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第1部
TAKE9 変わる世界 前編
しおりを挟む『彼の名前…波古山亜門です!!』
あの時の彼女のその言葉を聞いてから、亜門の世界は変わった。
亜門はそう思った。
祝日の今日。
昨日から深夜バイトで明け方まで亜門は働いていた。
しかし一日休みだから夕方まで眠れると思っていた。
実際、朝一に3階建ての小ビルの我が家に帰って寝ていた。
しかし起こされた。
昼前の午前中に。
誰かがインターホンを鳴らし続けているのだ。
叔父が生きていた時は、一階をテナント募集して、どこかに貸し出していた。
その頃は管理人としてちょくちょく誰かが訪れられていたが、ここ2年は一階も空っぽで訪問なんて滅多にない。
斗真がいなくなって…なおさらである。
しかしインターホンが鳴っている。
「お昼ごはん食べた?」
開けた先にはいつものニカッとした笑顔の小夜がスーパーの袋を持って立っていた。
「あれ?もしかして今起きた?」
「…」
「ダメだよ?お寝坊は。せっかくの休日がもったいない。」
「…」
「…え?何その顔?」
「…」
「まぁいいや!!材料買ってきたから!!カレー!!」
「…」
「作ってあげるから、一緒に食べよう?」
「…間に合ってます。」
「ちょ!!!閉めないで!!入れて!!」
本当に閉めようとしたが、小夜がすかさず隙間に足を入れて、体もねじ込んできた。
完全な悪質セールスの手口だ。
記憶がないくせに、どこでそんな技を覚えたのだと亜門は呆れた。
亜門は諦めてドアノブを離した。
「俺…朝までバイトで疲れてんだけど…」
「お…おじゃましまーす。」
「聞いてる?」
小夜は反省の色も薄く、悪戯な笑顔をした。
その様子に亜門は溜め息をついて、部屋の一室へ向かった。
小夜はそんな亜門に戸惑い、玄関で困っている。
「ご…ごめん!!その…!!」
「……何してんの?入れば?」
「…うん。」
小夜はもう一度「おじゃまします」と小さく言い、ソファーに座っている亜門のところへと来た。
「…突然何?」
「えっと…実は親に嘘をついてまして…。」
「嘘?」
「料理研究部という架空の部活に入っていると…」
「…料理。」
「放課後とか、たまの休日は部活動をしていると…」
「なんでそんなことに?」
「しかもそろそろ料理一緒に作る?とか母に誘われてまして…」
亜門はいつぞやに小夜に食べさせられた手作り弁当の味を思い出していた。
小夜に料理は向いていないのに、なんでよりにもよってその部を選んだのか不思議である。
「だからお願い!!ここでちょっと練習させて!!」
両手を合わせて懇願する様を見て、亜門はもう一度溜め息をついた。
「…だからっていきなり来るか?」
「お…怒ってる?」
「…別に怒っちゃいねーけど…」
「けど?」
「仮にも男の一人暮らしの所に一人で来たら危ないだろ?」
「…」
「確かに前に一度ここに呼んだことあるけど…あん時はそういう配慮もなく考えなしだった俺も悪いけど…」
「なんで?」
「……は?」
「なんで危ないの?」
「…」
本当に小夜は亜門の言うことを理解していない。
亜門は両手で頭を抱えた。
(セールスの手口はやるくせに、中途半端に記憶喪失+お嬢様しやがってー!!!!)
