戚でもないって言ってたし…あとは何?友達?」
「いや、友達っていうか……成り行きでたまたま一緒にいたような?」
「たまたま?」
「だってわかんないんだもん!!ほんとにそんな感じで……」
「波古山さんと似たようなこと言ってる……」
「…え?」
「じゃあ言い方変える。なんで庇ったりすんの?」
「庇う?」
「俺に注意したじゃん、さっき」
「注意っていうか…」
「お互いに庇い合うのに、お互い何にもないって変スよ!!どういう関係なんスか?マジで!!」
「……お互い?」
その言葉に小夜と尚太は動きを止めた。
やがてその沈黙に耐えかねたように「あー…」と尚太は頭を掻いて、白状し出した。
「昨日、実は波古山さんに止められたんスよ」
「へ?」
「こないだの二人の喧嘩って俺のせい?とかって焦ったし、波古山さんの今の状況なんかも聞きたくて、昨日あんたに話聞こうと思って声かけたら……っていうか、かける前に波古山さんに捕まったんだよ」
『お前……革城さんには近付くな』
「マジで焦った!誰もいないトイレでそう脅されて…マジ『俺、殺される!?』って思ったもん!!」
小夜はポカンとする。
亜門が何故そんなことをしたのかわからない。
「な……なんで波古山くんがそんなこと言うの?」
「あぁ?理由は姐さんと一緒だよ」
「え?」
『革城さんはまだ学校に馴染めてねぇんだから、だからお前みたいな金髪不良が彼女の周りを彷徨くな。あの子のチャンスを潰すな』
「……」
「ったく~波古山さんといい、姐さんといい、俺をなんだと思ってんスか!!邪魔扱い?」
「いや、そんなつもりはなかったけど……」
「てなわけで、俺は姐さんに近付いたら波古山さんに『殺す!!』って言われてるから、今会ったことも波古山さんには内緒にして!!」
「……まぁいいけど、だからって今度はうちのクラスの周りで波古山くんの話聞いてたら意味ないじゃん。実際私と会っちゃったし。」
小夜はスマホでチラッと時間を確認した。
そろそろ授業が始まる。
「だってー波古山さんが気になって……」
「あぁ……不良やめた理由?」
「そうだよ!なんで波古山さんほどの人が……地味とか…」
「青春がしたいんだって」
尚太のつぶらな瞳がまばたきを繰り返し、固まった。
「……え?青春?それ…波古山さんが?」
「うん。口癖みたいに言ってる」
「……」
何やら考えている尚太を小夜は不思議そうに見た。
「……何?」
「……え?はい!何か?」
「何かじゃないよ。硲くん、なんか考えてたじゃん?何?」
「いやいやいやいや!何もない!!」
「え!?何もないわけないじゃん!!言ってよ?」
「いや!ホント違うっス!!」
「……言わないと波古山くんに『硲くんが声掛けてきた』ってチクるよ?」
「え?声掛け…チクッッ…えぇ?違いますよ!!姐さんから来たんじゃ…」
「チ ク る よ ?」
小夜の笑顔に尚太の血の気は引いた。
諦めたかのように尚太は溜め息をついた。
「俺から言ったって言うなよ?」
「うん!」
「波古山さんは多分…──」
チャイムが鳴った。
その中、2人は話し続ける。
小夜はまた授業に間に合わなかった。
◇◇◇◇
「革城さん!!お昼一緒に食べよう!!」
昼休みになって小夜は瑞希に誘われた。
小夜はいつもならそんな素敵な誘いにウキウキと弾むはずが、小さな空返事をした。
物思いにふけてしまった小夜はやや上の空であったが、
「そういやうちのクラスにハコヤマって居た?」
それは隣にいたグループの会話で、小夜は一気に現実に返った。
亜門はまだ教室にいて、カバンを持って屋上へ行こうとしていたところだった。
「ハコヤマ?いたっけ?男?女?」
「え?わっかんない……下の名前聞いたけど…なんだっけ?確か……男?」
そう言って会話をしていたのは、先程尚太に声を掛けられていた女子だった。
「その人がどうしたの?」
「なんか、変な男がさっき探してたから」
「えー?なにそれぇ?わけわかんないね」
(あちゃー…やっぱりちょっと印象悪くなってるじゃん?大丈夫?)
そう思う小夜と裏腹に、亜門はその会話を聞いておらず、扉を目指して歩いていく。
「……いるよね?ハコヤマくんって」
そう言ったのはどうやら小夜と同じく話を聞いていたらしい仁美だった。
その声に瑞希らも隣のグループも仁美に顔を向けた。
「『ドモ』って人、ハコヤマくんって言うんでしょ?ね?革城さん」
「え?え……えっと…」
急に同意を求めるように見てくる仁美に小夜はどう反応をしたらいいのかわからず、思わず俯いた。
結果的に、これが事態を余計にこじれさせた。
隣グループの話を聞いてあげていた女の子が積極的だったのだ。
「合ってるかどうかわかんないなら、呼んだ方が早くない?」
(……呼ぶ?)