「…?亜門、どうかした?」
「…なんでもない。」
「あの…それにね?」
「あ?」
「休みの日は…とっ…と、友達と遊ぶもんでしょ?」
「…」
何故か少しモジモジしている小夜はそう言って亜門の顔を見た。
亜門もその言葉に反応した。
『友達』は二人にとってキーワードであり、弱点でもある。
そう言われてしまっては敵わない。
「…わかった。」
「…え?」
「台所。好きに使え。」
「…うん!!」
「でも今度来る時は前もって連絡くれ。」
「うん!!」
「じゃあ悪いけど俺、バイト上がりだから寝とく。好きに使っていいから…トイレは一旦出て2階のとこ。」
「あ…あのさ…」
「何?」
「料理自信ないから、出来たら隣で見ててほしいな~…てか教えて欲しいな~…なんて?」
「…」
「ダメ?友達の…お願い。」
亜門は深く深く溜め息をついた。
一人の時とは違う。
誰かと関わるというのは時間が自分だけのものではなくなるということ。
しかしお互い唯一の友達であるから、邪険にしすぎるわけにもいかない。
ましてや女であり、記憶喪失であり、お嬢様である。
亜門は台所に入る小夜に続いて椅子を持ってきて、そこに座った。
「まずどうすればいい?」
「…野菜洗って。そんで切れ。」
自前で持ってきたらしいエプロンをして小夜は袋からゴロゴロと野菜を取り出した。
亜門はその様子を欠伸混じりに見ていた。
エプロンの紐を一周して結んであって、腰のラインがわかるその後ろ姿に、ふと胸がざわっとした。
(あ…まずい。)
いわゆる魔が差したというか、小夜の後ろ姿を見て、抱きしめたいような感覚になった。
(友達だけど、小夜は女だからな…)
別に好きとか恋のときめきとかではない。
男の性と言うべきか、なんとなく…魔が差したのだ。
(昨日も尚太から電話なかったら…多分うっかり…)
今思えば助かったと思いながら昨日のことを思い出していた。
屋上前の扉で友達と認め合って、お互いの下の名前を呼び合っているうちに、ふと近い距離で小夜と見つめあってしまい、その時間が心地好くて、吸い込まれるように…キスをしようとした…
その時に尚太からの電話が来て、それは阻まれた。
『あぁ?もしもし!!』
『もしもし!硲です!!』
『なんだよ!!あ?』
『あの…俺今、波古山さんのクラスにいんすけど…』
『あぁ』
『波古山さんなんかあったんすか?』
『あぁ』
『しかも姐さんとどっか行ったって聞いたんすけど』
『あぁ。』
『えぇ!?マジすか?どこっすか?』
『どこでもいいだろ?』
『でも先生も来たみたいで』
『あぁ』
『クラスの皆騒いでますよ?波古山さんどこ行ったって…』
『知るかよ!!』
『でも…あれ?今誰かが先生になんか言ってます……なんか…波古山さんのこと…弁解してるっぽい?』
『…はぁ?なんで?』
…そう、小夜と一緒に教室を出て、確かに亜門の周りは変わりはじめていたのだ。
それはすでにその日の放課後からはっきりと形となって表れた。
「でも昨日はビックリしたね。」
「…え?」
亜門はすっかり思いふけていたが、小夜の言葉で我に返った。
「沢田くん。なんで急にあんな風になったんだろう?」
「…そうだな。」
その変化の形というのは沢田の挙手だった。
昨日の放課後……
『『へ?』』
『だから俺ら三人と波古山で班組むよ。』
遠足に向けてのHRで沢田のその発言。
おかげで班は瞬く間に決めやすくなったが、誰しもがどよめいた。
特に沢田とよくつるむ、亜門に顔を蹴られた上村と腹に膝を入れられた森川が騒いだ。
『なんだよ!?どういうこと、ユキちゃん!?なんでドモなんかと?』
『そうだよ!?昼間だってアイツ庇って…』
『庇ってなんかねーって。事実だろ?俺らだってちょっとした殴り合いの喧嘩するし。騒ぐほどじゃねーって言っただけだろ。』
尚太が言っていた先生に何か弁解していたのは、なんと沢田だったのだ。
『ユキちゃん!!だってアイツ!!俺らのこと!!』
『だぁー…うっせーな。ドモと同じ班だったらイジリやすいだろ?いいじゃねーか。』
森川は怪訝そうに沢田を見た。
『ユキ…お前マジで何考えてんだ?』
『別に。なぁいいだろ?ドモ?逆らうなよ?』
教室で一連の様子を見ていた亜門だが、沢田のその態度に戸惑いを隠せなかった。
『え…え…あ、はい。』
『じゃあ決まりだ!!あとは…お前らでいーや!!そこの4人!!もう組んじまおうぜ。』
沢田に指差されたのは小夜達だった。
昼休みの一件があり瑞希達は少し小夜と距離を置いていたが、沢田にまとめて指名されてしまった。
小夜達の返事も待たずに沢田は話しを進めた。
『じゃ、俺らは班決まり。メンバー表書くぞ?』
そう言って教卓に置かれている白紙を一枚取って、名前を書き始めた。
周りのクラスメイトも戸惑いつつも、残りで班を決めていった。
亜門達は沢田の勢いに押され、そのまま名前を書いていった。
先生も何か言いたげだが、そのまま流した。
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