小夜は焦って顔を上げたが遅かった。
「おーい!!ハコヤマ~?」
それはクラス中に響いた。
皆もびっくりしたが、何より呼ばれた本人の亜門が一番びっくりしていた。
「……え?」
「名前って、ハコヤマ?」
「…は…はい。……ハコヤマです」
「合ってんじゃーん!!ってことはアイツのこと探してたんだぁ!!」
謎が解けてキャハハと楽しそうに笑う女の子達を見て、亜門はますます理解が出来ず呆然とした。
ザワザワと話し出したのはそのグループだけじゃなかった。
「あいつハコヤマっていうんだ」
「初めて知った」
「『ドモリ』の印象が強いもんな…」
本当にクラスメイトのほとんどが亜門のフルネームどころか名字も知らなかったのだ。
そこで一人の男子生徒が呟いた。
「ハコヤマって……なんか聞いたことあんだよね…」
小夜も亜門もドキッとした。
嫌な予感っていうやつだ。
「あー昔流行った話題っていうか、噂のやつだろ?」
「噂?」
「ここらへんにいるっていうめっちゃ強い不良…」
「ハコヤマデーモン!!」
口々に言われる亜門の過去の噂。
小夜は急いで箸を進めた。
動揺を悟られたらまずい。
瑞希と結子も「あったね…そんな噂」「結構前の話だよね?」と亜門の話題を広げる。
小夜は聞こえないふり、知らないふりで、ひたすらお弁当を食べた。
亜門も教室を出ようと、急いだ……が、
「邪魔だよ」
「何突っ立ってんだ?」
タイミング悪くもパンを買いに行っていた、いつもの三人組の沢田・森川・上村が帰ってきた。
邪魔だと言う割には早く教室に出ようとする亜門に何かと絡んでなかなか解放してくれない。
そんなやりとりはもう当たり前だと言わんばかりにクラスは気にしていないように話を続けた。
「その時の噂でデーモンとあともう一人いたよな?」
「あぁ、キハラトーマな!」
小夜は箸を止めた。
亜門も小さな会話だったにも関わらず、聞き逃さなかった。
そのせいで体を固くした亜門に上村が亜門を突き飛ばした。
完全に不意を突かれ、亜門は派手に地面に着いた。
「ギャハハ!!気をつけろよ?」
そうやって笑う上村の横を沢田、森川が通る。
沢田の興味はすっかりクラスの話題に移っていた。
「てかお前ら、懐かしい話してんな」
「……え?わっ!!沢田!!いつの間に?」
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亜門は床にしりもちをついたまま、黙って動かなかった。
小夜もさっきの尚太との言葉を思い出していた。
『波古山さんは多分、受け売りなんじゃねぇか?』
『受け売りって?』
『あのですね、波古山さんには相棒というか、親友というか、幼なじみがいたんスよ』
『幼なじみ?』
『俺をカツアゲから助けてくれた鬼原斗真《きはら とうま》さんって方です』
『あぁ、そのあと波古山くんに回し蹴りされたっていう……』
『うん、その時の人……。ともかく波古山さんは当時めちゃくちゃ喧嘩強くて、敵も味方も誰も近付けないってところに唯一対等だったのが斗真さんだったんだ』
『へぇ~中学にもちゃんと友達いたんだ、波古山くん。じゃあ、わざわざ高校デビューしなくてもいいんじゃ?』
『いや……だから…な?』
……
「でも確か、デーモンと赤鬼のトーマ。どっちか死んでたよな?」
「え?そうなのか?」
「どっちが死んだんだよ?」
『斗真さんは半年に亡くなったんだ』
『え?死んだ?な……なんで?』
……
「どっちかは覚えてねーけど……なんか普通に死んだって聞いた」
「普通?」
「喧嘩とかじゃなくて交通事故って」
「うわ、しょぼ!!」
「せっかくの鬼とかデーモンなんだから喧嘩とかで派手に刺されりゃいいのによぉ!?だっせっっ!!」
「俺らにゃどーでもいいけどよ!!」
森川と上村はそう言って笑って席に着いた。
…が
……
『色々噂があるけど有力なのは交通事故だって。交通事故でも実は恨みのある奴に突き飛ばされたとか……自殺したとか…色んなことが言われてる』
『……』
『青春っての…』
『ん?』
『口癖だったんだ。斗真さんの』
── ッ !!
上村が大きくブッ飛んだ。
足を高く突き出して、亜門が上村の顔をぶち抜いていた。
「ぎゃあ!!やべぇ!ついに『ドモ』が切れたぁ!!」
「さっき突き飛ばされた仕返しで上村をやりやがったぁ!!」
ざわざわとクラスが激しい言葉で包まれる。
蹴った足を元に戻し、冷たく真顔で亜門は立ってるだけだ。
『斗真さんはスゲェよく笑って、どんなことだって楽しもうとしてた人だった。どんなくだらないことだって“青春らしくていいじゃん”とか“やべぇ!!俺ら青春っぽくね?”って……』
『……青春』
『波古山さんは斗真さんとは正反対でいつだって不機嫌そうで、斗真さんが"青春だ"って言っても、"バカだ"っていつも言ってて…』
『そんな波古山くん…想像つかない…』
『……だから多分、その青春って口癖……あんなバカにしてた青春を波古山さんは
もしかしたら……斗真さんのために』
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朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
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